継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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背負う命

来栖提督の鎮守府からやってきた海底調査隊は、丸一日そこで作業を続けた。合間合間にこちらに話を聞きに来たり、逆にこちらから雷が差し入れに行ったりと、少しだけ交流はした。だが、事が事のため、どうしても空気が重くなる。

私、若葉もなるべくならその作業を手伝いたかったのだが、私に出来ることは何1つなかった。出来たとしても、雷のように差し入れをするくらい。結局、遠目に眺めることしかしていない。

 

夜、暗くなる前に調査隊は撤収することになった。最後に来栖提督と調査隊隊長である羽黒が改めて挨拶に来た。他の者は撤収準備で忙しいとのこと。来栖提督の乗る大発動艇は、羽黒が曳航する形で工廠まで運んできた。

 

「調査は一旦これで終わりにするぜェ。見つけた艦娘達は全部引き揚げたつもりだ。また見つけるようなことがあったら教えてくれや」

「そうか……ありがとう。何人だった」

「……全部で10人でした」

 

羽黒に一度言われた後からさらに増えている。8人発見後、さらに2人ということは、その2人は近海でも大分離れた位置たったのかもしれない。

 

「最も古かったものは4ヶ月前。最も新しいものは1ヶ月無いくらいです。細かい検死は鎮守府で行います」

 

1ヶ月くらい前といえば、ちょうどここに三日月が漂着したタイミングである。三日月以外にも、同じタイミングで捨て駒が作られているなんて思いもしなかった。

あの時の嵐はかなり激しかった。私が捨て駒にされた戦闘と同じほどに強い雨と激しい風だ。外を見ることなど出来ず、嫌悪感を払拭するために皆で固まって夜を過ごしたほどだ。

 

「……嵐の日に敢えて出撃させてるのか」

「やっぱりそう思うよなァ」

 

ボソリと飛鳥医師が呟いた。来栖提督も同じように思っていたようだ。

一番古い4ヶ月前というのも、おそらく嵐の日。私も三日月も、嵐の日の後に発見されている。こことは関係ないかもしれないが、ドロップ艦の摩耶も嵐の日に生まれ、記憶は無いが雷も嵐にトラウマを持っている。

この犯人は、嵐の日を狙って捨て駒を使っている。そういう戦術を使っているところを誰にも見られないようにするためだろう。そこまで出来て、何故捨て駒が生きている可能性を考えないのか。

 

「来栖、危険なことはやめろよ」

「わぁーってらい。俺も自分とこの艦娘が一番可愛いからよォ」

 

見透かしたように飛鳥医師が来栖提督に忠告し、その内容を理解しているかのように応える。意思の疎通が出来ているかのような会話。

次の嵐の時も、同じように捨て駒戦術を使う鎮守府が現れるかもしれないと予想したからだ。そうさせる前に、来栖提督はその現場を押さえようとしている。だが、そうするためには嵐の中を出撃し、その部隊と鉢合わせしなくてはいけない。さらには、相手は邪魔をする同業者すらも殲滅しかねない。かなり危険な戦場だ。

 

「何処の鎮守府がこんなクソッタレな戦術使ってんのか、まずはあたりをつけてやらァ。つっても、そいつらは多分この辺の連中じゃあ無ェ」

「ああ、僕もそう思っていた。わざわざ戦果を稼ぐためにこの辺りまで()()()に来てる」

「だよなァ。だからよォ、ここ最近で急激に戦果を伸ばしてる奴を片っ端から調べてんだ」

 

海流の影響でいろいろなものが流れ着く浜辺ではあるが、その範囲はかなり広いとはいえ流石に限度がある。この視察の近海に入り、かつ、来栖提督の鎮守府の近海に入らない場所にわざわざ来れる鎮守府となると、それなりに数が絞れるようだ。

そこで1つ思い出したことがある。私の嫌な記憶の1つだ。これ以上関わりたくないという気持ちも強いが、この事件の解決に繋がるのなら話そう。私が死者の声を代弁する。

 

「……いいか」

「どうした若葉」

「若葉が捨て駒にされた時、長く航行した末に戦闘になったのを思い出した。ここに近い海での戦闘かはわからないが……鎮守府から遠く離れた場所に向かったことは覚えている」

 

私の初めての戦闘は、生み出された直後から長い移動の末に行われた。長距離航行なんて当然初めてのため、その時点でも疲労していた。さらには夜で嵐だ。余計にまともな戦闘なんて出来やしない。

そういう意味でも、私は捨て駒として戦場にいたのだと理解した。過酷な戦場とか、そういう問題ではない。

 

「つーことはだ、若葉を捨て駒なんぞにしたクソッタレは、割と離れたところにいたってことだなァ。若葉ァ、いい情報だぜェ」

「若葉にはこれくらいしか出来ない」

「充分すぎるぜェ」

 

頭を激しく撫でられた。首が捥げるかと思った。

豪快で力加減が出来ていないように思えたが、奥底の優しさは手のひらから伝わってくる。

 

「羽黒、戻ったら総浚いするぞ」

「お任せください」

 

ふっと真剣な顔を見せる来栖提督。相変わらずのサングラス姿だが、その奥に真剣な瞳が薄っすら見えた。この事態を重く見て、本気で敵の鎮圧を考えている提督の瞳だった。

これが本当の提督という存在なのだと改めて知る。この人相手なら、三日月も心を開けるのではないかと考えてしまうほどだ。さすがに呼んでくることは出来ないが。

 

「飛鳥ァ、俺ァ鎮守府に戻る。あとは俺らに任せてくれ」

「ああ、頼んだ。僕にはそこまで手が出せないからな」

()()()()()()()()()()()()

 

意味深な言葉を来栖提督が口に出した瞬間、飛鳥医師がその頭を引っ叩いた。

 

「いってェ!?」

「余計なことを言うな」

 

余程聞かれたくないことなのか、次はグーだと言わんばかりに拳を握り締める。それを見て溜息をつく来栖提督。友人なだけあり、飛鳥医師の内情はよく知っているようである。

()()とはどういう事だろう。今の話の流れからして、飛鳥医師も提督の類だったのだろうか。そうでなくては知らない知識もいくつか持っているようだが。

 

「ったくよォ……まぁいい。羽黒、戻るぜェ」

「はい。それではまた」

 

来栖提督が大発動艇に乗り込むと、羽黒が一礼した後それを曳航していった。海上で待つ調査隊と合流し、そのまま鎮守府へと帰投していくのだろう。ここから帰ると道中で夜になりそうだが、その辺りは対策もしているようだ。

 

「……聞かない方がいいんだよな」

「そうしてくれ」

 

来栖提督を見送りながら、飛鳥医師に問い掛ける。間髪を容れずに答えられた。まだ飛鳥医師が自分のことを話してくれる日は遠そうである。

 

 

 

調査隊が撤収したということで、ようやく部屋から三日月とセスが外に出てきた。セスは早速浜辺へエコの散歩へ。シロクロもそれについていった。三日月は調査隊の話を聞くために私の側へ。

三日月は浮き輪3体を独占して抱いているわ背負っているわの重装備。最後の1体は頭に乗っかっているほど。近くに外の者がいるというだけでも大きなストレスになっていたようだ。

 

「知らない人間の声が聞こえました……」

「あの人はまだ信用出来る人間だ。そのうち顔を合わせてもいいと思う」

「……考えさせてください」

 

来栖提督は声が大きいので、工廠から私室まではそこそこ距離があるのだが、その時は施設内はそれなりに静かだったというのもあり、自室にこもっていた三日月にも声が届いてしまったようだ。

人相は悪いが優しさもある来栖提督でも、今の三日月には人間であるというだけで嫌悪の対象。さらには提督という一番憎む役職の者である。この施設の者に対してはようやく慣れたが、まだまだ先は長い。せめて嫌悪感がセスのような苦手意識に変化してくれればいいのだが。

 

「若葉さんは何か話していたようですが……」

「自分の境遇を少し。それが犯人を制裁するヒントになると思って」

「……そうでしたか」

 

浮き輪をギュッと抱きしめる。私の言葉で自分の境遇を思い出してしまったか、一層暗い顔に。

それでも三日月自身が説明を求めてきたので、私が知り得る調査の結果を三日月に伝える。なるべく刺激を少なめにして三日月が動揺しないように。どれだけ被害者がいたかというのが話の中心になる。

 

「……そんなに」

「ああ。まったく酷い話だ」

 

私も話していて反吐が出そうだった。古くて4ヶ月、新しくて1ヶ月前となると、そのたった3ヶ月の間に私と三日月含めて12人を捨て駒に使っているということ。死体がここに流れ着いたこと自体が幸運とも言え、実際はそれ以上の被害者がいるのだと思う。ここにない死体は、全て深海棲艦に喰われてしまっているが。

飛鳥医師はそれを『出稼ぎ』と称した。深海棲艦を倒すことで何かしらの褒賞があるのかもしれない。そのために、手近なところだけでは飽き足らず、わざわざ遠方まで出向いているというのなら、辻褄は合う。

 

「私達は……運が良かったんですね」

「そうだな。若葉達は運がいい。新しい人生が始められている」

 

そんな中でも私と三日月の2人だけは、幸運にも生きたままこの施設に拾われ、飛鳥医師のおかげで新たな人生をスタート出来た。

私達の今持つこの命は、とても重い命だ。私はもう1人分の命ではないと思っている。これだけの犠牲者が出ている中での、たった2人の生き残り。無念の中に沈んでいった仲間達の分も、私は楽しく生きたい。

 

「……それについては、外の人間が解決してくれると、言ってくれているんですよね」

「ああ、来栖提督ならやってくれる。若葉達の手が届かないところにいる犯人も、必ず突き止めて制裁してくれるだろう」

 

今の私にはそれが一番の願いだった。被害者達の無念を晴らしてくれれば、それでいい。

被害者は自らの手で無念を晴らしたいと思うだろう。だが、私も三日月ももう、そのふざけた思想の鎮守府とは関わりを持ちたくなかった。来栖提督に任せて、私達はここで吉報を待つことにしよう。きっと上手く行く。雷のように、ポジティブに考えよう。

 

「調査は今日で終わったから、明日からはいつも通りだ」

「そうですか。なら、エコちゃんの散歩も出来ますね」

 

今日はいろいろあって行かなかったが、明日からはまた一緒に散歩をするそうだ。三日月も自分の体力の無さには気付いたようで、この視察では戦闘などは無いにしろ、少しくらいは鍛えた方がいいかもと自覚したらしい。

セスと一緒にエコの散歩をするのは程よい運動として丁度良かった。私には物足りないレベルではあるが、まだ活動を始めて間もない三日月には都合がいいだろう。

 

「本当に好きだな」

「はい。あの子と、この子達は嫌な感じがしないんです」

 

抱きしめている浮き輪を撫でる。浮き輪もサムズアップで応えた。

一応セスの部下という扱いだが、セスもこれで三日月が癒されるならと快く貸してくれている。それがこの施設に滞在する理由の一部でもあるわけだし。

 

「セスさんには感謝しています。この子達と一緒にいさせてもらえると、世界に対する()()()()が薄れていくようです」

「良かったな」

 

また薄く微笑んだ。これが本来の三日月なのだろう。すぐにじゃなくていい、ゆっくりと本来の三日月を取り戻してもらいたい。もっと満面の笑みが浮かべられるように。

 

「夜は相変わらず若葉の部屋のようだが」

「そ、それは……自分の安全を考えてのことです。この子達はいろんなことが出来ますけど、唯一護衛だけは出来ませんから。癒されますが安全では無いです」

 

三日月は何だかんだ人の温もりを欲しがっているのでは無いかと思う。何もかもが嫌でも、1人でいるのは苦しい。苦しさを薄れさせるために私を使っている。

私はそれで構わない。それで三日月が安心して過ごせるのなら、いくらでも使ってくれていい。添い寝くらい減るものではないし。

 

「それに、夜くらいは浮き輪さん達もセスさんにお返ししないと」

「ここ最近、独占しているもんな」

「セスさんがいいと言ってくれるから甘えてしまっていますね……」

 

何をするにも最低1体は三日月の側にいる。家事手伝い中も、こうしてただ話をするときにでも。浮き輪が三日月から離れるのは風呂と寝るときくらい。下手をしたら風呂にすら付いてくる。

 

「人肌恋しいなら、若葉を使ってくれて構わない」

「……そうさせてもらいます。やっぱり一番信用出来るのは若葉さんなので」

 

そう言ってもらえるのはなかなか嬉しいものだ。依存されているわけでもなく、ただただ信頼されている。三日月が新たな生を得てから一番近くにいた甲斐があるというものだ。

 

私だって出来ることなら誰とでも仲良くしたい。本来の私ならもっと戦いを求めていただろうが、この施設で生活を始めてからそういう思想も薄れている。だが、悪くない。

 




挙がった死体は10人分。若葉と三日月を含めて12人。喰われて無くなった死体を含めるとそれ以上。それを3ヶ月で使うとなると、元凶はEOを捨て艦で攻略しているとかそういうレベル。

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