とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

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新章がボチボチ書けてきたので投稿していきます。


それでは本編をどうぞ。


指名クエストと<UBM>
兄妹の指名クエスト


 □王都アルテア冒険者ギルド 【大狩人(グレイト・ハンター)】レント

 

 俺達が<Infinite Dendrogram>を初めてから現実(リアル)では十日、デンドロ内で約一ヶ月の時間が経過した。

 その間にも世間のデンドロブームは留まることを知らず、この<アルター王国>にも多くの<マスター>が現れるようになった。そして、ティアンの人達も次第にその事に慣れ始めてきたようだった。

 

「いや〜この一ヶ月、デンドロの中では色々な事があったね〜お兄ちゃん?」

「初日から亜竜級のモンスターと戦ったりな…………まあ確かに色々あったな」

 

 そう言っているのは妹のミカ、今は冒険者ギルド内の一角でカタログを見ながらクエストを見繕っている。

 

「俺もようやく上級職に転職できたからな。まだまだこれからだろう」

「イヤイヤお兄ちゃん、デンドロ内一ヶ月で下級職二個カンストして上級職に就くなんてスゴイ早いからね! 他の<マスター>なんて下級職一職目もカンストしてないのがほとんどだからね!」

「まあ、俺の<エンブリオ>はそういうものだからな」

 

 つい先日二職目の下級職である【司祭(プリースト)】をカンストした俺は、転職条件を満たしていた狩人系統の上級職【大狩人】に就いていた。これも【ルー】が第三形態になり《光神の恩寵(エクスペリエンスブースター)》のレベルが3になったお陰なのだけれども。

 …………やはり上級職だと1レベル毎に上がるステータスが下級職の時よりも高い、これならより経験値稼ぎも捗るな。

 

「やっぱり経験値増加スキルはチートだね! チーターだね‼︎」

「別に衣装は黒くないし二刀流も使わんぞ。…………大体お前の方がSTRとか高いじゃないか」

「【戦棍士(メイス・ストライカー)】は主にSTRを中心に物理系のステータスが伸びるからね、他にもメイス装備時にSTRを上げるパッシブスキル《マッスルフォース・メイス》とかもあるし、【ギガース】のステータス補正もSTRはBぐらいあるしね」

 

 これらの要素と装備補正などを加えるとミカのSTRは1000を超える。【ギガース】の性能とアクティブスキルを合わせれば、亜竜級のモンスターにも大きなダメージを与えられる程である。

 …………レベルが倍以上差があるのに物理的なステータスは大体負けてるからな。

 

「人の事をチートとか言えたモノかよ」

「うーん…………結論! <エンブリオ>は大体チート‼︎」

「…………まあティアンの人から見ればそうなるだろうな」

「そうだねー…………“ころしてでもうばいとる! …………”みたいなことにならなきゃ良いけど」

「<マスター>は死なないけどな。…………ティアンの人達も不死身の化け物相手にそんな無謀なことはしないだろう」

 

 それに、この世界には<マスター>と言う存在がどれだけ理不尽なモノなのかが伝説になるぐらい伝わっている。それらは過去に居たと言う<マスター>──大体全部キャット性のやつ──が原因で伝わったモノだ。

 …………まあ、運営側もそんな事態にならない様な布石としての意味もあってそんな伝説を広めたのだろう。

 

「ま、この話はこれ以上しても仕方ないし今日やるクエストを決めようか!」

「そうだな…………ん?」

「どうしたのお兄ちゃん? …………あっ、あれはアイラさんだね、どうしたんだろう?」

 

 そこには、何時もはギルドの受付にいるアイラさんがこちらに向かって来るところだった。

 

「レントさん、ミカさん、少しお時間を頂けないでしょうか?」

「別に良いですけど……何の用なんですか?」

「…………ここではあれなので別室でお話しします。どうかついて来て下さい」

 

 そうして俺達はアイラさんについて行きギルド内の個室に入っていった…………どうも周りの目を気にしていた様だし、いったいどんな話なのやら…………

 

 

 ◇

 

 

 個室に入り、そこに置いてあった机に向かいあって座ると、いきなりアイラさんが頭を下げて来た。

 

「お二人とも、いきなり呼び出してしまってすみませんでした」

「頭を上げてください、アイラさんには色々お世話になっているのでそのぐらい構いませんよ」

「そうですよ! お兄ちゃんの言う通りですって! …………それで要件は何なんですか?」

「ありがとうございます。…………それで要件なのですが、お二人には()()()()()()()を受けてもらえないかと打診しに来ました」

 

 そう言ったアイラさんは一枚のクエスト用紙を取り出し俺達に見せた。…………そこにはこう書かれていた。

 

 難易度:五【調査依頼ーノズ森林奥地】

【報酬:一人当たり十万リル ※ 調査内容次第では特別報酬あり】

『ノズ森林奥地で起きている異常の調査。報酬の十万リルは結果によらずに支払われる。時間は各種準備・調査で約一日を予定』

『※この依頼を受けるのは<マスター>のみとする』

 

 これは<マスター>限定の依頼? 内容は<ノズ森林>の奥地の調査? いやそれよりも…………

 

「難易度五のクエストとは…………俺達はまだ難易度一から三ぐらいのクエストしか受けたことがないんだが……」

「まあクエストの難易度よりもレベル上げを優先してたしねー。…………それよりも、難易度四以上のクエストはそれまでに成功させたクエストの数によって受けられるのかが決まるんじゃなかったっけ?」

「確かそうだったはずだが…………報酬も妙に高いし…………アイラさん、このクエストは一体どう言うことなんですか?」

「はい、それを今から説明します。まずこのクエストはギルドが特定の相手にのみ提示する“指名クエスト”です」

 

 アイラさん曰く“指名クエスト”とは通常のクエストと違い、ギルドが特定の相手に直接依頼する形式のクエストなのだと言う。

 …………色々気になるところの多いクエストだが、とりあえずアイラさんに詳しい事情を聞く事にした。すると彼女は真剣な表情で語り始めた。

 

「…………事の始まりは王都周辺のモンスターの生態系が変わってきたことです」

「それって<マスター>が王都周辺のモンスターを狩り過ぎて、最近獲物がだいぶ減ったーとか言っていた話ですか?」

「いえ、その話は余り関係はないでしょう。…………なぜならこの件の始まりは一ヶ月前……()()()()()()()()()()()()()()()()()まで遡りますから」

 

 アイラさんの話によると、約1ヶ月前から王都の周辺により遠い場所に生息している強力なモンスターが現れた事が何度か報告されたのだと言う。

 …………モンスターの生態系の変動自体はこの世界ではそこまで珍しい事ではなく、環境の変化や元々住んでいた場所により強力なモンスターが現れるなどの要因で住んでいた場所を移動するケースはそれなりにあることらしい。

 とはいえ王都周辺の生態系の変動はそこに住む住人、ひいては王城に住む王族の安全にも影響するため王国の騎士団や有志の冒険者たちによって、王都周辺及び遠方の高レベルモンスターの生息地の調査がなされた。

 

「その調査自体は、これまでも何度かあった事なので順調に進みました。…………ただ一ヶ所を除いて」

「それが<ノズ森林>の奥地だった、と」

「はい…………<ノズ森林>の奥地に調査に向かった合計レベル200代のベテラン冒険者のパーティーは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何でもその冒険者のパーティーは二日程度で調査を終えて王都に帰って来る筈が、三日経っても何の連絡も寄こさず今に至るらしい。

 しかし…………

 

「そんなベテラン冒険者でもダメだったクエストを、よりレベルの低い<マスター>にやらせて大丈夫なんですか? 多分王国の<マスター>の殆どが合計レベル50にも届いていませんよ?」

「そうだねー……合計レベル三桁超えてるお兄ちゃんが言ってもあんまり説得力ないけどね〜」

「俺は<エンブリオ>がレベル上げに向いていただけだしな。それにベテラン冒険者たちや騎士団と違って調査の為のノウハウも無いし」

「いえ…………このクエストは()()()()()()()()()()()()()()()()のです」

 

 そう言ったアイラさんは少し申し訳なさそうな表情をしていた…………ああ、成る程ね…………

 

「死んでも三日経てば蘇る<マスター>なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はい…………このクエストは以前お二人が話していた提案を元に私と父…………第一騎士団の長・リヒト・ローランが発案したものです。『<マスター>に調査を任せれば確実に情報を持ち帰ってくれるだろう。それにこれ以上の犠牲も減らせる』と」

「…………あれ? アイラさんのお父さんって門番じゃなかったっけ?」

「えっ……いえ私の父・リヒト・ローランは王都警備を担当している第1騎士団の長をしています。確かお二人と父が出会った場所は王都の門前でしたね、それなら門番だと勘違いしても仕方ありませんか…………父はよく自分で王都の見回りをしているので、偶々門の前でお二人と会って話をしたと言っていました」

 

 そうだったのか…………ずっと門番さんだと思ってたよ…………王都警備担当の第一騎士団の長とか、あの人もの凄く偉い人だったんだ…………

 

「今までずっと勘違いしてたな…………それにしてもあの時ミカがした提案がまさか本当に現実のものになるとは……」

「えっ、私何か言ったっけ?」

「ほら、お前が初日に言ったじゃないか『<マスター>はどうせ死なないのだから命の危険がある依頼でも報酬次第では受けると思う』とか」

「あ〜そういえばそんな事も言ったっけ! 忘れてたよ!」

 

 俺達がそんな話をしていると、アイラさんがこのクエストの詳細について話してくれた。

 

「このクエストの報酬の十万リルは調査の結果に関係なく受注した全ての<マスター>に支払われます。そして、調査内容が危険なものであったりした場合には追加で特別報酬も支払われます。…………それで、お二人はこのクエストを受けてもらえるでしょうか? なお、クエストを受けない場合はこの部屋での事は他言無用にお願いします」

 

 ふむ…………確かに危険はありそうだがクエストの内容に対して報酬は破格だし、どうせ<マスター>は死んでも死なないのだから別に受けても構わないと思うのだが…………

 

「どうするミカ? 俺は受けても構わないと思うんだが」

「うん…………私も()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …………ミカがまた遠くを見るような目になっている…………これはまた何か感じ取ったな。ミカがこうなった時はその直感に従わないとロクなことにならないからな。

 …………まあ、どうせ死んでも死なないゲームなのだから気楽に行くか。

 

「わかりました、そのクエストをお受けします」

「はい! 私も受けます‼︎」

「お二人共ありがとうございます、このクエストは冒険者ギルドの方で、他にも信用できる<マスター>に声を掛けています。お二人にはその方達とパーティーを組んで頂きたいのですがよろしいですか?」

「それは別に構いませんが…………他の<マスター>とは一体誰なんですか?」

 

 俺もミカもあんまり野良パーティーとか組まないんだよな。

 …………基本二人で組んでるし、お互いソロでも何とかなってしまうからな…………他の<マスター>とパーティーを組んだのってエルザちゃんの時ぐらいじゃなかったか?

 

「ご安心ください、当ギルドの方で実力と人格面で信用できると判断した<マスター>達に声を掛けていますから。…………まあ何人クエストを受けてもらえるかは分かりませんが。なので詳しい紹介はパーティーメンバーが揃ってからにさせてもらいます。…………ではしばらくこの部屋でお待ちください、クエストを受けた他の<マスター>を連れてきますので」

 

 そうして、アイラさんは部屋から出て行った。

 …………とりあえずこの間に少しミカと話しておくか。

 

「さて、何か妙な話になってきたな。…………ミカ、お前の勘で何か解った事はないか?」

「今のところ近い勘ではこのクエストはそれなりに危険だって出てる、けど遠い勘では受けた方が良いって感じなんだけど…………というかこのクエストを受けないと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って出てる」

「じゃあ受けて正解だったな、流石にアイラさんの身に何かあったら寝覚めが悪い。…………それでこのクエストの成功率はどの位なんだ?」

「そこまではまだ詳しく分からないけど…………これから来る<マスター>達と協力すれば達成するのは不可能じゃないって感じかな」

 

 成る程、ならなんとかなるか…………ミカの勘で受けるなと出ていないからな。

 

「あんまり私の勘を過信しないでよ。…………特にこの世界では私が不死身の<マスター>なせいか、感覚も微妙に違ってるし」

「ああ分かっているよ、お前の勘でも()()()()()()()()()()()()()ってことはな。…………それにしても俺達はこのギルドに結構信用されていたんだな」

「そうだねー、それはちょっと嬉しいかな〜。それに一体どんな<マスター>が来るんだろうね〜、私達他の人とパーティーとかあんまり組まないから楽しみだな〜」

「そうだな」

 

 さてと、これから来る<マスター>達は一体どんな人達なのやら…………




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

兄:今回上級職に転職、ペースは超早い。

妹:今回のクエストでは嫌な予感がしているが、受けない方が悪い結果になりそうな気もしている。

大狩人(グレイト・ハンター)】:狩人系統上級職
・ステータスやスキルは【狩人】を全体的に強化した感じ。
・転職条件は“【狩人】のカンスト”、“モンスターの一定数以上の討伐”、“モンスターから一定の質以上のドロップアイテムを入手する”だった。

《マッスルフォース・メイス》:【戦棍士】のパッシブスキル
・メイスを装備している間、自身のSTRをスキルレベルに応じた割合で強化する。
・特定武器の扱いに特化したジョブには、これらの特定武器装備時に効果を発揮するパッシブスキルをいくつか取得することが多い。

アイラさん:今回の依頼人
・<マスター>が誰も依頼を受けなかった場合には自分も調査に志願しようと思っていた。

リヒト・ローラン:依頼人その二
・今回の依頼は王国の益となる<マスター>がどの位居るのかを確かめる意味もあった。
・なので今回のクエストの報酬はかなり色をつけている。


読了ありがとうございます。これから少しずつ投稿していきます。

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