下呂大将が大本営の内通者、目出を尋問している間に、リコリス棲姫との接触を図ることとなった。私、若葉はその中でも、リコリス棲姫の持つ花が、本当に家村鎮守府跡で発見された花弁と同じであるかを確認するために同行。同じように三日月も同行している。
だが、そのリコリス棲姫の領海に入った途端、猛烈な空襲に襲われた。近付くことすらままならないほどの絨毯爆撃に四苦八苦しているものの、私だけは自身のスピードを活かして島へ肉薄。リコリス棲姫の間近へと接近した。
「話を聞け」
「キクミミモタナイナ」
艤装に座って艦載機を発艦していたリコリス棲姫は、立ち上がり私を迎撃してきた。空襲により根本的に近付けさせない戦術のようだが、近付いたところでまさか蹴りが飛んでくるとは思わなかった。
「ヨクモマァ、ココマデコレタモノダ」
「風雲に道案内してもらったからな」
彼岸花の島に近付いたおかげで空爆の脅威から免れることは出来たが、島に上がると即座に迎撃されるため、これ以上間合いを詰めることが出来ない。
他の5人は空爆のせいでこちらに来られないため、私だけがリコリスと対面している状態だ。話術は得意な方ではないが、どうにか説得がしたいところ。
「若葉達は戦いに来たんじゃない、話を聞いてくれ」
「シツコイ」
幾何学模様の滑走路からは、止めどなく艦載機が発艦しているが、その内のいくつかが一度リコリス棲姫の後ろに回った後、爆撃ではなく射撃でこちらに攻撃してきた。爆撃出来ず、自分の手が届かないところにはコレ。万能すぎやしないか。
その射撃は匂いにより回避。だが、弾のスピードが速く、タイミングを間違えると回避するのも難しい。
「くそ……頼む、話を!」
「シツコイトイッテイル」
島から離されれば爆撃に変化して余計に近付けなくなる。これ以上移動させられるわけにはいかないが、そのままでいると艦載機による射撃で押し潰される。だからといって回避しつつ島の上に上がれば本体からの迎撃。
最善の方法は艦載機を撃ち墜とすことなのだろうが、今回も私の装備はナイフ一本である。それすらも出来ない。リコリス棲姫が私に敵対心を持っている時点で、ほぼほぼ詰みの状態。せめて話くらい聞いてくれればいいのだが。
「いい加減に……しろっ!」
ここで一転攻勢に出る。近付いて組み伏せるくらいしないと話を聞いてくれないだろう。私の実力でリコリス棲姫を組み伏せることが出来るかはわからないが、やらなければ先に進むことが出来ない。
神風がやったあの神速を模倣するように突っ込む。腕にも脚にも疼きは無いが、海上を一蹴りしたことで、一気に間合いを詰めることに成功。艦載機により引き剥がされそうになっていたが、即座に島の上へ。
「シマニアガルナ」
それを迎撃するために、既にリコリス棲姫は動き出していた。追いつかれるような速さでは無いと思っていたが、あちらは相当戦い慣れているのか、私の動きを予測しているかのように、進路上に腕を伸ばしてきていた。
さっきの蹴りからして、掴まれたら乱雑に投げられるか絞められる。それを避けるために即座に回避。だが、海の上には降りないように、島の上で回避。
「……!」
「くそ、花が……!」
回避した際、足下に花が。別に踏みつけてもいいのかもしれないが、それは躊躇われたため、どうにか回避しながらもう一度リコリス棲姫に接近。リコリス棲姫の周りは特に花が多く、近付きづらい。
「……マテ」
その私の戦い方を見て、リコリス棲姫が突然待ったをかけた。私もそれを素直に聞く。戦うつもりがないのなら、何もしたくない。
また椅子代わりの艤装に腰を下ろし、脚を組みながら私を見下す。まさに謁見。姫と同じ地に立とうとすれば、姫自身に追い返されるという状況であったが、今は姫自身が私を止めたために、同じ地に立てている。
「オマエ、ハナヲフマナイヨウニタタカッテイルノカ」
「ああ」
不意に聞かれた。答えはイエスだ。
いくら深海棲艦が育てており、麻薬の原材料となる花とは言っても、わざわざ踏み躙る必要はない。風雲曰く、勝手に生えてくるような花らしいが、リコリス棲姫にとっては大切なものかもしれないし。
私達はあくまで話し合いに来たのだ。相手の嫌がることをしに来たわけではない。近付かれたくないというのなら申し訳ないが。
「……」
「……」
無言で見つめ合う。すごく気まずい。ジロジロ舐めるように見られているので、尚のこと気まずい。
おそらくだが、リコリス棲姫に砲撃はない。出来るのならさっさと撃ってきているはずだ。また、私達のように海上を航行することも出来ない。出来るのならさっさと打って出てきているはずだ。実力差はわかっている。こちらから動くことも出来ない。
リコリス棲姫は自分の島を大事にしているように思えた。島関係なしに空爆してしまえば、私は仲間達と同様に回避一辺倒にさせられ、止む無く退避に持っていかれている可能性が高い。艦載機による射撃すら、島に被害が出ないように方向が考えられている。
先程の質問から考えるに、島の上に咲き乱れる花が傷付くのを恐れているのか。そういえば、リコリス棲姫に迎撃された時も、奴は一切
「花が大事なのか?」
「……ソレヲキイテドウスル」
「興味があるからだ。お前は妙に乱雑な戦い方をするが、自分の花だけは傷付けない」
リコリス棲姫の表情が少し変化する。感情が読みづらい複雑な表情ではあるが、私の言葉に対して嫌な感情は持っていないように思えた。敵対心の匂いがほんの少しだけ薄れたようにも思える。
「それが大事だと言うのなら、若葉はもう島に上がらない。踏み潰しかねないからな」
それだけ言って、島から降りた。先程までなら即座に艦載機による攻撃が始まっているところだが、私の行動に驚いているのか、先程の見つめあったときのように何もしてこない。
これは話せる千載一遇のチャンスが来たかもしれない。今なら私の言葉も届くか。
「お前、この花を誰かに渡しているな。これ、何に使われているか知っているのか?」
リコリス棲姫の眉がピクリと動く。
「この花を持っていっている奴らは、花を潰して、人心を惑わす薬の材料にしているんだぞ」
「……ナニ?」
ここまで話すと流石に反応した。
「どういう理由で奴らに花を渡している。お前も人間や艦娘を潰すために使っているのか。この花のせいで、こちらには何人も苦しんでいる者がいるんだ」
「マテ、ドウイウコトダ」
ようやく私の話を聞いてくれる姿勢になった。高圧的な態度はまだあるものの、話が違うと言わんばかりに食い付いてくる。
だが、どちらかといえば私の思っていた反応とは違った。
「ヤツラハ
「仲間を救う? 正反対だな。奴らは自分の手駒にするために使っている。現に、あの風雲はこの花が使われた薬のせいで、治療された今でも幻覚と幻聴に苛まれているぞ」
そもそも仲間を救うために分けてくれと言われて分け与えたリコリス棲姫にも少し疑問はあるものの、深海棲艦に嘘を吐いて利用していた家村鎮守府のやり口も相当である。
「一旦空襲を止めてくれ。こちらの状況を詳しく話す」
「……シカタナイ。ダガ、ホカノレンチュウハチカヅケサセルナ。オマエトダケハナス」
いち早くここに近付いたことで私が見初められたのか、裏切り者という烙印を押されてしまった風雲も近付かせないで、私とだけ対話を許可してくれた。
空爆が止まったため、残りの5人にリコリス棲姫の意思を伝えた後、私だけがまたリコリス棲姫の下に戻る。
本格的に私の交渉力が物を言うようである。まったく自信はない。
お互いの情報を共有していく。私達の知る情報は、今まで受けてきた襲撃のことや、家村鎮守府のこと。私自身が聞かされていないことは話せないが、少なくとも崩壊した鎮守府跡で見つけたものや、薬としての効果などを詳細に。
私の話を聞けば聞くほど、リコリス棲姫はイライラしているようだった。家村の鎮守府が崩壊していることはさておき、自分の花がそういう形で使われている事実が気に入らないらしい。
「コノワタシヲダマシテイタノカ、ヤツラハ」
「若葉の話を信じてくれるのならな」
「シンジルリユウハナイナ。ダガ、オマエノハナシハ
私が花を傷付けないように闘っていたことが大きかったようだ。
リコリス棲姫曰く、この花はリコリス棲姫の力が漏れ出た結果生えてくる花らしい。リコリス棲姫は適当にしていても漏れ出てしまうくらい力が強い深海棲艦なのだそうだ。
つまり、この花はリコリス棲姫
「ドコデシッタカシラナイガ、ワタシノハナノセイブンガ、ヤマイニオカサレタナカマノチリョウニツカエルトイッテイタ」
「それで快く渡したのか?」
「ワタシニハ、ウミニステルモノダ。ホシイトイウナラスキニモッテイケバイイ」
これで大分真相が掴めてきた。家村鎮守府がどうやってこのリコリス棲姫の存在を知ったかは知らないが、利用価値のあるものであるが故に回収しているわけだ。
だが、ただ寄越せと言うとリコリス棲姫が反発するかもしれない。ただでさえ深海棲艦と敵対している艦娘の要求だ。素直に聞くなんて、到底思えない。
そのため、この花には他人を治療することが出来る成分があるから協力してほしいと、リコリス棲姫を煽てるような嘘を吐いて、気分良く渡せるように仕組んでいたようだった。
「アンナヤツラニハメラレテイタカトオモウト、ムカムカシテクル」
「若葉達は、そいつらをどうにかするために動いているんだ。協力してもらえないか」
今までの話を聞くに、私達とリコリス棲姫は共通の目的がある。お互いに、怒りと憎しみが家村鎮守府へと向いているのだ。利害は一致しているのだから、協力関係を結ぶに値するだろう。
「こちらにはお前と同じような姫の協力者もいる。悪いようにはしない」
「ドウホウモイルノカ」
「ああ。双子棲姫は死にかけているところを助けた。護衛棲水姫はペットを治療したんだ」
深海双子棲姫であるシロクロや、護衛棲水姫であるセスの存在も教えておいた。同類がこちらにいるとわかれば、より協力しやすいと思ったからだ。
この時に私達の継ぎ接ぎのことも伝えている。嘘偽りなく、隠し事せずに、全て曝け出すことで信用を勝ち取りたかった。事実、リコリス棲姫は大分頭を悩ませているようだった。
「スコシカンガエル。オマエタチダッテ、シンヨウシテイイカワカラナイシナ」
「……ごもっともだ。突然現れてお前は騙されていると言われても、すぐに決断出来るわけがないな。すまなかった」
リコリス棲姫からしたら、私達だって自分をいいように扱うだけの者に見えているかもしれない。考えるというのなら考えてもらおう。
それで改めて敵対するのなら、その時はその時だ。申し訳ないが、ちゃんとした準備をして、
「数日後にまた来させてくれ。構わないだろうか」
「アア」
少なくとも、印象は悪くないようだった。二度と来るなと言われなかっただけマシと思う。
帰路、途中で止められたとはいえ、あの空爆を避け続けていた仲間達は大きく消耗していた。全員無傷といかなかったようで、掠めて擦り傷くらいは出来ていた。致命傷でないのは救い。三日月もところどころに傷を作っており、私が譲っているタイツにはいくつも穴が空いてしまっている。
「交渉の余地はある。また数日後に来ると約束した」
「そっか、なら良かったわ。嫌われていないみたいで」
風雲も少し安心していた。友好的だからと道案内した結果ボロボロにされたとなると、立つ瀬が無い。
「敵対の匂いは薄れていた。疑問には思われていたが」
「なら協力関係になれンじゃないの? あンなのともう戦いたくないねぇ」
疲れ果てている江風がボヤいた。今までいくつもの戦いを経験しているが、あそこまでの空襲はなかなかお目にかかれないらしい。
深海棲艦と協力関係というのは基本的におかしなことなのだが、私達の施設と関わり合いを持っているだけでこうも寛容的になれる。
「そうなれればいいんだが」
「大丈夫ですよ……今まで上手く行ってきたんですから。きっといい方向に行きます」
リコリス棲姫とは長い付き合いをしていきたい。ここに来るのは辛いが。
リコリスの喉も早くシロに弄ってもらわなくては。カタカナばかりは読みづらい上に書くのも大変。