継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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戦いの終わり

手瀬鎮守府を襲撃し、最後の敵である大淀の協力者、間賀と保田を捕縛したことで、戦いは本当に終了となる。最後まで喧しかった間賀は黙らせるために気絶させられ、保田は諦めたかのように自分の脚で鎮守府から退去。

鎮守府内にいた人形達は、後から大本営総出で回収しに来ることになる。その洗脳状態の解除方法は飛鳥医師が編み出しているため、いつでも復帰が可能なはずだ。リミッターが外されていなかったおかげで死ぬ心配も無い。

 

「これはどうすんのよ」

 

曙が言うのは、既に完成して目覚めるのを待っていた4代目の大淀と、現在建造中の5代目。勿論殺すわけにはいかないが、目覚めさせたら厄介なことになりそうでもある。

建造を中断するわけにもいかない。むしろ余程なことがない限りそんなことは出来ないはずだ。一度始まった建造は、終わるまでどうにも出来ない。建造ドックを開けるまでは眠ったままなので放置ということも可能ではあるものの、いずれどうにかしなくてはいけない。

 

「このままは可哀想よね。でも、もう頭がおかしくされちゃってるのかしら」

「完成してるのはダメになってんじゃないの? まだ終わってない方は知らないけど」

 

雷が完成している方のドックのような設備に触れながら話す。

4代目は完成しているため、窓からは眠っている姿が見えた。既に頭の中にはマイクロチップが埋め込まれている可能性が高いが、3代目の思考が移されていないのだから、今目覚めさせれば普通の大淀である可能性はある。

とはいえ、頭の中に異物が入っているというのは不安になるものだ。何がきっかけでそれが悪さをするか、誰もわからない。出来ることなら、脳に埋め込まれたマイクロチップも切除したいところである。

 

「先生がどうにかしてくれるかしら。でも脳か……うーん、すごく大変よね」

「深海の侵食とは違うんだから、出来ないことは無さそうだけど」

「なら、こっちのも普通の大淀に戻せたりするのかな」

 

伊勢が担いでいる3代目も、元はここにいる4代目や5代目と同じように何もない大淀に初代の全てを移植されたものだ。ならば、深海の侵食を取り除きつつ、マイクロチップを切除してしまえば、元の大淀に戻るかもしれない。

飛鳥医師ならそれがやれるのではないかと思えてしまう。今まで難易度が高い施術も全て成功させてきた。脳からマイクロチップを抜き取る施術なんて今までとは比べ物にならない程の腕が必要だろう。それこそ、ドックの妖精でも匙を投げそうなくらいに。

 

と、そう考えた時にふと思い出した。確かこの鎮守府は、大淀が占拠した時に妖精によって改築されていると言っていた。ならば、この鎮守府を今の形に建て替えた妖精は何処に行った。職人妖精の類のはずだが、今のところ姿を見ていない。

 

「大将、1ついいか。ここにいるだろう妖精達の姿を見ていない」

「……確かに。鎮守府の改装もそうですし、この機材を作り上げているのも妖精のはずです。私としたことが、それを見落としていました」

 

場合によってはそれが一番最悪だ。ただただ純粋に言われた通りに事を成したに過ぎない場合だってある。敵と断定するのは早いだろうが、反発を受ける可能性は否定できない。

 

「妖精さん、いるー!?」

 

と、ここで話を聞いていた雷が実験室の中に呼び掛ける。雷は深海棲艦の声は聞けるが妖精の声は聞けない。あれを聞き取れるのは明石だけである。意思疎通は出来ないが、こちらの言っていることは理解してくれるため、呼びかけに応えてくれるはず。

案の定、この鎮守府に滞在していた数人の妖精達がノソノソと現れる。今はこのドックのような設備を管理していたようである。悪魔のような実験にすら、その手腕を使っていたのだろうか。

 

「これで全員?」

 

雷の問いかけに、妖精全員が頭を縦に振る。だが、あまり元気が無さそうだ。今まで見てきた妖精達と比べると、格段に顔色が悪い。

感情の匂いはかなり薄いが一応確認出来た。不満と空腹。大淀や研究者達からは、あまりいい扱いをされていなかったように思える。脅されて改装や設備の作成をやらされていたように思える。

間賀や保田の方便は、全て妖精に当て嵌まるものだったのかもしれない。より一層ゴミみたいな人間だと確認出来た。

 

「一緒についてきてもらえるかしら。鎮守府に着いたら美味しいものを用意するわ」

 

その言葉に満面の笑みを浮かべた妖精達は、すぐさま雷に飛び付く。随分とこき使われていたようで、しかも脅されてここまでやることになったのだろう。当人達は何なのかもよくわかっていないようだが、罪に加担させられていたのは可哀想である。

 

「管理外して大丈夫なわけ? この建造見てたんじゃないの?」

 

普通に持ち場を離れたが、5代目は大丈夫なのだろうか。時間をかければ建造が終わるというのなら構わないのだが、これで建造に不具合が起きたと言われると寝覚めが悪い。

曙の言葉を聞いた妖精達は少し悩んだ後、頭を縦に振る。悩んだところは少し怖いが、妖精が大丈夫というのだから大丈夫なのだろう。しかし、脳にマイクロチップが埋め込まれるのは回避不能である様子。

 

「とりあえず放置でいいみたい」

「まぁ信じるしか無いわよね……」

 

曙は呆れてしまった。門外漢が口を出すわけにもいかないため、ここは放置ということで落ち着いた。

 

手瀬鎮守府から出たことで、これであの建屋の中には気絶した人形達と目覚めの時を待つ4代目大淀、そして建造中の5代目大淀が残されるのみとなった。既にこちらの大淀が連絡済みのため、今から大発動艇を大量に装備した部隊が新提督の指揮の下、鎮守府にやってくるらしい。

建造中の大淀に関しては、建造完了を待ってから目覚めさせることになるらしい。あとどれくらいの時間がかかるかはわからないし、そもそも目を覚ますのかもわからないが、そこは根気強く行くようである。

 

「全員出ましたね。では、帰投しましょうか」

 

間賀と保田は下呂大将の乗る大発動艇に捨てられるように積み込まれていた。間賀は未だに目を覚まさず、寝かされている状態。保田は目を覚ましているが、ずっと俯いている。匂いから感じる限り、間賀と違って心が完全に折れている様子。

2人を積み込んだことで、私と三日月が乗るスペースは無くなってしまったが、妖精達が助けてくれたお礼と言わんばかりにそこにあるもので大発動艇を手早く作ってくれた。今なら三日月がそれを運用出来るため、遠慮なく使わせてもらうことにする。

 

「初めての大発動艇実戦投入が、若葉を乗せて帰るっていうのも、なんと言うか」

若葉(ボク)としては三日月の初めてになれて嬉しいぞ」

「ふふ、そうね。また私の初めてを貰ってもらっちゃった」

 

これで鎮守府に帰れば本当におしまい。長かった大淀との戦いは、完全に終了を迎える。安堵の息が自然と漏れた。

 

 

 

勝利の凱旋。鎮守府に戻るなり、歓声が上がった。先に帰投した仲間達や、鎮守府で待っていてくれた者達は、そろそろ到着するという連絡を受けたところで工廠で待っていてくれたようだ。

 

「よく戻ってきてくれたァ! 大将もお疲れさんです!」

「ええ、捕縛した者達を封じ込める場所は」

「準備しておきましたぜ。そこのクズ共は監禁しておきます」

 

ここに辿り着くまでに間賀は目を覚ましていたが、逃げ場の無い大発動艇の上で、相乗りしていた下呂大将が人格を否定しながら間違いを延々と話すという軽めの拷問により、すっかり萎縮してしまっていた。あの時の態度は何処かに行ってしまったようである。

そのおかげか、来栖提督が2人を抱え上げても抵抗すらしなかった。何やら何処かに用意されているという監禁部屋に今は置いておくとのこと。

 

「誰か金平糖持ってきて!」

 

妖精を運んできた雷が工廠に入るなり叫ぶ。運んできた妖精達が割と限界が近かったようで、すぐにでも甘味が必要なようである。いくら妖精でも酷使されれば命の危険があるのだと痛感した。

 

「怪我人はいるか」

若葉(ボク)だけだ。傷薬で応急処置だけはしている」

「今は入渠ドックが空いていない。僕がすぐに治療する」

 

飛鳥医師に連れられ、工廠の奥で高速修復材を投与される。原液を使っているため、見る見るうちに修復される。それでも念のため一日は包帯を巻いておけとのこと。三日月のリボンで応急処置をしていたが、ちゃんとした包帯を巻き直された。血塗れの三日月のリボンは廃棄という形に。

頭の傷なども一緒に治してもらったため、このまま置いておけば明日には何事もない身体になっているだろう。艦娘の身体に感謝せざるを得ない。

 

「今日はもう休んでくれ。充分な休息の後、事後処理をしてから施設に帰投することが決まった」

「そうか。なら若葉(ボク)はそのまま休ませてもらう」

「念のため薬をください。部屋で必要になるかもしれないので」

 

鎮守府に到着出来た途端にドッと疲れが押し寄せた。本当に終わったのだと実感したら力が抜けてしまったらしい。今も三日月に支えられてここにいる。

三日月だって戦場ではリミッターを外していたのだから、私と同じように疲れ切っているだろう。それでも私の側にずっといてくれる。こんなに嬉しいことはない。

 

フラフラながらも与えられた部屋に到着。まだ日は高い位置にあるが、疲れはピークに達しており、目を瞑れば眠れるのではないかというくらいに消耗している。

今までは戦意昂揚で眠気すら感じなかったが、完全に気が抜けている。だが、もう戦う必要は無いのだ。深く眠りについてもいい。

 

「若葉、大丈夫?」

「そこまで大丈夫じゃないな……かなり疲れている」

「そうだよね……あれだけ動き回ったんだもの。脚だって凄い熱を持ってる」

 

制服のままだと寝苦しいだろうと服を脱ぐことにしたが、疲れ切っている私は自分で脱ぐこともままならず、三日月に手伝ってもらうことに。

タイツが脱がされると同時に、脚に激痛が走った。本来1日に3回しか使えないような知覚出来ない突撃を、3回どころか相当な回数繰り出し、さらには途中でブレーキをかけるという負荷が特にかかる動きをしたため、限界はとっくに超えていたようだ。

 

「脚が痛い……」

「すぐに薬を塗るわ。貰ってきてよかったね」

 

本来なら入渠が必要なレベルだったのかもしれない。それだけあの戦いが激戦だったのだと実感する。

脚に薬を塗られていくごとに痛みが消えていき、熱も冷めていく。流石に2回目なので妙な声を上げることもない。三日月だって疲れているのだから、今からいろいろとやる余裕なんて無いだろう。事が済んだらもう寝たい。

 

「本当にお疲れ様。若葉が頑張ってくれたから勝てたんだよ」

「そう言ってもらえると嬉しいな……この痛みも勲章のようなものだ」

 

薬を塗り終わったことで、今の私には疲れ以外は無くなった。そして眠気もピークに。瞼が勝手に落ちてくる程に眠い。もう寝たい。

 

「三日月……もう限界だ。寝よう……一緒に寝よう」

「うん、私も疲れちゃった。脱いだ方がいいと思ったけど、限界ならこのまま寝ようか」

「ああ……ダメだ」

 

ほとんど無意識に三日月を抱き寄せる。やっぱりこの方が落ち着く。三日月の温もりと匂いが、一番私を落ち着かせる。

急に抱いたからか少し驚いたようだったが、すぐに受け入れてくれて身を寄せてくる。三日月も疲れているからか、眠気の匂いがすぐに膨れ上がってきた。これなら2人一緒に眠れるだろう。

 

「……終わったんだな……全部」

「うん、終わったね。全部終わったんだよね」

 

私が施設に漂着したことで始まった今の戦いは、今この時を以て終結したのだ。言葉にしてそれを実感する。目が覚めたら、明るい明日が待っている。

明日からは三日月と一緒に、平々凡々な毎日を過ごしたい。そうなるまでにもういくつか段階があるとは思うが、それもすぐに乗り越えられるだろう。

 

「もう何も考えなくていいんだ。若葉(ボク)達は生きて全部を終わらせることが出来た」

「うん、もう嫌な思いはしないはずだよね」

 

最後の最後に気分の悪いことはあったものの、そいつも処罰が決まっている。あんな人間がまだまだいるのかもしれないが、施設で暮らす私達には関わり合いが無いような場所にいる者だろう。それに、下呂大将がその辺りは何とかしてくれる。

 

なら大丈夫。もうあんな思いをすることはない。私と三日月、施設の仲間達と一緒に、静かに暮らしていくのだ。

 

戦いは終わったのだ。

 




これで本当に終了となります。ここからは少しの間後日談が続きますが、もう少しの間お付き合いください。
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