継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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癒しの場

三日月の顔の傷が治療された翌朝、早速下呂大将の迎えが来た。処置前に話していた新婚旅行の件があっという間に日程が決まり、やると言った翌日には出発することになってしまったのだ。

準備することなんて高が知れており、着替えをちょっと鞄に詰め込む程度。どうせ向こうで行動する時にはいつもの制服だし、眠る時はいつもの浴衣。新婚旅行といっても、慰安施設で2泊3日の温泉旅行だ。大荷物にするわけにはいかない。

 

「艤装は持っていく必要なんて無いな」

「当たり前だろ。戦いに行くわけじゃ無いんだ」

 

今までが常在戦闘のような生活だったため、戦闘では無い理由で施設の外に行くというのも初めてのこと。少し空回りしかけたが、楽しい楽しい旅行の始まりに私、若葉も少し昂揚しているのかもしれない。昨日は三日月と一緒に少し眠れなかったくらいだ。

 

「わぁ、三日月さん綺麗な顔ですね!」

「治療してもらいました。先生達のおかげです」

 

運転手のまるゆも、治療された三日月の顔を見て喜んでくれた。誰からも祝福される三日月に、私も胸が熱くなる。

治療される前は、その傷に触れること自体が三日月を傷つける禁忌のようにされていたが、治療された今、三日月自身も明るく反応できるようになっている。知るものがいれば祝福し、知らないものには何があったかもわからないという最高の状態。

 

「さぁ、ここからそれなりに距離がありますので、すぐに行きましょうか」

 

下呂大将に促され、車に乗り込む。こういう経験も無いため、やることなすことが全て新鮮だ。

 

「それじゃあ、少し空ける。好きなように使ってくれ」

「任せて! 何もないことはわかってるから、いつも通りに過ごすわ!」

 

飛鳥医師が外出することなんてまず有り得ないわけだが、そうなった場合は最古参である雷が施設を取り纏めることになる。飛鳥医師から頼られ、今まで以上に満面の笑みでサムズアップ。

 

「新婚旅行、楽しんでくるんじゃぞ」

「いってらっしゃーい!」

 

みんなが私達の門出を祝福してくれた。これで楽しまなかったらむしろみんなの期待に応えていないことになってしまう。満足するまで存分に楽しもう。

 

 

 

まるゆ運転の車に揺られて時間が流れ、そろそろ昼食時かなというところで到着したのはかなり大きな施設。団体でも宿泊出来ると聞いていたのでそれなりの規模は予想していたが、思った以上に大きかった。少なくとも自分が知っている建物の中では一番大きい。当たり前だが工廠のようなものは無いが、緊急時のために入渠ドックは完備されているのだとか。

いわゆる観光地的なノリな部分が随所に見受けられる。特にしっかり整備された散歩道がここの売りらしい。見ていて安らぐ風景ならメンタルケアにも最適だろう。私としてはそういう静かなところを三日月と共に歩くのが一番の楽しみだったりする。

 

「では、明後日にまた迎えに来ます。それまで楽しんでください」

「ありがとうございました。いい機会ですので、ゆっくり羽を伸ばします」

「ええ、そうしてください」

 

部屋などの手配も既にしてくれているようで、下呂大将は小さく手を振るとさっさと行ってしまった。蝦尾女史に対しては小声で頑張りなさいと応援しているのがわかる。蝦尾女史はそれに対し、小さく頷いた。

 

施設に入りチケットを見せると、殆ど待つことなく部屋まで案内された。ここの従業員も艦娘だったので少し驚いたが、大本営直属の慰安施設なのだからそういうこともあるだろう。何らかの理由で戦線から離脱した艦娘が、こういうところで艦娘としての第二の生を見出しているようだった。誰一人として嫌々やっているわけでもないし、むしろ楽しんでいるくらい。私達と同様に戦いとは別の場所で楽しく生きることが出来ていると言える。

それ以上に驚いたのは、普通と外見の違う私達の姿を見ても一切違和感のある反応をしなかったこと。ここに訪れる者は本当にいろんな者がいるとのこと。それこそ、あらゆる鎮守府から宿泊客が訪れるのだから、痣がある程度、髪色が違う程度では驚きもしないようである。

 

「本日は他にもお客様がおられますので」

 

部屋まで案内してくれたのは鳳翔だった。当然、来栖提督のところの鳳翔とは違う。鉄と油の匂いは一切せず、服もここでの従業員制服といったイメージで少し新鮮だった。

この施設は毎日誰かしら利用しているとのことなので、私達以外にも宿泊客がいてもおかしくない。この部屋に来るまでに視界の端に何人か見えたこともあり、今日はそういう日なのだろうと理解する。他人様の日程まで私達に合わせることなんて出来やしない。

 

「では、こちらがお部屋になります。ごゆるりとお休みください」

 

案内されたのは少し高い階の2()()()。片方は私と三日月が使うとして、もう片方は飛鳥医師と蝦尾女史。男女でまさかの相部屋である。これは確実に下呂大将が仕組んだことだろう。

飛鳥医師は最初今までに見たことのない程の慌てようだったが、ここまで来てはもう回避不能。新しい部屋を取ろうにも、今更どうにかしろというのはこの施設に迷惑がかかる。瞬時にいろいろと考えた結果、飛鳥医師は蝦尾女史との相部屋を承諾。この事態に蝦尾女史は苦笑するしかないようである。

 

「じゃあ、ここから別行動だ。若葉(ボク)は三日月と楽しませてもらう」

「あ、ああ。せっかくの新婚旅行だ。僕らのことは忘れて楽しんでくれ」

「そちらもな」

 

あちらはあちらで頑張ってもらうとして、私達は私達で楽しませてもらうことにしよう。心の中で蝦尾女史にエールを送りながら、私達は用意された部屋に入った。

 

部屋は施設での自室よりも大分大きく、のんびりと寛げる空間。和室なのもポイントが高い。布団は自分で敷くタイプのようだ。

隣の部屋の音が聞こえない辺り、防音も完璧。ここが慰安施設なのだから、何かしら喧しくなってしまうことだってあり得る。それを回避するために、そういうところには気を使われているようだ。

 

「若葉、すごいよここからの風景」

 

着替えの入った鞄を置いた後、三日月に言われて外を見てみると、綺麗な海が展望出来た。いつもは戦いの場だった海も、こういう場では何とも素晴らしい風景になる。やはり艦娘は海とは切っても切れない関係のようで、海を見ていると心が落ち着いてくるというものである。

これは夜景も期待できるというもの。今まではトラウマを刺激されるだけだった夜の海も、今や楽しむことが出来る程になった。明るいうちは散歩に出掛けて、夜は部屋から夜の海を眺める。夜の散歩というのもいいかもしれない。何という優雅な休日なのだろう。新婚旅行にはうってつけ。

 

「ここに来ることが出来てよかったな」

「うん、本当に。先生達に感謝ね」

 

ここからは飛鳥医師と蝦尾女史のことも考えずに行動することになる。食事なども完全に別行動。何でも、慰安施設の食堂で自由に食べられるそうなので、昼食は適当な時間にそこに行けば良しということのようだ。温泉もいつでも入ることが出来るとのことなので、頃合いを見て適当に向かう。

やりたい時にやりたいことをやるという、何にも縛られない自由な時間がほぼ丸二日も手に入ってしまった。この貴重な時間を、三日月と共に有意義なものにしよう。

 

 

 

食堂で適当に昼食を摂った後、噂の散歩道へと向かった。売りにしているだけあり、看板でしっかりと道標が作られており、簡単に行くことが出来る。

 

「これは……すごいな」

「うん、綺麗……」

 

そこには、季節の花が植えられた花畑。少し遠くには先程部屋で見た海もある。ベンチなども設置されているため、疲れたり風景を眺めたかったら、そこに腰掛ければいい。

今日は天気もいい。雲一つない晴天で気温も程よく、散歩日和と言える。こんな時に三日月と一緒にこの散歩道を歩けるのは、心が躍るようだった。三日月からも嬉しい楽しいという感情の匂いが全く尽きずに漂ってくる。それを感じ取り、私は上乗せするように楽しむ。

 

「施設じゃ見られないもんね。こういうの」

「そうだな」

 

色とりどりの花を見ているだけで心が洗われるようだった。海にまつわる艦娘だからこそ、逆に陸のものに惹かれるのかもしれない。大本営もその辺りがわかっていてこういう施設を作っているのかもしれない。これなら誰だってメンタルケアになりそうだ。

私は匂いでも楽しめる。これなら嗅覚が私のように強くなくても芳しい花の香りに包まれていることだろう。火薬と潮風の匂いばかりの戦場とは雲泥の差。目で楽しみ鼻で楽しめる。慰安施設としては最高の場所だ。

 

「夜はライトアップもあるようだな。夕食を食べた後にまた来ようか」

「そうだね。また雰囲気が違って楽しそう」

 

ここまで来ると大本営運営とは思えなくなってくる。民営の娯楽施設ではないかと勘繰ってしまうほど。それ程に素晴らしい施設だ。

 

「このムードの中でなら、蝦尾さんも……」

「ああ、きっと上手く行くさ。みんなの後押しもあるからな」

 

こんないい雰囲気の場所でなら、蝦尾女史の一世一代の大勝負もきっと上手く行くだろう。飛鳥医師がとんでもない朴念仁なら話は変わるが、今までで少しずつ距離を詰めているし、少なからず飛鳥医師だって蝦尾女史の気持ちを理解し始めているのだから。

新婚旅行という形で私達は別行動をとっているが、むしろあちらの状況から見てみれば私達はそこにいてはいけない存在。お互いを尊重し合っての別行動である。蝦尾女史の邪魔なんてしない。

 

 

 

三日月と散歩道を歩いていると、ちょくちょくと他の艦娘達とすれ違う。施設にはいないタイプの艦娘なのでそれが何者かはわからないのだが。少し深海棲艦の匂いが纏わり付いているため、激戦区から慰安に来た者達なのかなと思う。

身体に匂いが付く程なのだから、余程ハードな戦いをしている鎮守府出身なのだろうと思う。私達の住む施設は中立区だから、深海棲艦との戦い自体が無いわけだが、世の中にはそういうところもあると実感する。

 

「他に客がいると言っていたが、確かにちょくちょく見かけるな」

「ね。でも、私達が変な目で見られないからよかったかな」

 

すれ違う程までに近付かれても、会釈くらいで後ろ指指されるようなことは無かった。視線も私の痣をチラッと見られる程度。まるで()()()()()()()()()()()()()()()ような反応だった気がする。

少なくとも、来栖鎮守府や有明鎮守府では、特異な変化をしている艦娘というのは見ていない。あの慣れ方からして、仲間に同じようなのがいるという匂いだ。

 

「……ん!?」

 

そんな中だった。こういう場ではまず確実に嗅ぐことがない匂いを感じ取った。花の匂いに紛れて、かなり強烈な()()()()()()()を感じ取ったのである。

この匂いを知ったことで途端に警戒態勢に。艤装が無いのだから戦うことは出来ないが、リミッターを外せば格闘戦くらいなら可能。代わりに身体が壊れかねないが、三日月を守らなくては。

 

「ど、どうしたの若葉」

「深海棲艦の匂いだ。しかもかなり強い。セスやリコとは比べ物にならないぞ」

 

ここは開けた花畑の真ん中だ。周囲を見回せばこの匂いの持ち主がわかるはず。キョロキョロと田舎者のように観察したら、その存在はすぐにわかった。

遠くにいるため顔はわからないが、数人の人影。見た目は私達と同じ駆逐艦ほどのサイズ。遠目でも私の知っている者も見つけた。あれは……春風と初霜では無いだろうか。

 

すると、匂いだけではなくこちらを見ている視線まで感じた。あちらが私達の存在に気付いたということ。いや、これは()()()()()()()()()()。私達が近付いたことでこちらに興味を持ったかのような、そんな感覚。

 

「若葉、もしかして……私達と同じような人なんじゃない……?」

「飛鳥医師のような治療が出来る奴が他にもいると?」

「ううん、シロクロさん達みたいに、鎮守府の味方をしてくれる協力者な人達みたいな」

 

確かに、施設に4人もいるのだから、そういう深海棲艦が他にいてもおかしくないか。慰安施設に来ることが出来るくらいなのだから、あちらもこちらと同じで大本営公認の深海棲艦ということか。

 

「敵意は感じない。おそらく興味だ」

「私達もちょっとおかしな存在だもんね」

 

艦娘でも深海棲艦でも無い存在に昇華してしまった私達だからこそ、()()()()()()()()()()()()には得体の知れないものというイメージになるのだろう。なら、この匂いの持ち主は、シロのような直感的な嗅覚が鋭いのだろうか。

 

などと話している内にその匂いの持ち主がこちらに近付いてくることがわかる。ただでさえ強い匂いが、さらに強くなった。何が起きてもいいように三日月を抱き寄せる。敵意が無くても、何が起こるかわからない。

 

「あの、怖がらせてしまいましたか? 私達の()()を察することが出来る人がここにいるだなんて思っていなくて、配慮が足りませんでしたか」

 

やけに丁寧に私達に話しかけてきたその何者かは、誰よりも深海の匂いが濃厚な1人の駆逐艦らしき少女。着ているものが色を変えた霰の制服だったため、うちの深海棲艦のように深海棲艦としての服ではなく仲間としての服を着せられているだけなのかもしれない。

 

「いや、若葉(ボク)達が勝手に警戒しただけだ。知り合いに協力者の深海棲艦がいるんだから、お前達のような存在がいてもおかしくない」

「ああ、もしかして貴女達が噂の医療施設の方々ですか。司令官から話を聞きました」

 

私達の存在は知れ渡っているらしい。隠棲しているはずなのに、あの事件のせいで妙に名が広まってしまったようだ。

 

「一度お会いしてみたかったんです。()()()()()()()()()()()()()()()()艦娘、若葉さん」

「お前は……」

「あ、ごめんなさい。こちらから名乗らなくてはいけないのに」

 

コホンと咳払いした後、素性を話してくれる。

 

 

 

「私は朝潮。朝潮型1番艦であり、今は中枢棲姫亜種でもある、変質した元艦娘です」

 




継ぎ接ぎ×欠陥コラボ開始。慰安施設という場で邂逅する2つの話の主人公。今はお互い平和ですから、戦いも何もありません。
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