継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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次への一歩

来栖提督が持ってきてくれた高速修復材のおかげで、残っていた痛みも全て無くなった曙。これにより潰えていた命を完全に取り戻し、来栖鎮守府に発とうとした直前の状態に戻ったと言える。

代わりに大きな傷を負ったことで、定期的に飛鳥医師の診断を受ける必要が出た。そのため、決着をつけるために来栖鎮守府に行くのではなく、施設での滞在を選択。晴れて私達の仲間、施設の一員として登録されることとなる。

 

残るは私、若葉の眼だけ。これも明日には治る見込みのため、明日からはまた普段通りの生活に戻る。そこに加わるのは、施設を守るために自分を鍛えること。自衛の手段は持つに越したことはない。

幸い、私は来栖提督の秘書艦、鳳翔に見初められ、鍛えてもらえるという約束を取り付けている。いつ、何処でやるかはさておき、強くなれる機会をみすみす逃すわけにはいかない。頃合いを見て話をしようと思う。

 

 

 

調査隊による自沈艦娘の引き揚げ作業は午前中のうちに終了。戦闘に参加していた鳳翔と羽黒がいたため、引き揚げられた艦娘がその時のものかはすぐにわかった。

その報告をするため、再び来栖提督と鳳翔、そして調査隊隊長の羽黒が工廠に来ている。

 

「引き揚げはこれで終わりだから、俺らは一旦帰投するぜェ。だが、奴らがここにまた来る可能性はあるんだよなァ」

「はい。夕雲さんは出直してくると言っていましたし、あちらは規則違反を何度も繰り返している常習犯のようですので、何をしてくるかわかりません」

 

その規則の1つが、中立区での戦闘行為の禁止。その規則があったからこそ、この施設は安全な医療研究施設として成り立っており、また、武装の類を置かないようにされていた。修理してもすぐに持って行ってもらったのはそのため。

そして、海底に艦娘が沈んでいることに延々と気付くことが出来なかったのも、その規則があったからだ。敵も味方も現れない海域の海底の調査なんて、基本は後回しだろう。出現しない理由探しより、出現する理由探しが優先されてきた。

 

その規則を破って戦闘行為をしてきたあちらは、既に確信犯。中立区で殺せば発見もされないだろうと考えての計画的犯行。許されざる行為である。

 

「ここもそうだが、俺んトコも襲撃される可能性があるな。アイツら、俺の名前だけは知ってるからよォ」

「悪いな。夕雲に連絡先を教えてしまって」

「いや、むしろ好都合だ。ここから狙いを逸らしたい。俺がクソッタレと同じ立場なら、ここより俺の鎮守府を先に潰す」

 

中立区にあり、まともに武装も持たない施設など、捨て置いておいても脅威にならないと考えるだろうと来栖提督は話す。しっかりと脅威を取り除いてから、ゆっくり掃除すると。

言われてみれば確かに。この施設の戦力らしい戦力は、エコを持つセスと、ここに来た時の武装がそのままある曙だけ。私が錨を振り回したところで、意味がないと言えるほど。

 

「裏をかいてくる可能性もあるけどな」

「言い出したらキリが無ェよ」

「まあな。悪いが、しばらくは防衛頼んでいいか」

「おう、任せろい。毎日ここに誰か置けるようにするからよ。俺ァここに来ることの方が少ないと思うがな」

 

それでも充分だ。私達だけではどうあがいても押し潰される。

私達はまだまだ経験不足だ。だが、訓練するような場所もなく、訓練するための道具もない。そもそも訓練していい場所でもない。

外部からの増援があるのなら、それだけでもありがたい。頼り切るつもりは無いのだが、どうしても頼らなくてはいけないのは痛いほどわかっている。

 

「提督、私は毎日来ようかと思いますが、よろしいですか?」

「お前、本当に若葉のこと気に入ったみたいだな」

 

鳳翔は常にここに来てくれるらしい。どれほど心強いことか。私の特訓もしたがっているようだし、私としては喜ばしい限りである。私以外にも鍛えるつもりがあるようだ。

 

「住み込みはどうだと言いたいところだが、減った弾が補給出来ないな。使わないのなら、泊まっていってくれても構わない」

「あらあら、でもそれだとここの食糧を余計に使わせてしまいます」

「鳳翔、一回戻った後、ウチから持ってけ。それならいいだろ。連絡役も欲しいし、1人はここに置いておきたいとは思ってた」

 

それをわざわざ鳳翔にしてくれるとは、来栖提督も気前がいい。秘書艦を出張させるのに抵抗は無いのだろうか。などと思ったものの、そもそも鳳翔が率先して言い出したことだし、来栖提督も半ば諦めているのかもしれない。

 

「中立区に武器の持ち込みは問題になりそうだな……どうにかすり抜ける算段をつけっか。こちとら正当防衛だしな」

「上の連中には顔が利くだろ。僕の名前を使ってくれてもいい」

 

あちらが深い話を進める中、鳳翔が私の方へ。

 

「若葉さん、明日から本格的に鍛えましょうか」

「よろしく頼む」

「この施設を守るため、私も尽力します。常にここを守れるのは貴女達です。少しスパルタになるかもしれませんが……即戦力に鍛え上げてあげましょう」

 

何処か声からもやる気が伝わってくる。

本来の軽空母鳳翔は、ここまで後人育成に躍起になるような人では無いらしい。こちらも羽黒や文月のように来栖提督から強い影響を受けているように思えた。勇ましく、それでいて優しく、何より強い。そして鳳翔は来栖提督が選んだ秘書艦だ。鎮守府では3本の指に入るほどの実力なんだとか。

実際は最古の空母であり、所謂旧式。さらには航空戦力としては()()()下位になるそうだが、()()鳳翔はそういう問題を全て払拭している。研鑽に研鑽を重ねた結果、ここまでの実力者。艦種が違えど、私達も学ぶことは多いだろう。

 

「とはいえ、昨日も言いましたが、まずは眼です。万全の状態で挑んでください」

「了解した。今日はゆっくりするつもりだ」

「よろしい。ここにいるのならわかっているでしょう。何よりも健康が一番です」

 

また頭を撫でられる。とてもいい匂いがした。

 

「ほ、鳳翔さん……」

「どうしましたか三日月さん」

「わ、私、私も鍛えてもらえませんか!」

 

それとなく三日月にどうかと勧めてみようかと思っていたのだが、自分から言い出すとは思っても見なかった。ここで鳳翔が断ったら話は別だが。

 

「勿論。ここを守れるのは貴女()と言いました。貴女達には自衛出来るだけの力を与えます」

「ありがとう、ございます」

「しっかり無理せずついてきなさいね」

 

私の横にふわりと匂いが移動する。三日月の頭を撫でているのがわかる。少し恥ずかしげに身をよじる三日月。以前までなら手を振り払っていただろう。だが、今は素直に受け入れている。本当に成長した。

 

「曙さん、貴女はまず適度な運動からです。明日からでもいいので、運動を始めてみなさい。心臓と肺が差し替えられているのは相当影響があると思いますから」

「なら三日月と一緒にセスの散歩に付き合うといい。今日の夕方にやるはずだ」

「そうね、確かにそれは先に知っておきたいわ」

 

何だかんだ、この施設に所属している全員を鍛え上げるつもりのようだ。その中でも私は、並んで戦ったことで特に気に入られているらしく、他の者よりも重点的に見てもらえるらしい。それはまたありがたいことだ。

 

 

 

調査隊が帰投し、こちらも鳳翔を受け入れる準備を始める。とはいえ、日頃からの家事のお陰で何か特別にやらなくてはいけないようなことはない。午後からは改めて今後のことを話し合う時間となった。

 

「ここまで事が大きくなるのは、この施設が始まって以来初めてのことだ」

「そうよね……私がここに入ってもずっと平和だったものね」

 

雷がここに漂着したこと自体が大事なのだが、戦闘にまで発展したのは今回が初。良くも悪くも中立区なのだから、ここで起きる戦闘は故意に行なわれるものくらいである。それが起きてしまったので大惨事なのだが。

今の今まで、ここにいるものはまともな戦闘をした事がない。一番経験があるであろう曙ですら、基本は護衛棲水姫捜索任務ばかりで戦闘自体はあまり無いときた。ここにいる艦娘はほぼ全員、練度が0に等しい。曙が少しある程度。

 

「来栖や鳳翔の言う通り、自衛の手段くらいは必要だと僕も思う。今までは必要無かったが、もうそんな事が言っていられない」

「んなら、今後は武装を優先して修理した方がいいか?」

「ああ。そうしてくれ」

 

海底から引き揚げた深海棲艦の艤装の中には、当然主機以外のものもある。私達が使えそうな主砲や、摩耶が得意らしい対空砲などもチラホラ。いくつかを組み合わせれば、1人分の武装になるだろう。全員分用意出来るかはわからないが、優先順位は上がった。

まさか、主機だけでは飽き足らず、主砲などの武装まで継ぎ接ぎになるとは思わなかった。それも私達らしいと言えばらしいか。摩耶も使った事が無いわけではないらしく、早速作り始めるとか。

 

「私達も手伝うよ! ここが無くなるの嫌だからね!」

「……うん」

 

シロクロの潜水艦戦力も重要だ。見えない位置からの急襲は、どんな戦場でも有用である。今はまだ武装は無いが、艤装が完成してしまえば、この施設の最高戦力になることは間違いない。殺傷能力が高すぎるのは玉に瑕だが。

 

「エコの事があるし、私も恩を返すよ」

 

現時点での最高戦力は、生まれた時点で完成しており、万全に整備された武装(エコ)を持つ、深海棲艦のセスであろう。前回の戦場でも、立ち回りは完璧だった。私がしっちゃかめっちゃかにするために近接戦闘を仕掛けていても、私に当たらないようにするための航空戦を繰り出してくれていた。

協力してもらえるのなら施設最強の戦力として、矢面に立ってもらうことになりそう。

 

「決して無理だけはしないでくれ。医者の仕事を増やすな。……死なないでくれ」

 

飛鳥医師の最後の言葉は、心の底から振り絞って出てきた言葉だった。今回は決意をして曙を蘇生したが、そもそもそれ自体が摂理を無視した例外中の例外。何度も使っていい手段ではない。

 

「あんな痛い思いするのは二度とゴメンよ。死ねって言われても死なないわ」

「曙が言うと説得力あるわね」

「実際死んでるんだもの。()()()()とは違うわ」

 

曙はこの中でも一番敵に恨みが深い。冗談のように言っていても、闇を感じるような言葉である。

 

「私だって戦うわ。そりゃやらなきゃやらない方がいいと思うけど、この施設のためだもの」

 

雷もやる気満々。戦わなければ自分の居場所が失われるというのなら、嫌でも立ち上がるしかない。それに、私達には戦う力がある。

 

「あ、でも訓練とか始めたら家事が……」

「自分の部屋とかくらいなら自分でやるぜ。それに、工廠はあたしらが片付けてんだ。飯は頼るしかねぇけど、他は分担制にすりゃいい」

「そ、そうね。先生、自分でお片付け出来る? 散らかさない?」

「あのな、僕は子供か何かか」

 

雷はこの施設のムードメーカーだ。常にポジティブなのは、見ていて気持ちがいい。空気が暗くならない。

おかげで、この話し合いの場が明るく纏まって終わることが出来た。沈んでいるより、笑っている方がいいだろう。

 

「曙が入ったことで駆逐艦4人になったな。駆逐隊結成だ」

 

摩耶が言うまで気付かなかった。駆逐艦4人で駆逐隊。

駆逐艦娘は小回りは利くもののどうしても非力だ。だから駆逐隊を組んで4人での行動で大物を狩る。各々が鍛えることも必要だが、連携の訓練も出来るならした方がいいだろう。

 

「駆逐隊? 文月達が22番だったーみたいなヤツ?」

「そうか、雷はその辺りも忘れちまってるんだよな。センセ、雷っていくつだっけか」

「雷は第六だ」

 

私も艦のときは姉妹達と第二一駆逐隊として行動していた。そういう意味では、ここの駆逐艦達は型も駆逐隊もバラバラ。こういうところでも継ぎ接ぎ。いろいろなところから摘んで集めて組み合わせた、有り合わせ感がすごい。

 

「じゃあ、何番目がいいかしら。数字がいるのよね!」

「別にそこまで拘る必要あるか……?」

「せっかくだもの! 一致団結してる感じがしていいじゃない!」

 

雷の言いたいこともわかる。纏まっている名前がある方が、力と心が合わせやすいだろう。

 

「……くっだらないこと思い付いたわ。第五三駆逐隊で行きましょ」

「なんでその数字……ああ、そういうことか」

五三(ゴミ)って……」

「クソ鎮守府に向けての当てつけよ。ゴミみたいに捨てた私達にやられるのは屈辱的でしょ」

 

雷は無関係だとは思われるが、私と三日月、そして曙は境遇がほぼ同じ。それをあえて当てつけに使うとは、曙もなかなか性格が悪い。

 

「いいじゃない! 私達はこれから、第五三駆逐隊よ!」

「ほら、雷も気に入ったみたいだし、これでいいわね」

「まぁ……名前には拘らない。それで纏まるのなら、それで行く」

「若葉さんがそういうのなら……」

 

こうして、私達は第五三駆逐隊として行動を共にすることになる。今後は四人一組で戦うのだ。戦場で背中を預け合う仲間として、私はこの状況に高揚していた。

次に向かう一歩は踏み出された。ただやられるだけでは終わらない。抗ってやる。楽しく生きるために。

 




雷は第六、曙が第七、若葉が第二一で、三日月が第二三。本当に駆逐隊がバラけています。そこから1人ずつ摘んで出来た継ぎ接ぎの駆逐隊、第五三駆逐隊の活躍をご期待下さい。

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