継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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提督の力

慰安施設での戦いの先には、私怨により深海棲艦の殲滅を誓った男が待ち構えていた。その男が指揮している艦娘達は全員気を失わせたが、朝潮が言うには提督という役割に就く者は、艦娘からの叛乱を防ぐために1人で全員を鎮圧する力を持っているという。

その男はよりによって大淀の艦隊司令部を使用してきた。不幸なことに、朝潮の取り巻きは全員深海棲艦が混ざり込んでおり、それが脳にまで達しているため、艦隊司令部の効果をモロに受けてしまっている。支配までは行かないようだが、朝潮以外は強烈な頭痛で身動きが取れなくなってしまっていた。

 

「朝潮は大丈夫なのか」

「この程度の頭痛なら以前にもあったので。それに、あれは陸上型には効きづらいのでは?」

 

そういえば朝潮は自分のことを陸上型に変化したと言っていた。リコの時と同じように、初期の艦隊司令部ならば陸上型には効果が小さくなる。それでも普通に動いてくるのは予想外だが。

 

「そちらは」

「奴の艦隊司令部は若葉(ボク)達には効かない。あれは深海棲艦の侵食が脳に達している者にまでしか効かないからな」

「貴女達は一体……変質したとは聞いていますが、具体的には知らないので」

「後から話す。今は奴を倒すことに専念するぞ」

 

敵は提督。私達からしたら未知数の戦闘力を持っている。あちらは単純に生身だというのに、砲撃すら弾き飛ばす扶桑が手も足も出ない程だというのだから恐ろしい。

だが野放しにしていたら、私達の施設すら滅ぼしてしまう可能性がある。深海棲艦と共存なんて、奴にとっては滅んで然るべき場所。自らの手で殲滅する可能性は高い。事を大きくしないように夜中にこっそりやろうとする辺り、大淀のようなゲスさを感じる。

 

「無駄話は終わったか」

 

あの男は武器らしい武器を持っていない。言ってしまえば徒手空拳で深海棲艦と別のナニカ2人という3人を相手取ろうとしている。

鎮守府の叛乱を止められるということは、そこに在籍している艦娘全員を相手しても、無傷で終わらせられる程の力を持っていると考えた方がいい。大淀以上に面倒くさい敵なのは理解した。

 

「ここで全員終わらせる、深海棲艦はすべて鏖殺だ」

 

キナ臭い匂い。ターゲットは朝潮。私と三日月はまだ深海棲艦とは言いづらいのかもしれないが、朝潮は誰がどう見ても深海棲艦だ。優先順位が高くなってしまっている。

何をしてくるかは想像が付かないが、可能性として一番高いのは突撃。制圧出来る程の体術と想定するのなら、生身の人間だとしても私と同様な高速戦闘が一番妥当。

 

「狙いは朝潮だ!」

 

リミッターを外し、男と朝潮の間に入り迎撃態勢を取る。何があってもいいように急所だけはガードして。

瞬間、横っ腹に激しい衝撃。本来ならば朝潮に入れる予定だったであろう一撃が私に入れられた。それはいい。()()()()()()()()()()()()。予想通り高速戦闘タイプ。骨が折れるほどの重い蹴りでは無かったが、そもそも身体の小さい私にはこの一撃だけでも吐きそうになるほどの衝撃になる。

 

「っかっ!?」

「お前は後でいい。まだ深海棲艦かもわからないからな。最優先はそこの朝潮()()()だ」

 

そのまま顔面を鷲掴みにされ、無理矢理に横に退かされる。腕力も異常。

それを見越した三日月が先程敵の艦娘に投げた瓦礫の一部を拾い上げて男に投げつけていた。脳震盪さえ起こしてくれればいいため、狙いは頭。

しかし、それは軽く払われるだけで回避された。主砲を撃っているわけではないため、人間でも弾き飛ばすくらいは余裕。

 

「邪魔をするな」

 

鷲掴みにした私をそのまま三日月に放り投げる。流石にこればっかりは勢いを止められず三日月に激突。幸いにも三日月が体勢を変えてくれたおかげで殆ど痛みは無かったが、男と朝潮の間に遮るものが無くなってしまった。

 

「お前には容赦しない。深海棲艦だからな」

「結構です」

 

朝潮が軽く前傾姿勢を取ると、腰の辺りからズルリと頭のついた尻尾のような艤装が()()()()()。扶桑や満潮もそうだったが、何もないところから現れる艤装というのも私達の中では見たことが無い。

 

「ヨル、水上機だけ。噛みつきは無し」

 

何かに向けて指示を出した途端、生えてきた尻尾の先端から水上機が発艦されていく。こんな狭い廊下でも器用に浮遊していたそれは、シロクロの使うものに近いもの。

 

「完全に化け物だな。だが、余計に殺しやすくなった」

 

だが、そんなことを一切気にした様子も無く、男はそこから姿を消し、朝潮の懐に潜り込んでいる。私相手にした時とはまるで違う、最初から息の根を止めるための渾身の一撃。

叛乱を制圧するための力ならば、艦娘をその場で始末するほどの力を発揮するとしてもおかしくない。一撃で殺すため、男が繰り出したのは手刀。腹を抉り、貫く。

 

「っ……速すぎる……どうしても見慣れないですね」

 

紙一重で回避。それでも脇腹を抉りかけた。

提督がそういう力を持っていると知っていた辺り、朝潮はそういう敵とも戦ったことがあるのだろう。見慣れないと言っているだけあり、回避は出来たようだが本当にギリギリ。

しかし、その腕の逆側から蹴りが飛んできていた。私に決めたものと同等の、その場で動きを止める一撃。それをしてくることを予測していたのか、何とかガードをしたようだが、廊下が狭いために艤装を前に持ってくることが出来ず、腕に蹴りを受ける羽目に。

 

いくらなんでもあの動きは速すぎる。提督だからと言われても、言っては悪いが奴はただの人間だ。それなのに、艤装を装備した深海棲艦をも圧倒するその力、あまりに異常過ぎる。それが提督の力なのか。

 

「朝潮!」

 

三日月を起こしてすぐに助けに向かう。私相手にはどうであれ、朝潮相手には本当に容赦がない。その歪んだ正義感をぶつける男を朝潮から遠ざけるため、強引にでも突撃する。

あちらがスピードなら、こちらもスピード。リミッターをもう少しだけ外し、非武装でも負荷が異常にならないギリギリのラインで攻める。

 

「邪魔をするな」

 

しかし、私の突撃はまるで闘牛のように回避され、躱された直後に背中に一撃を受ける羽目に。

未だに私の方には殺意を向けていない。艦隊司令部の効果を受けていないため、深海棲艦として認識されていないと見える。そういう錯覚をさせているのなら、その立ち位置を有意義に使っていくしかない。

 

その瞬間に嗅覚に集中する。ダメージを受けながらでも、今だけは奴の持つ艦隊司令部の場所を確認したい。

艦隊司令部が無くなれば、今それのせいで戦えなくなっている者達も戦線に参加出来る。朝潮はどういうわけか主砲を持っていないようなので、せめて満潮を復帰させたい。

 

「……腕時計!」

 

その匂いは、男の右腕に嵌る腕時計からした。大淀の悪意のような、この戦場には似つかわしくない支配の力を込めた匂い。私達が苦しんだあの戦いに僅かに似た匂いだ。

私の発言に艦隊司令部の破壊を意識したか、右腕を少し下げた。奴に聞こえるように言った甲斐があるだろう。少しでもこれで戦いやすくなるか。

 

「1つ借りますよ」

 

ほんの一瞬の隙を予測し、三日月が動き出す。直感的に朝潮の発艦した水上機を掴み、自らの武器として無理矢理投げつけた。狙いは勿論右腕である。

 

「やらせるわけ無いだろう」

 

キナ臭い匂いが三日月に伸びた。回避と同時に三日月を攻撃しようという魂胆なのはすぐにわかる。

私は比較的頑丈になっているし、朝潮は艤装装備だが、三日月はこの中でも一番華奢。あの蹴りを受けただけでも酷いことになりかねない。先程の背中のダメージで呼吸が辛いが、私のことより三日月のことだ。

 

「三日月、我慢しろ!」

 

男の回避に合わせて三日月を守るために飛び込み、抱き締めて男の攻撃の壁になる。私と同じように三日月にも殺意が乗っていないのは匂いでわかっているため、ダメージは蓄積するが死ぬことは無いと確信していた。

ある意味私が体当たりをしたようなものなので、三日月が小さく息を漏らしたのがわかる。それだけならダメージのうちにも入らないはずだ。

 

「っぐ……っ」

 

男の蹴りが私の腰に入る。先程よりも強めに蹴られたようで、ダメージが大きくなったが、三日月が守れたのならそれでいい。

その瞬間に男の右腕を取ろうと手を伸ばした。やはり警戒しているために私の手は空を切ることになったのだが、それを察して朝潮も行動してくれている。逆側に水上機を飛ばしており、強烈な水鉄砲を放っていた。

 

「頭を冷やせとでも言うのか?」

「貴方を殺さずに捕らえるのならこれしか無いでしょう。施設も破壊しなくて済みますし」

 

所詮水鉄砲であるため、普通に左腕で払う。放たれた瞬間にそれが水鉄砲であると判断してのこの行動だと思うと、動体視力すら異常。いや、私が近くにいるのだから水鉄砲以外無いと踏んだか。

 

「やはりお前は最初に片付けなくてはいけないようだ。艦隊司令部より、朝潮に伝令」

 

名指しによる艦隊司令部の発動。今まで以上の衝撃を頭に喰らうことになるだろう。現に朝潮は今まで表に出さなかった苦痛を顔に出していた。全員分に分散される痛みが1人に集約されるのだから、いくら頑丈でもこればっかりはダメージになる。

そしてこの行動は、私達には忌々しい出来事を思い出させるもの。名指しされたことにより私は完全に動かなくなり、三日月に至っては屈してしまった苦い経験がある。お互いに怒りが増すのがよくわかった。

 

「支配出来ずとも、動きを止めることが出来るだけでも重宝しそうだ。お前達は黙ってみていろ」

 

私達がどうしても邪魔なようだ。三日月を庇った私を後ろから蹴り押し、それを軸に朝潮へ突撃しようとされる。強烈な衝撃に体勢を崩しかけたが、それ以上に艦隊司令部への怒りが強く、私は無理に体勢を変えてその足を掴む。

 

「放せ」

「放すか! その力で誰も傷つけさせやしない!」

 

艤装が無いためまともに力は出ない。それでも渾身の力で脚を抱え、男をその場から離れないように固定する。こんなもの、男が全力を出せば私ごと動くことも出来るだろう。だが、こうすることで少しだけでも時間を作ることが出来れば、何かしら打開策が見つかるはずだ。

 

「そのまま押さえていろ!」

 

突然、朝潮が動き出す。今までとは打って変わって荒々しく、さらには口調までまるで違っていた。頭痛に顔を顰めていたのに、今はそんな様子も見せない。表情そのものが違う。

何より、朝潮から感じる深海の匂いの()が変わった。まるで()()()()()()()()()()()匂いの変化。

 

「何故動ける」

「はっ、私が()()()()()()()()()!」

 

私が動きを止めているこの一瞬の隙を突き、男の右腕に嵌められている腕時計に向けて水上機を直接ぶつける。あらゆる回避方向を網羅した密集した一撃のため、如何に提督と言えども避けられまい。

危惧しているのは、私ごと脚を振り回すこと。体積の大きさで水上機を全て薙ぎ払い、同時に私にダメージが与えられる。

 

「理解は出来んが、忌々しい深海棲艦ならそういうこともあるのだろう」

 

案の定、私が抱える脚をそのまま振り回す。私1人の体重などものともしない脚力。

ならばと私はその拘束を即座に解いた。表面積が小さくなれば、水上機の迎撃そのものがやりづらくなる。

 

「そこ」

 

そしてそれを狙っていたのは私達だけじゃない。私が手を離すと確信し、朝潮が放った水上機の1機をキャッチしていた三日月が、私の間をすり抜けて男の腕時計に叩きつけた。

ピシリとヒビが入る音。艦隊司令部に少しだけでも破損が出たことで、支配による拘束が緩む。身動きが取れない程の頭痛に悩まされていた扶桑達が、弱っているとはいえ立ち上がった。まだ完全に解き放たれたわけではないようだが、動けないわけではなくなったようで少しだけ安心。

 

「お前……!」

「それが無くなればこちらの戦力は増えるんですよ。その忌々しい艦隊司令部が無ければ」

 

艦隊司令部に一番恨みを持っている三日月だからこそ一切の躊躇も容赦も無かった。男は無傷ではあるものの、1つの障害が失われたことで、私達は勝利に一歩近付く。

男から苛立ちの匂いが強くなるが、それで戦いに支障が出てくれれば御の字。

 

「朝潮様、いえ、今は()()()()でしたか」

 

そこへまた闇から現れる瑞穂。一度仲間達の元へ向かったようだが、もう一度ここへ来たようだ。

 

「ミズホ、首尾は」

「上々です。あのお方をここに連れて参りました」

「了解だ。相変わらずいい仕事をしてくれる」

 

瑞穂が援軍を連れてきてくれたらしい。だが、相手は提督。人数が増えたところで簡単にいなしてしまうような最悪な敵だ。艦娘も深海棲艦も増えたところで、かなり厳しい戦いになるのは目に見えている。それでも人数が増えればまだマシか。隙を作りやすくなるはず。

 

ところが、その援軍というのが予想外だった。

この廊下をのっしのっしと歩いてくる巨体。来栖提督よりも大きく、筋骨隆々とした中年男性。神々しさまで感じる現状を憂いる強い優しさと、現状を作り出した者に対する激しい怒りを混ぜ合わせた匂いを放っていた。

 

「瑞穂君から話は聞いたよ。慰安施設内でテロ行為を行う提督がいると聞いたからね。それが君かな?」

「……加藤中将……!」

 

敵の男すらその登場にほんの少しの恐れの匂いを湧き立たせた。

加藤中将、つまり、朝潮達を統治する提督の存在に。

 

「提督という役に就きながら、このやり方は感心しない。重大な越権行為だと思うのだが、君はどう思うかな?」

「深海棲艦である時点で殲滅対象だ。如何にアンタが英雄であろうが、私の信念は変わらない」

「そうかそうか。君の考えは変わらないと。なるほど」

 

瞬間、その巨体が私達の目の前から消え、敵の男の鳩尾に拳が突き刺さっていた。

 

 

 

「ならば許さん。私の部下を、娘達を、伴侶達を傷付けた報いを、受けてもらおうじゃないか」

 




真打登場。提督には提督をぶつけるんだよ。
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