来栖提督から曙への事情聴取が続き、ある程度のところで一旦終了となった。曙の体調が本調子では無かったというのもあり、あまり話し続けるとせっかく良くなってきた体調が悪くなってしまいかねないからだ。
来栖提督は今日曙を連れて行くのは断念。だが、今絶賛調査中の内容は、曙の証言で大きく進展しそうだという。私達のようなその場で捨てられたものより、1週間でもその場に留まったものの言葉はかなり強い。
「まだ確定ではないが、若葉、三日月を捨て駒にし、そして曙を使い潰そうとした鎮守府は同一として見ていいだろう」
「手口が同じだからな。その線で調べるぜェ」
さらには戦いを拒む
「ちょっと待って。若葉と三日月って……アンタ……」
「捨て駒にされて死にかけていたところを、この施設に流れ着いて治療してもらったんだ」
苦い顔をする曙。私の両腕の傷も見せているので、全てが繋がったはずだ。自分もこうなっていた可能性に気付き、逃げたことが正しかったのだと悟る。
「……若葉、クソ提督の顔見たでしょ。どんな奴よ」
嫌だがあの時のことを思い出す。
生み出され、建造ドックから出た時、そこには若い男がいた。来栖提督はさておき、飛鳥医師よりも若かったはずだ。見た目は真面目そうな紳士に見えたが、何処か
今考えてみれば、それが一番胡散臭かった。名前すら教えてくれなかった。ただ提督という存在としてその場にいただけだ。
「……私と同じよ。胡散臭い笑顔で他の連中に指示を出してた。そういえば……私にも名前は言ってなかったわね」
これでほぼ確定だ。元凶は全て同じ提督。曙にも私と同じ待遇をしていたが、捨て駒として出撃させた戦場で死なずに帰ってきたことで、使い潰す方向に移行したようだ。
聞いてはいないが、後から三日月にも聞いておこう。おそらく、私や曙と同じ人間の顔を思い浮かべるはずだ。
「そういうところには頭回るくせに、死んだかどうかの確認はしてねェんだな」
「大怪我で海上に放置したら、
そう、余程運が良くない限りだ。私や三日月は、本当に運が良かった。ダメだった場合を見てしまったが故に、余計それを実感した。
別に私や三日月が幸運艦だというわけではない。捨て駒にされるほどには、艦娘の中では普通なのだと思う。特別強力な武器もなく、恵まれた才覚もない、一般的な駆逐艦である。それが、こんな数奇な運命を辿ることになるだなんて、生まれたばかりの私には想像も付かなかった。
「若葉と三日月は幸運だが、曙はそれを自分で掴み取ったわけだなァ。流石じゃねェか」
「褒めても何も出ないわよ」
「いやいや、その決断力は何処ででも必要なもんだぜェ」
来栖提督に褒められ、顔が真っ赤ではあるが満更ではない表情である。
「先に聞いておくか。曙、お前さんさえ良けりゃ、完治した後、うちの鎮守府に来ないか。悪いようにはしねェよ」
「……考えとくわ。少なくともあのクソ鎮守府は滅ぼさないと気が済まないし、今の私の一番の望みはそれだもの。それを手伝ってくれるんでしょ?」
「物騒な言い方だが、
現状は保留とした。私達のようにこの施設を選択したわけではなく、あくまでも保留。今は患者としてここにいるわけなので飛鳥医師が絶対に手放さないが、完治さえしてしまえば選択肢は曙のものだ。それまでにここに居残るか来栖提督の鎮守府に所属するかを決めてもらう。
「体調戻ったらまた教えてくれい。俺らはお前さんを迎え入れる準備をしておくからよ」
「……悔しいけど1人でどうこう出来る問題じゃないもの。アンタ達を利用させてもらうわ。でもそっちに行くかどうかは話が別よ。考えておく」
「減らず口が叩けるなら充分だぜェ。しっかり身体を治せよ」
頭を撫でた後、医務室から出て行った。それに合わせて私達も外に出る。
少し長めに話したからか、曙にも疲れが見えていた。今は体調を戻すことに専念してもらう。全身に小さいながらも傷があるのだから、それを治すことも必要だ。今はゆっくり眠ってもらおう。
来栖提督達はそのまま帰投。第二二駆逐隊も久しぶりに三日月と話ができたのは良かったと笑顔で帰っていった。
来栖提督が次に来るのは、今から3日後ということになった。飛鳥医師の見込みでは、曙の完治は今日込みで5日。動けるようになるまでは2日、傷が完治するまでが3日、合計5日という配分。
いくら艦娘でも、ドック無しで傷を治そうとするとそれくらいはかかると、飛鳥医師は自分の体験談から語った。裂傷に関しては、摩耶が頻繁に生傷を作るらしく、それでおおよそ理解したようだ。
来栖提督達が帰投したことで、三日月とセスが姿を現わす。医務室にさえ近付かなければ問題ない。
全員集まったため、一旦工廠で今後のことを話し合うことに。とはいえ、既に大体は方針が決まっている。
「曙自身は明後日には医務室から出られるようになるだろうが、最後まで医務室で過ごしてもらうことにする。その後、この施設に居残る選択を取った場合、改めて部屋の準備をしてやってくれ」
「わかったわ。掃除は行き届いてるし、選んでくれればすぐに用意できるわ!」
すでに部屋を準備済み。曙がどういう選択をとっても問題ないように、全て最善の状態で準備されている。雷と三日月が常に掃除をしているためである。嫌悪感を抱く
「準備するのはいいけどよ、曙にはこの施設がどんな施設かは教えてあるのか?」
「どういう意味でだ?」
「そういう意味でだよ」
摩耶が顎で示すのは、シロクロとシスである。
初見には一番驚く内容。深海棲艦が普通に住み込んでいる施設であることは、遅かれ早かれ知っておいてもらわなくてはいけないことだ。
「今は控えてある。ワケがあってな」
「ワケってのは?」
「曙から聞いた話が理由だ。皆にも伝えておく」
ここからは私以外に曙の話を伝える。私は一度聞いているが、復習のためにもう一度。
私と曙が元々属していた鎮守府は同じだったということ。セスを追い詰め、エコの脚を捥いだのも同じであることが私達に直接関係のあることだ。少なくとも3人が同じ鎮守府に被害を受けている。
来栖提督に一任しているとはいえ、気分が悪いものは悪い。セスも少し嫌な顔をした。曙にこの施設のことが話せないワケというのもこれで察しただろう。捜索対象がここにいるというのは、少し刺激が強い。
「そりゃ話しづらいわ。せめて体調戻ってからだな」
「そのつもりだ。動けるようになったら話す」
今の話を聞いて、何やら考え込んでいるシロとクロ。
「ねぇ、セス。セスとエコを襲った艦娘ってさ、どんな奴らだった? なんかこっちを追い詰めるの楽しんでなかった?」
不意にクロがセスに聞く。追い詰めるのを楽しんでいたというのは、クロだけの証言だ。曙の証言と食い違ってる部分が少しだけある。
曙は、自分以外の艦娘が洗脳されているかのようにただ言うことを聞くだけの機械のようだったと話した。聞く限りだと、感情すら撤廃された機械、人形のようなものに思える。だが、シロクロを襲った艦娘達は、楽しんでいるという感情を持っている。もしかしたら、それは違う鎮守府なのかもしれない。
「あー……言われてみれば確かに。私がエコを庇おうとしたからかな、逆にエコを壊そうってしてた。妙に陰険な戦い方だったような……」
「その中に……
「いた! シロ、そいついたぞ!」
シロクロとセスも繋がってしまった。同じ部隊に襲われた結果、シロクロは瀕死の重傷を負い、セスは艤装を失いかけて未だに追われている状態。
となると、洗脳されているかのようだったというのは曙の周りだけで、意思と理性を持って元凶の提督に付き従っている艦娘もいるということになる。いや、それすらも洗脳の一部なのかもしれない。末端は人形に、上に行けば行くほど意思を持たせ、全員忠実な下僕にしてしまっているなんて可能性も出てきた。
「……若葉さん……若葉さんの知っている司令官というのは……先生よりも若くて……貼り付いた笑みの男でしたか……?」
三日月からも振り絞るような声の質問が来た。辛そうに、抱きかかえた浮き輪をより強く抱き締めながら、より良い情報のために協力してくれている。
「ああ、その通りだ。名前は教えてくれなかったが」
三日月の知る提督像は、元凶となったクソ提督しかいない。そしてその特徴は、私と曙が知る提督と同じもの。これで私と三日月の繋がりも確定した。
「私と若葉さんも……同じ鎮守府出身です」
今まで出てきた情報が、これで全て繋がる。
元凶は同じ鎮守府。何もかも、1つの鎮守府が事を起こしている。
「待て待て、1つ情報が増えたぞ。緑の髪の艦娘だって?」
「私達を攻撃してきた部隊にいたんだよ! その部隊では旗艦みたいだった」
「……他の艦娘も……ニヤニヤ笑ってた……でも、その緑髪の艦娘が……全部指示してたよ……」
「私の時もだ! そいつがずっと指示出してた!」
ならばその緑髪の艦娘は、催眠を受けてそういう形にされているのか、最初からそういう性格なのかになる。どんどん話は拡がっていく。
「緑髪の艦娘……何人か該当者がいるな……。他に特徴は?」
「三つ編み……三つ編みをしてた」
「……夕雲か……あの子はそんな性格じゃないぞ。確実に性格を変えられている」
飛鳥医師には思い当たる艦娘がいたようだ。それが駆逐艦夕雲。
知る限り、そんな陰険な戦い方はせず、19人姉妹の長女としてリーダーシップと包容力を兼ね備えた強い少女だと、飛鳥医師は語る。リーダーシップを持つのなら、旗艦をやっていてもおかしくないか。
「洗脳……洗脳か。どうやって……薬、それはないはずだ……飲むだけで性格を変える薬など……いや、出来なくはないだろうが……だとしたら……」
飛鳥医師がブツブツ言いながら考え事を始めてしまった。医者として、思考に直接影響のある何かは気になる様子。
「センセ、脱線し始めてるぞ」
「あ、ああ、すまない。その夕雲のことは来栖にも伝えておく。充分すぎる情報だ」
所属艦娘が1人でもわかれば、絞り込むことが少しは簡単になる。何もかもが値千金の情報となるのだ。来栖提督が帰投が終わるくらいのタイミングで連絡をいれるとのこと。
これでまた事件解決に近付いた。ようやく見えた元凶の背中は、今の会話でさらに近付いただろう。
「あたしはなんつーか縁の無ぇ話だな。ドロップ艦だからピンと来ねぇ」
「私も何も覚えてないから、空想上のお話みたいに聞こえちゃうわ」
摩耶と雷は、この話の流れを聞いていても現実味が無いと言う。当事者である私だって現実味が無い。こんな絵に描いたような悪人がいるというだけでも驚きだ。
「だけどよ、そういうクソが世の中にいるってのは気に入らねぇ。来栖提督じゃ無ぇけど、しっかりケジメつけさせねぇとな」
「ええ! 私もそういうのは良くないと思うもの! ちゃんとルールを守れない人は、守れるようになるまでしっかり言い聞かせなくちゃ!」
雷の明るさが本当に救い。自分とは無関係なことでも、仲間の危機なのだから立ち上がってくれる。こんな暗い話でも、ポジティブなのは変わらず、空気を和ませた。
「まずは曙の治療が最優先だ。これが終わらないことには始まらない」
「だな。それは雷を頼ればいいんだよな?」
「ええ! いくらでも頼ってちょうだい!」
今までもそうだったが、これでまたみんなの心が1つになったように思えた。私達は戦うことの出来ない艦娘ではあるものの、この事件を解決しようと躍起になっている。
今回の元凶は鎮守府。ということは、当然敵は艦娘ということになります。まずは夕雲。