継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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成れの果て

何処かの鎮守府から逃げてきたという艦娘、曙を保護した翌朝。深夜に起きることになってしまったため、私、若葉は日課のランニングの時間を少しズラして開始。セスと三日月もエコの散歩で外に出ている。

日の出の後から始めることは今までにあまり無く、それはそれでいつもと違う感覚。相変わらず三日月は追い付くのがやっとという感じだが、最初のことを考えると、精神的な面は格段に成長していることがわかる。エコや浮き輪達と戯れているときは、ほんのりと笑顔を見せるようになった。

 

「今日からどうすればいいんだ。アケボノとかいうのは医務室から出ないのかな」

「体調不良をある程度どうにかした後に、来栖提督に引き渡すそうだから、その時だけ我慢してくれ」

「まぁそれくらいならいいか。あまり長い間部屋にこもることになると、エコが運動不足になってしまう」

 

話題は専ら曙のことになる。今までにない形で施設に()()()()()()者。昨日は食べるだけ食べて医務室に連れていかれたが、実際は普通に体調不良もあったらしい。人間でいう過労による風邪。艦娘にはあまり縁の無い症状である。

そのせいか、あの時の曙は本来よりも若干()()()()()()()と飛鳥医師は語る。どういう経緯かはさておき、過労に空腹、体調不良まで重なり、さらには身体も艤装も傷だらけとくれば、しおらしくもなるだろう。それでも自分をちゃんと持っていたため、本来の曙はもっと勝気な激しい性格なのかもしれない。

 

「とりあえず、アケボノが医務室から出るときだけ引きこもることにする」

「私も……そうします。外の司令官も来るんですよね。顔を合わせられません」

 

三日月とセスは曙を引き渡す時のみ自室に引きこもることにして、それまではいつも通りとした。その時はシロとクロも必然的に引きこもることになるだろう。何かしらキッカケがあれば、曙と対面させることになるかもしれないが。

来栖提督が来たら事情聴取ということになっているが、どういうことが聞けるのだろうか。もしかしたら、私や三日月を捨て駒に使った鎮守府と同じかもしれない。そうだとしたら、いろいろと繋がってくる。

 

 

 

朝に来栖提督に連絡を取り、そこから準備して施設に到着するのが午後。それまで曙は医務室から出ることは無い。薬と栄養を点滴し、消耗した体力も取り戻すことに専念する。

曙の面倒は基本的に雷が見ることになった。いつもの家事は三日月が浮き輪の力を借りながらこなし、雷は曙の看護に専念。私も三日月の時と同様、身体を拭くなどするときは手伝うことにしている。

 

「具合はまだ悪いわよね」

「最悪よ……お腹は膨れてるけど、頭がフラフラするわ」

 

昨日の内に検査着に着替えさせられていた曙は、ベッドの上でぐったりしていた。やはり体調が悪いようだ。昨晩に物が食べられただけでも良しだろう。一晩経って多少は回復したものの、まだまだ全回復とは言えない。

 

「今は何も聞かないわ。いたいだけここにいてくれていいんだからね」

「……考えとく。今は身体がまともに動かせる気がしないわ」

「来栖司令官には来てもらうけど、話だけしてここに居残ってもらうのも考えておかなくちゃね。お部屋も用意した方がいいかしら」

 

仕事が増えることが楽しそうな雷。本当に家事が好きなようだ。というか、誰かに頼られたいという気持ちが強すぎるくらい。これが本来の雷らしいので、記憶を失っていても本質は何も変わっていない。

 

私と雷で協力して、あまり力が入らない曙の身体を拭いていく。昨晩は食べるだけ食べた後、点滴をしてすぐに眠ってしまったため、身体は汚れたままだった。不潔はさらなる病を呼ぶと、飛鳥医師が清潔も徹底している。

 

「……アンタ達は……ここに暮らしてるのよね?」

「そうよ。先生に怪我を治してもらって、ここで住まわせてもらってるの。だからちゃんとした艦娘じゃないんだけど、でも楽しく生きてるわ」

 

雷は楽しく生きることが出来ているという、私の目標とするべき者。いつも明るく、ポジティブに生活できていることがとても羨ましい。ここ最近は私も何かに悲観するようなことが無いため、楽しく生きることが出来ていると思う。

 

「変なところなのね……」

「普通じゃないのは認めるわ。私みたいなのも置いてくれてるしね」

「……何処もおかしなところ見えないけど」

 

雷はこの施設の中で最も外見的な変化が無い者。代わりに記憶を失っているのだから、重症度合いは相当なもの。身体にも心にも大きな傷を負った三日月がいるので、軽めに見えてしまうが、雷だって死ぬほどの大怪我は負っている。

 

「私はお腹だからね。大きな傷だけど、服で隠れてるの」

「……そう……でも艦娘なんだからドックに入れば……」

「ここにドックは無い」

 

苦い顔をされた。

曙の怪我は全身の裂傷のため、適切な処置をすれば傷跡すら残らない。それでもドックに入ればすぐにでも治るものが、数日はかかる。そのため、念のために曙は全身に包帯が巻かれている状態だ。最初の私のようなイメージ。

 

「なら若葉も?」

「ああ」

 

何処まで話せばいいかわからず、端的に返事。だが、今身体を拭いているところで私の左腕の痣は丸わかり。それに、妙に色素が薄いために気になるだろう。質問されたらありのままに話すつもりだ。

 

「……その左腕……」

「若葉は両腕を失った。代わりのものを移植されている」

 

早速質問されたので、袖を大きく捲り、縫合痕が残る二の腕を見せた。

 

「え……な、何よそれ……」

「飛鳥医師がいなければ、若葉は今頃死んでいる。若葉だけじゃない、ここにいる全員だ」

 

セスを除いて、と言いそうになったが、まだ深海棲艦もここで暮らしているというのは秘密にしているため、どうにか言わずに呑み込む。この腕が()()腕かも今は言わない。曙なら察しそうではあるが、聞かれない限り、知る必要のないことだ。

 

「先生はね、ドック無しで艦娘が治療出来るのよ。だけど、当然こうやって傷跡は残っちゃう。曙は傷が軽くて良かったわ。これなら全部消えてくれるもの」

「……そうね……アンタ達には申し訳ない気分になるわ」

「いいのいいの。生きてるだけで儲け物よ。傷があっても無くても関係ないわ。私は毎日が楽しいもの」

 

本当に雷はポジティブだ。失った記憶を取り戻そうとすることもなく、毎日を楽しく過ごしている。私の目標を体現している張本人だ。

 

「……ホント、羨ましいわ」

「境遇はその内聞かせてもらう。今は休め」

「……そうさせてもらうわ……きっつ……」

 

まだこういった体調不良はなったことがないため、曙の辛さは理解してあげられない。ただ、今は身体を休ませることが先決。点滴もまだ続いていることだし、まずは健康体になってもらおう。話はそれからだ。

 

 

 

午後、予定通り来栖提督が施設に到着。調査隊として来たのが一昨日のため、かなり早い再来となった。

来ることがわかってからは、三日月とセスはすぐに自室に引きこもる。今回は運んでくるのが第二二駆逐隊であることがわかっていたため、シロクロは工廠で作業続行。曙が医務室から出るとなったら、改めて自室に行ってもらうことに。

 

「ちょい前に来たばっかりだぜェ」

「悪いな。今回は本当に急用だ」

 

工廠に大発動艇で乗り付けた来栖提督。今回も護衛艦はいつも通り第二二駆逐隊である。なんだかんだこの鎮守府に一番慣れているため、スムーズにここまで来ることが出来た。

 

「オッチャン久しぶり! 水着ありがとう!」

「おう、気に入ってくれて何よりだぜェ」

 

クロが来栖提督とハイタッチ。余程気に入ったのか、普段着として使う始末である。工廠作業は汚れるため、その上から作業着を着ることになるのだが、何着も貰っているためそれも可能になっている。

シロも後ろから手を振っていた。来栖提督には何の抵抗も無く、文月達とは交流も出来る。

三日月とセスも、来栖提督にこれくらい慣れてもらいたいものだ。

 

「で、(くだん)の曙っつーのは」

「医務室だ。こちらに来てくれ。若葉、便乗してくれるか」

「了解」

 

今までの事件に関わる鎮守府の関係者である可能性があるため、私もその場に相席させてもらうことになった。別なら別で、来栖提督の仕事が増えるだけ。同じだった場合は、それだけ凶悪な提督が管理している鎮守府であることを再認識する。

 

「若葉が先に入る。少し待っててくれ」

 

いきなりこの巨漢が入るのもどうかと思うので、私が先に医務室へ。今は雷は別の家事に専念しており、医務室は曙1人。点滴はまだ続いているが、比較的元気が戻ってきたようで、ベッドの上半身部分を起こした状態でボーッとしていた。

 

「曙、今朝言っていた来栖提督が来た。話せるか」

「……いいわ、怠さも今は比較的引いてるし」

 

許可が出たので飛鳥医師と来栖提督に中に入ってもらう。飛鳥医師は面識があるからいいものの、来栖提督は初見では確実に驚く。案の定、曙もギャアと言いかけて口を噤んだ。

 

「お前さんが自分の足でここに来たっつー曙か。俺ァ提督やってる来栖ってもんだ。よろしくなァ」

「て、提督なんてナリしてないじゃないの!」

「よく言われるぜェ」

 

ベッドの横にドスンと腰掛ける。曙、正直引き気味。飛鳥医師はさらにその横でメモを取る準備。

 

「俺ァお前さんがどういう艦娘かは知ってるつもりだ。俺ァクソみてぇな提督かもしれねぇが、しっかりスジは通すからよ。話せること、話してくれねェか」

「……私だってあんなクソ鎮守府とは一刻も早く縁が切りたいし、今はアンタを頼ることにする。勘違いしないで。アンタを信用したわけじゃないから」

「構わねェよ」

 

怠さが引いてきたというだけあり、昨晩や今朝よりは元気だった。その分、口が悪くなっているように思える。これが飛鳥医師の言っていた『本来よりしおらしい』の()()の部分か。

本来従うべき提督という人間に対し、なんらかの良くない感情を持っているのが曙という艦娘のようだ。飛鳥医師は医者だからそこまで悪態をつかれなかったが、来栖提督に対しては明らかに態度が違う。

 

「で、何から話せばいいのよ」

「そんじゃあ、お前さん、何処の鎮守府出身だ。建造かドロップか」

「……建造よ。生まれたのはつい最近。大体1週間前」

 

それにしては酷使の跡が酷い。休みなく出撃をさせられているかのような、痛々しい傷ばかりだった。それに栄養失調ということは、その1週間でろくに食事も出来ていないということになる。

 

「1週間でそれは酷いな。食事はギリギリ、睡眠時間も足りなすぎる。遅かれ早かれ死んでいたぞ」

「だから逃げたのよ。あんなクソ鎮守府。なんでかみんな、そんなバカみたいな環境でも文句言わないし」

 

それはまるで()()()()()()()()()()()()と曙は語る。どれだけ酷使されても、蔑ろにされても、何も文句を言わずにただ働くだけの機械。曙もそれに成りかけていたようだが、違和感に気付いたらしく、隙を見て脱走したとのこと。

 

「その隙ってのが今日だったわけかい」

「ええ。何回目か忘れたけど、逃がした護衛棲水姫捜索任務だったわ。あんな暗い夜に見つかるわけないっての。探照灯すら貰えなかったのに」

 

さすがにその名前が出ては反応してしまう。飛鳥医師も渋い顔をしていた。

護衛棲水姫といえば、当然セスだ。ということは、曙が属していた鎮守府が、エコの脚を捥いだ犯人だったということか。

 

「でもおかげでわざと落伍出来たから助かったわ」

「なるほどなァ。艦娘の酷使と必要以上の遠征、あとは……」

 

私をチラリと見てくる。言いたいことを察したので、小さく頷く。

 

「捨て駒戦術を使っているかどうかだなァ」

「は? 捨て駒?」

「俺ァ今、建造したての艦娘を捨て駒に使って戦果を稼いでいるクソッタレを探してんだ。曙ォ、お前さんのとこに思い当たる節はあるかァ?」

 

予想外の言葉だったのか、訝しむような表情で来栖提督を見る。嘘を言っているわけがないと、その顔を見ればわかった。周りにいる私と飛鳥医師からも察することが出来るはずだ。

 

「捨て駒って……何よ。うちの鎮守府、そこまでやってんの!?」

「わからん。今は見当を付けている段階だ。だけどなァ、お前さん、1週間前に生み出されたっつってたなァ」

「え、ええ……」

「その時、()()()()()()()()?」

 

大体1週間くらい前。それは、第二二駆逐隊が三日月のことを見に来てくれた時だ。昼に突然嵐が来て立ち往生し、その日の夜に傷を負ったエコと、それを探して迷い込んだセスと出会った。

曙が生み出されたのは、護衛棲水姫が反撃してきた時に盾にするため。だが、護衛棲水姫が非好戦的な深海棲艦だったため、捨て駒を捨てることは出来ず、生きて帰ってきた。ならばと、捜索任務やらに出撃させ続けて、使()()()()()()()()()としていたのではないかと、来栖提督は想像している。

 

「……思い当たる節が……あり過ぎる。出撃の時、誰も私のことを見てなかった。装備も最初に持ってたのそのままだったし、鎮守府に帰投しても妙な空気だった。すぐに再出撃だったからそう感じただけだけど」

「それを1週間繰り返していたのか。本来なら栄養失調で思考能力も奪われているところだぞ」

 

私でも何となく掴めてきた。海底に眠っていた艦娘達が、私が戦場で散った場合の成れの果てだったとすれば、この曙は、私が戦場で()()()()()()()()()成れの果て。

生きていてもこれでは意味がない。結局、捨て駒と同様、ゴミのように使い潰されて死ぬだけだ。

 

「……わかった。お前さんの証言は、クソッタレを追い詰める最高の素材になる」

「……そう……」

「何人も捨て駒で殺すだけじゃ飽き足らず、死ななかったら使い潰そうだなんて性根の腐ったクソッタレは、俺が必ず捕まえてやる」

 

文月や羽黒に見た静かな怒りは、来栖提督由来のものなのだと実感した。曙の境遇を聞き、空気が震えるほどの怒りを示している。サングラスで目は見えないが、おそらくあの文月のような目をしているのだろう。冷静だが、奥底が煮え滾っている。

 

私も同じ気持ちだった。ただでさえ10人もの死体が海底で見つかったのに、生き証人まで見つかってしまった。気分が悪い。そんなことを続けて得た戦果に何の意味がある。

 




酷使されていても、曙は改ではありません。改造に使う資源が勿体ないから。

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