継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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初陣

足柄から勝利のイメージを教えてもらってさらに3日、曙殺害からちょうど10日目。

私、若葉は今でも曙と共に鳳翔による実戦訓練を続けている。訓練を始めて1週間ともなると、私達は全員、戦術というものが出来上がってきていた。短所を補い、長所をより伸ばし、より勝利を掴むために、自分の持てる全てを戦術に込める。

 

その結果が、この10日目の午後の訓練で花開いた。

 

「終了。2人とも、よく頑張りました」

 

鳳翔の袴に私が付けた斬撃跡。ようやく届いた。

ここまで来るのに何度も何度も返り討ちに遭い、本来ならば3桁近くの死を迎え、ついに鳳翔の身体に触れることが出来た。その跡は小さいものでも、達成感が凄まじい。

 

「ようやく1歩か……」

「長かったわね……」

 

曙と拳を打ち合わせてお互いの健闘を称えあった。私だけでは無理。曙だけでも無理。2人で力を合わせた結果得られた1歩目だ。これだけやれば連携もうまく行くし、嫌というほど戦場の匂いも感じた。

次はダメージをしっかり与えられるくらいに鳳翔に当てなくてはいけない。ここからはさらに難しくなる。先日の足柄の模擬戦ですら、胴に掠めた程度。それではこれからは勝ちにならない。

 

「時間はまだありそうですね。では続けましょうか」

 

鳳翔も私達の成長を喜んでくれていた。だからこそ、さらに深いところまで鍛えてくれる。

が、それは今は出来なくなりそうだ。

 

「……鳳翔、訓練は終わりにしていいだろうか」

「何か匂いましたか?」

 

鼻が動いたのだろうか、私が言いたいことがすぐに理解される。

 

()()()()()

 

 

 

本日の訓練はこれにて終了。午後の訓練の中頃に雨の匂いを感じたため、急いで施設に戻り嵐に向けた準備を始めた。天気予報よりも先に察知出来たらしく、日に日に私の嗅覚は強まっている気がした。

いつものように工廠のものをしまい込み、高波の被害に遭わないように片付け。だが、今回はそれだけでは終わらない。来栖提督に連絡をし、夜間の警備を取りやめてもらう。また、今いる警備隊には施設の方に来てもらった。

都合のいいことに、本日の昼警備は第二二駆逐隊。射撃訓練についていたのは足柄。ある意味万全の態勢である。

 

「部屋が2つしか空いていない。相部屋で頼む」

「私は談話室でいいわ。すぐに戦えるように準備しておかなくちゃね!」

 

流石は足柄である。部屋で眠るより、即座に動ける場所を選択した。

というのも、前々から予想している通り、この嵐の夜に襲撃があるのではないかと考えているからだ。敵の数はわからない。少なくとも、前回よりは確実に押し潰すつもりで来るはず。

前回が夕雲旗艦で、随伴に戦艦1軽巡1駆逐3。それで均衡し、リミッター解除された敵艦娘はタイムリミットを迎えて自沈してしまった。今回のこちらの戦力はおそらくバレているため、それ以上の規模の部隊で攻め込んでくるだろう。

 

「嵐の夜に外に出すなんて考えたくもないんだが」

「そうしねぇとここがぶっ壊されるぞ。どうせあれだろ、基地を攻撃するようなモン持ってくるんじゃねーのか」

 

摩耶の不安は正しい。対地攻撃はまず確実にしてくる。外に出ていないのなら、施設ごと私達を破壊しにくるだろう。まずはそれを食い止めなくてはいけない。

 

「夜ですので、私は艦載機を出すことは出来ません」

「私は出来るけど期待しないでほしいかな」

 

鳳翔は自ら戦力外と言い切った。空母の一番不利なタイミングであるため、出撃すること自体が足手纏いになると。セスは深海棲艦であるが故に夜でも難なく艦載機を飛ばせるらしいが、嵐となると話が変わる。

 

「私達は海の中だから気にしないけど」

「武器が……無いね……」

 

シロクロは嵐が関係ない位置にいるものの、攻撃手段がない。海中からの徒手空拳となるが、それはかなり危険なもの。

つまり、現状戦力と言えるのが駆逐隊2つ分8人と重巡洋艦2人。そのうちの摩耶に関しては、戦闘訓練を始めてもいない素人である。

 

「お、若葉、今あたしのこと素人だとか思ったろ」

「訓練をしていない。流石に厳しいと思うんだが」

「任せろ。あたしはお前らに隠れていろいろやってんだよ」

 

何をしていたかはわからないが、戦力が増えることはいいことだ。負担が減り、勝利へ近付く。

 

「武装に関しては、来栖が認可を取ってくれた。僕達の正当防衛と出来る」

「っし、なら何の気兼ねも無ぇな。好きなだけぶっ放してやるぜ」

 

水鉄砲と刃を潰した近接武器ということで、ギリギリ認可が下りたそうだ。第二二駆逐隊の武器も、相手に何も言わせないために、弾を威嚇射撃用のダミーに替えている。こちらは殺す気が無いのに向こうだけは殺意を持っているとなれば、こちらの正当防衛として成立させられる。

全ては以前に聞いた、飛鳥医師の名前を出せば上に顔が利くというヤツだろう。深くは聞かず、ありがたく有利な状況を使わせてもらう。

 

「最後の問題は、だ。嵐の夜というのを忘れちゃいけない」

 

私も含め、嵐の夜にトラウマを持つ者が数人。

 

「ダメだと思ったら退がるわ」

「はい……でも……やれると思います」

 

私も三日月と同様、やれると思う。雷は恐怖心を煽られ、私と三日月は嫌悪感が湧き上がる。イライラは戦闘にぶつけられるのだから、まだマシだ。そのための非殺傷武器。

 

「よし、なら準備は完了だ。来なければ来ない方がいい。来たのなら撃退だ。……最後に」

 

改まって私達へ。

 

「絶対に死なないでくれ。蘇生は奥の手中の奥の手だ。二度とやりたくない」

 

死んでも蘇ることが出来るのだから捨て身で行こうだなんて、誰も思っていない。死にかけてるほどに痛い思いをしているのだから、二度とゴメンである。特に曙は、実際一度死んでいるのだ。その辛さは文字通り身にしみて理解している。

 

「誰が死ぬかよ」

「これ以上……継ぎ接ぎを増やしたくないですので」

「ああ、今くらいで充分だ」

 

みんなの気持ちは1つになっている。

これは最初の反撃。最初はいいようにやられてしまったが、今回はそうはいかない。そのために訓練をし、この日のために備えてきたのだ。確実に返り討ちにしてやる。

 

 

 

夜。轟々と風が吹き、雨が叩き付けられる。私や三日月が流れ着いた時の嵐と比べると控えめ。だが、嵐は嵐である。少し手が震えるように思えたが、鳳翔が握ってくれた。

私達が嵐にトラウマがあることは伝えられている。死にかけた経験が心に刻まれてしまっているため、この時間は正直苦痛だ。

 

「大丈夫。貴女達の成長は私が一番わかっています。私に一撃入れられたんですから」

「……ああ、大丈夫だ」

 

震えが治まる。鳳翔にそう言ってもらえると落ち着くものだ。同じように三日月にも力添えをしてくれた。

 

「嵐に対するイライラは、今日は奴等にぶつける」

「そうしましょ。私を殺した恨み、晴らしてやるんだから」

 

第五三駆逐隊の前衛担当である私と曙のコンビが一番先頭になるだろう。その次が、第二二駆逐隊の前衛担当である皐月と水無月。

私達の狙いは、おそらく来るであろう夕雲一本。周りの敵艦娘は仲間に任せたい。私達では()()()()()()()()()()

 

「シロクロから通信だ。音を回すぞ」

 

シロクロは先に海中から近海を警備している。嵐のせいで海流は激しいものになっているが、あの2人ならそういうところも難なく泳ぎ、敵に気付かれることなく接近する。

攻撃をする必要なんて無い。敵が来たことだけわかれば、私達が迎撃する。

 

『こちらクロだよ。ちょっと遠出してまーす。前に沈んでた艦娘見つけたとこより遠いかな』

『シロ……だよ。まだ敵影は無し……』

 

大分遠くまで向かったようだが、まだ姿は確認出来ていない。来ないなら来ないで別にいい。

 

「こっちの艦載機も異常無し。風が相当強いみたい」

 

セスも深海の艦載機を飛ばしてくれている。上から下からの包囲網で、接近をいち早く確認したい。攻撃する前には撤収させるようだが、これだけでも大助かりだ。

 

「滾ってきたわね! 早く来ないかしら!」

「足柄さん、張り切ってるわね。私も嵐が怖くなくなってきたわ」

「戦いに勝るものはないわ。それに勝つことが一番楽しいもの!」

 

飢えた狼は、敵の出現を今か今かと待ち構えている。足柄は純粋に戦いたいがために。私達とは少し心境が違うが、今は頼もしい仲間だ。

 

『発見……本当に来たよ……』

「こっちも発見。連合艦隊かな」

「シロクロは撤退してくれ。セスも艦載機を引っ込めてくれ」

 

しばらくして、シロの通信により敵が来たことが確認された。その数12人、連合艦隊である。この悪天候の中、さすがに空母はいないようで、戦力としては戦艦4、重巡2、駆逐6。駆逐の中に夕雲が含まれている。完全に押し潰しに来ている。

 

「出撃よ! 戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!」

「足並み揃えてー!」

 

足柄がいの一番に突っ込もうとしたため、文月達がどうにか抑え込んでいた。嵐の中で1人で向かうとか、いくら手練れでも自殺行為である。ここは流石に一緒に出撃してもらわなくては困る。

 

「よし、シャッター開けるぞ。僕はここからしか応援できない。後は頼んだ」

「おう、任せろ。施設はあたしらが守るさ」

 

嵐の中、工廠へのシャッターが開けられる。吹き荒ぶ風が強烈に吹き込んできた。前までなら、ここで立っていることも辛いと思ったかもしれないが、今はそんなことはない。訓練の賜物である。

ここからは豪雨の中での戦い。まずは艤装を装備し、即座に海へ。シャッターが開いた瞬間に足柄はダッシュ。先陣を切ろうと躍起になっている。摩耶は私達を見送った後、ついてきてくれるようだ。

 

「第五三駆逐隊、出撃する」

「第二二駆逐隊、出撃です! 本領発揮するよ〜!」

 

震えはもう止まった。並び立つ仲間も、背中を押してくれる仲間も、待っていてくれる仲間もいる。負けるイメージはもう浮かばない。

 

さぁ、いざ出陣だ。

 

 

 

雨風が酷く、波も高い近海。着ている制服はあっという間にびしょ濡れになるものの、基礎訓練の際の着衣遠泳のおかげで気にならない。この状態でも十全の力を発揮できるはずだ。

 

「視界が悪いわね……」

「匂いも少し薄まるな……だが、大丈夫だ」

 

雨のせいで少し匂いが嗅ぎづらくなるが、感じないわけではない。戦闘に支障は無い。

 

「近い。雨の中に混ざっている。風でこちらに流れてきているようだ」

 

ナイフを握る手が強くなる。グリップを滑らないゴム製にしてあるため、この雨の中でも戦える。訓練の時の戦い方が出来る。

 

「射程です。私からは見えます」

「あたしにも見えるぜ。向こうからはまだ見えてないみたいだけどな」

 

深海の眼を持つ三日月と摩耶にはもう見えているようだ。夜でも雨でも関係なく、視界はバッチリらしい。

だからだろう、三日月が早速構えた。狙えるタイミングで即座に数を減らしに行こうという算段。私以上に恨みが根深い三日月は、嫌悪感から攻撃に躊躇がない。

 

「撃ちます」

 

強烈な威力の水鉄砲が放たれた。私には見えないが、匂いが1つ遠のいたように思えた。

深海の眼は持っていないが、拡張された嗅覚のおかげで、この暗さでも私は少しだけでも戦況が理解出来る。鳳翔に言われてからの数日、嗅覚に意識を置いて生活もしていた。嗅覚に頼った行動も多少は可能。

足柄が狼なら、私は犬か。

 

「1人撃破。おそらく駆逐艦、死んではいません。殺したいほどに憎たらしいですが」

「気持ちはわかるけど、抑えてよね」

 

久々に毒が出てきている三日月。嫌悪感を隠そうともせず、心底嫌そうな顔で次の敵艦娘に狙いを定める。三日月には同じ後衛担当の雷がついているため、私は曙と前へ。

 

「あら、あらあら、曙さんが生きているわ」

「おかげさまで、死の淵から戻ってきたわよ。クソ雲……!」

「相変わらず口が汚いですね。小物に見えますよ?」

 

夕雲と会敵。相変わらず貼り付いた笑みでこちらを見てくるが、目は一切笑っていない。雨に濡れながらも、常に余裕の立ち振る舞い。

 

「文月、周りを頼んでいいか」

「うん、了解。三日月ちゃんは雷ちゃんにお願いしておけばいいんだよね?」

「ああ、それでいい。余裕が出来れば援護してくれるはずだ」

 

第二二駆逐隊には文月経由で援護を頼む。夕雲とやり合うのは私と曙の仕事だ。他には邪魔させない。

 

「勝利が! 私を! 呼んでいるわぁ!」

「勝手に動き回るんじゃねぇよ足柄ぁ!」

 

それを察してか、足柄も周囲の戦艦から片付けてくれている。

摩耶はその援護。その射撃の性能から、確かに素人ではない。夜や、私達が見ていないところで特訓していたらしい。艤装の整備をしているのだから、それを使いこなせない理由が無い。

 

「騒がしい人達ですね」

「意思を持ってるのはお前だけか。他は全員捨て駒か」

「はい、貴女達を確実に消すために連れてきました。さぁ皆さん、リミッター解除ですよ」

 

以前見たのと同じように、周りの艦娘達は目が血走り血管が浮き上がる。身体に大きく負荷がかかり、命を燃料に驚異的な力を発揮する。勝っても負けても沈むことになる最悪の手段。

 

WG42(ヴェーゲー)部隊、施設へ一斉射。三式弾もどうぞ」

 

やはり対地攻撃から始めてきた。目の前にいる私達ではなく、ここからは見えない施設へ向けての攻撃。駆逐艦4人と重巡洋艦2人、さらには戦艦までが攻撃を放とうとする。

だが、それは私達には想定内。夕雲以外を優先して撃破する方針は変わらず、仲間達にそれを任せる。

 

「ボクらが食い止めるよ!」

「わっきー、ぼのたん、そっちは任せたからね!」

「誰がぼのたんか!」

 

先陣を切るのは皐月と水無月。周りの駆逐艦を邪魔するために、夕雲を無視して突っ込んだ。施設への攻撃をメインにしているおかげか、正面からでも不意打ちのように機能し、その攻撃は食い止められる。

 

「三日月、私達は重巡よ」

「了解。すごくイライラするので、全部倒します」

 

雷と三日月の援護射撃も的確。羽黒と足柄の教えがしっかりと身になっている。三式弾の発射前に顔面に水鉄砲を直撃させ、狙いを定めさせない。この嵐の中でも正確無比な射撃は、今までの訓練の賜物と言えよう。

 

「戦艦を倒せるのは楽しいわ! 大物食いは最高ね!」

「くっそ! この狼は理性焼き切れてんのかよ!?」

 

足柄は未だに止まらず。主砲と格闘を駆使して、戦艦を黙らせる。摩耶は援護に専念しており、雑な足柄の撃ち漏らしを処理していた。

 

だが、それは全て非殺傷武器による行動。リミッターが解除されているあちらの艦娘は、怯むくらいで止まらない。そのため、何度も何度も繰り返し攻撃を加え、何もさせない状態を維持する。

 

「周りばかりですが……まさか貴女達がこの夕雲と戦うつもりで?」

「ああ。2人がかりで悪いな」

「そのニヤケ顔をぶち壊してやるわよ」

 

敵随伴艦をうまく引き剥がしてくれている。私達の戦場には、夕雲しか残っていない。高い波に煽られはするが、足を取られることもない。それはあちらにも言えることではあるが。

 

「そうですか。では、夕雲が直々に、引導を渡してあげましょう。曙さんは念入りに殺さなくてはいけませんしね」

「やれるものならやってみなさいよクソ雲!」

「再起不能にはなってもらう」

 

これは訓練でも演習ではない、実戦だ。命のやり取りを感じ、両腕が途端に疼き出す。夕雲の血を啜りたがっている。

 

「覚悟しろよ。若葉達の居場所は、お前らなんぞに壊させない」

「こちらのセリフですよ。提督(ご主人様)の邪魔をするのなら、容赦しませんからね」

 

第五三駆逐艦の初陣は、嵐の中で始まった。前回のようにはいかない。今回は仲間もいる。負ける気がしない。

 




人形にされている敵随伴艦の名前は、今後も余程なことが無い限り出すつもりはありません。勝っても負けても沈むというものに名前をつけると、自分が辛くなるので。
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