継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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初めての演習

来栖鎮守府で改装を受けた私、若葉であったが、その影響か、駆逐棲姫の腕が私の肩にまで侵食してきていた。私自身には何も問題は無いのだが、今後どんな影響が出るかはわからない。普段通りに生活はするものの、何かおかしなことがあり次第、飛鳥医師に相談することになる。

また、これを見たことで三日月は改装を一旦保留。駆逐棲姫の眼が同じように侵食してきた場合、三日月自身に大きな影響を与えてしまいかねないからだ。これは三日月が考えた結果。改装保留は全員が納得出来るものである。

 

「……足並み揃えられず……ごめんなさい」

「改装してアンタがぶっ壊れる方が迷惑だわ」

「曙の言い方はアレだけど、私も三日月がおかしくなっちゃうかもしれないのは嫌よ。この選択の方が、きっといい方向に行くわ!」

 

落ち込む三日月を慰める曙と雷。少し前ならこんな光景もお目にかかれなかっただろう。三日月の心も大分強くなっている。人間嫌い、艦娘嫌いはまだ根深いだろうが、仲間に対しては本来の三日月が出せている。

今は他の鎮守府ということで、安定を求めるために常に浮き輪を抱きかかえているものの、それももしかしたら卒業するときが来るかもしれない。

 

「謝らなくてはいけないのは僕の方だ。君達の命を助けるために施した治療が、こんなことに繋がるなんて」

「若葉は気にしていない。今は何もなってないんだからな」

「……命あっての物種ですから。先生のことは恨まないことにします」

 

三日月の言う通り、命があるから今までやってこれたのだ。これくらいの影響なら安いもの。死ぬよりマシ。

 

「それの治療法も必ず確立してみせる。それまでは待っていてくれ」

「……はい、期待しています」

 

私はこのままでもいいのだが、三日月はやはり見た目への影響が大きい。せめてそれだけでも消せれば、三日月は大きく前進することが出来るだろう。

 

 

 

昼食の際に、来栖提督から私達のことを紹介された。少しの間ここに住まわせてもらうこと。洗脳された夕雲をこの鎮守府内で処置すること。あとは、家村を相手にした戦いが本格化することである。

神風も今はここに滞在し、下呂大将が来るのを待つことにするらしい。元々、霰と夕雲が治療されるまで施設に残るというのが任務だ。場所は変わっても、その任務は続行中。むしろそのことも相談していたのかもしれない。

 

午後からは飛鳥医師が処置室に篭ることになる。以前と同じなら、夕方になる前には胸骨移植の手術が完了し、その後に透析を4〜5時間かけることで夕雲への処置が全て終了する流れ。午後全てを使い、日を跨ぐ前には完了させたいというところである。

私達はその間はやることが何も無い。基本的には与えられた部屋で待機なのだが、それでは流石に暇だろうと、来栖提督は私達に自由に鎮守府を歩く権利をくれた。やりたいことを好きにやればいいというお墨付き。代わりに、鎮守府に属する者からも自由に干渉してくるとのこと。シロクロ霰の部屋は絶対入らないという約束の下、共同生活が始まる。

 

「ということで、いい機会ですし演習をしましょう」

 

早速鳳翔からの干渉。三日月以外の改装が完了したということで、その慣らしも兼ねて、前々から考えられていた駆逐隊同士の演習をやろうという話になった。

改装から間もない私達には願ってもないお誘い。改装後に慣らしも無しでぶっつけ本番は流石に怖い。

 

「相手は?」

「ちょうど今、私が鍛えている駆逐隊があるんです。その子達の相手をしてください」

 

第二二駆逐隊ではない、違う駆逐隊をぶつけてくるそうだ。鳳翔が鍛えているのだから、さぞかし強いのだろう。艤装と身体の慣らしには最適だ。あちらも強敵との演習が必要なようなので、お互いに求めているものが手に入る。

 

「いいじゃない。どうせ暇なんだし、身体を動かしたいわ」

「……はい。実戦訓練は多いに越したことはないです」

「じゃあ鳳翔さん、よろしくお願いしまーす!」

 

私も問題ない。満場一致で演習を受けることにした。

 

 

 

全員が演習というものが初めて。実戦さながらの戦闘を行なうが、お互いにダミーの弾を撃ち合うという単純なもの。こちらは水鉄砲なので、弾を替える必要もなく、実戦のまま戦うことになる。私と曙は、流石に直撃すると怪我は免れないので、普段の刃が潰してあるものではなく、用意してもらったゴム製の武器を使うことに。

 

「ゴムの刃……」

「普段のより軽いわね。勘が狂いそう」

 

怪我をしないようにするためなのだから仕方あるまい。私も曙も、万が一で仲間を傷付けるのは良くない。

 

演習は限られた時間内で行なわれる。それまでに相手を全員轟沈判定させられれば勝ち。そうで無くても、時間が切れた時に判定勝利というものがある。それに関しては、この訓練を見ている鳳翔が判定することに。

その演習相手として私達の前に立ち塞がるのは、カラフルな髪色の4人。1人を除いて全員が同じ制服を着ているため、おそらく姉妹。あの1人もおそらく姉妹なのだろう。()()()()()を感じる。

 

「では、相手は第二四駆逐隊です」

 

第二四駆逐隊。予想通り姉妹の4人であり、真面目で凛とした銀髪の海風、ダウナー気味な緑髪の山風、勝気でやる気満々な赤髪の江風、こちらもテンション高めな青髪の涼風。旗艦はこの中での長姉である海風のようだ。他の3人を鼓舞し、後衛に回るような雰囲気。

あちらも私達と同じように前衛後衛はっきり分かれているタイプの部隊のようだ。江風と涼風が前衛、海風と山風が後衛。

 

「……若葉が旗艦なのか?」

「前衛で一番突っ込む奴が旗艦でいいわよ。私はガラじゃないし」

 

雷も私に譲るような雰囲気。三日月は言わずもがな。何だかんだ、第五三駆逐隊の旗艦は私が就任することになってしまいそうだ。作戦立案とか鼓舞とかは出来ないのだが。

流れに身を任せ、私が海風と握手。ここからは真剣勝負。あちらは全員が小口径主砲装備。私達のような接近戦は早々やらないか。

 

「鳳翔さんに鍛えられたと聞いています。私達と同じですね」

「みたいだな。力を持っているのはわかる」

 

微笑みを絶やさない海風。おそらくこの4人の中で一番の使い手であることはすぐにわかった。江風もだが、おそらく2人は改二。素の力が最初から私達よりも上。

だが、私達だってそう易々と敗北するつもりはない。これまでにやってきたことで、二四駆を打倒する。

 

「いい演習にしましょう」

「ああ」

 

こちらにはこれといった作戦はない。だが、おそらくあちらは完全なチームプレイを仕掛けてくる。鳳翔はそれを私達に教えるために二四駆をぶつけてきたのでは無かろうか。

 

今までは何だかんだ個人技でもどうにか出来てきた。強いて言うなら、曙とお互いをカバーし合う連携はしてこれたが、後衛組と一緒に戦うのは初めてである。

今のままでは確実に敵に押し潰される。各個撃破が出来る敵ばかりでは無いだろう。そんな時こそ連携だ。

 

「若葉は突っ込むことしか出来ない」

「私達がサポートするわ。私と三日月で道を開くから」

「若葉と私が切り込む。これでいいわね。それしか今は出来ないわよ」

 

初めての連携は手探り状態。失敗もあるだろう。ここで慣れていきたい。

まずはお互いのクセを知るところからだ。私にだって、他人しかわからないようなクセがあるだろう。連携しづらいと言われれば、当然改善する。

 

「よし、じゃあ、行くか」

「ええ。五三駆の初めての連携ね!」

「後ろは任せたわよアンタ達」

「……大丈夫です」

 

どうせなら、二四駆の連携も模倣してしまおう。連携の基礎も、他人から貰う。

 

 

 

前傾姿勢に構える。その隣で曙が槍を前に構える。いつものスタイル。対するあちらは予想通り、江風と涼風が前に立ち、海風と山風が後ろへ。所謂、複縦陣というヤツだ。私達も似たようなものだが、私達が突っ込むため、陣も何も無いのだが。

 

「マジモンの近接戦闘かよ! あンなの訓練の内だけじゃねーの!?」

「かぁーっ! 面白くなってきやがったってんだい!」

 

早速2人が撃ってきた。火薬の匂いがしない代わりに、ペンキの匂いがする。直撃すると色を塗られるというのが演習のようだ。こちらはただの水鉄砲のため色は付かないが、割と強めの衝撃が入るため、倒されたという判定は取りやすい。

砲撃はさらりと避ける。精度はそこまで高くないが、割と嫌な位置に撃ってくる。

 

「雷、三日月、前衛の足止めを」

「了解よ!」

 

言い切る前に、雷による私と曙の隙間を縫った砲撃。鳳翔の解析により器用さが伸ばされ、射撃精度が高まっていた。どんな状況でも、障害物を無視するかのように攻撃していく。

その砲撃は江風の顔面に向けて飛んでいったが、紙一重のところで避けられた。本当にギリギリだったらしく、水鉄砲で髪が濡れるほど。私達の知らない内にこれほどの精度を手に入れていたとは。

 

「っぶね!?」

「狙うねぇ! んなら、姉貴達よろしくぅ!」

 

合図と同時に海風の砲撃も開始。こちらは精度が高い砲撃だ。狙いは後衛側。雷は黙らせないとまずいと判断したのだろう。

 

「雷さん、下がりましょう。狙われています」

「了解。回避は三日月に頼るわ」

 

その砲撃に対して、先んじて三日月の回避命令。こちらも鳳翔の解析により伸ばされた危機回避能力により、後衛への攻撃を予測していた。着弾する頃にはそこから離れた位置。予測しているため雷にも指示が出来ている。

 

「曙、若葉は海風を狙う」

「なら私は山風ね」

「じゃあ……出る!」

 

江風と涼風の砲撃を掻い潜るルートを探し、海面を一蹴り。改装の成果が大きく出ており、速さがかなり増している。深海棲艦の力を使わずとも、それに近しいほどのトップスピードが出た。神風にはまだ遠く及ばないとは思うが、神風との訓練のおかげで、この速度で変わる風景も視認出来る。

狙いは海風。後衛を狙うのを止めてもらいたい。雷と三日月に前衛の足止めをしてもらい、私と曙の道を開いてもらう。そして後衛を先に終わらせようという、簡単な作戦。

 

「ンだありゃあ!?」

 

江風の隣を通り過ぎ、海風の眼前へ。雷を狙った隙を突いた渾身の一撃を決め()()()()()

そんな時に限って、キナ臭い匂いを強く感じた。このまま海風を攻撃したらまずいと感じるほどに。海風の真横にいたにもかかわらず、その気配が一瞬わからなかった。

 

既に私の頭に、山風の持つ主砲が突きつけられていた。

 

「撃つよ」

 

容赦なく砲撃。匂いを感じていたために辛うじて回避出来たが、本当にギリギリだった。改装前の嗅覚なら間に合っていない。

これは、曙がここに辿り着く前に、私が海風を攻撃すると読んでいての行動だ。私の速度が見えていたか、ここに来ると予想していたか。どちらにせよ、この4人の中で一番注意しなくてはいけないのは、山風ということだ。

 

「避けるの……!?」

「危なかった。本当にギリギリだ」

 

回避と同時に海風の持つ主砲を叩き落とす。が、それは回避されてしまった。山風だけじゃない。一番に警戒すべきは山風だが、一番動けるのは海風だ。踊るようにというわけではないが、敵の奴隷と同じような俊敏性を感じる。

必要最低限の動きで攻撃と回避を繰り返す。それ以上に速く動けるが、無駄な動きが多いために体力を消耗する私とは違う速さだ。それに目がいい。

 

「若葉!」

「助かる。山風を止めてくれ」

 

曙が合流。これでお互いに前衛対後衛の形に持っていった。雷と三日月に2人を任せ、今は目の前の2人に専念する。

 

「放っておいて」

「放っておくかっての!」

 

この状況が出来上がった途端に戦場から離脱する山風。攻撃は止めないが、確実に私達の射程からは外れていく。曙はそれを追うために一緒に離脱。私は海風と1対1となる。

 

「お前が崩れれば勝ちが近付くな」

「簡単にはやらせませんよ」

 

言うだけあり、どれだけ素早く攻撃しても回避される。まるで本当にあの時の夕雲を相手にしているようだった。改装されたとしても、ここは今までの訓練の時間の差だろう。基本付け焼き刃の私達とはわけが違う。

勝つためには、海風に2人つけたい。それならば、後衛組を襲っているあちらの前衛組を片方だけでも剥がしたい。

 

途端にまたキナ臭い匂い。ペンキの匂いが私に向かってきているような感覚。

 

「山風か……!」

 

気付けたおかげでまたもや紙一重。曙を捌きながらも、射程外からしっかり私を狙ってきた。曙はまだやられていないはずなのに。

これは1対1を複数個作る戦いだと分が悪い。一旦後衛組と合流するべきだ。

 

「曙! 一旦下がれ!」

「後ろと合流!? 了解!」

 

海風から退避し、後衛組と合流するために海面を一蹴り。一気に海風から離れた。少しの間だけ曙が戦場に1人になるが、これまでに伸ばされた持久力のおかげでスペックダウンは全く見えない。

 

「江風! そっち行った!」

「あいよ! 待ってましたってンだ!」

 

先程の海風の時のように、江風の眼前へ。先程はそれを予測していたかのような山風に迎撃されたが、今度は涼風にも注意しつつの攻撃。

しかし、海風から一言指示があったことで、既に備えられていたかのように私の眼前には江風の主砲。さらには涼風まで私を狙っていた。同時に撃たれたら回避が出来ない。確実にやられるであろう江風の砲撃の回避を優先する。

 

「若葉さん!」

 

それを三日月が止めてくれた。私に気を向けたことで、江風の意識が後衛組から外れている。そして、三日月の危機回避能力が発揮。()()()()()もしっかり感じ取り、私を援護するために砲撃してくれた。

江風、涼風、そして三日月の砲撃がほぼ同時に繰り出され、私は江風の砲撃を紙一重で回避するが、涼風の砲撃が腕に直撃。代わりに三日月の砲撃は江風の背中へ。

これにより、私は中破、江風は轟沈判定。

 

「なろー、やられたぁ!」

「雷、涼風を!」

「わかったわ!」

 

これでこちらが3対1の様相に。曙がまだこちらに戻れていないが、先に涼風を倒しておけばここからが楽になる。

と思った時には遅かった。いつものキナ臭い匂いを感じた時には、雷が撃ち抜かれていた。私が引き剥がしたはずの海風が、既にこちらまで肉薄していたのだ。これにより轟沈判定。

 

「え、嘘!?」

「雷さん!?」

「余所見してちゃあいけねぇなぁ!」

 

隣の雷が撃たれたことで動揺した三日月が、涼風に撃たれてしまった。危機回避により辛うじて轟沈判定は免れたが、大破判定。お返しに涼風を斬り払い、あちらにも中破判定を与える。

 

「痛っ!? ゴムでも痛ぇ!」

「くそ……ガタガタだ」

 

あちらには無傷の海風と山風が健在。曙がまだこちらに合流出来ていないことを考えると、下がったはずの山風に粘られている。

 

「時間切れです」

 

ここで鳳翔の宣言により演習時間終了。思ったよりも短いと感じてしまったが、今までの攻防はそれなりに長い時間使っていたらしい。

 

「第五三駆逐隊、旗艦中破のため、第二四駆逐隊の勝利です。お疲れ様でした」

 

結果、戦術的敗北。事実、こちらは雷が轟沈判定だ。実戦なら死んでいる。私も腕を撃たれているため、本来なら捥げていてもおかしくない。無傷なのは曙だけだった。

 

初めての演習は惜敗という形で幕を閉じた。反省点は多い。

 




今回のメンバー、想定練度は以下の通り。
若葉Lv79、曙Lv75、雷Lv68、三日月Lv62
海風Lv85、山風Lv80、江風Lv80、涼風Lv77
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