継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

65 / 303
鎮守府へ

破壊された施設が修復される間、私、若葉を含む所属している者は、来栖鎮守府にお世話になることになった。修復完了まで数日ではあるが、今までの閉じた世界から出るというのは少し新鮮である。

 

「お、そろそろだぜェ」

 

来栖提督が言うと、海上に私達の施設を警備してくれていたような部隊が見える。鎮守府が近付いてきた証拠だ。

 

来栖提督の予想では、私達の施設より鎮守府の方を先に潰すと考えていた。そのために警備隊も少し多めに配備されている。

それが逆に作用されてしまったか、施設の方が重い攻撃を受けてしまった。何より、霰と夕雲が鹵獲されているというのが大きそうではあるが。

 

「飛鳥の言う通り、マジで裏をかいてくるとは思わなかったぜェ」

「本当にな。じゃあこっちは襲撃を受けていないのか」

「偵察機が飛んできたくれェだな。くっそ、予想が完全に外れちまった」

 

来栖提督がそういうものに疎いとは思っていない。事実、私も来栖提督の考えは納得が行っていた。単純に、あちら側が上手だったのだと思う。

施設を破壊されたのだって、戦術的にあちらが上手だったからだ。その戦術は褒められたものではないが、こちらはとんでもない損害を受けている。腹が立つが、そういうところは認めざるを得ない。

 

「むしろ、これが狙いなんじゃないか? 僕達が纏まって来栖の鎮守府に世話になるこのタイミング」

「一網打尽ってことか。前までの襲撃でお前らが死ねば万々歳だし、死ななくても俺らと纏めてぶっ殺せるって算段か。こっすい手を使うじゃねェか」

 

ならば、ここからが本番とも言える。中立区の施設と違い、ここは実際に鎮守府として動いている施設だ。戦力も充実しているため、特攻を喰らって自爆されようものなら、私達の施設よりも被害が甚大。

ここに入渠ドックがあるからといって、即死するような攻撃を喰らってしまったら意味がない。蘇生のパーツは勿論今は無いし、あれは禁じ手だ。頼るわけにはいかない。

 

「防衛網を強化しておくか。あとは自爆の危険性も全員に通達する」

「それがいい。近接戦闘をするものはそうそういないと思うが、鹵獲する時に気をつけるべきだ」

「おう、肝に銘じておくぜェ」

 

などと今後のことを話している飛鳥医師と来栖提督を他所に、初めて見る鎮守府というものに緊張が隠せない。私や三日月は鎮守府生まれではあるが、出たっきり戻っていないため、外観を見るのは初めてである。

施設が元々小さな鎮守府を改装して作られたものと知っていても、来栖鎮守府は規模が違った。部屋が10個しか無いところとはわけが違う。何もかもが大きく、施設のような平家でもない。

 

「少しの間、ここに世話になるのか……」

「ちょっと……予想していたのより大きいです」

 

三日月も同じことを思っていたようだ。これだけ大きいということは、それだけ人がいるということ。

 

「無理はするなよ」

「……大丈夫です」

 

おそらくここでも眠る時は私が一緒になるだろう。夜のうちは私が三日月の安心出来る場所になってあげなくては。

 

 

 

鎮守府内に入るために工廠へ。雷と摩耶はここまで大きな工廠を知らないらしく、興味津々。特に摩耶は、艤装弄りをしているせいか、多々ある設備が気になる様子。シロクロやセスも大きな工廠に目を丸くしており、少しおのぼりさんのようになってしまっている。逆に私と三日月、曙には、工廠自体にもあまりいい思い出が無い。

 

「帰ったぞー!」

「ただいま戻りました」

「あ、提督と鳳翔さんお帰りなさーい。そして、お医者さんとお連れの方々、いらっしゃいませー」

 

工廠で出迎えてくれたのは、工作艦明石。工廠と言えばこの人。戦力を持たない代わりに、あらゆる艤装を整備し、改造し、修復するスペシャリスト。艦隊運営には欠かせない艦娘だろう。

 

「話は聞いています。お部屋の方は先に用意しておきました。艤装はそこに置いておいてもらえれば整備しておきますけどどうします?」

「整備はあたしがやる。全員ちょいと特殊なんだ」

「工作重巡摩耶のこと、提督から聞いてました。むしろその技術を教えてもらいたいくらいです!」

 

私達の艤装は少しどころか大分特殊。弄れるのは施設で艤装を弄っていた者だけだろう。その技術に明石は興味があるようだ。盗めるものなら盗みたいと本人の前で言うほどである。摩耶と明石は意気投合しそうだ。

 

「エコはどうすればいい」

「え、深海棲艦の自立型艤装!? 凄い! 本物は初めて見ますよ!」

 

今度はエコを見て興奮が抑えきれない様子。なんだか目が怖い。そもそも深海棲艦がここに訪れたのにもかかわらず、何の動揺もしていなかったのが驚きである。事前に聞いていたにしても、これは肝が据わっているというもの。

 

「いや、だから、エコはどうすればいいんだ。部屋の中に入れてもいいの?」

「それくらいの大きさなら大丈夫だと思います。普段からずっと一緒にいるんですよね。なら、ここでも同じようにしてくれて問題ありません」

「そか、よかったねエコ」

 

喜ぶようにセスに飛びかかるエコ。表情は無くとも、その感情がわかるようだった。その光景を見て明石の表情が緩む。キナ臭さも感じないので、ここの明石は元々そういう性格のようだ。

そういえば、私の知る明石はどうだったかと思い出す。私が生まれた時に近くにいたはずだが、確か、他の連中と同じように私のことを見ていなかった。洗脳されていたのか、意識を持った状態で敢えて無視していたか、今でもわからない。どちらでも構わないが。

 

「私達は皆さんを歓迎します。自分の家のように寛いでくださいね」

「おう、少しの間だが、好きに使ってくれや」

 

にこやかに出迎えられ、少し緊張が解ける。顔見知りは少ないが、過ごしやすそうである。こういう場所が苦手な三日月も、私の陰に隠れるように立っているものの、苦痛を感じていないようで何より。

何より空気が良かった。工廠であるが故に、今ここには明石以外にも艦娘はいる。だが、来訪者であり見た目が少し違う継ぎ接ぎな私達を見ても、奇異の目で見るような事はしなかった。それだけでも充分ありがたい。

 

最優先で行なわれたのは夕雲を下ろすこと。昏睡は今の今までしっかり効いており、一度たりとも目を覚ます事はなかった。艤装もない今に目を覚まされても困る。どうせ憎まれ口を叩くだけだし。

 

「そちらも話は聞いています。ここで夕雲の処置をするんですよね?」

「ああ、可能だろうか」

「はい、妖精さんにお願いして、部屋の一室を処置室にしてもらっています。提督の話でそちらの部屋を再現していますので、安心してください」

 

職人妖精とはそこまで出来るようだ。多少は間取りが違うものの、施設とほぼ同じ部屋を用意してくれているらしい。機材までは完全に再現する事は出来ないが、それに関してはこちらから持ち込んでいるため問題無し。

処置室は医務室の隣に作られているらしいので、積荷から下ろした透析装置はそちらに運び込むことに。少なくとも鎮守府では見ることのない装置に、明石も興味津々。

 

「医療機器には疎いんですが、こんなものも必要なんですね」

「ああ、これが無くては夕雲の正気を取り戻せない。だが……心の傷だけはどうにもならない」

 

チラリと霰の方を見る。シロクロに手を取られ、ゆっくりと大発動艇から降りるところだった。

 

「ひっ……あああ……」

「大丈夫だよアラレ、ここには敵はいないよ」

「大丈夫……誰も恨んでないから……」

 

落ち着いているようには見えない。目が明後日の方向を向き、過呼吸気味。クロが背中を摩りながら落ち着かせるが、それでどうにかなるものでは無い。ギリギリ禁断症状は出ていないが、これは時間の問題である。

3人だけはすぐにでも落ち着く必要があるため、先んじて部屋に案内してもらった。とにかく霰は腰を落ち着けなければいけない。シロクロもここにいる間もずっと霰の側から離れるつもりはないようだ。

 

「あれも洗脳の弊害ってやつかい」

「ああ……夕雲も似たような状態になると思う」

「本当にクソッタレだな、家村とかいう野郎はよォ」

 

霰を心配しつつも、怒りを露わにする来栖提督。今後現れる敵艦娘は、全員に薬を使われている状態。私達と相対した風雲と呂500だって、鹵獲して治療したらああなる可能性は非常に高い。

助かった後の方が苦痛を与えているのではないかと思ってしまうほどだった。助けることに抵抗を覚えてしまうほどに、霰の状況が酷い。

 

「ここで療養してくれや。気になるようなら誰も近付かないようにしておくからよ。その辺りはお前に一任するぜェ」

「ああ。うちの話だからな。協力、感謝する」

 

私達が突然泊まらせてもらうという状況でも、来栖提督は快く応じてくれた。持つべきものは友。飛鳥医師の交友関係に感謝する。

 

「私はこっちの司令官に連絡するわ」

「おう、大将に今の状況伝えないといけねェからな。神風は執務室に頼まァ」

「ええ。飛鳥先生もよね?」

「ああ。僕も先生と話がしたい。今後のことを決めていかなくてはいけないしな」

 

飛鳥医師は神風と共に来栖提督についていった。これで私達はフリーに。今日はいろいろあったため、まず身体を休めるようにということとなった。方針をしっかり決め、行動するのは明日からだ。

 

 

 

部屋に案内され、ようやく腰を下ろした。昨晩からの気疲れか、身体の調子は良くてもどうもしんどい。

ここの鎮守府は1部屋2人体制らしく、ベッドが2つ入っているために部屋が広い。私の相部屋は普段の夜をここでも再現するために三日月となる。

 

「なんだか……疲れてしまいました」

「ああ。最初の予定通り、風呂を借りるか」

「そう……ですね。他に人がいなければいいんですが……」

 

昨晩の戦闘の汚れをようやく落とせる。服も替えたいし、ここいらで風呂へ。同じことをみんなが考えていたらしく、なんだかんだ合流。シロクロ霰の3人は後からということになり、セスは工廠でエコのメンテナンスを終えてからにするとのこと。

私を含め5人で、疲れを癒すことにした。前以て明石に話しておけば、替えの制服も用意しておいてもらえるそうだ。

 

先に風呂の場所を聞いていた雷に案内され、鎮守府の大浴場へ。施設の風呂は4人でギリギリだったが、さすが大きな鎮守府の大浴場だ、その数倍の大きさ。

タイミングが良かったか、今は誰も使っていないようだった。三日月も少しだけ安心した様子。傷だらけの身体を見られるのは流石に気が引ける。

 

「いつつ……」

 

風呂に入ると、昨晩の戦闘で不意打ちを受け、ギリギリで回避した時に出来た腕の傷がやたら沁みる。飛鳥医師に治療はしてもらったが、傷が消えるわけではない。擦り傷だと思っていたが、思った以上に深かったようである。風呂は薬湯でもないので、擦り傷の治療も出来ないし、薬湯だったとしてもこれが治るかは微妙なところ。

 

「それ、あの戦闘で呂500に撃たれた時の傷よね」

「ああ、ギリギリで回避出来たからこの程度で済んだ」

 

曙が苦い顔をしている。私が避けられた砲撃が直撃した結果が曙だ。相変わらず、胸と背中の貫通痕が痛々しい。とはいえ、私や三日月に比べると傷も小さいものである。

 

「治るまでそれなりにかかりそう。入渠した方がいいんじゃないかしら」

 

雷の提案。確かにすぐ治すなら入渠が一番手っ取り早い。施設に無いから自然治癒のつもりでいたが、あるものは活用してもいいかもしれない。入渠というものが初めてなので少しだけ緊張するが。

 

「それもいいな。後から話してみよう」

「……身体の傷も治ったりするんでしょうか……」

 

三日月が呟く。この傷はおそらく治る事は無いだろう。曙が蘇生され、内臓の痛みを高速修復材で取った時、来栖提督が傷が定着しているから消せないと話していたし。

 

「治んねぇだろうな」

「……ですよね。すみません……悲観的なこと言って」

「構わねぇよ。あたしらは入渠自体したことが無ぇわけだしな。気になるのも無理も無ぇ」

 

どうであれ、私は入渠を希望しよう。それで私の腕や脚が元に戻るなんて考えていないし、今更これを失っても少し困る。これのおかげで夕雲や風雲をどうにか出来たところもあるのだから、愛着だってある。

 

「風呂から出たら飯食って寝るかな。なんつーか、疲れたぜ」

「さんせーい。私も今日はゆっくりするわ。家事が出来ないのがソワソワするけど」

「お前も大概ワーカーホリックだよな」

 

今日1日はゆっくり過ごすことにした。戦いの傷を癒し、英気を養う。次からの戦いのために、まずはやれることを。

 




来栖鎮守府の工作艦、明石は、シロクロのスク水を作った人です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。