憑依妖魔学園紀番外編(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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瑞麗先生ルート4

《ロゼッタ協会》遺跡調査ファイル

 

調査ファイル概要

 

調査対象:日本・東京・新宿・天香遺跡

 

調査期間:2004年9月~12月

 

調査実働者:ID-0999

 

調査報告者:ID-0985

 

閲覧資格:当協会所属ハンター

 

編纂の意図:日夜問わず世界中で活躍する我々《ロゼッタ協会》所属の《宝探し屋》たち。彼らから寄せられた貴重かつ歴史的価値のある《遺跡》の調査報告である。資料的な価値をもつ報告書であるにとどまらず、先人たちが調査の際に行ったさまざまな《遺跡》調査技術についても記されている。それらの知恵は、新人ハンターにとって必ずや助けとなるべくものであり、《秘宝》と等しき価値をもたらすはずだ。

 

本資料は、当協会所属の《宝探し屋》が依頼を達成した時の報告書をもとに、天香遺跡における《遺跡》の内部構造や化人の発生位置、トラップの配置、およびその解き方をまとめたものである。《九龍の秘宝》の伝承がある《遺跡》は類似した構造である可能性が高く、他の《宝探し屋》が任務を請け負う際にも探索を進める上で役立つ情報をまとめている。

 

序文

本書を編纂するにあたり、もっとも留意したことは、さまざまな任務形態をケースバイケースで学べるマニュアルにすることであった。そこで優秀な《宝探し屋》の任務活動の模様を実例として数多くあげることとした。これによって、本書の指南どおりに行動すれば新人ハンター諸君であっても《宝探し屋》として立派な任務がこなせる内容となっている。諸君らの活躍を期待している。なお本書は天香學園におけるID-0999の任務活動をもとに、作成している。

 

《ロゼッタ協会遺跡情報統括局》

 

本書は6つの章から構成されている。基礎知識や応用戦術、任務の実例から学べるノウハウ、データなど多岐にわたる。任務の状況ごとに必要な箇所を閲覧すること。

 

CHAPTER1 《宝探し屋》のすすめ

《宝探し屋》として身につけておくべき知識を想定される任務形態ごとに解説している。初任務を受けた者は、その任務にとりかかる前に必ず目を通し、H.A.N.T.の解説も合わせてレポートを遺跡情報統括局に提出すること。

 

当協会の教育機関が組んだカリキュラムにある訓練だけでは、実際の任務に挑んだ際に、対応しきれない状況が多々あることが報告書されている。この点を踏まえ、ID-0999の任務例から《宝探し屋》の仕事を多目的に解説した。

 

「やっと終わったよ、も~......。さあて次は......バディと協力者のまとめかァ」

 

私はぼやいた。H.A.N.T.とにらめっこでなかなか仕事が終わらない。

 

CHAPTER2 人物プロファイリング

任務地でかかわる人間の性格を把握しておくことは、その任務を円滑に進める上でかかせない。プロファイリングについて情報をまとめておく。

 

信頼出来る協力者を得られれば、その任務の成功率は大きく上昇する。人物との接し方と協力を得るためのコミュニケーションの方法を解説している。

 

優秀な人材の確保は、当協会が最優先とする課題の1つだ。天香學園高等学校における任務でID-0999が接触した人物たちは、極めて稀なケースではあるが、いずれも当協会の課題を満たすにたる魅力的かつ有能な人材の宝庫だった。当協会の《宝探し屋》候補としての資質も備えている彼らの動向を追う意味でも、人物像と詳細の能力を開示する。

 

「さあて......誰からするかなァ......やっぱ瑞麗先生かな。何ページになるかわかったもんじゃないし」

 

私は記念だからと撮影して回った写真を貼り付けながらプロフィールを入力しようとした。

 

「......英語表記ってなんだっけ......まあいいや、今夜聞くとして......。大人の魅力を漂わせる保健室の麗人、と」

 

中国福建省から赴任してきた校医で、心理学的なカウンセリングの他に道教や占術への造詣が深く、氣を操る中国武術の達人。この能力によりひとりひとり異なる氣の流れを感じ取ることができる。また生徒たちからはルイ先生の愛称で親しまれている。《エムツー機関》のエージェントである。

 

なお、劉一族は不死者の討伐の150年にもわたる支援者だった。1986年には客家の洞窟にて緋勇氏と相打ちとすることで封じたはずだったが、封印を破られたさい、報復として2人の妹と弟以外の一族を皆殺しにされている。1998年の討伐には弟が参加し、本人は未参加だった模様。

 

「う~ん......いるかなこの下り......でもジェイドさんとの関係書く時必要な情報だしなァ......。まあいっか、本部が校正かけてくれるでしょ」

 

黙々とこなしていた私は肩を叩かれた。

 

「随分と仕事熱心だな、翔?」

 

「あっ......瑞麗先生......」

 

「lauh seuih laihは広東語だな。liu rui liは北京語だ。自己紹介で話したきりだからな、忘れていただろう?《ロゼッタ協会》の報告書ならlauh seuih laihのがいいかもしれないな」

 

「あ、あははは......」

 

「しかし、今回と関係ないことをつらつらと書かれるのはいただけないな。ジェイドの項目で弟について触れる程度でいいだろう?」

 

「あは......」

 

「監修してあげようか?」

 

「やめてください、やめてください。消します、消します、消しますから」

 

私は劉一族の記述について削除した。

 

「しかし、《ロゼッタ協会》もブラックなところだな。《訓練所》の碑文の調査もしているのに、報告書もやれとせっついてくるのか?」

 

「たぶん、本部的には進捗管理することで私が無茶してないか様子をみるのも兼ねてるんだと思いますよ」

 

「あるいは実働員として実績を積ませるためかもしれんな。今回は諜報もさることながら現地調査も、なかなかだったじゃないか」

 

「やめてくださいよ、縁起でもない......」

 

「ふふふ、そうなればすぐにまた会えるな」

 

「やだーこわいですよ先生......」

 

「私は事実をいっているだけだ。今夜も調査に行くんだろう?ちゃんと準備していくことだ」

 

私は苦笑いした。

 

 

「《化人創成の間》......?」

 

《訓練所》に葉佩が見つけられなかった隠し部屋を見つけた私は壁を爆破して中に入ってみた。

 

その扉の向こうは、どうみても研究施設だ。モニターやら機械やらが稼働しつづけている。

 

かすれた電子音が響き渡る。読み上げソフトのような男とも女ともとれない案内が現状を知らせていた。電子掲示板が表示されており、それに沿った案内だった。通常はクレジットの入金のさい表示されるのは架空の会社だとか、お金を払わないと扉のロックが解除されないとか、そういったものなのだが、あきらかにおかしかった。

 

外に出ようとしたらあかなかった。おかしい、1人でなら出入りできたのに。

 

「おそらく2人以上で発動する罠だな」

 

「えええ」

 

この部屋から出るための対価が、あまりにも隠微な言葉の羅列だったために、確認した瞬間、速攻でドアを開けようとしたがやはりがちゃがちゃいうだけで開かない。

 

「なんの悪い冗談......?」

 

江見の顔は引きつっている。どんどんドアを叩いてみるが開くわけもない。

 

「うっそでしょ......なんでよりによってこんな日に限って!」

 

「どうやって判定するんだ、まさか何処かにカメラが?」

 

「冷静だけどなんかおかしくないですか、瑞麗先生」

 

「探すぞ、江見。盗撮は気に食わないからな」

 

「もっと怪しむとこあるでしょう!?」

 

「君と違って私は普通の感性をしてるんだ。誰かに見られる趣味はない」

 

「まってください、待って!それどういう......」

 

先に行ってしまう瑞麗先生に、たまらず江見は追いかけていった。1時間ほど部屋の中を調べてみたのだが、ここから出られそうな窓はなく、監視していると思われるカメラや盗聴器といった類を見つけることはできなかった。ほっとしていいんだか、悲しんでいいんだかわからない状況の中、ベッドに腰掛け頭を抱えていたのである。

 

「なにこの......なに?」

 

「災難だな、翔」

 

「ほんとですよ......ちょっと休憩したかっただけなのに......」

 

「もしかしたら、さっきの化人の体液を浴びるのがセットじゃないか?」

 

「えええっ!?なんですかそのパターン!」

 

「手持ちの試薬で調べてみたんだが、副交感神経に作用を及ぼすと思われるからね」

 

「えーっと、つまり......?」

 

「人工的に化人を製造しようとすれば、いつかはでてくる施設ではないかな?」

 

「《タカミムスビ》の落とし子でどうとでもなるのに......」

 

「後半からは人間の体が足りなかったのかもしれないね」

 

「うっわ......」

 

「で、君はまだ稼働している《遺跡》に新規で出現した化人を調査中にうっかり謎の体液を浴びて、ここに迷い込み、閉じ込められたわけだ。効率的じゃないか。きっと1700年前の君のように頭が回る生贄はこうして化人創成の母体にされたわけだ」

 

「矛盾がなさすぎて聞き入る自分が悲しい......」

 

「この仮説が正しいなら、ここをいくら破壊してもダメな以上、そういうことをしないと出られないわけだ」

 

「あれっ、でも私男の体なのでは?」

 

「女がここに繋がれていたなら、あとは君みたいな男を放り込むだけでいいわけだ」

 

「......ぜったいそういうことした直後に私が捕まるトラップ発動しますよね?」

 

「おそらくそれが、これさ」

 

瑞麗先生は視線を落とす。かつて《タカミムスビ》の落とし子で満たされていたであろう瓶がならび、祭壇がなぜか一段低い所にある。大人1人がねっ転がれそうな広さだ。私はとりあえず祭壇に爆弾を投げ込んでみた。瓶が割れて祭壇に破片が降り注ぐ。なるほど、そうやって被検体になる流れが......。

 

「さて、どうする?平気そうな顔をしているようだがなかなか辛いのではないかな?」

 

「どうするもなにも、ダメですよそれは......」

 

「バディの一線越えてると?」

 

「それに避妊具がない......」

 

「ふふ、心配するのはそこなのか」

 

「いやだって、そうでしょう?」

 

「今の君は2つの相反する神経、交感神経と副交感神経のうち、副交感神経が意図的に活性化している状態だ。本来、副交感神経が働くのは、落ち着いた状態やリラックスした状態だ。リラックスした状態のときに、より機能しやすくなるからな。緊張を強いられず、自分のペースでコントロールできる今なら、比較的たやすいだろう。試してみるか?」

 

「他人事だと思って楽しそうですね、瑞麗先生......!?」

 

「いや、すまない。狂人の洞察眼のせいでこんな時まで理性的なのはいっそのこと可哀想だなと......ふふ」

 

「いつもの瑞麗先生が留守だと......!?」

 

「私は君に任せるよ、翔。どうするか決まったら教えてくれたまえ」


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