継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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改装

無事、来栖提督の鎮守府に辿り着いた飛鳥医師率いる施設所属者一同。ここから数日の間だけ、ここに住まわせてもらうこととなる。

私、若葉は、風呂上りに来栖提督に入渠を掛け合うことにした。腕についた傷が思っていたより深く、風呂の湯が沁みたからである。いつもなら自然治癒に任せるのだが、今回は使えるものは使っていこうの精神。やったことが無い事は経験しておきたいというのもある。

 

みんなで風呂から出て工廠に向かうと、ちょうどあちらも話が終わったらしく工廠に集まっていた。神風や鳳翔も一緒だ。代わりにセスとは入れ違いになってしまったようだ。

 

「入渠?」

「ああ、擦り傷ではあるんだが、思ったより深かった。構わないだろうか」

「おう、だがその前にちょいと付き合ってもらっていいか」

 

ここにいる全員に関わることのようだ。飛鳥医師と来栖提督で相談した結果決めたことなのだと。

 

「お前らの練度を測らせてもらう。それで規定値に達していたら、第一改装をしてもらうことにしたんだ」

「中立区とはいえ戦力増強は必要だろう。今回の戦闘ではこれで済んだかもしれないが、ここからはますます酷くなる可能性が高い」

 

つまり、私達の戦闘力を底上げしてくれると。改装はその時に負っていた傷も全て治療されるらしく、入渠と同じ効果が得られるとのこと。風呂では沁みたが、普段ではそこまで痛くはないため、練度を測るくらいなら我慢出来る。その結果、改装出来るのなら良し。そうで無くても入渠はさせてもらうということで決定した。

 

 

 

練度の計測はそこまで時間がかからなかった。艤装の使用具合や、身体検査を少しして、明石が少し専用の機械を使った程度。鎮守府に属するものは、出撃するたびにこれを行なっているらしい。

そして、結果なのだが、予想外の結果が出た。

 

「えぇと……鍛えたのって鳳翔さんでしたっけ」

「はい、前衛組は私が神風さんと一緒に。後衛組は羽黒さんと足柄さんですね」

 

出てきた資料を見て引き攣った笑みを浮かべている明石。余程おかしな結果が出たのだろうか。

 

「どんだけ詰め込んだんですかコレ。つい最近まで実戦経験0だったんですよね?」

「そのはずですが」

「全員第一改装の基準値に余裕で届いています。というか、摩耶に至っては第二改装まで行けます」

 

明石の持つ機械で、私達の練度は数値化出来るらしい。1から99の値で表され、当然数値が高ければ高いほど強く育っていることになる。聞いた話だと、文月達第二二駆逐隊は皆が90を超えた猛者。鳳翔や神風に至っては、とある処置により99すらも超えているのだとか。

そして本題。その数値が、私が一番高くて80届かないくらい。一番低くても三日月の60超え。

 

「どうすればこんな短時間で練度上がるんですか……。吐くほど訓練してもここまででは無いですよ」

「少なくとも吐くほどやったぞ」

「休憩無しで数時間とかザラだったわね」

 

私達の見ていない後衛組も、死ぬほど訓練したらしい。三日月がずっとグッタリしていたのを覚えている。それを薬湯で回復し、また訓練しての繰り返しを数日。スパルタとかそういうレベルでは無い。ギリギリまで搾り出した後、無理矢理回復することで上限をどんどん上げているようなイメージ。

 

「と、とにかく、全員改装可能です。1人ずつになりますが、それ自体はすぐに終わりますので、順番にどうぞ」

「んなら、あたしが一番にやってくる。あたしらの継ぎ接ぎがどうなるか、先に知っておきたいだろ」

 

そこは気になるところ。入渠や改装で私達の身体はどうなってしまうのか、先に知りたかった。だが、自分の身体がおかしくなっても困る。みんな尻込みしているところに摩耶が立候補。自分の身体で確かめると言う。

とはいえ、高速修復材でも治せない私達の傷だ。おかしなことになるとは思っていない。何も変わらず、地力だけ底上げされるのではないかと思う。

 

「それじゃあ、摩耶から行きますね。一気に第二改装までやっちゃって大丈夫ですか?」

「あたしは構わねぇよ。センセ、大丈夫か?」

「ああ、問題ない。むしろ問題が出たら止める」

 

この中でも摩耶だけは第二改装、いわゆる『改二』持ち。改装も2回分のため、少しだけ時間がかかるらしい。とはいえ重傷の治療とは違うため、それでもものの20分だそうだ。

 

「それじゃ、行ってくるぜ」

「ああ」

 

摩耶が明石と共に工廠の奥へと消えていく。次に戻ってきたときには改装済みの状態。

やはり少し不安ではある。摩耶の場合は2本の脚そのものが深海棲艦のものへと差し替えられている。入渠ならまだしも、改装により、元の脚が生えるなりした場合、見るに耐えないエゲツないことになりかねない。そうなってしまうと、私も腕が同じようになる。それは恐ろしい。

 

 

 

摩耶の改装を待つ間に、鳳翔は鎮守府での持ち場に戻り、神風は来栖提督と共に今後のことを話すために執務室へ。おそらく下呂大将も通信で参加する。

施設のメンバーで待っていると、本当にすぐに摩耶は戻ってきた。時間にして、予定通りおおよそ20分。

 

「ドックに入ったらすぐ眠たくなってよ、起きたら改装完了って寸法だったぜ。脚も前のままだ」

 

摩耶の脚には、いつも見ている縫合痕がしっかりと刻まれており、移植された右目もそのまま。制服の露出が多少増えており、その色も変化しているが、身体には何の変化もない。

明石曰く、改装するにあたって、以前の身体は基本そのまま使うとのこと。一部は資源などで盛られたりすることもあるらしいが、一番大事な性能の部分だけで終わる場合の方が多いそうだ。そのため、怪我は治るが元からある傷痕などの身体的特徴も改装したところで据え置きとのこと。

 

が、私にだけはわかったことがある。おそらくシロ辺りも気付くだろう。

 

「深海の匂いが強くなっている」

「マジか。あたしのネ級の脚も改装されたってことか」

 

摩耶の場合、脚が深海棲艦そのものだからそういうことにもなるのだと思う。

ということは、私の腕も似たようなことが起きるかもしれないということになる。私の腕は、駆逐艦とはいえ姫級のもの。摩耶とは違い第一改装しか出来ないが、匂いが強くなる程度で済めばいいが。

 

「次は若葉が行く。いいだろうか」

「いいわ。若葉も腕丸ごとだし気になるわよね」

 

ということで、次は私の番。摩耶が大丈夫なら私も大丈夫。そう信じて改装に向かう。

 

「次は若葉ですね。じゃあ、このドックに入って」

 

明石に言われ、ドックへ。妙な匂いもせず、どちらかといえば薬湯や高速修復材のような匂いが強い。改造の際に傷が治るのはこういうこともあるからか。念のため隈なく匂いを嗅いでおくが、不穏なものは無し。

ドックに寝そべると、蓋を閉められる。窓もなく、真っ暗闇。すぐに眠くなるらしいが、狭くて暗いこの空間は思ったよりも恐怖を駆り立てる。

 

「それじゃあ、改装開始します。3、2、1……」

 

明石のカウントダウンを聞いているうちに意識が落ちたらしい。気付けば既に改装が終わっていた。摩耶の言っていた通り、寝て起きたら改装されていたという状態。

 

「はい、終わりました」

 

さっき入ったと思ったら、もう蓋が開けられる。実際はこれでも10分近く経っているらしい。

 

「匂いが強く感じられるようだ」

「ああ、話聞いてますよ。嗅覚が特別利くんですよね。そこも改装で強化されたんじゃないですかね」

 

工廠の匂いがより強く感じ、そしてそれを嗅ぎ分ける力も強くなっている。これはまた戦闘で役に立ちそうだ。

先程はあまり感じ取れなかった明石の匂いも今ならわかる。鉄と油、火薬と、工廠で取り扱うもの全ての匂いが混じり合ったもの。一日中、年柄年中、工廠で作業しているが故の匂い。信用出来る、職人の匂いだ。

 

起き上がり、自分を確認。本当に何もかも治っているようで、腕の傷の痛みはもう感じない。服を着てドックに入ったはずだが、今は全裸に剥かれていたため、傷が治っていることはよくわかった。

摩耶の時にわかっていたことだが、私の縫合痕も当然そのまま。いつもは長袖で隠れている腕のも、タイツで隠れる脚のも、当然腹のも、今まで見てきたものそのまま。だが、

 

「……拡がっている……?」

 

二の腕。今までは駆逐棲姫の白い腕が縫合痕できっちり分割されていたのに、今はそれよりも上に侵食してきていた。今では腕全体が白く、肩でグラデーションが出来ているくらいである。

摩耶のように改造されてより強くなっているのはわかるが、姫級を改造したことで、より私に馴染んでしまったということなのだろうか。

 

「どうかしました?」

「いや……腕がだな」

 

私の二の腕を見て目を丸くした。改装前と改装後で明らかに変わっている部分である。

 

本来の駆逐艦若葉は、改装したところで何も変わらない平々凡々な艦娘である。発揮出来る力は大きくなるが、そこまで。だからこそ家村が捨て駒に使うような艦娘である。

それがこれ。特殊な改装なんてしていない。ドックに控えている改装の妖精が()()()()のだから、これが継ぎ接ぎとしての私の改装なのだろう。

 

「摩耶にはこんな事なかったのに……。確か摩耶の脚はネ級と聞いてますけど、若葉の腕は?」

「駆逐棲姫だ」

「原因それしかないじゃないですか。イロハ級とは力が違いすぎます。それがこんな影響になるなんて……」

 

今までにないことに、明石も混乱気味である。ただの改装では無くなってしまった。

 

「ひ、ひとまず、他の子を先にやってしまいます。その間に何か不調があったらすぐに言ってください」

「了解した」

 

今はどうも出来そうにないので、次に進めることにした。このまま話していてもすぐには解決出来ないだろう。少なくとも今は私に何も違和感は無いため、時間経過で様子見となった。

姫級のパーツが使われているのは私だけでは無い。三日月の左目も駆逐棲姫から移植されたものだ。同じように何かが起こる可能性はある。

 

ひとまず着替えを用意してもらい、みんなのところへと戻った。腕のことを話すと、自分の左目が姫級のものであることは当然知っているため、三日月が少し怯えてしまった。

 

「……わ、私は……どうすれば……」

「それは自分で選ぶべきでしょ。時間はあるんだし、考えとけば? 次、私行くわよ」

「そうね。曙の次は私が行くから、まず考えましょ」

 

三日月には考える時間が必要だ。曙と雷が改装を終えるまでにまず考えてもらい、それでも恐怖が勝るようなら改装は中止とするべきだ。

この改装が無くても、三日月は充分戦えるほどに成長している。霰を救ったのも実質三日月だ。危険だと思うのなら今のままでいい。

 

「若葉、腕の方は」

「何も問題は無いな。改装前と感覚は変わらない」

「そうか。今のうちに診察しておこうか」

「頼む」

 

曙と雷の改装が終わるまでの間に、飛鳥医師にいろいろと診てもらったが、今のところ何もおかしなところは見えなかった。至って普通な()()()()()()である。感覚も、動かし心地も、左手の痣も何も変わっていない。

これから何かあるかもしれないが、日常生活には何ら支障が無いため、今は放置となった。何かあった時では遅いのだが。

 

「今までと何も変わらないな。触診レベルではあるが」

「ああ。少し安心している」

「何かおかしな兆候があればすぐに話すように」

 

勿論そのつもりだ。私だってこの変化に驚いていないわけではない。いつ何があるかわからない爆弾を抱えたようなものなので緊張感が高まっている。

 

「……私は、改装を受けないことにします」

 

考えた結果、三日月は改装をしないことにした。

 

その理由の大きな部分は、移植された場所だ。私は腕だったためにその侵食範囲が拡がっても変色する程度で終わっている。だが、三日月は目。つまり、()()()()ことが問題。侵食が肌の色だけに留まらなかった場合、三日月がどうなるかがわからない。それこそ、考え方まで染まってしまうかもしれないのだ。

駆逐棲姫がどういう深海棲艦かはわからないが、少なくとも、戦闘中に私の腕を疼かせ、敵を倒すことに躊躇が無くなるくらいに好戦的なのはわかる。それに染められてしまうと、三日月が消えてしまう可能性だって少なからずある。

 

「そうか、それならその方がいい。不安を抱えるより、堅実に生きるべきだ」

「大丈夫そうなら……また改めて改装を受けたいと思います……。それまでは……このままで」

 

申し訳なさそうな顔をするが、私達は三日月を失う方が嫌だ。万が一を考えるなら、この選択は間違っていない。博打に出るようなタイミングではないのだ。

 

 

 

この改装により、私達はさらなる力、戦う力を手に入れることが出来た。前回は結果的に大敗を喫したが、次は負けない。

 




若葉から若葉改へ。全体的な底上げがされたため、より戦闘に挑みやすくなりました。ただし、肩までの姫の侵食が今後どういう影響を与えるか。

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