継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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慢心を捨て

蘇った大淀は、こちら側の行動を全て手に入れてきていた。私、若葉の高速移動、三日月の感覚的な砲撃、摩耶の全てを撃ち墜とす防空性能、それ以外にも全て。今まで部下だった伊勢や日向のデータも取り込み、今施設にいる者、()()()()()()()()()()よりも上に立つように調整されている。

大淀の亡骸から発見されたマイクロチップは、それが目的だったということだ。大淀の戦いの記憶をデータ化し、次の大淀に与えると同時にそのデータからさらに強化してくる。

 

不死の艦娘の研究は、敗北し命を落とした艦娘を蘇らせることで、その知識を持った状態での再挑戦を可能とする技術。一度負けても二度目は負けない、それが目的だ。

今や大淀は、一度勝っている私達には手が付けられない存在となりつつあった。その戦闘能力が模倣、つまり全く同じだったとしても、複数の能力を同時に行使されては勝てるものも勝てない。

 

「私は貴女達に感謝しています。ありがとうございました。()()()()()()()()()()()()。慢心し、本来の力が出し切れていなかったかもしれないとはいえ、あの時の私は確かに貴女達に敗北した。それが今、この力の源になっているわけですから」

 

調子に乗っているわけではない。真っ直ぐな気持ちで私達に感謝の気持ちをぶつけてきている。それがまた気に入らない。

 

「貴女達がいなければ、私はこの境地に立つことは出来ませんでした。ですが慢心はしません。ここで全員沈めます。それがせめてもの()()()となるでしょうから」

「仇で返してんじゃないわよ!」

 

既に勝ちを確信しているような物言いに、負けず嫌いの足柄が突っかかり、主砲を放ちながら突撃。

大淀本人が言うように、慢心しているようには思えなかった。こちらのペースをわざと崩すように軽口を叩いているようにしか思えない。足柄のように釣られてしまう者もいるような意地の悪い言葉の羅列を並べ立てる。

 

「人様に迷惑かけるのが恩返しなわけないでしょうが!」

「いえいえ、私は本気ですよ」

 

砲撃しながらの突撃も軽々避けた後、知覚出来ない突撃で足柄の腹に一撃を入れる。私の模倣であるため蹴りなのだが、爪先を鳩尾に入れる周到さ。鳳翔と違って吹き飛ばされることは無かったが、後退りするほどの衝撃。折れてるようなことも無さそう。

腹が立つことに、私の技を私以上に使いこなしているようだった。脚への負担をどうこう言っていたとは思うが、そんなことは感じさせないほどスムーズに繰り出している。3回の制限なんて大淀にはおそらく無い。あったとしても私とは比べ物にならない回数。

 

「っかっ……!?」

「これが私の感謝の証です」

 

腹への衝撃で動けなくなった足柄に、即座に主砲を向ける。そう考えた瞬間には行動に起こしていた速さ。確実に三日月の模倣。

大淀の基礎の部分は、私と三日月の模倣で出来ている。トドメを二度刺した私と、最期の時に初めて傷をつける事に成功した三日月。死の憎しみ故に、きっかけとなった2人をメインとしているようだった。

 

「やらせるわけないでしょ!」

 

そこへ飛んでくるのは瑞鳳の矢。主砲を放つ瞬間に砲口を貫くように放たれたことで、足柄が紙一重で避けることが出来る時間を作ることが出来た。

腹を押さえながらその場から退避することは出来たが、あの一撃は相当重かったようで息も絶え絶えだ。呼吸を整えるためには少し時間がいるようだが、足柄の眼から闘志は失われていない。

 

瑞鳳の射撃はおおよそ死角からの攻撃だった。これに対応出来るものなんてそうそういない。元になっている三日月だって、目で見て考えることで即座に動き出すことが出来る。

とはいえ、大淀の回避性能は尋常ではない。複数人の同時攻撃すらも当たり前のように受け切るような奴だ。死角からの攻撃ですら回避なり迎撃なりしかねない。

 

「全く、多勢に無勢とはよく言ったものです。無勢側はこんな気分なんですね。いつも多勢側なのでわかりませんでした。これも学ばせてもらえましたね」

 

大淀は止まらない。脚への負担を回避するためか、知覚出来ない移動法は使わずに主砲を鳥海に向ける。こちらの大淀を守る鳥海を先に始末しておこうと考えたか。

諦めはしたが、使えるなら使うのだろう。無いなら無いで戦えるが、あるなら戦いやすくなるというのなら、縋るわけではないが有効活用するわけだ。

 

「このっ、鳥海!」

 

砲撃は摩耶が全てを撃ち墜とす。あちらの砲撃の威力がどれだけあろうが、どうにか辿り着くまでに減速させた。

しかし、その時には大淀は摩耶の間近にまで接近していた。自分で放った砲撃に追い付く程の速度が出ていたと思う。あれでも知覚出来ない速度では無かった。

 

「貴女のその防空性能は厄介極まりないので、退場願います」

「お断りだぜ」

 

大淀自身を浮かせられれば勝機がある。摩耶の防空性能は対人でも機能するため、少しでも跳んでくれさえすれば、そこからは摩耶のオンステージになる。だが、それをやった現場を大淀は目にしているため、当然ながら摩耶の目の前で跳ぶようなことはしない。それに厄介とわかっているため大淀は模倣しているのだ。つまり、大淀相手に跳んだら死ぬまで海面に戻ってこれなくなる。

 

間近まで近付いたことで、また後ろ手に持っていたナイフを振っていた。近距離では摩耶はなす術がない。近すぎて照準を定めることも出来ず、回避したくても大淀が速すぎてどうにもならない。

故に対応するのは鳥海になる。ナイフをバルジで受けつつ、強引に払い除けた。本来ならこれで体勢が崩れるのだが、鳥海対策をしているのかそれでも体幹がブレない。払われた勢いを使ってさらに攻撃に出る。

 

「貴女のその戦法は私が仕込んだものです。ならば私がそれを超えていないわけがないですよね」

「感謝していますよ。おかげで皆さんが守れますから」

 

ナイフがバルジを破壊することは無いが、感覚的に次の攻撃場所を判断し最善を考えた瞬間に行動に移しているため、鳥海がどうしても防戦一方にされてしまう。私が三日月の感覚を手に入れているようなもの。或いはその逆。

バルジ以上に鳥海の特殊な力である握力も、掴むことが出来なければ意味がない。これだけ接近しているというのに、そんなこと出来る隙すらない。

 

これが慢心を捨てた大淀。これだけの人数で戦っているのに、他の者に攻撃させないように鳥海から離れず、そして猛攻を一切緩めない。

これに横槍を入れることが出来るのは、近接戦闘か超高精度な精密射撃になるだろう。大半がそれを出来るのだから、狙っていかない理由がない。

 

「いい加減にしろ」

 

一番槍に私が突っ込む。またリミッターを外し、本日二度目の知覚出来ない突撃。明石特製のタイツのおかげで、負担は格段に軽減されていた。3回以上の使用も出来そうである。

先程は真正面から行ったから受け止められてしまったが、今回は鳥海に気を取られている隙を狙う。あわよくば浮かせたい。

 

「っ……まったく、貴女は本当に野蛮ですね」

 

私の渾身の蹴りは、当たる前に打ち払われていた。掴まれたわけではないが直撃は回避され、さらには上方向に打ち上げられるように払われたせいで、私は自らの勢いで大淀から離れる羽目になった。

今までこんなことは無かった。使えば直撃以外が無かったため、こんな副作用のような状況になるのは初めてである。そしてこの状況、私は()()()()()()()()()

 

「おや、浮きましたね?」

「私の若葉はやらせない」

 

そこに即座に三日月がカバーしてくれた。リミッターを外し、感覚的に私を撃ち墜とそうとした大淀に対して、本家本元の力を見せつけるかの如くヘッドショット。一撃の下に沈めてやろうという殺意。

 

「逃がしませんよ」

 

それに被せるように鳥海が掴みかかる。見事掴めれば三日月の砲撃は大淀に直撃。そうでなくても握力による一撃で掴んだ部分を破壊出来る。いっそ艤装でも何でもいい。

衝撃を鳥海がモロに被ることになってしまうが、死ぬほどのことにはならないはず。身を削っての行動ではあるが、最善ではある。

 

「喰らうわけにはいきませんね」

 

三日月のピンポイントな砲撃と鳥海の握撃を回避しながら、照準はまだ私に向いていた。その時には私はまだ足を海につけていない。()()()()()状態と言っても過言ではない。

 

「やめなさい!」

 

そこへすかさずこちらの大淀が艤装に向けて砲撃。3つ目の攻撃、さらには完全に別方向からの攻撃に、大きく避けざるを得なくする。殆ど死角からの攻撃なのだが、しっかり見られていた。

 

「まったく、貴女は私なんですから、ここで何をやりたいかなんてお見通しですよ」

 

これでようやく私から照準が外れるが、振り向きざまにその照準をこちらの大淀に合わせていた。このまま撃たれたら大淀は回避出来ない。故にすぐに対応。

 

「離れろやぁ!」

 

ある程度間合いが出来ていたため、摩耶が一斉射撃。防空に使う砲撃を海面と並行に放つことで、凶悪な弾幕と化し大淀に襲いかかる。三日月にも鳥海にもこちらの大淀にもスレスレの位置、しかしあちらの大淀には回避しづらい場所への弾幕に、そこから全員が一斉に離れる。

弾幕の方向から、大淀の回避方向はほぼ固定されていた。三日月や鳥海に突撃するというのも考えられたが、鳥海はこちらの大淀の前で完全にガードの構え。三日月は感覚的に既に回避済み。故に、私からも照準を外し、みんなから大きく離れるしか道は無い。

 

「空母だけでは飽き足らず、重巡洋艦も野蛮なことですね」

「ではもっと野蛮に行きましょうか!」

 

私から模倣した俊足で弾幕の範囲外まで退避した大淀の地点には、既に赤城が待ち構えるように突っ込んでいた。巨大な艤装を最大戦速で疾らせ、その大きな口で喰い殺そうと襲い掛かった。

 

「私は空母棲姫も従えたことがありますよ。その程度の攻撃が避けられないわけないでしょう」

 

赤城の攻撃は猪のような一直線だ。そのため少し横に避けるだけで簡単に回避可能。だが、赤城はそのことは自分で一番理解している。そのため、対策をしている。

赤城の艤装に伊勢と日向が乗り込んでいた。どちらに回避してもそのどちらかが飛び込むことで迎撃が出来る様にしていた。明らかに定員オーバーとも思えたが、明石のチューンナップによりこれでも問題なく動けている。

 

「逃がさん!」

 

大淀の回避方向は日向側だった。瞬間、日向が赤城の艤装から飛び降り、その勢いのまま斬りかかる。充分以上に速度が乗っていたので、本来の日向では出せない速度での突撃となった。

飛び降りたのだから()()()()()()()ではあるのだが、あまりの勢いに防空なんて出来やしない。知覚出来ない突撃も意味をなさないと理解したか、これに関しては大淀も避けなくてはいけないと感覚的に判断していた。

 

「ちょこまかと避けるねぇ!」

 

そして今度は伊勢の追撃。通り過ぎた赤城がUターンして戻ってきた勢いで、日向と同じように飛び込んでいた。日向よりは速さが足りなかったが、それでも充分すぎる程。

結果的に挟み撃ちになり、逃げ道を失わせる。さらには赤城がさらに戻ってきていた。あの翔鶴との戦いの時のように戦場を縦横無尽に駆け回り、伊勢と日向の挟撃を回避したのならそれを仕留めようと、虎視眈々と狙っていた。

 

「何度も言いますが、元々貴方達は私の手駒だったでしょう。データは全て入っているんですよ」

 

しかし大淀は、そこで知覚出来ない突撃。日向に突っ込み、その勢いで腹を蹴り、さらにはそこからもう一度知覚出来ない突撃。日向の腹を軸に蹴り、伊勢に突撃。さらにそこから三度目の知覚出来ない突撃で、赤城の本体を蹴り飛ばしていた。

私でもやらないような応用をその場で編み出し、緊急回避と攻撃を同時に繰り出してしまった。私があんなことやったら、その時点で脚が壊れてしまっている。

 

「ここまで速いと回避も出来ない。だから頑丈にしていたんですから」

「わかってんじゃんさ。アンタの蹴りなんて軽いもんだよ」

 

その一撃を受けても、伊勢も日向もビクともしていない。私の時もそうだったが、鍛え方が並ではない。

しかし、赤城はまともに攻撃を受けてしまっており、意識が朦朧としてしまっている。艤装から投げ出されていないだけマシだが、ダメージは大きい。

 

「ふむ、やはりここまでやると負担が大きすぎますね。少し控えましょうか」

 

まだまだ余裕そうではあるが、小さく息を吐いたのはわかった。流石にあそこまでの無茶な動きをすると、大淀とはいえ疲労を感じるらしい。すぐに回復しそうだが。

 

あまりに無茶苦茶。こちらは12人でかかっているというのに、手も足も出ない。

だが諦めるわけにはいかない。疲労を感じているということは、続ければいずれ届くということだ。攻撃を止めるな。こちらには数がある。今は手段なんて選んでいられない。

 


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