継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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逆境からの

我ら第五三駆逐隊は大淀との戦闘中。全身全霊をかけた攻撃を繰り出し続けるも、全く歯が立たずにいた。ダメージらしいダメージも与えられず、一方的にやられるだけ。大淀は笑顔を一切崩さず、こちらを適当に受け流しつつも、殺意ある攻撃を何度も放ってきた。

今のところ、私、若葉の左腕と背中が軋む程度で、酷い怪我を負ったものはいない。だが、演習用の武器ではどうにもならないことは痛いほどわかっていた。

 

「そろそろ諦めたらどうです? 今ならまだ間に合いますよ。素直に頭を垂れて、こちらに屈してくれれば悪いようにはしません。一度裏切った曙さんも、蘇生されたという事実がありますから、実験動物くらいで生かしてあげます。やりましたね、死なずに済みますよ」

 

相変わらず、ずっとおちょくってくる。足下にも及ばない私達は、いつでも殺せるゴミ程度にしか思っていないのだろう。

 

ナイフは握り潰され破壊されてしまい、今の私には四肢しか無い。殴りかかってもナイフ以上に簡単に払われてしまうだろう。

一矢報いることすら出来ない。そんな自分に一番腹が立った。腸が煮えくり返える程に腹が立つというのに、怒りの全てを力に転換してもまったく歯が立たない事実があまりにも気に入らなかった。

 

「何をふざけたことを言ってるんですか」

 

三日月による怒り任せの砲撃も、水鉄砲故に軽く払う程度で回避されてしまう。これにより、私から三日月へ視線が移動。

 

「私は貴女達のせいで人生が狂わされたんです」

「そうなんですか。それはご愁傷様です。その時に死んでいれば余計な苦しみを受けずに済んだというのに」

 

お返しと言わんばかりに砲撃しようとしたため、強引にその主砲を殴り付けた。射線さえズラしてしまえば当たることはない。三日月には危機回避能力もある。逸れた砲撃に当たるようなことはない。

だが、またもや砲撃の衝撃をまともに喰らうことになった。殴り付けたのは自然と前に出た左腕。またもやミシミシと音を立てたが、気にすることなく次の攻撃に打って出る。

 

「こらこら、砲撃中にちょっかいをかけるのは良くありませんよ」

 

その主砲により顔面を殴り付けられそうになったため、無理な体勢で回避。身体を逸らす羽目になったので、先程衝撃を受けて軋んだ背中が悲鳴を上げる。が、余りある怒りで痛みは感じない。そんなことを感じる暇があるなら、大淀に一撃入れるために身体を動かしたい。

 

「意外と芸は仕込まれているようですね。匂いといい、身体能力といい、駆逐艦若葉としてのスペックを大きく超えているようです」

 

即座に後ろに回り込む。ナイフがあれば艤装の分解をしていたが、無い物ねだりだ。今の私の唯一の武器である拳で出来ることなんて大分限られている。分解は出来ずとも、折り曲げることくらいは出来るか。

 

「他の3人から、貴女は一線を画していますね。とても興味深いです」

 

私が何かをする前に、振り向かれて目が合う。やはり笑顔は崩さず、攻撃ではなく私を捕まえようと手を伸ばしてきたため、バックステップで間合いを取る。

ダメージは受けているにしても、私の全身全霊の力で出した最高速に、いとも簡単に追い付かれた。この大淀はおそらく、神風の速度も視認出来ているということだろう。何もかもがおかしすぎる。本来を知らないが、軽巡洋艦大淀のスペックではないことはすぐに理解出来る。

 

「後ろを向いているからといって、攻撃が当たると思っているのなら大間違いですよ」

 

すぐさま私を無視して後ろを向き、槍を握り締めることにより、曙の渾身の突きを受け止めていた。そしてそのまま、柄を握り潰して真っ二つに。

刃側が大淀に行ってしまったため、警戒してすぐに間合いを取ろうとしたが、その時には曙の肩に大淀が投げた槍の刃が突き刺さっていた。

 

「いぎっ!?」

「いくら(なまくら)でも、使えるものが使えばそれくらい出来ます。貴女は所詮、付け焼き刃の素人でしょう」

 

曙から柄を奪い取り、横っ腹を殴打。その衝撃で大きく吹っ飛ばされてしまった。私の位置からでも、曙へのダメージが酷いものなのがわかる。武器を奪われた挙句、脇腹への殴打で咳き込んでいる。肩の傷は深く、片腕が上がらない程になっていた。

これで本格的になす術が無くなってしまった。近距離組の武器は失われ、遠距離組の攻撃は傷一つつけられない。魚雷は視界を奪われてしまうため、無闇矢鱈には扱えない。

 

もう八方塞がりだ。

 

「これで全員何も出来ないんじゃないですかね。では、1人ずつ終わらせましょうか。若葉さん、貴女を最後にしてあげます。こちらにつくこと、本格的に考えておいてください。貴女は優遇しますよ。その嗅覚は下呂提督には勿体ないです」

 

自分から進んで裏切らなければ、ここにいる仲間達を殺すぞと言っているのだ。私が裏切るとなってもどうせ殺すのなら関係ないだろう。下手をしたら、裏切った証拠を見せろなどと言いながら私の手で仲間を殺せと言うまであるだろう。

これだけしておいて、私が裏切ると思っているのか。怒りと憎しみがどんどん込み上がってくるだけだというのに。

 

「お前、本当にいい加減にしろよ」

「私は本心から貴女が欲しいんですよ。こんな死に損ないの肩を持つくらいなら、私達と共に過ごした方が伸び伸びと生きていけますよ。すぐにでも姫の座に立てるでしょうね。何なら私の補佐についてもらいたいくらいです。戦闘も出来ないつまらない毎日を送るよりはいいと思いますがね」

 

私の今までの何もかもを侮辱してきた。あの施設で生きていくことがあんなに楽しいのに、それを全て否定してきた。

 

「ふざけた事言わないで!」

 

それに即座に反論したのは雷。この中どころか、施設の最古参である雷には我慢ならない発言だった。

 

「私達はみんな、大怪我を負ったけど奇跡的に生きてて、あそこで楽しく暮らしてるの! 貴女達みたいなのがいなければ、ずっと楽しく生きていけたのよ! それをつまらないなんて、何で貴女がそんなこと決め付けるのよ!」

 

雷に捲し立てられても、大淀は表情を変えない。少し思案したようだが、思い付いたように雷に主砲を放った。

それを察知していた三日月が、雷を庇うように抱きかかえて回避したが、ギリギリのところで衝撃を受けてしまい、艤装が嫌な音を立てたのがわかった。

 

「三日月!?」

「まだ大丈夫です。航行に支障はきたしていません」

 

それでも本調子では無くなっただろう。回避するにしても今までとは違う。正直、これ以上の戦闘は厳しいと考えた方がいい。

 

「まずは貴女にしましょうか雷さん。命が惜しいなら、若葉さんが早く寝返ることを祈ってくださいね」

「寝返るわけないだろ」

 

砲撃の衝撃を2度うけたというのに、左腕の痛みは一切感じない。怒りが限界を超え続けている。身体が熱い。頭が熱い。

 

とにかく、大淀を止めなくてはいけない。止めなければ仲間達が殺される。今の宣言を確実に遂行出来るだけの力を、大淀が持っていることは痛いほどわかっている。

だからといって、寝返るだなんて選択肢に入らない。一番あり得ない話だ。仲間を裏切ってまで得る生に、何の意味がある。

 

「殺させない! 誰も! 死ぬのはお前だ!」

「実力を伴ってからそういうことは言いましょう」

 

雷に狙いを定める主砲をどうにかするため、それこそ犬のように飛びつき照準をブレさせる。本当に撃つ瞬間だったらしく、腕に触れた瞬間に砲撃の衝撃に巻き込まれ、また身体が軋む。

だが身を挺したおかげで、雷に直撃コースだった砲撃は少しだけでも逸れてくれた。

 

「なす術が無くても戦おうとする気概は認めますよ。でも、貴女に力が無いせいで仲間達が死ぬんです。力が無い者は、ある者に頭を垂れるのがスジというものではありませんか?」

「頭を垂れる相手は若葉が選ぶ! 少なくともお前には死んでも屈しない!」

「そうですか、残念です。なら心変わりするまでここで見ていればいいでしょう」

 

大淀の砲撃をどうにかするために近付きすぎた。衝撃でガタが来ていた身体では回避も出来ず、大淀に首を掴まれた。両手でそれを引き剥がそうとするが、万力のような握力の前に、私は何も出来ない。ジタバタもがくだけ。

それでも私を殺そうとしない辺り、ここまでやってもまだ遊んでいる。あれだけのことが出来るのだから、私がどれだけ踏ん張っても、呆気なく首の骨を折るくらい容易いだろう。

 

「離せ……!」

「もがかないでください。その脚がよろしくないですね」

 

強烈な蹴りが私の脚に放たれた。今まで頑張ってくれたチ級の骨が限界を超え、ミシリと嫌な音を立てる。折れてはいないがヒビは入った。激痛で悲鳴をあげそうになる。

 

「大人しくしていてください。では宣言通り雷さんから」

 

今度は止められない。主砲が放たれ、雷に直撃……となるところを三日月がどうにか回避させた。

しかし、着弾地点が近すぎて、その衝撃で2人とも宙を舞った。本調子ではない三日月では、ギリギリ間に合わなかった。

 

「っ……!」

「まだ生きていますね。ちゃんとトドメは刺しますよ」

 

最悪な状況だ。私は捕まり、曙は肩の傷が酷く、雷と三日月も今の衝撃で酷いことになっている。たった一撃、しかもギリギリとはいえ回避しても満身創痍。

未だに神風型と第二二駆逐隊は精鋭の人形達に足止めを食らっており、抜け出すことが出来ていない。均衡はこちらに傾いているようだが、あちらが粘りに粘っているようだった。防衛戦から巻き返し始めているが、終わらせるにはまだ時間がかかりそう。

 

私達が増援に来ていなかったら、大淀自身が2人の人間が乗る大発動艇を破壊していただろう。そういう意味ではちゃんとこの戦場には貢献できている。

だが、命と引き換えだなんて嫌だ。そんなのはおかしい。

 

「どうぞその目をよく開いて見ていてください。まずは雷さん、次は三日月さん、その次は曙さん。それが終わったらあっち、提督方ですね。未だに精鋭の人形達と拮抗している駆逐艦達も、阿武隈さんも、まとめて殺します。貴女は本当に最後にします。それでも心が折れていなかったら、ちゃんと殺してあげますから待っていてください」

 

許せない。人の命を何だと思っている。大淀にそうさせるものは何だ。家村がそこまで偉い人間なのか。

許せない。何故私達がここまでされなくてはいけない。キッカケすらコイツらなのに、何故ここまで命を握られなくてはいけない。

許せない。こんなにも無力な自分が許せない。みんなに鍛えてもらっても、一切の太刀打ちが出来ない自分が許せない。

 

力が欲しい。みんなを守る力が。

力が欲しい。目の前の敵を殺す力が。

 

「それでは、おしまいです。終焉の時を、最後まで見続けてください。貴女が屈しないせいでみんな死にます。屈していたら仲間達くらいは生き残ったというのに、残念なことです。そもそもここに来なければ良かったんです。来ていなかったら提督方が死ぬだけで済んでいたかもしれないのに。全部、自分のせいで招いたことですよ」

 

ふざけるな。何故私のせいにされなくてはいけない。悪いのは全てコイツだろうが。責任転嫁も甚だしい。性根の捻じ曲がったこのクズを、この場で終わらせる。

 

もう自分でもわかった。左腕の痣が拡がったことを。左腕を覆うくらいにまで拡がり、肩の継ぎ目をも乗り越えて、痣が顔にまでかかった。疼きも拡がり、左腕に力が入る。軋みも感じない。

 

「ふざケるナ……!」

「おや?」

 

その左手で、私の首を掴む大淀の腕を握る。先程と違う。握り潰せる程の力が湧いてくる。

 

「ふザケるナ!」

 

鈍い音と共に、大淀の腕を砕く。握力が弱まり、拘束が解かれたため、大淀の身体を蹴り飛ばして間合いを取る。

脚も痛くない。しっかりと海面に足を付けて、自分の力でその場に立てる。身体の痛みが全て無くなったかのようだった。まるで()()()()()()()()()()()、綺麗な身体になった。

 

「若葉さん、貴女は……」

「オ前は……ここデ殺しテヤル。誰モ殺させナイ! 死ヌのはオ前ダ!」

 

身体が軽い。気持ちいいほどよく動く。スピードも今まで以上に出た。武器もいらない。この拳があればどうとでもなる。

 

「深海に呑まれている……!? すごい、すごいですよ若葉さん! ()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

満面の笑みで主砲をこちらに向けた。私よりも先に殺そうとしていた者はもう見えていないかのようだった。今の大淀は私しか見ていない。

 

「死ネェ!」

「お断りします! 私は貴女を調べたい! こんなに楽しいのは初めてですよ!」

 

ここで終わらせるためにも、絶対に逃がさない。この大淀は生きていてはいけないクズだ。この場で、確実に殺す。その信念が、さらに私に力を与えてくれる。

今の私がどうなっているかなんてわからない。だが、みんなを守って大淀を殺すことが出来ればそれでいい。仲間を侮辱し、命を粗末にし、のうのうと生きているコイツは、確実にここで終わらせてやる。

 




若葉覚醒。ただし……。
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