継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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規格外の仲間達

飛鳥医師と蝦尾女史のロマンチックな恋愛模様を見届けた夜、夢の中でシグが外が騒がしいと言い始めた。新婚旅行や蝦尾女史の恋の戦いを邪魔するとは言語道断。一旦目を覚ましてその不届き者に制裁を加えに行くことにする。

 

目を覚ました時、シグが言っていた通りまだ真っ暗。日が昇るまでにはまだまだ時間がある丑三つ時である。

私、若葉は一緒に起きた三日月と外を見るべく、足音をなるべく立てずに出入り口まで移動。わざわざ着替える時間もなく、早急に且つ事を荒立てずに終わらせたかった。

 

騒がしいとは言っていたものの、外から喧しいような音は聞こえない。何者かが動いている様子も感じない。少しだけ扉を開けて匂いを嗅ぐと、私以外には誰も気付くことが出来ないくらいの火薬の匂いがした。もしかしたら昼のうちから漂っていたかもしれないが、注意深く嗅がないとわからないほどに薄い。私達は艤装を持ってきていないが、他の者達は何かしら持ってきているのかもしれない。

だが、慰安施設という癒しの場に武装してくるとはどういった了見なのだ。テロを起こすつもりにしか思えないのだが、何故こんな場所でそんなことをしようというのだ。

 

「大丈夫だ。ゆっくり行くぞ」

「うん」

 

私達は深海の眼のおかげで普通以上に夜目が利く。明かりをつける必要も無い。幸いなことにこの施設は足元が全て絨毯張りのため、裸足のままでも部屋から出られる。

 

「よりによって私達の新婚旅行を邪魔するなんて……」

「本当だ」

 

三日月の苛立ちを感じる。勿論私も気に入らない。何故こんな時に何かを企てたりするのだ。

 

「こっちの方が火薬の匂いが強い。それと……これは朝潮達の匂いだ」

「あちらも気付いているのかな。確か頭の中に電探とか……」

「寝てたら知らないが、この様子なら気付いているだろう。合流した方が良さそうだ」

 

私達だけで終わらせて、飛鳥医師と蝦尾女史には一切気付かずに終わっていただきたい。あちらはあちらで私達以上に楽しんでもらわなくては困る。せっかく結ばれた2人なのだから、翌日は何事もなく過ごしてもらいたい。

だが、私達は艤装を持たない非武装。三日月はともかく、私はまだ戦えるものの、相手が艤装を装備しているというのなら苦戦を強いられることになるだろう。よって、朝潮達と合流がベスト。朝潮ならこの何かやろうとしている連中の場所もわかるだろう。

 

「いた。朝潮……っ」

 

匂いを辿り、朝潮と合流。あちらはあちらで団体。昼に出会った取り巻きは元より、他にも何人もが朝潮の側にいる。廊下が狭く感じるレベルである。

 

「若葉さんと三日月さん、そちらも気付いたんですね」

「ああ、夢で外が騒がしいと忠告を受けた」

 

首を傾げられるが、今それを説明している余裕はない。

 

「温泉のときの連中か。若葉(ボク)達でもそちらの仲間でも無いという」

「はい。まだ面と向かっていないので何とも言えませんが、場所はわかっています。今は敵の状況確認中です」

 

状況確認と言っても、ただここでジッとしているだけのように見えるが。

 

「朝潮様、ただいま戻りました」

 

一切匂いすら無い状態から突如、朝潮の目の前にある艦娘が現れた。思わず声を上げそうになるが、こんな真夜中に大声を出すわけにはいかないのでグッと飲み込む。三日月も危なかったため、即座に口を押さえた。

朝潮達からすればそれも当たり前のことなのか、誰一人としてそれに対して驚きを見せない。というか朝潮()と呼んだか今。

 

「朝潮様の予想通りです。提督が1人、艦娘が3人。艦娘は何者かはわかりませんでしたが駆逐艦3人でした。おそらくこの狭い空間でも艤装を扱うためでしょう。提督と思われる者には艦娘が1人ついており、それが一番の手練れでは無いかと思われます。全員が全身黒尽くめであり、顔も隠しておりました」

「指揮者はその提督ですか」

「その通りです。こなれているようなので、南提督と同様の隠密タイプかと思われます。会話が聞き取れず目的もわからずで申し訳ありません」

「問題ありません。瑞穂さんは非武装ですから、皆のところへ」

 

瑞穂と呼ばれた艦娘は深くお辞儀をした後、再び闇の中に消えた。匂いは結局一切無かった。私の高速戦闘とは種類が違う、意味不明な技。いや、技と言えるのかアレは。あまりにも自然に現れ、そのまま消えていったので、理解が出来なかった。

 

「若葉さんと三日月さんも非武装ですよね。ここからは私達でどうにかしますから、お引き取りを」

「乗り掛かった船だし、若葉(ボク)は非武装でも戦える。それに、人様の新婚旅行を壊しかねないクソのツラを拝みたい」

「私も同じです。邪魔はしませんので、よろしくお願いします」

「……わかりました。でも、誰も貴女達を守れませんからね」

 

私達が圧力をかけてしまったか、小さく溜息を吐きつつも、私達がついていくことを許可してくれる。

私が見ている限り、朝潮達も非武装だ。私にそんなことを言えた義理では無いと思うが。

 

「場所はわかります。ですが、あちらは別々に行動していますね。まずは近場にいる敵に一直線に向かいますから」

 

そのまま廊下を突き進む。道案内が出来る朝潮を先頭に、護衛をするように戦艦の女性が側にいた。先程の取り巻きとは別だが、匂いから察するに春風や満潮と同じ、先天性の半深海棲艦。朝潮の周りにはそういうものばかりである。まともな艦娘は1人もいない。

先程の瑞穂は艦娘のようだったが、とにかくあの動きがある。正直、尋常では無い。

 

「扶桑姉様、先に伝えておきます。この施設はなるべく破壊せず、敵も殺さずでお願いしますね」

「わかったわ……でも……朝潮が傷付いたら……どうなるかわからないかも……」

「私は大丈夫ですから、何事もなく終わらせることを優先してください。司令官の護衛をしている山城姉様も悲しみます」

「……妹達が悲しむのは嫌ね……ギリギリまで抑えるわ……」

 

物騒な会話をしているが、あちらではそれが普通。そもそも非武装なのに破壊だの殺すだのどうするのか。私達にはわからないことばかりである。

 

「次の曲がり角に1人います」

「そう……なら……私が行くわ……」

 

扶桑と呼ばれた半深海棲艦の戦艦が朝潮から離れ、朝潮の言う曲がり角へと向かう。だが、その瞬間にキナ臭い匂いが突然漂った。

 

「撃たれる……!」

 

嫌なことに、あちらも手練れなのかもしれない。私達が近付いていることに気付いたようで、扶桑が曲がり角付近にまで辿り着いた瞬間、飛び出してその主砲を放ってきた。この室内で当たり前のように砲撃するだなんて何を考えているのだ。真夜中だからか、砲撃音を抑える装置まで装着していた。

非武装では駆逐艦の主砲でも致命的。狭い空間なのだから誰も避けられない程である。今のままでは扶桑を貫き、後ろにいる私達にまで被害が出てしまうだろう。

 

だが、朝潮達は誰も動じていなかった。自分達に被害が出ることなど一切考えていない。

 

「今……朝潮を撃とうとしたのかしら……」

 

かなり近い位置でゼロ距離で撃たれたようなものなのに、扶桑は無傷。その扶桑は今までカケラも見えなかった艤装を装備し、何かしらのことをやってその砲撃を無効化していた。一体何が起きている。

 

「ねぇ……今、朝潮を撃とうとしたのかしら……答えなさい」

 

ゾクリと背筋に悪寒が走った。私のことでは無いというのに、扶桑の言動、一挙手一投足に恐怖を感じた。

 

問われても敵は答えず、容赦なく扶桑に砲撃を繰り返す。しかし、その砲撃は全く届かない。扶桑は砲撃を()()()()()()()()()()()

弾き飛ばした砲撃はそのまま撃った敵に返っていくが、やはり手練れ、敵は自らの砲撃を避けていた。そのせいで廊下は嫌でも破壊されていき、一部が悲惨なことに。

そんなことがあれば、嫌でも音は立ってしまう。爆音というわけでは無いが、大分酷い音のため、部屋の防音設備がしっかりしていても、これで目を覚ましてしまう者もいるだろう。あちらも騒ぎを大きくしたくないようで、この音で若干焦りの匂い。

 

「な、何なんだアレは……」

「初めて見たらこうもなるわよね」

 

しみじみと語る満潮。この中では一番の新人らしく、扶桑のあの戦術にはまだ慣れていないそうだ。ここの扶桑は()()()()()()であると認識しない限り、頭がおかしくなる。

 

「増援来た。後ろ」

 

朝潮の言葉に、満潮が即座に反応する。振り向いた時には確かに同じような黒尽くめの艦娘がこちらに主砲を向けていた。

意味がわからない性能の扶桑が守れるのは前だけ。そういう意味では敵も熟れており、狭い通路で挟み撃ちにしようとしてきたのは戦術として上等。

 

「やらせるわけないでしょ」

 

満潮も知らない内に艤装を装備しており、敵が撃つ前に撃っていた。装備しているのは私達にも馴染み深い水鉄砲。

朝潮の合図がかなり早かったというのもあり、完全に不意打ちになっており、しかも満潮はあの咄嗟の砲撃できっちりヘッドショットを決めている。三日月に負けず劣らずの砲撃性能。

 

「まだ気を失ってない!」

「なら若葉(ボク)がやろう」

 

満潮が作ってくれた隙を突き、艤装を装備していない状態ではあるが少しだけリミッター解除。力を出しすぎると自分の身体が壊れかねないので、軽く、それでいて確実に気を失わせるため、出来る限りのスピードで接近して、ラリアットするかの如く首を絞める。

本来だったら殴り倒すのだが、艤装がない今、そんなことやったら私の拳がどうにかなってしまいかねない。故に、腕全体を使ったスリーパーホールドに持っていった。

 

「何も話してくれないのなら……痛めつけるしか無いわね……」

 

扶桑の方は、触れられる程にまで接近していた。砲撃を全て弾き、ついにはその主砲を軽く小突く。瞬間、さんざん撃っていた主砲が木っ端微塵に分解された。

武器を失った敵の1人は撤退しようとしたが、ここぞとばかりに手を伸ばし、頭を掴み上げる。ジタバタともがいても、殴ったり蹴ったりしても、扶桑はビクともしない。

 

「別にこのまま殺してもいいのだけど……朝潮が悲しむの。貴女の命は朝潮に守られているのよ……朝潮に感謝して(こうべ)を垂れなさい」

 

その掴んだ頭を床に叩き付けた。多分アレでもかなり抑え気味にやったのだと思うが、それだけで敵の1人は気絶。あの一撃だけでも相当な威力があったのだと思う。本気でやったら床をぶち抜いていたのだろうか。

 

「お前達は何をしている」

 

あちらが気絶したため、私が締め上げている方の敵に問いただす。

戦闘は手慣れているみたいだが、あまりにも想定外のことが発生すると動揺が隠しきれないようである。今間近にいる敵も、扶桑のアレは想定外だったようで、明らかに冷や汗のような匂いがし始めた。

 

「何か言え。お前達の目的は何だ」

「……全ての……深海棲艦の……殲滅……!」

 

マスクをしているためくぐもってはいたが、今ハッキリと聞こえた。その発言に偽りが無いことも匂いからわかる。

つまり、この施設に協力者である深海棲艦がいることが気に入らないから、ここで殺してやろうとしたわけだ。静かに行動していたのは、深海棲艦以外は殺さないようにするために慎重に事を成そうとしていたという程度か。

 

若葉(ボク)は深海棲艦では無いが?」

「人間でも……艦娘でも無いものは……全て敵……!」

 

何となく理解出来た。こいつらの指揮をしている提督は深海棲艦に相当根深い恨みがあるのだろう。故に、相手がどんな深海棲艦であろうと生かしてはおかないという正義感からの行動。

本当にこちらを皆殺しにしたいのなら、この施設ごと爆破でもしてしまえばいいのにそれをしないのは、人間と艦娘は無事に済ませたかったからか。無実の者は殺さないという辺りも、正義に拘っているように思える。

深海棲艦と協力しているのなら皆殺しにするというわけでは無いところも、歪んだ正義感が見て取れる。人間と艦娘はどんな悪人でも全部助ける。それ以外はどんな善人でも皆殺し。あまりに極端。

 

「気絶させるわ……そのまま押さえてなさい……」

 

片方を捨て置いた扶桑がこちらに来ると、まず主砲を握り潰した後、何を思ったか私の捕まえている敵に向けてデコピンを一撃喰らわせた。その時の音が尋常ではなく、それにより脳震盪を起こして気絶。

軽く小突いただけで主砲を粉々に砕くような力を持っている者のデコピンなのだから、アレだけでも相当な威力だったということだ。渾身の力で放っていたら首が飛んでいるのかもしれない。そんなスプラッター映像は勘弁してほしい。

 

「残り2人ですが、少し危険ですね。あんなことを言っていましたが、司令官はターゲットにされている可能性があります。すぐに終わらせましょう」

 

そんな敵の目的がわかっても、誰も焦っていない。だが、()()()()()()という気持ちが溢れているのは匂いが無くてもすぐにわかった。

 




扶桑姉様は相変わらずのインチキ性能。欠陥組最強戦力は伊達ではありません。

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