継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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雷の正体

少しして、医務室で眠っていた雷が目を覚ました。周りに摩耶や飛鳥医師がいたことに驚いていたが、自分がどうしてそうなってしまったかは、しっかり覚えているらしい。

 

「雷、今は何か聞こえるか?」

「ううん、なんにも。大丈夫よ」

 

いつもの雷のようにはいかないようで、笑顔ではあるものの少し疲れたような表情。あんなことがあった後だ。突然またおかしな声が聞こえてもおかしくない状態に、雷も戦々恐々としている。

物言わぬ深海棲艦の声が聞こえ、意思も理性もないものの心の内のようなものが理解出来てしまうというのは、さぞかし恐ろしいことだろう。私、若葉には匂いしかわからないので、そういう恐怖が理解してあげられない。

 

「キツイなら今日は休んでてもいい。少し検査もしたいしな」

「うん、そうさせてもらうわね。ごめんね先生、施設が大きくなったから、お掃除も時間がかかるのに」

「掃除よりも君が倒れたことの方が問題だ。頼ってほしかったら、ちゃんと治そうな」

 

優しく頭を撫でる。さすが一番付き合いが長い2人だ。お互いの在り方が近い。

飛鳥医師の言う通り。施設の掃除など後回しで構わない。なんなら私達だって出来ること。雷が倒れたという事実が問題だ。今はゆっくり休んでもらい、心身共に回復してもらうのが先決。ポジティブで元気な雷じゃないと、こちらの調子が狂ってしまう。

 

「改装されてからの精密検査は初めてだからな。摩耶と若葉、曙にも当然受けてもらう」

「そうね、私もちょっと驚いちゃった。あんなこと初めてだったし」

「原因がわかれば、聞こえなくなるようにも出来るかもしれない。そのためにも協力してくれ」

「ええ、わかったわ」

 

雷の今後にも繋がる可能性のある検査だ。明日に風雲の治療も控えているため、その前にケリをつけたいところである。

 

 

 

検査は私の嗅覚や、シロの感覚的な部分も使って行なわれる。私達よりも最優先は雷。施設全体を巻き込んだ大事になっていた。それだけ雷が頼りにされている証拠でもある。

私とシロは医務室の中で、残りの者が医務室の前に待機しているほどである。夕雲や霰も今は医務室の前。施設の全員がここに集合している状態。

 

「深海の匂いは少し強くなっている。私達と同じだ」

「体内の深海のパーツが、改装で活性化しているのか……? 若葉の腕の件と同じなんだろうか」

 

雷の身体に入っているのは、姫級ではなくイロハ級だ。摩耶と同じように、身体には影響は無いはず。

深海の匂いの源は、傷のある腹。そこ以外からは感じないため、内臓経由で何処かに拡がっているようなこともない。そこ一点に絞られている。前回の状態を隈なく嗅いだわけではないが、これは拡がっていないと判断できた。

 

「ここで出来る限りを確認したが、以前から変化していないことはわかった。数値は多少変わっているが、概ね平均値。所謂、健康優良児というヤツだな」

「それはちょっとホッとしたわ」

 

飛鳥医師が医学的に見たら、改装により身体に変化を及ぼすことは無かったようだ。改装前後で変化した数値は無し。多少の前後も誤差程度とのこと。

つまり、外も中も何も変わっていない。改装したことで能力的には格段に上がっているものの、肉体的に影響は無いことが実証された。

 

ここからは感覚的なもの。若干オカルト気味な判断材料になるが、シロの発言は今まででも百発百中だ。信用度は非常に高い。

 

「シロ、君はどうだ?」

 

雷を見ながら訝しげな表情を浮かべているシロ。そんな表情を見ていると不安になってしまう。

 

「イカズチ……駆逐艦……だよね?」

 

おかしな問い。何処からどう見ても駆逐艦娘だし、検査の結果的にそれもわかっていること。それ以外に何もないはずだ。

 

「……私には……()()()()()()()

 

空気が一気に冷えたような感覚。雷が戦艦であるはずがない。見た目だって駆逐艦雷だ。艤装は継ぎ接ぎではあるものの、それも摩耶謹製の駆逐艦のための艤装だ。先日は、それを装備して襲撃を撃退したのだから、間違いない。

そんなことを言われたことで、雷がまた混乱してしまう。失った記憶がそれに関係しているのか、艦種すら違う存在であることが浮上してきた。

 

「わ、私が戦艦? そんなわけ」

「あ……そのお腹のせい……かな」

「確かにここには戦艦のもの入ってるけど……若葉だって脚に雷巡の骨が入ってるわ。お腹の傷だって重巡の皮膚で治してるし」

 

その言い分が罷り通るのなら、私は雷巡やら重巡に見えてもおかしくないし、曙は軽巡になる。

だが、その症状は雷にしか起きていないもの。シロから見れば、今の雷は駆逐艦と戦艦、どちらの要素も持ち合わせていると感じるらしい。

 

「深海の匂い……ワカバ達とはちょっと違う。()()()()()に見える……すごく見ないとわからないくらいだけど……」

 

少し触らせて欲しいと、シロが雷の耳に触れる。実際に状況が変わってしまった耳に直接触れれば、何か原因がわかるかもしれない。以前に霰の胸骨の異常も確認したのだから信用度も高い。

 

「………………」

「し、シロ? ずっと黙ってられると不安になるんだけど……」

 

耳だけではなく、範囲が頭全体になり、今までにないくらい入念に触れている。私や飛鳥医師ではわからない、深海棲艦の何か。人間の技術ではまだ解明できないようなことをしているのかもしれない。

 

「……わかった」

「な、何が……?」

「イカズチ……()()()()()()()()()……?」

 

完全に空気が凍りついた。何を根拠にそう言っているかはわからない。

 

「……そうか。『D事案』か!」

 

何かに気付いた飛鳥医師が叫んだ。初めて聞く言葉。医療とかそういうものとは全く関係ないことであるのはすぐにわかる。

 

「それは……」

「特殊なドロップ現象だ」

 

そこから飛鳥医師がD事案のことについて説明してくれた。この事案自体はかなり機密に近い位置にある内容。私達は雷のことであるために知る権利があるとされたが、口外は禁物と釘を刺された。

自分のことであるので、雷も緊張しながらその話を聞く。手が震えていたようなので、少しでも落ち着けるように手を握った。少しだけ、汗の匂い。

 

D事案とは、今飛鳥医師が言った通り、特殊なドロップ現象である。

本来のドロップ現象は、抑止力として海そのものが艦娘を生み出す現象。この中では摩耶が唯一その存在であり、人の手による建造ではない、自然発生の艦娘である。

だが雷は、憶測ではあるものの、それとは違う生まれ方をしているという。その生まれ方というのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()というもの。海が艦娘を生み出した時、近くにある深海棲艦の死体を巻き込んでしまうというのがあるらしい。そんなことは極々稀。

 

そんな生まれ方のため、それは深海棲艦から艦娘に()()()()()()()と認識される場合もある。

D事案のDは、Drop(落下)ではなくDawn(夜明け)。深海から、海上へ上がってきた艦娘。それが雷の正体。

 

「私が……深海棲艦……?」

「違う……イカズチは艦娘……。素材に混ざっちゃってるだけ……正真正銘……ちゃんと艦娘だよ……」

 

D事案で生まれた艦娘とはいえ、その身体は深海棲艦でも何でもない、普通の艦娘だ。身体に何の変化もないし、生活に何の支障もない。当然、人間に敵対行動を取るようなことも無い。

だが、雷には普通の艦娘とは違う部分がある。それが今回の異常に繋がってしまった。

 

「そうか……そういうことか。また僕は謝らなくちゃいけない……」

 

飛鳥医師は何かに気付いたようだ。それは飛鳥医師にとっては、あまりいい方向には思えないことのようである。

 

「お腹の中のものが……イカズチと()()()()()()()()()。多分……雷の素材になった深海棲艦と……お腹の中の深海棲艦は……同じ種類の深海棲艦」

 

ということは、雷は戦艦レ級の死体を巻き込んで作られた艦娘。そこに治療の一環で戦艦レ級の内臓が入り、さらには改装によって身体により馴染んだことで、雷に何かしらの影響が出てしまったということになる。トドメは中立区に生まれた深海棲艦の声か。

その深海棲艦は、言葉を持たないイロハ級の声を聞くことが出来たのかもしれない。その力が、雷にも表れてしまった。

 

「すまない雷……僕の治療のせいで……」

 

さすがの雷も、自分の成り立ちを知ったら動揺せずにはいられなかった。握っている私の手を、さらに強く握ってくる。

だが、すぐにその力は緩む。雷の顔を見ると、いつもの笑みに戻っていた。

 

「先生、大丈夫よ。私、ちょっと嬉しいの」

「嬉しい?」

「だって、私はここに来る前の記憶が無かったじゃない。思い出せないなら必要のない記憶なんだろうって思ってたけど、そうじゃ無かった。()()()()()()()()()()のね。なら納得が行ったわ」

 

悩んでいないように見えても、雷は記憶が無いことを気にしていたらしい。いるはずの姉妹のことも一切思い出せないのは特に辛かったのかも。

だが、これでわかった。元々が深海棲艦だったというのもあり、そういった記憶を持たずに生まれてしまったのだ。怪我のショックで記憶を失ったわけではない。生まれた時からそれを持っていなかったのだから、何をやっても思い出せるはずがない。自分が艦娘であるというのもわからなかったというのも、そういう理由があったからか。

 

「今までと変わらないわ。敵が来たら私には声が聞こえるってことは、私は一番最初に気付けるってことよね。このお腹の中にいる子のおかげで、この施設が守れるのよ。それは喜ぶべきよ」

 

腹の傷を撫でながら、愛おしそうに微笑む。妊婦じゃあるまいし。

やっぱり雷はポジティブだった。全てをいい方向に捉える。確かに、敵の声、生まれる瞬間がわかるというのなら、発見する前に準備が出来る。中立区を守るのなら、これほどに便利な能力も無い。

 

「先生、もう大丈夫。怖かったけど、事実がわかったら逆に気分が良くなったわ」

「雷……」

 

事実、手の震えは止まっていた。自分の存在が理解できたおかげで、何もかもを納得していた。汗の匂いも引いていく。

強がりでも何でもない。本当に割り切っていた。ポジティブもここまで来ると怖いものではあるが、落ち込んで何も手が付かないとか、そういうものより全然マシ。

 

「今日からは新生雷よ! この施設を守っていくんだから!」

 

いつものテンションに戻っていた。検査が終わったためにベッドから降り、元気いっぱいであることを体現した。

呆気にとられてしまった。まさかここまでとは。その戦艦レ級という深海棲艦も、とびきり明るいような深海棲艦なのかもしれない。そういうところも噛み合ってしまっていた。

 

 

 

検査の結果はすぐに施設の全員に伝えられた。口外してはいけない情報でも、施設内なら共有してもいいだろう。ここからは外に出さないということで。

流石に全員驚いていた。D事案自体、本来ならほぼ伏せられているようなことだ。生まれた瞬間に立ち会うくらいでなくてはその事実がわからないほど。今回はシロのおかげで話が全て繋がったが、シロがいなければその事実すら闇の中だった。

 

「あ、自分でわかっちゃったからかしら。浮き輪さんが何言いたいかわかるかも」

「それ、私にもうっすらしかわからないんだけど!?」

 

エコとは主人と艤装という関係であるために完全に心が通じ合っているようだが、浮き輪は別物のため、持ち主のセスですら意思疎通がギリギリだという。

それと意思の疎通が出来るというのは、今までにない能力。艦娘の心を読むとかは無理だし、シロクロやセスの本心が聞こえるとかも無理だが、私達と意思の疎通が難しいものの声が聞けるというのは非常に大きい。

 

「多分……一度声を聞いたことで……()()()()()()()()()()()()んだと思う。これからは……全部聞こえるんじゃないかな……」

「そうなのね。便利じゃない!」

 

ケラケラ笑っているが、結構大事。聞かなくてもいいことまで聞くことになるのだから、雷にはそれを耐えてもらわなくてはいけなくなってしまう。

 

「大丈夫、この力、絶対いい方向に行くわ。あ、でもどうせなら元々の艤装とかも使ってみたいわね。戦艦レ級?の艤装とか使えないかしら」

「無茶言うな。ここに無ぇってのもあるが、お前はまず駆逐艦なんだよ。レ級がどんな深海棲艦かは知らねぇけど、最初から接続が出来ねぇ」

「なーんだ、残念。もっと施設を守れると思ったんだけどなー」

 

本当に元の雷に戻ったようだ。その姿に、みんなが安心した。

 

「まぁ、雷はこうでないとな。うん、明るい雷が一番だ」

 

摩耶の言う通り、雷はこうでなくては。

 




レ級の髪型をほんの少しだけ変えて、ヘアピン付けたコラ画像が昔ありましたね。今回はそれを踏襲しています。元がレ級なら、飛び抜けて明るくてもおかしくは無いかも。

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