下呂大将の抜き打ち査察が決定したものの、その出発直前に襲撃を受けた来栖鎮守府。今までの経験からしっかりと対策し、今のところはそれに対して苦戦をすることはない。
猛烈な空襲には文月筆頭の防空部隊と鳳翔筆頭の空母隊が向かい、制空拮抗。曙殺害の件がある海中からの狙撃は、来栖提督の判断で潜水艦隊を既に配置済み。これで残ったのは、本隊の襲撃と、自爆の危険性。あちらは味方の被害を考えずに回避すらせず突っ込んでくる恐れまである。
どれだけの艦娘を保持しているのか知らないが、この数を用意している辺りよくやるものである。下呂大将が内通者がいると言っていたが、パトロンなのだろうか。
私、若葉は第五三駆逐隊として、本隊迎撃に参加。下呂大将率いる第一水雷戦隊を追うように戦場へ。鎮守府の方にも大分艦娘は残っているため、突撃からの自爆さえ注意しておけば、おそらくは大丈夫。その自爆を止める術が無いのが厄介だが。
「薬と火薬の匂い……全員自爆出来る準備がしてある」
「……リミッターは」
「おそらく解除されている。目がおかしい」
人形と思われる艦娘達は、みんな目が血走り、血管が浮き出ているような状態。このままだと確実に命を落とす。だが、気絶させても解除されたリミッターが戻ることはない。
これをどうにか出来るのは、姫級の深海棲艦だけ。私と三日月はパーツを持っているだけなので止めることは出来ない。シロクロかセスの呼びかけでなくては無理だが、その3人は今は別の仕事だ。
霰も夕雲も、この戦いに心を痛めている可能性が高い。誰かが側にいなくては崩れる。離れるわけにはいかず、心の安定に努めてもらう。
「雷、三日月、人形を気絶させてくれ。顔面に当てれば止まるくらいはする」
「了解。イライラをぶつけます」
「三日月、あんまり荒っぽくなっちゃダメよ。辛いなら私に頼ってくれていいんだからね!」
雷は持ち前の器用さを使ったヘッドショットで、人形を確実に気絶させていく。三日月はその危機回避能力から、一番来てほしくないところの人形に攻撃。私と曙は自分への被弾を心配することなく、戦場の真ん中まで来ることが出来た。
「後衛が強いと私らが楽でいいわ」
「ああ。万全な状態でここまで来れる」
敵は部隊1つや2つでは無かったため、乱戦となっていた。
その全てが人形であり、リミッターが外され、異常な強化がされている艤装を扱っている。駆逐艦とはいえ侮れない火力を誇り、戦艦クラスともなるとエゲツない砲撃。ただし、それを放つたびに本人にガタが来るらしく、完全な使い捨てであることがわかる。
その中に1人、見知った顔を見つけた。風雲である。
「また会ったな」
「ええ。今回はちゃんと考えてきた。前のようにはいかないわよ」
神風の存在から、内火艇は持ってきていないようだ。対地攻撃は全て別の者に任せ、迎撃の部隊を返り討ちにするための主砲装備。
「呂500もいるのか?」
「さぁね。自分の心配した方がいいんじゃないかしら」
「お前がな」
私の背後から、三日月が容赦なく顔面に水鉄砲を砲撃。人形でも気絶するくらいなのだから、意識を刈り取るくらいは簡単に出来る。だが、簡単に避けられた。前回戦った時より、動きが速くなっている。さらに改造を受けたか。
避けられたことで小さく舌打ち。やはり元凶との戦闘では、三日月は少々荒っぽくなる。
「当然、私だって強くなっているわ。それくらいわかるでしょ」
「ああ。何も対策しないでここに来るなんて思っちゃいない」
と言いつつも、真っ向勝負ではなく、乱戦の中に紛れていく。4対1は流石に不利と悟ったか。追おうと思った時には人形が風雲を隠すように行動していた。
今見ている感じ、人形ではないのは風雲だけ。あとは全員人形だ。鎮守府側に出没した潜水艦と、爆撃をしている空母隊はまだ見ていない。警備隊は人形より先に敵空母隊を叩きに行ったようで、足柄達の姿もここには無かった。
「風雲を追う」
「そう行きたいとこなんだけどさ! 人形が鬱陶しいわ!」
乱戦に突入させられ、流れ弾がこちらに飛んでくるなかなかに面倒な状態に。風雲を追いたくても、人形が邪魔で姿を視認したままでいることで精一杯。雷と三日月が人形を退かすために砲撃するが、風雲の近くの人形なだけあり、回避性能が今までとは違った。処理が出来ない。
「やぁ! 僕達が露払いをしようか!」
「邪魔な人形、退かしてあげる!」
そこに飛び込んできたのは松風と朝風。2人共、刀は鞘に納め、抜刀の構え。
神風のそれは一度見ている。流れるような刀の動きの後、自分よりも大きな内火艇がバラバラにされていた。太刀筋も見えぬ早業だったくらいしかわからなかったほどだ。
だが、この戦場で何をするのか。峰打ちで気絶させるとかか。
「キミ達が意思を持たなくてよかったよ! 悲鳴でもあげられたら困るからね!」
神風とは違う、力強い抜刀。その剣閃は確実に
いやいや、敵は洗脳されており、意思を奪われているとはいえ艦娘だ。なるべく無傷で鹵獲し、自爆装置を外して治療したいところだ。現に誰も敵に殺傷武器を使っていないし、気絶させるだけで済ませているくらいなのに。
「お、おい、お前ら!」
「何よ」
朝風のスラリと抜いた刀が、松風の時と同じように
「相手は艦娘だぞ! 殺すな!」
「
松風に言われ倒れた人形を見ると、服は切れているし血は出ていたが
「この戦いのための特注の刀なんだ。こいつの刀身は高速修復材で出来ていてね、艦娘を斬っても、その傷を即座に治すのさ。流石に首を斬り落としたら治る前に死んでしまうけどね」
「だけど、身体の中にある
ここ最近襲撃してくる奴隷と人形には、自爆装置が埋め込まれている。それはちょうど今、松風と朝風が斬った場所にあった。腸に紛れ込ませて仕込まれた起爆装置。艦娘諸共それを斬り、刀の効果で艦娘
だが、斬られているのだから当然酷い痛みを生じる。人形だから叫ぶことも無かったが、奴隷に同じことをしたら……そもそも人形だって、こうしている記憶は持っているのだ。考えるだけでもゾッとする。
「僕らは人形達を確実に斬り伏せる! まんまと逃げ果せたお姫様はキミ達に譲るよ!」
「さっさと追いなさい! アイツがすぐに自爆するようなことなんで無いでしょ!」
飛んでくる流れ弾をヒョイヒョイ避けながら、私達に指示をくれた。リミッターを外された人形はいずれ沈んでしまう。それだけはどうにも出来ないのが悔しい。
海中から呂500が人形に指示を出していたことを考えると、ある程度許容はされているとは思う。スピーカー越しでもどういうわけだか指示を判定していた。だが、それは呂500だから通っている可能性もある。直に命令する、もしくは、呂500が命令するというのが人形の意思の書き換えか。
「くそ、今は先に行くぞ。死ぬ前に鎮守府に連れて行くことが出来ればいいんだが……」
この中の姫級扱いの艦娘は、見えている限り風雲だけだ。少なくとも、風雲を倒せばこの場は収まる。
「速攻で終わらせて、全員運べばいいわ。シロクロやセスに命令してもらって、ギリギリで止めれば済む話よ。死ななきゃどうとでもなるわ」
「ああ、なら早く終わらせないとな」
スピードなら第五三駆逐隊では私の専売特許だ。人形達が後どれくらい保つかはわからないが、なるべく早く終わらせて救出したいところ。
乱戦に神風型が加わったことで、徐々にこちらが押し返す形になってきた。5人の剣豪が人形達の自爆装置を着実に破壊していき、リミッター解除によるタイムオーバー以外では心配が無くなる。
とはいえ、自爆装置が無くなっただけで、意識を失ったわけではない。動きは鈍るが戦闘は続行。
「しつこいわね」
「ああ」
乱戦の中を逃げ回る風雲に追いついた。人形を盾にしながらも的確にこちらを砲撃してくる風雲は、私達の顔を見て心底嫌そうな顔をする。
「悪いが、時間がない」
一番槍は私だ。今は怒りも恨みも控えめのため、戦闘の昂揚だけの四肢の疼き。それでも、改装されたおかげで前回の戦いよりも素早く動ける。そして今回は、演習により連携を強化された状態だ。4対1という数的優位もあり、戦いやすさは今まで以上。
事前準備と訓練により、今まであまりいい形に進まなかった戦闘が、理想的な形に進んでいく。これで全員救えれば尚良いのだが。
「いい加減にしてよ!」
風雲の砲撃が開戦の合図。狙いは私だったようだが、撃たれた時には既に回避済み。キナ臭い匂いで私が狙われていることはすぐにわかったため、撃つ瞬間には回避行動を取れていた。さらには、その後ろに控えていた三日月も、危機回避能力でしっかりと回避。
神風が言っていた、撃たれてからでも避けられるのが、少しだけわかった気がする。
「いい加減にするのはお前だ」
「迷惑してるんです。そっとしておいてもらえますか」
回避すると同時に三日月が、今度は避けづらい胸を狙った砲撃。イライラをぶつけるように2度3度と立て続けに放つが、それは踊るように躱す。
だが、回避直後に脚を雷が撃ち抜いた。避ける方向まで考えられた、的確な一撃。器用な雷だから出来る、ピンポイントな砲撃。
「っくっ!?」
「さすが雷、いいところを狙う」
僅かとはいえ、それだけの怯みがあれば、私は近付ける。即座に風雲の背後に回り、艤装を破壊するためにナイフを突き立てる。が、これは流石に大胆すぎたか、急速に前進されることで回避された。相変わらずタービンだかの違法改造によって滅茶苦茶な機動力である。
とはいえ、その回避は狙ってやらせてものだ。私が背後に回り、三日月と雷が砲撃で左右を塞いでいたため、前しかない状況を作っている。
「避けるんじゃあ、無いわよ!」
曙が真正面から槍を薙ぎ払い、横っ腹に潰れた刃を喰い込ませた。
今までならこれも回避されていただろう。一朝一夕とはいえ、連携に特化した訓練を延々と繰り返したおかげで、合図無しにでもここまでの連携は可能になった。全員が全員、ここにいて欲しいという場所にいる。訓練の賜物。
「っぎ!?」
「その邪魔な主砲、ぶっ壊してやるわ!」
腹をやられて動きが止まったところで、身を翻し回転をかけた突きを繰り出し、風雲の持つ主砲の砲身へ突き入れる。放つ間も無く主砲は破壊され、攻撃手段の1つが失われた。
まだ魚雷はあるため油断出来ない。私が近くにいるため、なかなか撃てないようだが、自爆覚悟の攻撃はいつでも用心しなくてはいけない。
「こっのぉ……!」
「今は寝てて!」
主砲が破壊されたことで一瞬動揺を見せたのを見逃さないのが雷。曙の陰から見事なヘッドショットを決め、風雲の脳を揺らす。一瞬白目を剥きかけたようだが、意識を手放すことなく、逆に雷を睨みつける。
「まだ……」
「寝てろと言っているでしょう」
さらに追加で三日月がヘッドショット。逆方向から揺さぶられ、今度こそ意識を手放させた。倒れる寸前で私が艤装を半壊させ、万が一まだダメだったとしても、航行不能の状態に持っていく。あとは自爆だけどうにか出来れば、風雲は終わりに出来る。
「神風型! 誰か来てくれ!」
「お任せください」
近くにいたのは旗風。ゆったりとこちらに来て軽く刀を振ると、人形の時と同じように風雲の腹から血がぶち撒けた。が、服が切れただけで傷はない。内部の自爆装置だけしっかりと破壊されている。
当然気絶していたとしてもとんでもない痛みを伴う。旗風に斬られたことにより、気絶させられていた風雲は覚醒。腹の痛みに苦悶の表情を浮かべる。脂汗を浮かべ、悲鳴を我慢しているようだった。
「なに……したのよ……!?」
「いろいろだ。これでお前は無力化出来たな」
旗風は会釈した後、また他の人形の処理に向かう。羽織が返り血まみれだったのが少し恐ろしかったが、助かった。
「他に姫級はいるか」
「この辺りには見当たらないわね。一回鎮守府に運びましょ」
別のところの戦闘はまだまだ終わっていない。特に敵空母隊は未だ健在だ。それは警備隊に任せ、私達は一旦鎮守府に戻ることにした。
今までの経験を最大限に活かした、最善の勝利。まだ戦闘は終わっていないものの、私達としては大きな結果となった。
第五三駆逐隊としての初の戦闘は、4人がかりで1人をやるとはいえ、快勝となりました。なんだかんだ施設の駆逐艦4人が同時に同じ敵を相手にするのは何気に初めて。