継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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口封じの夜襲

飛鳥医師の治療により霰が目を覚ましたが、投与されていた麻薬の禁断症状と人形でいた時にやってきた記憶で激しく錯乱。今はシロとクロが側にいることでほんの少しだけ落ち着いているが、いつまた禁断症状に襲われてもおかしくない危険な状況。

こればっかりは治療が出来ない。時間をかけて抑え込むことで、日常生活に支障をきたさないようにするしか方法が無かった。

 

「アラレは私達の部屋で寝るってことでいい?」

「夜も……危ないと思うから……」

 

今の霰は綱渡り状態だ。いつ倒れてもおかしくないため、本当に常に側にいてやる必要がある。そのため、シロとクロは朝から晩まで、おはようからおやすみまで一緒にいることを決めた。それこそ、3人目の姉妹のように。

 

「部屋は大丈夫か? 3人で眠れるだろうか」

「そこは大丈夫だと思う。2人でも結構余裕あるしね」

「うん……アラレも小柄だし……大丈夫……だよ」

 

その霰だが、2人に抱きしめられながらもずっと謝罪の言葉を呟き続けている。虚ろな目で、また世界を瞳に映していないような表情。幻覚に続いて幻聴もあるのかもしれない。

 

「あ、あ、あぁああああっ!?」

「アラレ、落ち着いて、大丈夫、大丈夫だから」

「敵はいないよ……大丈夫……」

 

そして再び禁断症状。2人が耳元で囁いて落ち着かせる。ジタバタともがき、また暴れ出してしまうが、一度見たためかシロもクロも冷静に対処。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

「大丈夫、霰は何も悪くないよ」

「アラレは……悪いことしてない……大丈夫……」

 

見ているだけでも辛い。自分の意思とは関係なく悪事に手を染めさせられ、他人の指示に罪悪感を持たせられ、酷い幻覚に苛まれているのは、あまりにもいたたまれない。

 

「……夕雲にも、同じ処置をやるんだよな」

「勿論。そうしなくては夕雲は永遠に目を覚ますことが出来ない」

「あれ以上になるだろう」

 

夕雲はこれに加えて、捨て駒に指示をしていたという事実まで突き付けられる。自分の意思では無かったにしろ、リミッター解除の命令を飛ばしたのは紛れもなく夕雲。さらには曙殺害の指示も夕雲である。

いくら夕雲が強い心を持っていたとしても、耐えられるかがわからない。当然それを支えてやる必要がある。

 

「明日は朝から夕雲の処置だ。一度霰で成功しているから処置自体は確実に終わらせることが出来る。移植する胸骨もあと1つなら保存されているし、大丈夫だ」

「わかった。明日も今日と同じ感じに過ごそう」

「そうしてくれ。緊急時には君達の手を借りたい」

 

今回は必要無かったが、何が起こるかわからないのが今回の処置だ。もう死ぬことはなさそうではあるが、霰と夕雲ではいろいろと違う。第二改装を受けて、追加で何かされているかもしれない。

 

「では、私は一度帰投しましょう。飛鳥、次はまた3日後、透析装置の回収に来ます」

「お待ちしております。ありがとうございました」

「こちらでもいろいろと準備しておきます。体内の爆弾の件も考慮して、最も適した処置を選択しましょう」

 

霰と夕雲は私が気付けたことで体内に爆弾が仕掛けられていることがわかっている。次から来るかもしれない部隊にも、全員仕掛けられていると考えていいだろう。全員を助けたいとは思うが、戦闘中に爆破される可能性だって捨てきれない。それこそ、旗艦の指示でその場で自爆だってあり得る。

それも考慮した戦い方を選択しなければ、助けられる命も助けられない。

 

 

 

下呂大将とまるゆが帰投し、霰がシロクロと過ごしていくことが決まった日の深夜。妙な音が聞こえたことで目を覚ました私、若葉。一緒に寝ている三日月も同じように目を覚ましてしまったようだった。

 

「……何の音だ」

「わかりません……でも聞いたことがある音です」

 

また聞こえた。寝惚けた状態ではわからなかったが、今の音は確実に()()だ。曙がここに辿り着いた時とは違い、施設の外の音。小さな音ではあるが、確かに聞き取れた。

 

「戦闘……しているのか?」

「若葉さん、外を」

 

部屋の窓から外を見た。海の向こう、夜の海には本来あることがない光が見えた。何をやっているかは見えない位置ではあるが、明らかにあれは艦娘が発する光だ。探照灯の類。

あの辺りは今、来栖提督が派遣してくれている警備隊がいる場所だ。そこで音と光があるということは、今まさに戦闘中であるということ。

 

「襲撃……来たのか」

「そうなりますよね……夕雲さんごと証拠隠滅のつもりなのかも」

 

三日月の予感は正解な気がする。夕雲がここに捕らえられて3日。そろそろ襲撃を受けてもおかしくない時期。もっと早く来るかと思っていたくらいだ。こちらが夕雲の通信機を押さえており、自爆装置も起動しなかったことも向こうには知れているのだから、遅かれ早かれ夕雲が何かされるとは考えるだろう。

ならば諸共殺してしまえが向こうのスタンス。自爆させるくらいなのだから躊躇いが一切無い。

 

「一応避難しよう。対地攻撃が飛んでくる可能性がある」

「了解です。艤装は」

「装備しよう。いざという時は若葉達も行かなくては」

 

三日月と共に部屋から出ると、この音に気付いた一同が一斉に出てきていた。霰に至ってはこの音でトラウマを刺激され、またもや発狂。シロとクロが慰めているのが部屋の外からでもわかる。霰のことはシロクロに任せ、私達は艤装を拾うために工廠は向かう。

それを見越して、いち早く摩耶が準備をしていた。私達が一番だったらしい。

 

「すぐに装備して海側から陸に上がれ! センセが夕雲を運び出してる!」

「了解」

「三日月、こいつ持ってけ!」

 

整備済みの水鉄砲を投げて寄越され、慌ててキャッチ。これがあれば、万が一敵に近付かれても射撃で撃退出来る。特に三日月は、私とは違い接近戦では無く夜目が利くため、暗闇の戦いは私よりも得意だ。自爆の可能性を考えるなら、私よりも三日月を頼った方がいい。

 

「シロクロと霰は後からアタシが見てくる!」

「頼んだ。三日月、行くぞ」

「はい」

 

すぐに艤装を装備して海へ。部屋で見ている時よりも音は鮮明に聞こえ、この中立区でも当たり前のようにまともな戦闘をしていることがよくわかった。

 

ルール違反は当たり前。こちらはダミー弾だがあちらは実弾。さらには命を顧みず、自爆までしでかす捨て駒集団。

その中でも、おそらく夕雲と同じ立ち位置の旗艦があの中にいるはずだ。それをいち早く倒してしまえばまだ戦いやすくなるか。だが、捨て駒は確実にリミッターを外されている。戦っている時点で、死が確定する。

 

「マヤ、私はあっちに行く。姫の言葉がいるんでしょ」

「おう、気をつけてな」

「わかってる」

 

次に工廠に飛び込んできたセスが、即座に海に出て戦場に駆けていく、シロクロで出来たのだから、セスの命令でも捨て駒の人形は言うことを聞きそうだ。

戦場でリミッター解除をやめさせれば、その場では無傷で終わらせられる。とはいえ自爆の危険性は常に付き纏っているため、戦闘が終わったとしても近付くことが難しい。姫級の自爆するなという命令も、あちらでスイッチを押されたら意味がないことはわかっている。

 

「セス1人に任せて大丈夫か」

「セスだって深海棲艦の姫級なんだぜ。それに、あっちには来栖提督のとこの警備隊もいる。心配はいらねぇよ。まずは避難だ」

「……了解」

 

あちらの戦場はセスに任せて、私達はそのまま施設から離れた。私達に出来ることは、施設の被害を最低限にすること。まずは誰も死なないことが大前提だ。

 

 

 

夜の闇の中、施設の者が全員外に出た。少なくとも誰も死なないように施設の陰に隠れ、海側から見えない陸地で全員集まる。

 

「欠けていないな」

 

飛鳥医師が点呼を取る。セスが戦場に出て行ったことは私達が直に見ているため、それ以外がここにいるかを調べた。

昏睡状態にしてある夕雲は、飛鳥医師がそのままの状態で車椅子に乗せて運んできていた。点滴もそのまま。座らさせられているが、縛り付けて姿勢が崩れないように固定されていた。

 

「大丈夫、大丈夫だからね」

「アラレ……大丈夫……だから」

 

シロとクロに支えられてアラレも外に出てきている。戦闘の音が聞こえ、何度も錯乱したせいで既に大きく消耗し、ガタガタ震えているほど。2人がいなければ、ここに辿り着くことも出来ていなかったかもしれない。

 

「センセ、絶対に必要なモンは持ってきておいたぜ」

「ありがとう、摩耶。これが無ければ治療が出来ないからな」

 

摩耶が運んできたのは透析装置。その他備品も、飛鳥医師や鳳翔、神風がしっかり運んできていた。

本当に最低限ではあるものの、夕雲の治療だけは可能。万が一施設が倒壊したとしても、瓦礫は艤装を装備した私達が片付けることができ、保存してあるパーツなどは地下にあるおかげでそう簡単には失われない。

 

「戦闘はまだ終わりそうにないわね……」

 

施設から少し離れ、海の向こうの様子を見に行っていた曙が戻ってきてボヤく。時折大きな音も聞こえ、戦闘が激化しているのはこの距離からでもわかるほど。その度に霰がビクビクと震えるため、気の毒に思える。

 

「私達はいつでも出られるわよ。みんな武器も持ってきてる」

 

曙の言う通り、夜間に艦載機を飛ばすことの出来ない鳳翔以外は全員、すぐに戦場に出られるくらいの装備をしている。私もいつものナイフを握り締め、出撃を今か今かと待ち構えていた。

 

「施設を守るためにゃ、打って出ないとダメだろ。あそこからでも対地攻撃は飛んでくるぞ」

「わかっている。僕はこの施設の管理者として、全員外の安全な場所にいることが確認したかったんだ。そして、それが出来た。反撃の時だ」

 

飛鳥医師だって鬱憤が溜まっているようだった。ここまで艦娘を蔑ろにし、貯めてきた素材も次々と使うこととなり、ついには施設そのものを攻撃してきた敵に対し、怒りが浮かびあがっている。

 

「うちには確か探照灯は無かったか」

「ああ、修復したところで全部来栖提督に持って行ってもらってるからな」

「なら裸眼しか無いか。あちらでも使われているようだし、そこまで無茶では無いな。よし、僕から指示できることは無いが、摩耶、雷、若葉、三日月、曙、そして……神風、出撃をお願いする」

 

鳳翔は夜のために出撃せず、シロクロは霰についている必要がある。それ以外は全員出撃可能だ。

私もいい加減限界だった。ただただ力を振るいたいなどとは思っていない。とにかく、私達の平穏な日々を破壊しようとするのが許せない。

 

両腕と両脚が疼くような感覚がした。私の怒りを汲み取り、力を与えてくれる。

私だけじゃ無い。前回の戦闘と同じように、曙も息遣いが変化し、摩耶と三日月の片目がいつもよりも強く輝いている。摩耶は寝起きのため眼帯もしておらず、移植された眼が曝け出されていた。

唯一、雷だけはいつもと同じように見えた。移植されたのが腹、内臓だからかもしれない。だが、私達と同じようにフンスフンスと鼻息を荒くする。

 

「おう、んじゃあ、出撃だオラァ!」

「第五三駆逐隊、出撃する」

 

摩耶の鬨の声で全員が海へと飛び出す。先に出るのは私達前衛組。本番での神風の戦闘は初めて見るが、私達の今後に繋がるであろう戦い方を見せてくれることだろう。

 

 

 

戦場は散々なものだった。敵の数は予想以上に多く、連合艦隊とは言えないくらいの人数。その全てが無表情であり、目に光がない。全員が霰と同じように改造されているのだと思うと気分が悪い。

その中心、おそらく夕雲と同じように、旗艦として第二改装を受け、そした歪んだ意思を取り戻した艦娘が1人。夕雲と同じ制服を着ているということは、姉妹艦、妹であろう。

 

「セス、援軍だ」

「助かるよ! 一応私の命令も聞くけど、すぐに向こうに上書きされる!」

 

姫級であるために、セスの命令も人形には有効だった。が、即座に上書きされて、攻撃が止められないらしい。

セスの命令は『リミッターを外すな』のようだが、ここにいる連中はどう見てもリミッターが外れている。何度も命令の重ね合いが発生しているようで、セスが押し負けたようだ。

 

「また増えたわね。そんなに私達の邪魔がしたいわけ?」

 

こちらを睨んでくる旗艦の艦娘。警備隊を随伴艦に押しつけ、ちょうど施設に向かおうとしていたタイミングのようだ。私達がここに来れなかったら、この旗艦の艦娘に施設を破壊されていたかもしれない。

その証拠に、その艦娘の横にはまるで戦車のような大発動艇のようなもの、内火艇が鎮座していた。さらには以前にも見たWG42(ヴェーゲー)も装備している。完全に施設破壊に特化していた。

 

「あれは風雲。夕雲の妹ね。改二だから、人形じゃなくて奴隷」

 

夕雲の妹、風雲。こちらに夕雲がいるにもかかわらず、関係なしに施設ごとの破壊を目的にここに来ている。

 

「こっちにはアンタの姉がいるのよ」

「失敗したんでしょ? じゃあ生きてる価値無いわ。提督(ご主人様)の御命令は、この施設の破壊だもの。まとめて死ねばいいわね」

 

お構いなしに私に向けて主砲を発砲。火薬の匂いがしたため即座に回避したが、やはり躊躇いがない辺りは夕雲と同じ。

避けられるとは思っていなかったのか、少し驚いたような表情に。避けられないタイミングで撃ったのだろうが、殺意が隠し切れていない。それなら、私にはもう効かない。

 

「後衛部隊は他の連中を片付ける! 旗艦は任せっぞ前衛部隊!」

「了解。訓練の成果、見せてやらないとな」

 

数が多い上にリミッターが外れているために、来栖提督の警備隊が拮抗、ないし押されかけている。それをひっくり返すために摩耶達後衛部隊は随伴を黙らせる方に向かった。

また以前の戦いと同じ様相だ。私と曙、そして今回は神風が、旗艦の風雲と相対した。3対1、こちらは付け焼き刃かもしれないが、数的優位はこちらにある。

 

「若葉、曙、訓練の成果、見せてもらいましょうか」

「アンタに言われなくてもやるわよ」

「ああ、任せろ」

 

私達だって経験は積んだ。ここで負けるわけにはいかない。

 




風雲は改二になると内火艇だけ装備出来るようになる対地要員となり得る強キャラ。夕雲に続いて風雲ということで、家村鎮守府は第十駆逐隊を使っていることがわかります。
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