継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

277 / 303
擬似的な不死

大淀を少しだけでも同情していた鳳翔だが、大淀との簡単な問答でその情けが完全に失われた。今までいろいろあったかもしれないが、この大淀は歪み過ぎている。もう救えないと鳳翔も悟り、冷酷に残酷に大淀にトドメを刺した。

 

「こ、の……こんな……」

 

額を貫かれたことにより、大淀は絶命。残酷な死ではあるが、それ程にまで大淀は酷いことをやってきたのだ。鳳翔が見放した程なのだから、もうこうなるのは仕方あるまい。

額を矢で撃ち抜いた鳳翔もグッタリと膝をつく。誰もが知覚出来ない射撃を放ったことで大きく消耗してしまうらしい。ここまでやらなかったのはそういうことなのだろうし、本気でキレた時にしかあんなことはしないのだと思う。

 

「申し訳ありません……私はここでリタイアです。あれは消耗が激しすぎるのです」

「充分過ぎますよ! あそこまでやらせてしまってこちらこそ申し訳ないくらいで!」

 

瑞鳳が立ち上がれないほどの疲労困憊状態の鳳翔に肩を貸していた。大淀に一撃を受けていたこともあるため、普通よりも一層キツいらしい。故に、鳳翔はここで帰投したいと申し出た。もう自分の力で帰投することも出来ない程だという。

鳳翔だけではない。重傷を負っている赤城と摩耶と鳥海もすぐに帰投する必要があるだろう。シロクロだって武装が破壊されてしまってこれ以上は戦えない。

 

「援軍、えんぐーん!」

「戦い終わってる!?」

 

良いか悪いか、このタイミングで援軍到着。護衛退避を優先してくれるために大発動艇を2隻も持ってきてくれた第二二駆逐隊と、入れ替わりに戦闘に参加してくれるであろう部隊。五航戦に利根筑摩、五三駆から残りの曙と雷に、暁と綾波まで来てくれた。

この場から退場したいのは4人。特に赤城はかなり危険だ。気を失っている上に艤装も失ってしまっているため、自分で航行することも出来ない。加賀が支えていなければ沈んでしまってもおかしくない状況である。

 

「うわ、これ大変だ! 早く積み込んじゃおう!」

「ゆっくり、ゆっくりだよぉ〜」

 

二二駆が的確に護衛退避を準備する。身体に響かないように大発動艇に乗ってもらい、厳しそうなら艤装も外して別の大発動艇に積載。その場で応急手当が出来るように救急キットも大発動艇に積み込まれていたのがありがたい。

シロクロは海中から浮上しないという条件付きで部隊からは離れないことにしたようだ。海中から大淀と通信出来るのは呂500と伊504ではあるが、潜水艦隊の旗艦はシロクロ。部隊を取り纏める者としてクロは結構張り切っているらしい。

 

「……それ、どうすんの」

 

曙が忌々しげに指差したのは、額に鳳翔の矢が刺さっている大淀の亡骸。そのままにしていたらその場に沈んでしまい、またそこで怨念を撒き散らして深海棲艦を生み出してしまうだろう。そのため、そこに放置するわけにもいかず、今は沈みかけた大淀を私、若葉が掴んでいる状態。

正直今すぐにでも投げ捨てたい。触れているだけでも気分が悪くなる。亡骸だとしても嫌なものは嫌である。三日月もこの時ばかりは私から少し遠ざかっているのが少し悲しい。それもあって余計に気分が悪い。

 

「そのままにしておくわけにはいかないだろ。捨て置けばこれは海を穢す」

「あー……じゃあ、艤装側に積み込んじゃって。多少雑に持っていっても良いでしょ」

 

大淀の亡骸を見て文月が怯えたのがわかった。なるべく視界に入れないようにして艤装を積み込んでいる大発動艇に一緒に積んだ。他の艤装のおかげで視界に入りづらく、またそちらの大発動艇は皐月が操縦しているようなので文月は少しだけ安心した様子。

 

「……自分の亡骸を見るというのは、気分が悪いですね」

 

こちらの大淀が溜息をついていた。同じ顔の敵なだけでも気分が悪いのに、それがさんざん悪行をしでかした挙句に、かなり無残な死に方をしたのだから無理もない。

酷い顔をしていたので、一応それだけは直しておいた。見映えが悪いのも気分を悪くする原因。額の矢も抜いておく。

 

「気にするでない。アレはお主とは別人であろう」

「そうですけど、アレもやっぱり大淀ですから」

「大丈夫じゃて。お主が嫌われておるわけじゃなかろう」

 

利根がこちらの大淀を慰めていた。いつでも明るい利根に慰められると、自然と気持ちが穏やかになるようだった。話を聞いているだけで、こちらも少し楽しくなる。

大淀の亡骸を離したことで、三日月も近付いてきてくれた。気持ちはわかるがちょっとショックだった。私がムスッとしているように見えたか、三日月が少し慌ててしまった。

 

「わ、若葉、大丈夫。若葉のことを愛してるのは変わってないから。アレに近付きたくなかっただけだから。若葉のことが嫌になったわけじゃないわ」

「それくらいわかってる。匂いでその辺りは判断出来るからな。少しショックだっただけだ」

「あぁあ……大丈夫、大丈夫だからぁ」

 

ここぞとばかりにスキンシップをとってきたため、見せつけるかの如く頭を抱きかかえて撫で回した。それだけでも癒される。三日月も心地良さそうに身を寄せてきた。

お互いにリミッター解除は最小限にしていたため、まだ戦える。私は何度も知覚出来ない突撃を繰り出したことで脚への負担が心配されたが、明石謹製のタイツのおかげで今でもまだ充分戦える。あと数度は使えるはずだ。

 

「まだ戦いは終わってないでしょうが。イチャつくんじゃないわよ」

「す、すまない」

「人目くらい憚れっつーのよ王子」

「その呼び方はやめろ」

 

曙に愚痴られて仕方なく離れた。言う通り、まだ戦いは終わっていない。大淀を倒したのは2度目だが、擬似的な不死を体現しているのなら、今頃3代目が起動しているはずだ。

気に入らないことに、今よりも強くなっている可能性が非常に高い。死んだ理由となることに対して耐性が付いているというのなら、鳳翔は撤退したものの知覚出来ない射撃に耐性が付いたということ。先程以上の強敵となってしまったわけだ。

 

「旗艦を足柄さんに委譲します……構いませんね」

「ええ、私は大分回復したわ。お腹はちょっと痛いけど、この程度ならまだ戦えるもの」

 

第二艦隊の旗艦である鳳翔が帰投するため、旗艦の権限は全て足柄へ委譲。ここからは編成をその場で組み替えて、無難な組み合わせで先へ進む。

 

私達は改めて第五三駆逐隊として集合。五航戦の随伴艦として1つの部隊となった。夜間警備をしていた頃に少し似ている艦隊編成なので、妙な緊張感などは感じない。むしろやりやすい方だ。

暁と綾波は、加賀や瑞鳳、利根と筑摩という主力艦隊の随伴。そして大淀の守りには伊勢と日向が陣取る。ある意味3つの艦隊。潜水艦隊まで含めれば4つだ。摩耶と鳥海が退場してしまったのはかなり痛手だが、まだ戦力はある。

 

「では先へ進みます。航路としては半分は過ぎていますので、もう一息です」

 

本題はまだまだ先。手瀬鎮守府の制圧だ。着実に近付くことは出来ているのだから、調子とかではいい方だろう。退場する者まで考慮に入れての作戦指揮がなされているのだから。

 

「それじゃあ、鎮守府で待ってるね〜。すぐに入渠してもらうからぁ」

「ああ、また後からな」

 

文月の間延びした声援を背に受け、私達は手を振りながら先へと進んでいく。また大淀が現れるだろう。だが、返り討ちにしてやる。

擬似的な死の克服をしているというのなら、必ずそれを打ち止めにしてやる。クローンが何体作られているかはわからないが、今の経験まで対策が取れるようになるのは時間がかかるはず。今から立ち塞がるであろう大淀は、十全な力を発揮することが出来ないかもしれない。

 

 

 

メンバーを入れ替えての更なる進軍。戦いの前に赤城と加賀が近海に入ったと言っていたのだから、もうあちらの鎮守府が見えてきてもおかしくはないだろう。

 

「もう大分近いわ。そろそろ鎮守府が見える頃よ」

 

加賀が呟く。赤城が退避したことで少しだけ落ち込んでいたが、まだ戦いが終わっていないということで気合を入れ直していた。

 

大淀は擬似的な不死を手に入れている。先程まで戦っていた大淀がまさにそれなのだから疑いようが無い。次に出てくるのは3代目になる。酷いことに、今まで受けてきたこちらの戦術に耐性を持って。

退避によりこちらから失われた戦術を使ってこられるのもかなり厳しい。少なくとも摩耶の防空性能はまだ持ったままだ。飛ぶものは全て撃ち墜とす。それがあるだけでもこちらの戦い方はかなり制限される。

 

「先行している潜水艦から連絡が来ました。鎮守府から1人出撃したようです」

 

まだ水平線の向こうに鎮守府は見えてこない。先遣隊である潜水艦達の監視によりそれがすぐにわかる。大淀もこういう形で私達を監視していたのだろう。

出撃した者が誰かはわからないが、十中八九大淀であることは間違いない。あれからまだそこまで時間が経っていないのに、もう準備が出来たということか。

 

「五航戦、発艦しなくてもいいわ。やるのは今じゃない」

「いや、でも哨戒機くらいいるでしょ」

「全部墜とされるのが関の山よ。さっきもそうだったわ。5人がかりの空爆を1人で抑え込んできたわ。あの時はそこに摩耶とシロクロがいたからどうにかなったけれども」

 

加賀の言葉に、瑞鶴も翔鶴も緊張感が増した。自分の得意技が効かないとなると、どう戦えばいいかわからなくなってしまう。空母が航空戦を封じられたら、ただの木偶の坊だ。とはいえ防空に専念させることが出来れば多少は動きを封じることが出来るので、哨戒機を飛ばさずにその時まで温存しろという話のようである。

 

「私も秘密兵器持ってきたから」

「そうなのか?」

「ええ。若葉達が出撃してから仕上がったの。大分時間がかかっちゃったみたいで」

 

雷が言うには、秘密兵器は大淀に持たされた艦隊司令部だけでは無いという。それは今、この場では雷に託されているらしい。

 

「明石さんが私の主砲をすごい弄ってくれてさ。いくつか弾の使い分けが出来る様にしてくれたの。だから、それを使って翻弄する。私の仕事はそれだからね」

 

雷がやる、むしろ雷にしか出来ないようなことなのだろうか。

雷の持つ技は、足止めに特化した不殺。強烈な勢いの水鉄砲をピンポイントで当てることで、怪我を負わせずにその場に縫い付けるような戦い方を基本戦術にしている。決死の戦いであるこの戦場でも雷は水鉄砲を持ってきているし、相手があの大淀でもそのスタンスは変わらない。

しかし、ここに来るまでに明石がしっかりとそこを改良していたようだ。ただの水鉄砲なだけではなく、何かしらの別物を撃てるようにしてくれている。それが何かはわからないが、秘密兵器というのだから、この戦場でも効果がありそうなものなのだろう。

 

「当てないと意味は無いんだけどね。それはどうにかする」

「了解した。可能な限り、若葉(ボク)達も援護する」

「うん、お願いね」

 

この戦いのキーパーソンは雷になりそうだ。大淀と共に守り切らなくては。

誰一人として失ってはいけないのは当然のことだが、雷は特にそうだ。施設には無くてはならない存在であり、私達にとっても掛け替えの無い仲間。

 

「来ました。敵大淀と会敵!」

 

水平線の向こう。ポツンと1人立っているのが見える。先程鳳翔が倒したはずの大淀がそこにいた。

今回は先制攻撃もなく、ただただ私達がここに現れるのを待っていたようである。潜水艦からの通信から大分早いタイミングでの会敵であるため、鎮守府に相当近付いていることはよくわかった。

 

「私を殺した鳳翔さんがいないようですが?」

 

もう笑みすら浮かべていない。怒りに呑み込まれたような表情でこちらを睨み付けてきていた。3代目は最初から余裕が無い。慢心やらそういうものは持ち合わせていないようである。

先程よりも強化されているのだから、苦戦させられることは必至。ただでさえあの戦いでの被害者も多い。こちらは少しだけ人数が増えているとはいえ、一筋縄ではいかない。

 

「アンタを殺したことで一回帰ったわよ」

「そうですか。なら貴女達を皆殺しにして、鎮守府で鳳翔さんも必ず殺します。最後まで腹の立つことを抜かしていたので、後悔しながら死んでもらわなくては困りますからね」

 

怒りと憎しみの矛先が鳳翔にも向いた。殺意が増したということは、最初からその分強化されているようなもの。傷を負っているわけではないが、最初から司令部棲姫-壊としてこの場にいる。

 

「覚悟してください。責任だの何だの、馬鹿馬鹿しいことを抜かした鳳翔さんが悪いんです。そうでなければここまで腹が立つことなんてなかった。容赦なんて出来ませんよ」

 

死んだはずの大淀との3度目の戦い。もうこれで終わりにしたい。これを最後の戦いにしたい。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。