継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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一晩明けて

夜の襲撃を追い返すことが出来たものの、被害は甚大だった。戦闘に参加していた者は無傷でも、本来守らなくてはいけない施設に大きなダメージが入ってしまった。襲撃してきた旗艦、風雲は捕らえることも出来ず、新たに現れた潜水艦により回収され、結果的に何も出来なかったと言える。

私、若葉は、その戦闘で砲撃が腕に掠める程度の擦り傷を負ったが、血は出ているものの気にならない痛み。他は無傷で終わった。夜襲に対して無傷で終わらせることが出来たのは、ひとえに訓練の賜物。

 

来栖提督の警備隊とは一旦別れ、施設に戻った。警備隊はこのことを来栖提督にいち早く伝えるため、真夜中ではあるものの帰投するらしい。

流石にさっきの今でもう一度襲撃は来ないだろうという判断。ちなみにみんなが抑え込んでいた風雲の随伴艦は、全員リミッター解除の弊害で沈んだとのこと。

 

「皆、無事だったか」

「ここは無事じゃねぇがな……クソが」

 

先に避難出来ていた飛鳥医師達は全員無傷。風雲が定期的に放っていたWG42(ヴェーゲー)は、射軸をズラし続けたため、被害が浜辺にだけに収まっていた。この被害は自爆によるもののみ。

だが、その潜水艦3人による自爆で、施設も大惨事だった。炎が上がっているわけではないようだが、黒煙はまだ止まっていない。それに、爆発したものがもののため、瓦礫の所々には()()()()が出来ている。

 

「はぁ……私達の艤装が……」

「……また……作り直そう、ね」

「うん、そうだね。またやり直そう」

 

工廠はグチャグチャ。倉庫も跡形もない程に破壊され、そこに残してあったシロクロの遠隔操作艤装は完全に破壊されていた。主機の部分は先んじて運び出していたらしく無事ではあったが、こちらは間に合わなかったらしい。完成に大分近付いたのに遠退いてしまったことが悲しい。

工廠が破壊された影響で、食堂や処置室、私達の自室にも目を逸らしたくなるような影響が出ていた。特に前者は、私達が暮らしていくための食糧が巻き込まれてしまっているのが辛い。全滅ではないにしろ、半分以上はお釈迦になってしまった。残ったものも、あまり状態はよろしくないだろう。

 

「若葉、腕を怪我しているな。血を止めるくらいはしよう」

「ああ、頼む」

 

破壊を免れた薬を回収しており、それにより治療をしてもらう。私の部屋も潰れてしまっていたので、着るものがこれしか無いというのもなかなかに辛いもの。

 

「敵旗艦は逃げられた……姫役は2人いた」

「私達が戦ったのは風雲とかいう夕雲の妹よ。でも、後から潜水艦が出てきたの」

「あの潜水艦は呂500。第二改装で外見が大幅に変わるんだけど、それに合わせて中身も弄られたみたい」

 

私達の知らない艦娘だったため、神風が説明してくれた。

元々はU-511という潜水艦だが、2回目で大幅な改装を受けるらしい。それに託けて、奴隷化の改造も施されたのだろう。見た目は明るかったがやってる事はエグいし、貼り付いた笑みは呂500にも健在だった。

 

「アレが曙を撃った張本人だ。私も海中から狙撃された」

「よく避けれたわね……」

「掠ってるがな。キナ臭い匂いがしたんだ。アイツ自身の匂いはわからなかったが、なんと言うか、()()()()()()

 

あれを感じていなかったら、私は今頃死んでいた。曙の時と違い、今は治療も蘇生もするスペースもない。そういう意味でも、今回みんながほぼ無傷だったのは助かった。

 

「呂500がメインの指揮系統ね。セスの命令を随時上書きしてたのはあいつ。そうじゃなきゃ、風雲が戦闘に入った時点でセスの命令が上回ってた」

「何回言っても言う事聞かなかったのは、海の中から命令し続けてたからか。流石にあれは参ったよ」

 

海水濡れになったエコを拭きながらセスが愚痴る。このタオルも最後の1枚。明日からは洗濯すら出来ない。

 

「はぁ……私が風雲をさっさと斬っておけばよかった。あっちを嘗めすぎたわね。落ち度は私にあるわ」

 

口惜しそうに神風も愚痴る。風雲を生かして倒し、鹵獲しようとしていたのだが、それが却って油断に繋がってしまったようだ。呂500含む潜水艦の存在は、ギリギリまで感知出来なかったため、私達もこうなるとは微塵も思っていなかった。

落ち度を言い出したらキリがない。もっとやれた事はあった筈だ。この現状が悔しすぎる。

 

「反省会も必要だが、今はまず寝床をどうにかしないといけない。比較的無事な部屋は3つだ。どうにか相部屋で身体を休めてくれ」

「夕雲はどうすんだ?」

「処置室は全壊、医務室が半壊しているからな……今夜だけは車椅子のままにして、僕の部屋で朝に考えることにする。執務室を改造しただけあって頑丈だったからな」

 

そういう利点もあったか。飛鳥医師の部屋にも多少は治療器具は残っていたらしく、そこが無事だったのもありがたい。

 

「考えるのは明日だ。嫌でなければ僕の部屋で寝てくれても構わないからな。あまり広くはないが」

 

いろいろと問題は山積み。まずは身体を休め、朝を迎えることが先決。今後どうするかは、今は考えないことにした。

 

 

 

無事な部屋でみんなで固まって眠り、何とか朝を迎えた。私は三日月と雷、神風と相部屋で眠ることにしていた。青空の下で眠ることがなかっただけでも良しとしなくては。

 

「飛鳥、来たぜェ」

 

早朝から来栖提督がこちらに来てくれた。向こうを出たのは夜のうちだろう。すぐに行動してもらえて感謝。

随伴は勿論、第二二駆逐隊。三日月が慣れているというのもあるし、大発動艇が運用できるというのもあるが、この施設について一番詳しいからというのが大きいだろう。半壊した施設を見て、とても驚いていた。

 

「警備隊から話は聞いてるぜェ」

「ああ、見ればわかると思うが、建屋が半壊してしまった」

「おう、だから大将から許可貰って、援軍連れてきたぜェ」

 

いつもの大発動艇から飛び出してきたのは、手のひらサイズの人型作業員。下呂大将が言っていた職人妖精である。しかも5人ほど。

簡単な模様替えから、鎮守府建築まで、この小さな身体を縦横無尽に使ってやってしまうという万能作業員。作業速度も尋常ではないらしく、模様替えなら僅か数分、この施設の修復はこの人数がいれば2日ほどあれば出来てしまうというから驚きである。

 

何は無くとも、施設がないと私達はどうすることも出来ない。生活も、交戦も、休息も。

 

「ついでに大改築しちまいなァ。ここにある瓦礫と、元々あった艤装の残骸まで使って、大概は造れちまうらしいぜェ」

「そうさせてもらう。部屋数も危なかったしな」

「だが、少しの間だけここから離れてもらわなくちゃいけねェ。大丈夫かァ?」

 

そのためだろう、今日は大発動艇が4隻もここに来ている。載せなくてはいけないものが多々あるため、この気配りは助かる。

特に、夕雲本人と夕雲にも使うことになる透析装置は大事なものだ。昏睡させているのも限界ギリギリのため、来栖提督の鎮守府で処置をするまで考えているらしい。

 

「大丈夫だ。必要なものは全て壊れる前に運び出している。シロクロの遠隔操作艤装が間に合わなかったのが残念でならない」

「そうか……シロ、クロ、お前さん達の艤装の仇、絶対取ろうな」

「勿論だよ! 人のモノ壊しといてタダで済むと思ってもらっちゃ困るよ!」

 

みんなの努力の結晶を無にされた恨みは大きい。しかもその理由がほぼエゴである。余計許せない。

そうで無くても、次はシロクロにも戦場に出てもらいたい。敵の1人が潜水艦であり、私達には感知が出来ないと来た。海中でどうにかしてもらうのが一番早い。

 

「んじゃあ、荷物の積み込み、よろしく頼むぜェ」

 

空の大発動艇に次々と荷物を積み込んでいき、シロクロと霰も乗り込んだ。昨晩は何度も錯乱し、今でも憔悴しきっている霰は痛々しいものだった。

 

「アラレ、大丈夫? ちょっと揺れるけど」

「……」

 

霰は無言で頷く。昨日からの1日で、シロクロに対してくらいは反応を見せるようになったようだ。それでも禁断症状で暴れ出すことはあるため、常に隣にいる状態。これはまだまだ時間がかかる。

今は落ち着いているが、施設の方はあまり見ない。トラウマを刺激される可能性が高いため、シロクロも視界がそちらに行かないように身体を壁にしている。

 

「夕雲を乗せたいんだが、クッションになるようのものはあるか」

「足しになるかはわからねェが、夕雲のことは聞いてたから、一応布団の類は持ってきてるぜェ。そいつ使ってくれや」

 

夕雲もまだ眠ったまま。用意された布団に包んだ状態で、飛鳥医師が付き添う形で大発動艇に乗り込む。薬のおかげで振動があっても起きることは無く、不安なく鎮守府に運ぶことが出来る。

 

「三日月、大丈夫か」

「……大丈夫です。あの来栖司令官の鎮守府ですから……姉さん達の鎮守府ですから……」

 

起きているメンバーの中で一番不安を抱えているのは三日月。他人が嫌いである状態で、知り合いがいるものの衆人環視の中にいるようなもの。ただでさえ、鎮守府という環境自体が苦手なうちに入るのだから、今から向かう場所は三日月にとっては辛い場所になるかもしれない。

それでも気丈に振る舞う。曙の死を目の当たりにし、強くなると決めた時から、苦手意識は外に出さないようにしていた。今の三日月ならきっと大丈夫だ。

 

「三日月ちゃん、大丈夫だよぉ」

「うちの鎮守府はみんなわかってるからね!」

 

理解者揃いの鎮守府だから身を寄せることも出来るだろう。三日月だってそれがわかっているから大丈夫と言える。姉の後押しは心強い。

 

「来栖司令官の鎮守府のことは先生から話は聞いてるし、文月達を見てればわかるわ。私、ちょっと行ってみたかったの!」

 

こんな状況でもポジティブな雷。必要以上に悲観せず、次へ繋ごうとしている。全てを奪われ、みんなの気持ちが沈んでいる中、雷の笑顔が唯一の救いである。

楽しく行こうとは思っていない。帰る場所を失ったのだから、誰だって気分が悪い。それでも、士気を下げるわけにはいかないのだ。

 

「みんな、大丈夫よ! 来栖司令官のところに行けば、きっといい方向に行くわ! だってみんな生きてるんだもの!」

「おう、そうだな。誰も死んでねぇ。なら、いくらでもやり直せるし、やり返せるってもんだ。施設が治らねぇわけでも無ぇし、前向きに行こうぜ」

 

雷に倣って、摩耶もポジティブに。言葉に出せば、テンションも上がる。無理矢理かもしれないが、士気が下がるよりはマシ。

そうだ、きっといい方向に行く。私達は誰一人として欠けていないのだから、いくらでもやり直せる。次はこんなことにはならない。

 

シロクロと霰、夕雲と飛鳥医師と大発動艇に乗り込んだため、これで積載は完了。艤装などが無事である私達は、大発動艇には乗らずに併走する。

少しでも眠れたことで体力も万全。風呂に入れなかったのが残念だが、それは来栖提督の鎮守府で入らせてもらおう。着替えすら無いが、その辺りは鎮守府の方で用意してもらえるらしい。至れり尽くせりである。

 

「職人妖精さん達、施設のこと、よろしくね」

 

雷が瓦礫の山の前に立つ妖精達に激励を送る。5人の職人妖精達が一斉に敬礼。私達もそれに合わせて敬礼した。頼りになる小人達だ。

飛鳥医師が次に建てられる施設がどうしてほしいかは伝えたらしく、早速作業に取り掛かる。瓦礫の山をその身体でガリガリ分解しながら、別の何かに組み上げていくらしい。どうやっているかは謎の一言。

 

「よし、じゃあ行くぜェ」

 

来栖提督の号令とともに、大発動艇が動き出した。次にここに戻ってくるのは数日後。その時には新たな施設が完成し、私達の安息の地が戻ってくる。その時までは別の場所で待とう。私達に出来ることは何もない。

 

 

 

施設を少し離れた後、一度だけ振り返った。

ボロボロの施設。黒煙は無くなったものの、廃墟と言っても過言では無いほどに破壊された、私達の居場所。明るい状態で見るのは初めて。

 

今までの生活の痕跡が失われてしまった。楽しく生きてきたはずの場所が、クソみたいな理由で破壊されてしまった。

 

「……絶対に許さん」

 

ボソリと呟く。戦闘中でも無いのに、腕が疼くような感覚。血が出そうなほどに拳を握り締める。

私達の居場所を奪った罪は重い。必ず後悔させてやる。

 




安息の地を奪われた若葉達。次の舞台は来栖鎮守府へ。
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