それでは対<UBM>戦をどうぞ!
□<ノズ森林>奥地 【
『GUUUUUUUU‼︎』
「防げ! ラフム‼︎」
『BO・BO・BO!』
私達に向かって剣を振りかざして突っ込んで来た【魔刃悪鬼 ゴリドン】を、シャルカさんのラフムが私達を庇う様にして迎え撃つ。
相手のAGIはこちらよりも大分早いようで振るわれるその剣先は霞んで見える程だったが、《物理攻撃無効》のスキルを持つ泥のゴーレムであるラフムにダメージを与える事は出来ていない様だ。
…………だが、これで終わる様なら<
『
『BO・BO・BO⁉︎』
「ラフム⁉︎ くっ《エンチャント・エンデュランス》‼︎」
「流石にまずいな《ハンティングスナイプ》!」
攻撃が効かないと判断するや否や【ゴリドン】は、剣に炎を纏わせるアクティブスキルを使いラフムを切り裂いた。
…………幸いな事に泥のゴーレムであるラフムに対して、炎による攻撃は効果が今一つだったらしくダメージは少なかった様だ。すぐにシャルカさんがEND単体バフをかけてダメージを減らし、お兄ちゃんの支援射撃を相手が躱して距離を取った隙に体制を立て直した。
…………よし、私も前に出よう。直接戦えばさっきから感じている
「お兄ちゃん、私も前に出るよ」
「わかった! ……前衛は前に出てくれ! 多分次からはラフムを無視してくるぞ‼︎」
『GUUUU!』
お兄ちゃんの言葉通りに【ゴリドン】は攻撃が大して効かないラフムを無視することにしたらしく、高いAGIを使ってラフムを躱し後衛のシャルカさんを狙って来た。
…………だが、その行動を直感で先読みしていた私は、相手の進行方向に先回りしてそのままアクティブスキルを叩き込んだ。
「《スマッシュメイス》」
『GUUUUU⁈』
「やっぱりそっちを狙うよな《ハンティングアロー》!」
私の不意打ち気味に放たれたアクティブスキルは相手の剣で受け止められるが、僅かに体制が崩れたところにお兄ちゃんの援護射撃が突き刺さった。
…………やっぱり強いね、ステータスは大体亜竜級の三倍ぐらいかな。後、違和感の正体も
そして、私達が稼いだ時間を使って他の前衛メンバーも来たみたいだね。
「《テイマーズコマンド・デフェンス》アリア、トリム! ウォズ《ウインドカッター》、アーシー《ロックグレイヴ》‼︎」
『
『
「了解! 防御は任せて‼︎」
「私は攻撃です《トライスラッシュ》‼︎」
エルザちゃんの指示によってウォズの風の刃が【ゴリドン】を牽制し、その隙にアーシーちゃんが地面から石の槍を出す地属性魔法で相手を打ち据えダメージを与えた。
その隙に接近したアリアさんとトリムちゃんに向けて相手が剣を振るうものの、エルザちゃんからの防御バフを受けたトリムちゃんがその攻撃を吹き飛ばされながらも盾で受け止めて、そこにアリアさんが三連撃を打ち込んだ。
「今です! ラフム! 抑え込みなさい‼︎」
『BO・BO・BO‼︎』
「よし動きが止まったね、ここは足を狙おうか《インパクトストライク》!」
「行くぞ! ネイ‼︎」
『オッケー! マスター《オーヴァー・ブレード》‼︎』
「《スラッシュエッジ》‼︎」
怯んだ相手に追いついたラフムが後ろから絡みつき動きを止め、そこに私のアクティブスキルが放たれ相手の足を砕いた。
そこに、フォルテスラさんとネイリングちゃんが亜竜級モンスターをも両断するスキルを放った。
しかし……
『GUUUUUU‼︎』
「なにっ! ……ぐわっ‼︎」
『マスター⁉︎』
その攻撃は【ゴリドン】の身体を少し切り裂いたところで止まっており、それに動揺したフォルテスラさんを剣で弾き飛ばし、そのままラフムを振り払った相手はすぐさま後方に飛び退いた。
「くっ、どういう事だ⁉︎《看破》しても
『マスター、やっぱりアイツ変だよ! なんだかよくわからないけど…………とにかくなんか変!』
「ですがミカさんの攻撃は効いている様です。あの足なら先程の様な動きは……」
『GUUUUUUUU‼︎』
そんな事を言ったシャルカさんの目の前で【ゴリドン】が大声で叫びだした。
…………すると相手が光に包まれると共に、その傷が
「そんな…………」
「《看破》で見てみましたが《超回復》というスキルがありました、おそらくそれが原因でしょう。他に該当しそうなスキルはありませんでしたし…………」
「だが、MPとSPもそれ相応に減っている! このまま攻め続ければ勝てるはずだ‼︎」
その言葉に皆が希望を持ったみたいだけど…………
……すると、お兄ちゃんがフォルテスラさんに話しかけた。
「すみませんフォルテスラさん、差し支えなければさっきアイツに使ったネイリングのスキルを教えてくれませんか?」
「……? ああ、さっき使った《オーヴァー・ブレード》は“選択した攻撃対象の素のENDをネイリングの攻撃力に加算する”スキルだ。…………だが、さっきは何故かアイツには効かなかったな…………?」
「成る程……そっちが効かずにミカの攻撃が効いたって事は……そういう事か……ミカ! 危険度が高いのは
「さっき打ち合った時の感覚だと、
「それじゃあ確定だな……あとはどういうタイプかだが……それはこれから確かめるか」
そんな私達の会話に他のメンバーは疑問符を浮かべていた…………まあ私の直感は他人には理解され辛いし、お兄ちゃんもいざって時には頭が異様にキレるから他から見たときは分かりにくいしねぇ……
「皆、頼みがある……アイツの動き、特に剣を持っている腕の動きを止めて欲しい。その隙に俺の切り札の一つをアイツに打ち込む」
「それでアイツを倒せるのか?」
「……少なくともアイツの能力のカラクリは見抜けると思います」
「カラクリと言っても……ヤツの能力は全て看破できていますよ?」
「いや待てシャルカ、俺もアイツの能力には違和感を抱いている……それに、ネイもさっきからアイツから変な感じがしているらしい。ここはレントくんの指示に従おう」
「ありがとうございます、フォルテスラさん…………来ます‼︎」
『GUUUUUUUU‼︎』
お兄ちゃんの言葉と同時に【ゴリドン】がこっちに突っ込んで来た……どうやら傷は完全に治ったらしい。
「防げ! ラフム!」
『BO・BO・BO!』
「おっと、逃がさないよ《スマッシュメイス》‼︎」
「アーシー! 《グランド・ホールダー》!」
『
それに対しラフムが再び壁になろうとするが、相手はそれを躱し……たところを先読みしていた私の一撃で怯ませ、そこにアーシーちゃんの魔法で作られた“地面から現れる巨大な五本の腕”が掴みかかった。
『GUUUU⁉︎』
「逃がしません《スラッシュエッジ》‼︎」
「させん! 《オーヴァー・エッジ》《トライスラッシュ》‼︎」
「今です! 捉えなさいラフム‼︎」
『BO・BO・BO‼︎』
それを切り払って逃れようとする相手を、アリアさんとフォルテスラさんの攻撃が妨害し、そこにラフムが絡みついて動きを完全に止めた。
「よし! 《モンスター・ハント》“
そうして動きを止めた【ゴリドン】……の剣に向かって、お兄ちゃんの新オリジナルスキル──《ホワイトランス》《弓技能》《ハンティングアロー》のスキルを組み合わせ
…………そして、その剣からこの世のものとは思えない音がした。
『■■■■■■■■■■■⁉︎』
「最初からおかしいと思っていたんだ……俺達の低レベルな《看破》や《鑑定眼》で
そうお兄ちゃんが言うと、ヤツの頭の上の【魔刃悪鬼 ゴリドン】の文字が掠れて消え、そこには【ホブゴブリン・ソードマスター】の文字が浮かんでいた。
…………そして、あの剣の上に文字が浮かんでいた…………【心蝕魔刃 ヴァルシオン】と…………
◇◇◇
□<ノズ森林>奥地 【
『あっ、マスター! あの変な感じが消えたよ!』
「成る程な、そう言う事だったか……ネイにはその能力上“他者のステータスを感じ取る”感覚がある。それがヤツのスキルで妨害されていたのが原因か」
「確かに言われてみれば、私達の低レベルなスキルで能力が全て解るのはおかしいですね……」
その正体を現した<UBM>……【心蝕魔刃 ヴァルシオン】を見て、皆が俺の言葉に納得した様だ。
…………良かった、推測が当たってて……正直、ヤツの種族はエレメンタルとアンデットの二択だったからな。偽装が解けた今なら、狩人系の各種スキルで種族がエレメンタルだと解る……まあ、アンデットでも聖属性の攻撃だったから問題なかったけど。
まあ、重要なのは
「さて、正体を現したところで、早速仕留めさせてもらおうか。……全員! あの剣を狙ってくれ‼︎」
『■■■■■■■■■■‼︎』
俺がパーティーメンバーに指示を出すと同時に
…………だが、俺ばかりに注意を向けていていいのか?
「ラフム! 逃すな‼︎」
『BO・BO・BO‼︎』
「アーシー! 拘束を追加して‼︎」
『
逃げようとするヤツに対しラフムが更に拘束を強め、その足が地面に出来た泥に沈んみ込んだ。それによりヤツの動きは再度封じ込められた。
更に、そこにフォルテスラさんが飛び掛かった。
『マスター! 《オーヴァー・ブレード》の再設定は終わったよ!』
「よし! 《スラッシュエッジ》‼︎」
『■■■■■■■■■■■■⁉︎』
ターゲットを【ヴァルシオン】に変更したフォルテスラさん達の斬撃がその刀身に直撃し、俺がつけたヒビを更に広げた。
…………そこで持ち主の【ホブゴブリン・ソードマスター】がヤツを庇うような動きを見せた…………動きがぎこちないから、やっぱり無理矢理操られている感じかな?
「いや、剣士が剣を庇うとか本末転倒でしょ《インパクトストライク》‼︎」
「そうですね《スラッシュエッジ》‼︎」
『GUUUU⁉︎』
その行動で出来た隙を狙ってミカとアリアさんがゴブリンの手足を攻撃し、そのダメージによってヤツへのガードが緩んだ。
「これで終わりだ……《
そこに《空想秘奥》によって強化された、俺のもう一つのオリジナルスキル──《モンスター・ハント》《
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼︎』
その攻撃により【心蝕魔刃 ヴァルシオン】は断末魔をあげて砕け散った。
◇
【<UBM>【心蝕魔刃 ヴァルシオン】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【レント】がMVPに選出されました】
【【レント】にMVP特典【心身護刃 ヴァルシオン】を贈与します】
砕け散った【心蝕魔刃 ヴァルシオン】が光の塵になると共に、今のアナウンスが告げられた。
それと共に、俺の下に一つの【宝櫃】が贈与された…………<UBM>は倒すと特典武具とも呼ばれる特別なアイテムを落とすらしく、それはその戦いで最も活躍した者に贈られると聞いたが、今回は俺がMVPに選ばれたらしい。
…………ちょっと叩いてみるか。
「MVPおめでとうお兄ちゃん、やっと終わったね〜……って何叩いてるの?」
「…………また偽装しているんじゃないかと思ってな」
「いや〜そこまで疑わなくてもいいでしょ…………大丈夫、私の勘でも【ヴァルシオン】はちゃんとやられたって出てるから!」
どうやら本当に倒されたらしい…………流石に疑いすぎたか。
しかし今回の戦いは大分綱渡りだったな、特にダメージを受けたヤツがあそこまで動揺したからその隙をつけた訳だし…………もし、動揺せずに普通に戦われていたらもっと苦戦していただろう。俺のスキルも一日一度だけだからな。
……そこにフォルテスラさんが話しかけてきた。
「MVPおめでとうレントくん。今回の敵は君がいなければ倒せなかっただろう」
「いえ、皆が相手の動きを抑えてくれていたお陰です。……それで要件は
「ああ……あのゴブリンのことだ」
そちらを見ると【ヴァルシオン】に操られていた【ホブゴブリン・ソードマスター】が目を瞑って座り込んでいた。
…………ヤツを倒した後、すぐに限界だったラフムとアーシーちゃんの拘束魔法が外れてあのゴブリンは自由になったのだが、そこで逃げるでもこちらに襲い掛かるでも無くその場に座り込んでしまったのだ。
……その行動に面食らった俺達は激戦の疲労もあって、何かするタイミングを逃してしまったのだった。
「…………正直、あそこまで無抵抗の相手を斬るのは気が咎めるしな…………」
「そうだな…………っ!」
すると、いきなり目を開いたゴブリンは腰の剣を引き抜いてこちらに構えてきた!
それに対して俺達はすぐに迎え撃つ姿勢をとるが、ゴブリンはそのまま動かなかった……その目には先程までの狂気は一切なかった。
「一体何のつもりでしょうか……とりあえず全員にバフを……」
「いや待てシャルカ…………ここは俺一人で相手をする……行くぞ、ネイ」
『……わかったよ、マスター』
迎え撃とうとしたシャルカさんを止め、フォルテスラさんが既に満身創痍のゴブリンの前に出た。
「【剣士】フォルテスラだ……一騎打ちで相手をしよう」
『GUUUU!』
…………そして
『…………GAAAAA‼︎』
『《オーヴァー・ブレード》‼︎』
「《スラッシュ》‼︎」
…………決着は一瞬だった。
ゴブリンの剣はフォルテスラさんには当たらず、フォルテスラさんの剣はゴブリンの胴を薙いでいた。
『…………──』
…………そのまま【ホブゴブリン・ソードマスター】は光の塵になり天に登っていった。
「…………終わったねお兄ちゃん」
「…………そうだな」
こうして、俺とミカの初めての<UBM>戦は終わったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:初特典武具ゲット
・その詳細は次回!
妹:そのチート直感で初見殺しは大体看破出来る
《
・以前の使用経験から普段使いするなら普通のスキルで十分だと判断した兄は、オリジナルスキルをデメリットつきの高威力スキルに調整していた。
・その結果、強化込みで上級職の奥義と同等かそれ以上の威力を出す事に成功した。
・クールタイムの上昇は二十四時間までが限界であり、クールタイムを等倍で上げても威力が等倍で上がっていくわけではない。
・《アンチ・モンスター・スナイプ》は指定種族への威力を上昇させる代わりに、それ以外の種族への威力を大きく下げる調整もしてある。
・スキルの仕様上、クールタイム中のオリジナルスキルは削除・再調整出来ない。
フォルテスラ&ネイリング:今回大活躍その一
・【ヴァルシオン】は相応に硬い為、彼らの攻撃が無ければ兄の一撃で倒しきれなかった可能性もあった。
・最後の決闘では
シャルカ&ラフム:今回大活躍その二
・実際、今回は壁役や拘束役を担ったラフムがいなければほぼ詰んでいた。
エルザちゃんメンバー:今回大活躍その三
・今のラフムだけでは相手を拘束しきれなかったので、アーシーの拘束魔法は凄く重要だった。
【心蝕魔刃 ヴァルシオン】:今回のボス
・他者を支配し強化するエレメンタル系インテリジェンス・ウェポンの<UBM>。
・多くの強力なスキルを持つが、その代償として単独での行動能力をほとんど持たず、自身を振るう存在が必要になる。
・今回の敗因は、今まで弱い相手を倒して自身の能力を上昇させてきた為戦い方が拙く、偽装を見破られたり大きなダメージを受けたことも無かったので、いざそんな状況になった時にまともな対応が出来なかったこと。
《魂縛心蝕》:ヴァルシオンのスキルその一
・対象一人に強力な【魅了】の状態異常を与え、支配して自身を使わせる為のスキル。
・また、支配した対象の精神や記憶を改竄し自在に操ることも出来る。
・その特性上、既に支配対象がいる場合、それ以外の相手には使用出来ない。
・さらに支配対象が殺害された場合、そのリソースを使って殺害して相手に超強力な【魅了】を与え支配する《絶・魂縛心蝕》という派生スキルもある。
・この《絶・魂縛心蝕》を使ってより強い相手に乗り換えるコンセプトだった。
・……だが、それを見破られ自身が先に破壊された場合には当然使えない。
《陰装魔刃》:ヴァルシオンのスキルその二
・自身とその支配対象のステータスを隠蔽・偽装するスキル。
・その強度は非常に高く、最高レベルの《看破》や《鑑定眼》でも見破れず、単純に突破したければ超級職のスキルクラスの解析能力が必要。
・その効果範囲は多岐にわたり自身をただの剣に見せかける事を始め、頭上の名前の消去や改竄・ステータス及びスキルの偽装・MPやSPを減った様に見せかけるなどが出来る。
・……だが、どんな偽装をするのかは使用者の任意の為、上手く使わないと本編の様になる……隠蔽・偽装能力は強度よりも使い方が重要。
・ティアンのベテランパーティーは高レベルの《看破》や《鑑定眼》を持っていた為、逆に見破れなかった。
《強化魔刃》:ヴァルシオンのスキルその三
・自身を使っている支配対象の全ステータスを+100%するスキル。
・さらに、強化数値は自身によって殺害された生物十体につき1%上昇する。
・この上昇数値は自身の使い手が変わっても継続される。
・今回は五百体以上殺害していた為+150%以上強化されていた。
《吸命転換》:ヴァルシオンのスキルその四
・自身によって与えたダメージの半分の数値だけ、自身のMP・SPを回復させるスキル。
・さらに自身のMP・SPを使って支配対象のスキルを強化した上で行使させる事も出来る。
・持久戦には非常に有効なスキル……だが、ダメージを与えにくい相手だったり、そもそも短期決戦で倒されたりすればあまり意味が無かった。
《陽装魔刃》:ヴァルシオンのスキルその五
・自身のMPを使って使用者のHPと状態異常を回復させるスキル。
・回復出来るのは使用者だけであり、自身の損傷は回復不可。
【ホブゴブリン・ソードマスター】:かわいそうなゴブリン
・ゴリドンは彼の名前。
・亜竜級のゴブリンで剣技・索敵・隠蔽などのスキルに長けていた。
・元は森のゴブリンの群れを率いていたリーダーで、他のゴブリンからも慕われていた。
・だが、その能力に目をつけた【ヴァルシオン】に操られてしまった。
・………最後、彼が何を思ったのかは誰にもわからない。
読了ありがとうございました。次で今章のエピローグです。