継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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愛された姫

嵐の翌朝、浜辺に漂着していたリコリス棲姫を発見した私、若葉。共にいた部下であろうイロハ級は、その声が聞こえる雷に助けを求めて息絶えてしまった。リコリス棲姫も今は生きているようだが、このままでは危ない。すぐに治療する必要がある。

 

「雷、みんなを呼んできてくれ! 若葉はリコリスを運ぶ!」

「わ、わかったわ! すぐに呼んでくる!」

 

雷に施設に先に戻ってもらい、起きたであろうみんなを呼んできてもらう。その間に私は、リコリス棲姫を施設に運べるように準備。

リコリス棲姫を守るように倒れ、事切れているイロハ級2人をゆっくりと退かし、リコリス棲姫の身体を確認。全身が裂傷だらけ。綺麗な服も血塗れである。

 

「……脚が……」

 

特に酷かったのは脚。ズタズタに引き裂かれ、一部欠損しているほどであった。匂いからも察するに、おそらくこれは対地兵器であるWG(ヴェーゲー)の爆発をモロに食らったことによる怪我。あの島を、花ごと吹き飛ばすために放たれたものか。

あれだけ花を利用し続けていたというのに、敵対するかもしれない状況になったら即座に切り捨てたというのか。私達が話をしに行ってすぐだというのに。

 

「必ず助けるからな!」

 

脚に衝撃を与えないようにお姫様抱っこで抱え上げ、海経由で施設へと運び入れる。イロハ級は後から運ぼう。供養してあげたい。

施設に近付く際に、大急ぎでイロハ級の方に向かう雷と、呼ばれたのであろう摩耶と曙が駆けていった。私の抱きかかえるリコリス棲姫を見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、止まっている暇などない。

 

「雷から聞いている! すぐに処置室へ!」

「了解」

 

工廠では準備万端の飛鳥医師が待ち構えていた。

 

「全身に裂傷。脚が特に酷い。一部欠損もあり、抱きかかえている感じ、肋骨も何本か砕けている」

 

運びながらも私が感じる限りの症状を説明。それで処置が少しでも早くなってくれれば幸い。

 

「くそ……肋骨はいいとしても、脚はもう保存してあるものがない。治療はするが動くようになるかどうか……」

「それなら、この人達の脚を使ってあげて!」

 

もう戻ってきた雷が抱えているのは、事切れたイロハ級。身体はリコリス棲姫以上に損傷が激しいが、2人合わせて左右の脚が揃うように綺麗なものだった。

この2人、最初から自分の脚でリコリス棲姫を治そうとしていたのかもしれない。そう思えるほど完璧な脚。絶対に攻撃が当たらないように注意していたとしか思えない。

 

「息を引き取る直前で聞こえたの! 出来るのなら、自分の身を引き換えに姫をって……!」

「……わかった! すぐに処置をする! 摩耶にやったことの焼き直しだ、確実に成功する! 」

 

一度成功している処置だ。陸上施設型と海上型という大きな違いはあるが、見かけだけなら長さも同じだ。移植出来れば、リコリス棲姫は一命を取り留めるし、五体満足で回復もする。

代わりとなったイロハ級の覚悟を受け取り、死体から脚の移植処置をする事が決定した。処置には当然数時間かかる。シロクロの時のことを考えれば、おそらく数日のうちに回復するだろう。

 

 

 

処置自体は昼過ぎには完了。リコリス棲姫は今は安定し、医務室に寝かされている。

今回の処置も私が手伝わせてもらった。必要無いかもしれないが、匂いである程度わかるというのはやはり便利だと飛鳥医師が言ってくれたためである。脚は先程のイロハ級、戦艦ル級の両脚を使わせてもらい、身体中の裂傷は薬で終わらせた。

 

「よもや深海の者と川の字を作ることになるとはの」

「風雲は今日から部屋を移るから、川にはならないな」

「ほう、ならば……2本線じゃの。こんな形で肩を並べられるとはのう」

 

まだ安静にしておく必要がある姉は、医務室で隣に寝かされたリコリス棲姫を見て苦笑。この施設が種族を問わずに救われているものであることは、シロクロとセスの存在から当然理解しているが、一緒の部屋で眠るとは考えていなかったようだ。

確かにシロクロは霰と、セスは夕雲と相部屋であるため、姉の隣に来ることはまず無い。姉はここから出たら、おそらく風雲と相部屋になるだろう。医務室で一緒に生活していたおかけで、今は打ち解けている。

 

「嫌だったか?」

「いやいや、構わんよ。この施設の良さ、特と味わっておる。まこと分け隔ておらぬな」

 

本来なら自分だって罰せられて然るべきだと姉は語る。家村鎮守府の構成員として活動していたのは事実であるし、その時は意思を奪われていたとはいえ、来栖鎮守府を襲撃したのも事実。その罪を問われることも考えていたそうだ。

だが、この施設はそんなこと関係ない。艦娘だろうが深海棲艦だろうが、助けを求めたのなら助ける。それに、姉は操られていたのだから罪など無いのだ。まだ誰も殺していなかったのも大きい。

 

「姉さんには罪はない。気にしなくていい」

「うむ、気にせぬことにしておこう」

 

痛みを堪えながら身体を起こし、眠っているリコリス棲姫の方を見る。

 

「こうして見ると、艦娘も深海棲艦も変わらんのう」

「ああ、それは若葉も思う」

 

今のリコリス棲姫は、私達がここに運び込まれた時と同じように検査着。身体中の裂傷の治療のために包帯が巻かれ、脚の付け根には特に強めに巻かれていた。これだけなら、深海棲艦というイメージが薄い。

シロクロの時と同じように深海棲艦同士の移植であるため、色素の違いなどは気にならない。ただし、今は見えないが縫合痕はクッキリ残ってしまうだろう。それについては何と言うだろうか。

 

「ウ……」

 

などと話しているうちに、驚くべきことにリコリス棲姫が目を覚まそうとしていた。あまりにも想定外。回復が早過ぎる。処置のために麻酔は入れていたし、昏睡状態を維持するようにもしていたはずだ。処置後でも少しくらいはそれが維持される。

なのに、もうその薬の効果が切れてしまった。リコリス棲姫はそういう薬が効きにくい体質なのだろうか。姉と一緒にいるため少し気が緩んでいたが、よくよく嗅いでみたら体内の薬の匂いがかなり薄れていた。

 

「こんなに早く目が覚めるものかえ?」

「あり得ない。早くても明日のはずだ。シロクロも丸一日は寝ていたんだが」

 

姉は知らないからそんなものかと思っているようだが、私は正直驚きでどうしていいものかわからない。そうこうしている内に、リコリス棲姫が目を開いた。

 

「ココハ……ッギ……ナンダ……」

「リコリス、今は動かないでくれ」

 

状況がハッキリわかっているわけでは無いようだが、意識はハッキリしているようである。処置された脚の痛みで顔を顰めた。

私の顔を見た途端、知った者がいるとわかり少し安心したようだった。明らかに表情が明るくなったのがわかる。

 

「ワカバ……カ。ワタシハドウナッタンダ……ドウホウタチハ……」

 

自分が助かったというのは理解出来たようだが、まだわからないことばかり。少なくとも、自分をここに連れてきてくれたであろう仲間達がどうなったかはわかっていない。

いや、うっすらでもわかっているのだと思う。今まであまり感じたことのない匂い、()()の匂いを感じた。

 

「……リコリス、お前は大怪我を負っていた。それはわかるか」

「アア、カンムスドモニオソワレタ」

「……お前を逃すために、命を賭した。私が知る限り、ここにいたのはお前と戦艦2人だけだ。その戦艦も……ここで……」

 

ギリッと歯軋りが聞こえた。私達と戦った時は単独だったが、それなりに仲間がいたのだろう。その仲間達は全員、家村の艦娘達に皆殺しにされてしまっていた。

 

「すまない、人を呼んでくる。処置した医師や、ここにいる深海の姫を紹介する」

「……アア」

 

一夜にして全てを失ってしまったリコリス棲姫を、慰めることは出来なかった。すぐに戻ると医務室から出るが、リコリス棲姫は茫然と天井を見つめるだけだった。

 

 

 

飛鳥医師やシロクロ、セスを連れて医務室に戻るが、様子がおかしい。何やら姉がリコリス棲姫と会話をしているようだった。姉を放置してしまったのは申し訳なかったが、まさか普通に会話を始めているとは思っていなかった。話題が無いからと風雲と話すことすらしなかったのに。

 

「リコリスとやら、お主の同胞、わらわには見えておる。お主のことを心配しておるようじゃ」

「シンパイ……ダト?」

「うむ。わらわにはもののけの言葉はわからぬ。じゃが、お主の周りにいるもののけは、お主に付き従い離れようとせん。余程愛されておったんじゃな」

 

医務室に入る前にその会話に聞き入ってしまった。飛鳥医師も扉に手をかけたまま固まっていた。

生まれつき霊感が強く、もののけという形で亡霊が視えている姉。今のリコリス棲姫にもそういうものが憑いていると話していた。特に脚、移植されたル級の亡霊が視えているようなことも。

 

「……アイサレテ……ヨクワカランナ」

「それくらい親身になっておったのじゃろう。生まれてから常に一緒におった、謂わば家族のようなものだったのでは?」

「……アア、カゾク、ソウダナ」

 

リコリス棲姫の周りにいた同胞達は、それほどに姫の忠臣だったということだろう。私達と面識が無くても、自分のプライドなど関係なしに姫の命を優先したところから見て間違いない。死ぬ直前でも身体を差し出すと言ったほどだ。

その声が雷にしか聞こえていなかったとはいえ、最後の最期まで献身し続け、結果的にリコリス棲姫は助かった。命を賭した甲斐もあっただろう。

 

「話の途中ですまないが、入らせてもらうぞ」

 

姉の話の続きも気になるが、今はリコリス棲姫の処置の内容を伝えることが先決。また、ここにも姫がいることを姿で示すことで、多少は安心させてやりたい。

ひとりぼっちで施設にいるわけではないのだ。同胞だっている。私達は全員、リコリス棲姫の仲間だ。

 

とはいえ、初めて見る人間に、少し身体が強張ったのがわかる。冷や汗のような匂いも。

いくら姫であり、周りが友好的だとはいえ、慣れない環境と知らない者に囲まれれば、冷静でいるのは難しい。

 

「オマエガワタシヲチリョウシタニンゲンカ」

「ああ、その内容を伝えたくてきた。よかったか」

「……ドウホウノアシヲツカッテイルンダロウ。ソレクライワカル」

 

脚を撫でて悔しそうな表情を浮かべる。今はまだ感覚も無いだろう。だからこそ、それが別物の脚であることを如実に表している。

 

「リコリス……ちょっといい……?」

「オマエハドウホウカ。ココデセイカツシテイルトイウ」

「うん……艤装を壊されて……お腹を抉られたの」

 

ちゃんと許可を貰った後、リコリス棲姫の喉を少し弄るシロ。

 

「ンッ、ア、あー……なるほど、どうやっているかはわからないが、声色を()()()()に変えたのか」

「うん……私達の声……この人達には聞き取りづらいんだって……。ここから出るときには元に戻すから……」

 

いつ見ても不思議な光景。シロにしか出来ない、深海棲艦を直接弄る技。これにはリコリス棲姫も首を傾げる。深海棲艦の方でも、これは普通では無い力のようである。

 

「今から全て話す。聞いてほしい」

「……ああ、頼む。この脚があいつらのものであるのはわかるが……私はどうなった。どうされたんだ」

 

ここからはどういう治療をしたかを伝える。大きな治療は脚の移植と、砕けた肋骨の修復。どちらもリコリス棲姫に付き従っていた戦艦ル級のものから戴き、それを移植している。施設に保管されたものは一切使わず、最後まで付き従った忠臣がリコリス棲姫の存命に貢献した形となった。

 

「あいつら……最期まで私に……」

「ああ。僕は若葉と雷から聞いただけだが……自分の身体を使ってくれと訴えてきたそうだ」

 

脚を撫でる手が震えていた。リコリス棲姫が生まれてどれだけ経つかは知らないが、ずっと一緒に生きてきた家族が、こんな理不尽な形で失われてしまったのだ。

 

「最期どころか、今も側におるよ。お主を見守っておる。文字通り、一心同体じゃな」

「……そうだな。あいつらと私は一心同体だ。この治療は感謝する」

 

涙目ではあったが決して泣かなかった。気丈に振る舞い、姫としての威厳を保つ。一心同体となった忠臣達に恥じぬ生き方をしようと必死だった。

別に泣いてもいいと思う。それほどまでのことをされたのだから。

 

ジワリと、また両腕が疼いた。自分の利益のため、今まで利用し続けていた深海棲艦すらもすぐに切り捨てようとした家村に、怒りと憎しみが増した。元々許せなかったが、尚のこと許せなくなった。

この手で引導を渡したい。その命を持って償ってもらわなければ、私は満たされないように感じた。

 




継ぎ接ぎとなったリコリス棲姫ですが、シロクロと同じようにそこまで違和感はありません。脚の付け根の縫合痕は、隠そうと思えば幾らでも隠せますし。

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