手瀬鎮守府への航路を妨害したのは、倒したはずの大淀。ついに3人目の登場である。擬似的な不死を手に入れた大淀は、蘇るたびに強くなり、私達には手が付けられなくなる。
今の大淀は、先程の死に繋がる攻撃への耐性を持っていると見てもおかしくない。つまり、全空母が力を合わせた天井を落とすような空爆にも、今ここにいない鳳翔にしか出来ない知覚出来ない射撃にすら対応出来るようになったということだ。さらには、私、若葉の知覚出来ない突撃を使えるということは、鳳翔のそれを身に付けている可能性すらある。弓と主砲は似て非なるものではあるが、可能に思えてしまう。
「覚悟してください。責任だの何だの、馬鹿馬鹿しいことを抜かした鳳翔さんが悪いんです。そうでなければここまで腹が立つことなんてなかった。容赦なんて出来ませんよ」
その言葉の後に、戦場全体にキナ臭い匂いが漂う。誰が狙われるかが判断出来ない。だが、微かに利根に向かう匂いが強くなった気がした。ここにいる中でも特に新顔であるからか、おそらく大淀も警戒したのだと思う。今まで見たこともない者がここにいるのだから、何処かからの奥の手と思うのは普通か。
今ここにいる者の中では、練度だけでいうのなら下から数えた方が早い位置にいる。しかし、それだけでは測れないものなんていくらでもある。
瞬間、大淀が消えた。知覚出来ない突撃により、匂いが強くなった利根に対して突撃を仕掛けていた。
「おーおー、これはこの前の若葉より速いではないか!」
だが、利根には届かず。私でもやるであろう渾身の蹴りを、なんと両手でだが
今まで使えば百発百中であり、私が大淀に使えば全てガードされていた技だ。まず止められることは無いが、慢心を捨てた結果、初見の者を狙うというところまで考えての一撃。それなのに、たった今完全に封殺されていた。多分私でも驚いている。
「筑摩!」
「はい、利根姉さん」
そこへすかさず筑摩の砲撃。利根には衝撃すら入らず、しかし大淀の頭を吹き飛ばすことが出来る的確な場所を狙い撃ち。蹴りを繰り出した脚は利根がしっかりと押さえているため、その砲撃を避けることは簡単には出来ない。
「この!」
それに対しては摩耶の技を使って砲撃を撃ち墜とす。即座に冷静に対処したことはわかるが、若干動揺しているのは見て取れた。
「吾輩が一番雑魚とでも思うたか。数字ではそうかもしれんが、ちゃんと鍛えておるわ!」
「初見の者はさっさと終わらせたかっただけですよ」
「ほう、初見なら確実にやれると思うたわけじゃな。嘗めるなよ」
そのまま押さえておくのは危険であることは重々承知の上だろう。しかし、利根は簡単には放そうとしない。むしろそのまま体勢を変えて、脚を折りに行こうとした。まさかの関節技である。
これを喰らっては流石に拙いと思ったか、大淀も即座に対抗。利根に掴まれている方とは逆の脚で思い切り蹴り飛ばし、拘束が緩んだところをもう一度蹴り飛ばして間合いを取りつつ、続け様に利根に砲撃。凄まじい連続攻撃。
「危ないのう!」
その砲撃は辛うじて回避するが、衝撃で体勢を崩した。追撃を喰らわないように筑摩がすぐにカバーに入るため、大淀に向けて砲撃。それは着水した瞬間からヒョイヒョイ避けられるが、利根が体勢を戻すまではどうにか出来そう。
「利根さんは後からにします。厄介なのはよくわかりましたから。なので、先に元々いた方をやりましょうか」
値踏みするように周囲を見回す。それも僅かな時間ではある。
一番処理したいであろうこちらの大淀は、伊勢と日向が守っているために一筋縄ではいかないだろう。あの3人だけとやり合うだけならまだしも、確実に私達が横槍を入れるのは間違いない。そのため、その状況でも沈めやすそうな者を選んでいる。
慢心せず冷静と言いたいところだが、やはり先程殺されたことを根に持っているため、それを超えんばかりの怒りと憎しみが渦巻いているのは確かだ。私怨が先走り、そうなると狙いは基本的に私になるはず。
だが、大淀から流れるキナ臭い匂いは私に向いてこない。三日月にもだ。大淀からの殺意はビシビシと感じるが、先にやるのは面倒とでも考えたのだろうか。
私は何度か大淀の行動を妨害することが出来ている。実際は自分でも無意識だったために、確定で妨害出来るわけではないのだが、
「まずは貴女にしますよ。加賀さん」
突如放たれた砲撃。狙いは宣言の通り加賀。直接的な死の理由ではないものの、空爆が無ければ摩耶やシロクロの砲撃を喰らうことは無かったし、トドメが矢だったことから、空母全体に恨みが込み上がっているようである。
「喰らうわけにはいかないわ」
「でも死ぬんですよ」
次の瞬間、大淀が既に加賀の懐に飛び込んでいた。
さらには、私はあの動きをした場合は敵にぶつかることでしかブレーキが踏めないのだが、大淀は加賀の手前でしっかり止まっていた。脚への負担は尋常ではないはずなのだが、大淀にはノーダメージ。蘇ったことでより一層頑丈になってしまっている。
「その弓は私が五航戦のために作らせたものですよ。勝手に使わないでください」
そのタイミングで砲撃が追い付き、加賀に衝撃が襲い掛かる。大淀には微風程度にしか思えないのか、同時に艤装に備え付けていたナイフを取り出して加賀目掛けて振り上げた。咄嗟に弓でそれを止めようとするが、加賀のスピードよりも大淀のスピードの方が断然速い。
結果、弓でその軌道をギリギリ逸らすことに留まってしまった。加賀にはその攻撃がかなり重かったようで、その一撃でフラつく羽目になってしまった。つまり無防備である。
「くっ……!?」
「加賀さん!」
すかさず瑞鶴がフォロー。加賀よりは近接攻撃には慣れており、返しでナイフを振り下ろすであろう大淀の攻撃を妨害するために躍り出ようとする。
しかし、そのタイミングで瑞鶴には主砲が向いた。加賀に近付かせることを妨害すると同時に、あわよくば瑞鶴を始末しようという魂胆。感覚的に瑞鶴を狙ったため、主砲が突きつけられた瞬間にはトリガーが引かれていた。
「マジか……!?」
紙一重で避けるが、本当にギリギリだったせいで衝撃に吹っ飛ばされる。さらには予想通りナイフが振り下ろされる。
「簡単に受けるわけが無いでしょう!」
体勢が崩れながらもそのナイフは弓でしっかりと受け止めた。主砲を撃った反動もあり、大淀の振り下ろしは先程よりも力が入っていなかった様子。
とはいえピンチであることは変わりない。加賀はその攻撃を受けたことで、海面に膝をつくことになってしまった。
「貴女は元々鎮守府にいた人でしたか。提督のところに連れていってあげますよ」
そこで加賀の顎に向けて強烈な蹴り。ナイフを防ぐために体勢を崩してしまったため、それをモロに貰ってしまった。急所への一撃のため、加賀の目がグリンと上を向き、意識が飛ばされたことがわかってしまう。
瑞鶴も先程の衝撃のせいで脳を揺さぶられたか意識が少し朦朧としているようで、すぐに加賀をサポートすることは出来ない。その結果、強引に動き出したのは翔鶴だ。
「加賀さんから離れなさい!」
赤城とほぼ同様の巨大な艤装を急発進させ、大淀に食らいつこうと猛烈な体当たりを仕掛ける。同時に艦載機も発艦させ、空爆も追加。爆撃で逃げ場を無くしつつ、艤装で押し潰してしまおうとしていた。
加賀もそのタイミングで拾いたいところだが、艤装が大型過ぎて気を失っている加賀に手が届かない。ひとまずは大淀をその場から引き剥がすことが重要。
しかし、大淀の一撃は赤城の艤装を木っ端微塵に破壊出来る程の威力だ。艤装の強度はそう変わらないのだから、もしここで撃たれたら、翔鶴の艤装も破壊されてしまう。
「離れるのは貴女ですよ」
案の定、翔鶴の艤装を狙うために主砲を向けた。加賀を先にやることも出来ただろうが、自分の命を大事にするような行動。擬似的な不死を手に入れているとしても、わざわざ死ぬようなことは絶対に選択しない。
「逃げ場が無いよね。だったらここで!」
そこへすかさず瑞鳳の一射。翔鶴が逃げ場を封じたことで、翔鶴を撃って瑞鳳の矢に貫かれるか、空爆を掻い潜ってでも翔鶴の突撃と瑞鳳の矢を回避するか、2つに1つの選択肢を与える。
当然ながら大淀は後者を選択。やはり不死ではない。
「寄ってたかって……!」
「そういう戦場にしたのはアンタでしょうが!」
回避先で待ち構えていたのは曙。その行動を計算して、槍を置いてくるかのように渾身の突きを繰り出していた。
「わかってますよ。ですが、鬱陶しいものは鬱陶しいんです」
その槍は回避直後だというのにガッシリ掴まれてしまった。片手で掴んでいるだけなのに、そこから先に突き出すことが出来ない。
だが、ほんの少しだけでも大淀がその場に留まる時間を作り出すことが出来た。そこで動き出したのがキーパーソンとなり得る雷。主砲のスイッチを切り替えて、大淀に向けて放つ。チラリと見えた砲撃は、妙に
「雷さんはこんな状況でも水鉄砲を使うんですね。情け深いのか、ただただ愚かなのか」
「これが一番いい戦い方だもの」
放った瞬間に水鉄砲だとわかったようである。以前からその程度と手で払い除けていたが、今回は槍を振って曙を盾にするように移動させようとした。
雷の秘密兵器のことは曙もちゃんと知っている。故に、曙は槍を放棄。雷の砲撃の射線上からすぐに退避した。水鉄砲とはいえ、当たったら困るものであるのは間違いない。
「所詮は水鉄砲でしょう。自分で直接触れるのは何か嫌な予感はしますし、都合よく武器を貰えましたからね。これが最善手です」
回避ではなく、槍で打ち払うことを選択。砲撃なら間違いなく回避していただろうが、雷の攻撃であることと以前に素手でも打ち払えた経験が大淀にその選択をさせた。
それが雷の狙いであることも知らずに。
「秘密兵器1つ目、目潰し唐辛子」
槍に触れた瞬間、爆散するように真っ赤な液体が舞い散った。慢心は無くとも、所詮水だと内心侮っていた部分はあったのだと思う。一度回避出来た経験が、結果的に自信に繋げた。
「なっ」
大淀を中心に激辛の成分が蔓延し、目に染みる程の霧となって大淀に襲い掛かる。
雷は不殺な代わりに搦手を一手に担っている。本来戦場では起こり得ないことだってやってのける。それがこれだ。
「っあっ、な、何!?」
こんな攻撃を受けるのは当然初めてだろう。私達だって受けたことがない。そのため、死ねば死ぬほど強くなる大淀でも回避不能。耐性だってありやしない。
見事に目潰しを喰らい、悶絶する。その際に曙から奪った形になった槍を闇雲に投げた。今まで雷がいた位置は最後に見ているために、槍はそちらへと飛んでいく。異常な腕力での投擲のため、雷を貫かんと巨大な矢の如く猛スピードで突き進む。
「ダメですよぉ〜。そんな乱暴なことをしちゃあ」
「助かったわ綾波!」
その槍は雷に辿り着く前に綾波がキャッチ。私と同じ速度が出せる綾波には、見てから雷を守ることくらい造作も無い。私対策に調整されていることが、今に生きている。
「はい、曙ちゃん」
「サンキュー姉貴。計算通りすぎて笑えるわ」
綾波から槍を返してもらい、悶絶している大淀にさらに突撃。少しの間だけでも目が見えていないのなら攻撃するチャンスはある。
だが、突然の攻撃で冷静さを失った大淀は、まともに狙いを定めずに主砲を乱射し始めた。摩耶の技を取り込んでいるせいでその密度は凄まじく、大淀の正面から近付くことは殆ど不可能になってしまった。そう、
「暴れないでよ。レディはもっとお淑やかにするべきだわ」
その後ろ側。砲撃を最初から回り込んでいた暁が、艤装破壊のために砲撃を繰り出す。余計なことをする前に艤装を破壊しておけば、後々楽になる。
しかし、艤装はやたら頑丈。暁の主砲では傷一つ付かない。それに、砲撃を乱射しているせいでうまく狙いが定まらないというのもある。
「もう、駄々っ子じゃないの! それなら!」
砲撃が難しいと判断したか、暁は容赦なく接近。リコから鍛えられただけあり、とんでもない密度の乱射でもお構いなしに突撃していた。
「一度、落ち着きなさいよ!」
ゼロ距離まで近付いたところでさんざん仕込まれた格闘戦。艤装の隙間に潜り込ませるように拳をねじ込み、
「ドン!」
掛け声と共に前へと踏み出し、海面を波打たせるほどの踏み込み。その力を拳に伝達させ、大淀の
これは鳥海仕込みの技。声が無いと使えないようだが、しっかりと仕込まれたおかげで大淀にも効く一撃を繰り出すことが出来た。
新たに加わったメンバーのおかげで、一矢報いることが出来る。蘇るたびに新しい何かを用意しなくてはいけないのは辛いが、今はこれがこちらの最善手だ。
押すならば手数で。多種多様な技を使って、大淀を追い込んでいかねば。