とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

14 / 88
今回が1.5章最後の短編です。


では本編をどうぞ!


<墓標迷宮>と第三形態

 □王都アルテア<墓標迷宮>前墓地区画 【司祭(プリースト)】レント

 

「やってきました! <墓標迷宮>‼︎」

「お前は一体誰に言っているんだ?」

 

 なんか叫んでいる(ミカ)は放って置いて…………俺達は今、アルター王国の墓地区画の地下にある『神造ダンジョン』<墓標迷宮>に来ている。

 …………『神造ダンジョン』とは、通常のダンジョンと違い“モンスターが自動でリポップする”、“モンスターが外に出てこない”、“一定階層ごとにボスモンスターがいて倒すと追加報酬が出る”などの特徴を持ったダンジョンのことである。

 その特殊な性質からティアンの間では“神が作ったとしか思えないダンジョン”である事から『神造ダンジョン』と呼ばれているのだとか。

 

「メタ的なことを言うと“運営が作ったダンジョン”って事になるんだけどね!」

「まあそういう事なんだがな…………それで、王国にある<墓標迷宮>に入るにはこの【墓標迷宮探索許可証】に記名して使う必要があると」

「【許可証】をくれたマリィさんには感謝だね! …………これ、市場価格じゃ()()()()()()()()はするらしいからね…………」

「本当にな…………」

 

 後で【許可証】の市場価格を知った俺達は<マリィの雑貨屋>に行ったのだが「一度記名した【許可証】は売れないから返して貰っても困るわ。それに前にも言ったけど、これは貴方たちへのお礼も兼ねているから遠慮する必要は無いわ。申し訳ないと思うのならこれからこの店に来て、何か買ってくれればそれで十分よ!」と言われて結局そのまま受け取った。

 

「あの後マリィさんのお店で装備も新調したしね! 前の【ライオット】シリーズもいい装備だったけど、私とはあんまり相性が良くなかったし」

「まあ、攻撃がほとんど当たらないお前にHPを増やしたりダメージを減らすスキルは要らないよな」

「そうだね、だから今回の装備はSTRやAGIに補正が入るのを選んだよ。何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から装備出来る物も増えたし!」

 

 そう、先日ミカは【戦士(ファイター)】のレベルをカンスト(50に)して新しい下級職【戦棍士(メイス・ストライカー)】に就いていた。

 新しいジョブである【戦棍士】は棍棒の運用に特化した【棍棒士(クラブ・ストライカー)】の派生下級職で、文字通りメイスの運用に特化したジョブである。主に習得出来るスキルがメイスの運用を補助する《戦棍技能》、自分の攻撃に対して相手が防御出来なかったときに自身のSTRの10%×スキルレベル分だけ相手の素のENDを減算する《ストライク・ペネトレイト》、相手の防具を破壊するアクティブスキル《アーマーブレイカー》などがあったので、自身の<エンブリオ>との相性がいいと思って選んだようだ。

 

「私の【ギガース】はメイスだし、《バーリアブレイカー》との相性も良さそうだしね!」

「実際、防御スキルやENDへのバフを減衰させる<エンブリオ>と、素のENDや装備防御力補正を減算するジョブスキルの相性は最高だろうな」

 

 ミカは徹底的に相手の防御をブチ抜いて攻撃を通すビルドにするらしい。…………将来的に攻撃を防げる奴が居なくなるんじゃないか?

 

「それに何より私達の<エンブリオ>が第三形態に進化したしね! 私のは相変わらず武器攻撃力とステータス補正とスキルレベルが上がっただけだけど」

「俺も相変わらずステータス補正はオールGのままだけどな。…………まあ《光神の恩寵》のレベルが上がって獲得経験値が+200%になったし、()()()()()()()()()()けどな。……今回ここに来たのはその試し撃ちも兼ねているし」

「いや〜楽しみだね〜お兄ちゃんの新スキル!」

「あまり期待されても困るんだが…………」

 

 そうして、騒がしいミカを後目に俺は<墓標迷宮>に入っていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<墓標迷宮> 【戦棍士】ミカ

 

 あれから私達は、<墓標迷宮>の入り口の見張りの兵士さんに【許可証】を見せ(<マスター>が【許可証】を見せたことに少し驚いていた)中に入っていった。

 

「さて! 調べた情報によると序盤の階層に出て来るモンスターはアンデッド系ばっかりみたいだね! ……うん【スピリット】とかも私ならなんとかなるし、お兄ちゃんは【司祭】だから対アンデット用のスキルも使えるよね?」

「ああ、聖属性攻撃魔法の《ホワイトランス》やアンデッドに対する浄化・デバフ魔法《ピュリファイ・アンデッド》が使えるな」

「よし、ガンガンモンスターを倒してレベルを上げていこう! 神造ダンジョンなら()()()()()()()()()()()()いくら倒してもリポップするしね」

「フィールドでは多くの<マスター>がモンスターを倒し過ぎたせいで一部の狩場でモンスターが殆ど居なくなった、なんて事になってるらしいからな」

「何事もやりすぎは良くないよね〜。じゃあ今日は地下5階のボスを倒して終わりにしようか!」

 

 そんなことを話しながらしばらく歩いて行くと、前からモンスターが現れた…………え〜と【シビル・スケルトン】に【ウーンド・ゾンビ】か〜、さすがに現実視だと色々ハッキリ見えてきついね! ……なんか腐臭も漂ってくるし…………

 

「さてお兄ちゃん! 早速新スキルの出番だよ‼︎」

「はいはい…………とりあえず撃ってみるか……《ホワイトアロー》!」

 

 そう言ったお兄ちゃんの弓から白い光を纏った矢が放たれ、その射線上にいたアンデッドが()()()()()

 

「お〜結構凄い威力じゃん!」

「いや思ったよりMPの消費が激しいな、雑魚相手じゃ威力も過剰だし……《ピュリファイ・アンデッド》まで組み合わせる必要は無かったか?」

「まあまあお兄ちゃん、初めて創ったスキルにしては良くできてると思うよ? …………それにしても()()()()()()()()()って字面はすごく強キャラ感があるよね!」

「字面だけはな…………思ったより使いにくいし…………」

 

 そう、お兄ちゃんの新しいスキル《百芸創主(スキルマイスター)》は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()スキルである。

 今使った《ホワイトアロー》は弓系攻撃スキル《ハンティングアロー》と聖属性攻撃魔法スキル《ホワイトランス》、アンデットデバフ・浄化スキル《ピュリファイ・アンデッド》を組み合わせ“アンデッド特効効果を持つ聖属性弓系攻撃スキル”として創ったスキルである。また、創造するスキルの発動形式や消費MP及びSP・威力・射程・範囲・チャージ時間・クールタイムなども調整出来るとのこと。

 

「実際この《百芸創主》は制限や制約がかなりあるからな…………まず、創れるのはアクティブスキルだけで、組み合わせられるスキルの数は<エンブリオ>の到達形態と同じで今は三つだけ、また使うスキルの数を増やすと使用するためのコストが跳ね上がるようだ、さらに各種要素の調整も何処かを上げれば別のところを下げる必要がある、それに一度スキルを創ってしまうとデンドロ内時間で二十四時間は再調整・削除できず、既にオリジナルスキルを創るのに使っているスキルは別のオリジナルスキルを創るのには使えない、何よりオリジナルスキル作成用のスロットは()()()()()()()()5()0()()()()()()だから今は一つしか創れない」

「こうして並べてみると結構制約が多いねー」

「出来たスキルも実際に使って見なければ詳細はわからないからな。…………使いこなすには時間がかかりそうだ」

 

 どうも新スキルは大器晩成型らしい…………お兄ちゃんの<エンブリオ>は全体的にそんな感じだけど。

 

「さて! 新スキルもここでは役に立ちそうだし先に進もうか!」

「そうだな…………大分臭いにも慣れたしな」

 

 そうして私達は先に進んでいった。

 

 

 ◇

 

 

「《ピュリファイ・アンデッド》‼︎」

「そこ! 《スマッシュメイス》‼︎」

 

 お兄ちゃんのスキルで敵のアンデッドモンスター達の一部が浄化されて消滅し、それ以外の相手もデバフ効果で動きが鈍る。

 その隙に目の前の武器を持った【スケルトン・ソルジャー】を【戦棍士】で覚えたスキル──以前まで使っていた《スマッシュ》のメイス版上位互換スキル──で粉砕した。そしてそのまま周りのアンデッド達を【ギガース】で薙ぎ払っていく。

 

「ハハハハハ! やっぱりアンデッドは脆いね‼︎」

「脆い分しぶといんだから油断するなよ…………《ホワイトランス》!」

 

 私の攻撃範囲外のアンデッドを弓で牽制していたお兄ちゃんが、まだ残っていた【レッサーレブナント】に魔法を放ち消滅させた。それを横目に近くにいた【ホーンテッド・スピリット】を()()()()()()()()

 

「《物理攻撃無効》も私には意味がないよ!」

「はいはい…………やっぱりアンデッドには弓より聖属性魔法の方が有効だな」

 

 そうこうしているうちに最後の一体を叩き潰し、それでアンデッドの一団は全滅していた。

 …………周りにはアンデッド達が落としたドロップアイテムが落ちているが、正直中身はしょぼい…………【スピリット】とか何も落とさないし…………

 

「まあ、ドロップアイテムが目的で来た訳じゃないしね!」

「ああそうだな…………目的の地下五階についたし、多分この先がボス部屋だろう」

 

 とりあえず【ポーション】でMPとSPを回復させてから奥に進むとそこは広い空洞になっていた。

 

「おーいかにもダンジョンのボス部屋って感じだね!」

「確かにボス部屋のようだな……あそこにボスっぽいモンスターがいるし。…………【スカルレス・セブンハンド・カットラス】ね」

 

 そこには十メートルほどの巨大なスケルトンがいた。その姿は手の代わりに左右3本づつの刃状の骨を生やしており、さらに頭は無く代わりに先端に刃がついている連結された長い骨を振り回していた。…………うん、ファンタジーに出て来るザ・ボスって感じのモンスターだね!

 

「さて、どう戦うお兄ちゃん?」

「少し()()()()()があるからアイツの足止めを頼む…………《ピュリファイ・アンデッド》‼︎」

「オッケー、じゃあ行くよ!」

 

 お兄ちゃんのスキルで多少動きが鈍った【スカルレス・セブンハンド・カットラス】に向かって私は突っ込んで行く。するとボスは七本の刃をこちらに向けて振るって来た! 特に頭の鞭みたいな骨が厄介だね、起動が不規則だし…………私には全部の攻撃が解っているけど。

 

「とりあえず巨大な敵への対処法その一『足を潰す!』《スマッシュメイス》‼︎」

 

 そうやって()()()()()()()()()()私はボスの足にスキルを叩き込んだ。

 ……やっぱり硬いね、今のでもあんまり砕けなかった。とりあえずこのまま密着して戦おう、そうすれば頭の鞭骨以外は振りにくくなるだろうし、あとは動きに気をつけていればなんとかなるかな、これだけサイズ差があれば次のお兄ちゃんの攻撃の邪魔にもならないだろうし。

 

「さて、これなら当てられるな……《空想秘奥(ブリューナク)》《ホワイトアロー》‼︎」

 

 そして、お兄ちゃんが撃った強い輝きを放った矢がボスの胴体部分に当たり、左右六本の刃の内()()()()()()()()()()()()

 

「《サードヒール》…………思った以上に威力が出たな、《空想秘奥》がスキルの特殊効果も強化したのが原因か。…………それにオリジナルスキルにも《空想秘奥》は効果を及ぼせる事は確認できたな。…………アレに普通の矢は大して効果は無いだろうし魔法主体で戦うか、《瞬間装備》《ホワイトランス》!」

 

 お兄ちゃんは【司祭】用の聖属性・回復魔法に補正が掛かる短杖──この前マリィさんの店で買ったやつ──に持ち替え魔法をボスに放った。左右のバランスが崩れたボスは動きがかなり鈍っておりその魔法をまともに食らった。

 …………さて、私も死角になった左側に回ろうか、コッチなら鞭骨以外は届かないだろうし。

 

「あとはワンサイドゲームだよ! 《スマッシュメイス》‼︎」

「これだけダメージを与えればな、《ホワイトランス》!」

 

 その後集中攻撃された足を砕かれたボスは、それから程なくして倒されたのだった。

 

 

 ◇

 

 

「いや〜地上の空気は美味しいね!」

「さっきまでは腐臭が酷かったからな」

「まあ【戦棍士】のレベルも大分上がったから良かったけどね」

「俺も【司祭】がカンストしたからな」

 

 あれからボスを倒した私達は、ドロップアイテムとボス撃破の追加報酬を受け取り、出てきたワープポイント(一緒に地下六階への階段も出てきた)を使って地上に戻ってきた。

 また、ドロップアイテムには【エレベータージェム】が二つ出てきており、これを使えば一回だけ地下六階からダンジョンに潜れるようだ。

 

「他のアイテムは換金アイテムと……【救命のブローチ】か。ええと……確率で致死ダメージを無効にするアクセサリーだって、どうするお兄ちゃん?」

「それは前衛のお前が持っていればいいだろう。…………お前の勘でもどうしようもない攻撃が来ても防いでくれるだろうしな」

「わかったよ……ありがとうお兄ちゃん」

 

 そうして私達の<墓標迷宮>初アタックは終わったのだった。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

妹:オリジナルスキル名をもっとカッコいいのにすれば良いのに、《†神聖ノ光矢†(セイクリッド†ブラスト)》とか(笑)

兄:戦闘中にそんな恥ずかしいスキル名を言えるか!

百芸創主(スキルマイスター)》:【百芸万職 ルー】の第四スキル
・オリジナルスキルを創るスキル。
・あくまで既存スキルの合成及び調整のスキルなので“神”系の超級職や才能がある人が創るスキルと比べると自由度などが大きく劣る。
・創ったスキルの名称は自分で決める必要がある………兄的にはこれが一番面倒くさい。

《ホワイトアロー》:兄のオリジナルスキルその1
・《ハンティングアロー》《ホワイトランス》《ピュリファイ・アンデッド》を組み合わせており、特に細かい調整はしていない。
・上記の組み合わせだと“矢型の聖属性魔法を放つスキル”としても創ることが出来る。

《ピュリファイ・アンデッド》:【司祭】のスキル
・周囲のアンデッドに対してデバフを与え、低位のアンデッドを低確率で浄化・消滅させる。

戦棍士(メイス・ストライカー)】:棍棒士系統派生下級職
・妹の第二のジョブ、メイスの扱いに特化している。
・転職条件に“メイスでの敵の撃破数が三十以上”、“《棍棒技能》のレベルが3以上”がある。
・上級職は【剛戦棍士(ストロング・メイス・ストライカー)】、また特殊な上級職に【戦棍鬼(メイス・オーガ)】がある。
・超級職は【戦棍王(キング・オブ・メイス)】………でも絶賛ロスト中。

棍棒士(クラブ・ストライカー)】:棍棒士系統下級職
・棍棒の扱いに特化したジョブ。
・その他の派生職にハンマーの扱いに特化している【戦鎚士(ハンマー・ストライカー)】や、フレイルの扱いに特化している【連接棍棒士(フレイル・ストライカー)】などがある。

《戦棍技能》:【戦棍士】のスキル
・メイスの扱いを補正するスキル。
・メイスは棍棒としても扱われるので《棍棒技能》でも補正が入るが、こちらの方がより強い補正が入る。

《ストライク・ペネトレイト》:パッシブスキル
・この効果でENDはゼロ以下にはならない。
・【棍棒士】【戦棍士】などの打撃武器系ジョブで取得出来る。
・相手に防御されると発動しないのでAGI基準の《剣速徹し》と比べるとやや使いにくい。

《アーマーブレイカー》:アクティブスキル
・スキルレベルに応じた割合だけ相手の装備の防御力を減算する。
・棍棒士系統のジョブにはこれらの防御の上から殴るタイプのスキルを多く取得する。


読了ありがとうございました! これで今章は終わりです。
次回から新章の予定なので、更新は遅くなると思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。