継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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喧嘩屋の意地

リコの艤装による捕縛を回避しようと主砲による砲撃を放った瞬間に、鳳翔が砲身に矢を放ち、さらにはそれを艦載機に変化させたことにより内部から爆破。これにより、伊勢の艤装を破壊することに成功した。

リコの艤装に胴を掴まれた挙句、主砲が間近で爆発してしまったため、伊勢も相当な怪我を負ってしまっているので、これで終わりになるはず。

 

だが、爆発による煙の中、聞こえてきたのは伊勢の笑い声だった。気を失っていてもおかしくないような衝撃を間近で受けたというのに。

 

「っは、ははっ、凄いね、本当に凄い! ここの鳳翔とリコリス棲姫! 堪んないね!」

 

あれではまだ倒れないらしい。完成品とはいえ、生身は艦娘に近いはずだ。少なくとも、先程の瑞鶴のようにその衝撃で鼓膜が破れていたりしてもおかしくは無い。

それなのに、笑っている。リコと鳳翔との戦いを楽しみ、まだ続けたいと叫んだ。まさに戦闘狂。この痛みすら昂揚に繋がるもののようだ。

 

「もっと楽しみたいね。簡単に終わったらつまんないよ!」

 

激しい金属音の後、リコの艤装の捕縛から抜け出していた。胴を握っていたはずの大きな手は手首から斬られ、力を失い海底へと沈んでいった。

捕縛された体勢で踏ん張りが利かないのに、そんなこともお構いなしに一刀の下に斬り伏せてしまった。何もかも威力が上がっている。まるでリミッターを外したかのようだった。

 

「さっきより、斬撃が強く……」

「そりゃあ、主砲に使ってたリソースを全部こっちに回したからね。艦載機ももう要らないから全部こっち側に引っ張ってきたよ」

 

そもそも、主砲が破壊出来ただけであり、主機は無傷。基本となるところなだけあり、頑丈さが段違いである。本人は顔に傷を負っていてもまるで気にしていない。

破壊された主砲はともかく、主砲の爆発で機能不全に陥りかけた甲板すら自らの意思で剥がし、残された主機に全ての力を注ぎ込んだことで、他の攻撃手段を失う代わりに刀一本で何もかもを終わらせるつもりだ。

 

おかげで艦載機を処理していた赤城と翔鶴もそれから解放され、全員が伊勢に専念できる。だが、伊勢の気迫は今まで以上。むしろ、刀一本に神経を注ぎ込むことで、今まで以上の脅威となり得た。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「軽くなったし、じゃあ、行こうか!」

 

瞬間、リコの目の前に跳んでいた。身体能力の強化により、低速戦艦とは思えない速度がさらに向上し、殆ど神風と同様の速さにまで達していた。あれは艤装による航行ではなく、脚力による移動。

やはり一番にリコを狙ってきた。伊勢の一番のお気に入りなのだろうし、早急に決着をつけたいとでも思っているのだろう。それ故に動きがすぐに読めた。

リコはそれに対して()()()()()()()。刀は左から振られていたため、その逆から。主砲が爆発したことで、そちら側に怪我を負っているのもあって、死角になり得る。

 

「っしぃっ!」

「だらぁっ!」

 

刀と拳でクロスカウンター気味な同時攻撃。内側に入った分、リコの拳が顔面に叩き込まれる方が速かったが、それで吹き飛ばされることまで考慮して刀を振るっていたらしく、しっかりとリコの脇腹を斬り裂いている。

内臓まで届いてはいないと思うが、血の出方が割と酷い。真っ白な服が真っ赤に染まっていく。お互いに殆どノーガードだったことで、ダメージの軽減は何処にも無かった。

 

「っくぅっ、まだだ!」

「当たり前でしょお!」

 

リコの拳を受けたことで逆に闘志が爆発している伊勢は、飛ばされつつもすぐに踏みとどまり、もう一度跳ぶ。もうリコしか見えていない。周りからの攻撃のことなどまるで考えていない。

だからこそ一斉に横槍を入れる。出来ることは空襲なのだが、リコと近すぎて爆撃は難しい。そのため、加賀と瑞鶴は射撃を、赤城と翔鶴は艦載機を直接ぶつける。

 

「鬱陶しい! 水を差すんじゃないよ!」

 

リコとの戦いに水を差す者に苛立ちを感じたか、周りの攻撃は恐ろしい速さの剣撃で全て打ち払い、その速度を維持したままリコを斬り殺そうと振るう。時間が経てば経つほどその速度は増し、剣筋は鋭くなる。素手のリコには重荷ではあるが、その分を仲間に補ってもらっている。

リコ1人では隙を作ることが出来ない。だが、矢や艦載機は簡単に打ち墜とされる。さらにはリコは負傷している。

 

「相手はリコさんだけではありませんよ」

 

リコを狙う伊勢の背後に回り込んでいた鳳翔が、リコと同じ場所を狙っての刃の弓を使った斬撃。

射撃や艦載機そのものを迎撃出来るのだから、鳳翔だって迎撃されるだろう。だが、意思を持たない矢でも無ければ、単調な動きの艦載機でも無い。

 

「鬱陶しいって言ってんでしょうが!」

「こちらのセリフです」

 

先程と同じようなことをして、伊勢に簡単に弾き飛ばされている。だがそれを狙ったということは、策があるということ。

伊勢が刀を振るったときには、鳳翔は既にその間合いから離れていた。近付いたと思ったら別の場所に。その瞬間がリコへのサポートになる。

 

「っら!」

 

鳳翔の方を向いたところで膝に蹴り。顔面を殴り付けた時と違い、相変わらず根が張ったかのようにビクともしない。身体能力が強化されたことにより、余計に動かなくなっている。

拳が効くのは顔面だけだと考えた方がいい。あの時は伊勢の勢いも活かしていたために効いたようなもの。それほどまでに硬い。

 

「相変わらず、重いな」

「アンタは軽いねぇ!」

 

振り向き様に横薙ぎ。そのまま喰らえば上半身と下半身がお別れする羽目になってしまうだろう。ただでさえ脇腹から止めどなく血が流れているような状況だ。力が普段より入らない可能性だってある。

リコの本体には艤装らしい艤装は無い。何かしら装備をしていたとしても、ただでさえ艤装すらも斬り裂くその刃なのだから、あんなものを受けられるものなどいない。強いて言うなら日向の刀くらいだ。

横薙ぎは即回避。間違えればその斬撃をしながらも突っ込んできてやられるため、大きく跳び退く。同時に艦載機が飛んできてくれたおかげで、リコは追撃を免れた。

 

「我々は援護を徹底していますから! ()()は任せますよ!」

「アカギ、頼もしいな」

 

力の差を痛感しているのだと思う。空爆がまともに出来れば話は別だが、近接戦闘をメインにされた以上それは難しく、今この状況でこの伊勢を食い止められるのはリコと鳳翔だけだ。

ならば、それを突き通すために徹底した援護を続けると決めていたようだ。艦載機と矢で牽制し、僅かにでも脚を止めることが出来れば良し。それがつづいたからこそ、今まで被害が大きくならずに済んでいた。

全員が正規の工廠で艤装をチューンナップしてもらい、以前よりも力が増しているはずなのに、伊勢を相手にするとここまで差が出てしまう。歯痒い気持ちでいっぱいだっただろうが、それはそれ、これはこれ。今伊勢を打ち倒すためにら全員が最善を選択する。

 

「はーっ、横槍鬱陶しいねぇ! 先にあっちやるか」

「やらせるわけが無いでしょう」

 

リコに構っていたことで今度は鳳翔が矢を放つ。狙いは肩。刀を握る利き手の方を射抜けば、さらに攻撃力が下がるはずと考えた結果である。

とにかくあの刀は拙い。今までの伊勢の攻撃方法の威力が、全てあの刀に集中してしまっていると考えた方がいい。掠っても重傷とは恐れ入る。

 

「何度も何度も!」

「同じことばかりでもな、活路が見出せる場合だってありえるんだ」

 

鳳翔の放った矢を打ち払ったタイミングを見計らい、リコが攻勢に。伊勢と同じように、出来る限り全力で前に跳んだ。

 

血を流し続けているリコは時間が経てば経つほど勝機を失っていく。だからといって焦ることも許されない。力を込めれば流れる血の量も増える。状況は悪化するばかり。

それだからか、妙な集中力を発揮していた。絶体絶命の戦いの中で、成長しないはずの深海棲艦が成長している。練度が上がっているわけでも無い。ただ、洗練されていく。

 

「なら、同じように斬ってあげるさぁ!」

 

矢を打ち払った勢いそのままにリコへの横薙ぎ。先程と全く同じ挙動。同じだからこそ、その行動が見慣れてくる。

伊勢は時間経過で強くなっていくが、やれることは単調になっていた。矢や艦載機は打ち払い、接近する者には斬り付ける。振り向き様は横薙ぎ。行動が一定化してきた。

 

「見えたぞ」

 

先程までは当たってはいけないと即回避に出たが、今回のリコは違った。より突き進み、伊勢の刀を握る手を押さえたことでその攻撃を止めた。

紙一重と言っても過言ではない。タイミングが失敗していたら、止める手ごと両断されていた。早過ぎても遅過ぎてもダメ。単調になった攻撃を見続けてきたから、タイミングもうまく計れた。

 

「っはぁ! これを止めるの!? リコリス棲姫、アンタ!」

「もういい加減にしてくれ」

 

止めた勢いそのままにさらに突っ込み、刀を持つ手を受け止めていない方の手で伊勢の胸ぐらを掴み、そのまま引き寄せる形で顔面に向かって頭突きを決めた。喧嘩屋ならではの雑ではあるが効果的な一撃。

拳よりも硬い頭での一撃をモロに受け、伊勢が初めてフラついた。リコもその衝撃で軽くフラつくが、胸ぐらを掴む手からは力が抜けず、刀を受ける手にも一層力が入っていた。

 

「っあっ!? この……!」

「もう1発!」

 

刀を持たない手でリコの髪を掴んだようだが、そんなこと気にせずに胸ぐらをまた引き寄せ、さらにもう一撃。顔面に何度も攻撃を入れられたことで、伊勢は鼻血が止まらない。おそらく鼻の骨も折れてしまっている。度重なる頭への衝撃で、フラつきが目に見えるほどになった。

 

「いい加減に! 落ちろ!」

 

続けて鳩尾に膝。掴んだ胸ぐらを引き寄せての蹴りに、さすがの伊勢にもダメージが入る。髪を掴む手が少し緩んだ。

無意識ではあり偶然でもあるが、奇しくもその一撃が伊勢唯一の弱点とも言える内臓へのダメージとなった。強烈な一撃で伊勢が血を吐く。

 

「っがっ、なっ、何度も何度も喰らう私じゃあ無い!」

 

掴みかかるリコを振り払うため、伊勢も膝をリコの鳩尾に食い込ませる。脇腹から流れる血がより増えてしまい、リコもフラついてしまった。刀を押さえる手からも力が抜けてしまう。

だが、その時には鳳翔が動いていた。これだけその場に留まり、リコが押さえ付けた状態でダメージを与えたのだ。鳳翔だって余裕で動けるようになっていた。

 

「ですが、もう終わりです」

 

一切の容赦なく、冷酷に弓を振り下ろし、伊勢の刀を持つ腕を斬った。フラつくほどに頭にダメージを受けたのだから、それを回避する方に思考を持っていくことも出来ない。神経を断つように斬ったことにより、切断したわけではなくとも刀を握ることが出来なくなった。

 

「いぎっ!?」

「どうせ入渠すれば治るんだ。それくらいはいいだろう。殺されないだけマシだ」

 

渾身の力を込めて、また胸ぐらを引き寄せ、鳩尾に膝を入れた。その時にはリコの握力も限界が来ており、掴んでいた胸ぐらを離してしまうが、伊勢の内臓にもう一度ダメージを入れたことにより反撃は受けず。刀ももう持てていないため、危険度も格段に落ちた。

次が最後の一撃だろう。リコもそれを確信していた。伊勢の体力的にも、次がトドメになる。リコの体力的にも、次の一撃は出せない。

 

「苦労させてくれたな……洗脳が解けたら、友として付き合っていこう。私も楽しめた」

「……終わりかぁ。うん、楽しかった!」

 

残る力を全て使い、強烈な回し蹴りを伊勢の顎に決めた。骨が折れるようなことは無かったが、急激な脳の振動により伊勢の意識は吹き飛び、白眼を剥いてその場に倒れ伏す。その顔は、何処か満足げであった。

 

「……もういいか」

「はい、伊勢さんは気を失いました。もう大丈夫です」

「……あとは任せた」

 

リコもその場で倒れた。血の流しすぎで体力の限界に来ている状態で、最後の渾身の蹴りを繰り出したため、限界を超えてしまったのだろう。

リコもすぐに入渠が必要だ。気を失ってはいないものの、もう一歩も動けない。自分の脚で工廠に行くことなんて不可能だ。

 

「赤城さん、翔鶴さん! リコさんをお願いします!」

「了解しました。翔鶴、リコさんの艤装を曳航してあげて」

「わかりました。赤城さんがリコさんを運ぶんですね」

 

鳳翔に命じられ、すぐさま動き出す深海棲艦2人。あの大きな艤装から曳航も楽だろう。協力しているところを見ると、鳳翔は満足そうに微笑んだ。伊勢を倒したことで怒りも少しは晴れたようである。

 

「加賀さん、瑞鶴さん、私達は」

「若葉の救援ね。すぐに行きましょう」

「話が早くて助かります。瑞鶴さん、これ、ありがとうございました」

「あ、は、はーい。うわ、血が滴ってる」

 

これにより伊勢も撃破。消耗は激しいが、大淀の取り巻きはこれで全員倒したことになる。

 

残りは大淀、ただ1人。

 

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