では本編をどうぞ。
3/22 召喚関連の文章を変更しました。
□<ネクス平原> 【
あの後、私達は<サウダ山道>特にトラブルに巻き込まれることも無く抜け、平地が続く<ネクス平原>に入ったところだった。
道が険しかったさっきまでと比べると大分楽になったね、後は道なりに進めばギデオンに着くみたいだし。
「この辺りのモンスターなら、今の私達なら特に問題は無かったね!」
「そうだな。…………しかし、【ヴァルシオン】の《吸命転換》は召喚モンスターの攻撃では発揮されなかったし、【毒】によるダメージにも発揮されなかったな。だが、傷痍系状態異常による即死ダメージには発揮されていた…………おそらく、装備者自身の行った攻撃の瞬間のダメージにのみ適応されているのだろう」
どうもそうみたいなんだよね、召喚モンスターを大量に呼び出して減ったMPを【ヴァルシオン】で回復、みたいな事は出来ないみたい。
「このままのんびり周りの景色楽しみながら、ギデオンまでの旅をしよう…………なーんて事が出来れば良かったんだけどねー」
「《殺気感知》と《気配察知》に反応あり、《生物索敵》だと数は二十匹、方向は右からか…………ああ、一匹だけ反応がデカイのがいるな」
そう言うお兄ちゃんの言葉に従って右を見てみると、二十匹程の赤い狼の群れがこちらに向かって来るところだった。
頭上の名前を見てみると【ブレイズウルフ】と表示されており、一匹だけいる大きな赤い狼の頭上には【
「アイツらは確か炎を吐いてくるんだったか、馬車が燃やされるのは避けたいな。……ブロン、馬車を連れて離れていてくれ。ミカ、こっちから仕掛けるぞ」
「わかったよお兄ちゃん。せっかく買ったばっかりの馬車を燃やされたくないからね!」
そうして私達は馬車から降りて、【亜竜炎狼】率いる狼の群れとの戦いを始めた。
「まずは先制攻撃だな、《モンスター・ハント》“魔獣”《ハンティングスナイプ》!」
『GAA⁉︎』
まず、お兄ちゃんの放った矢が一匹目の【ブレイズウルフ】の眉間に直撃してそのHPをゼロにした。
…………確か狩人系統の《ハンティング》系アクティブスキルには、共通して急所に当たった時のダメージ増加特性があったっけ。まあ眉間に一撃なら傷痍系の状態異常も込みで大体死ぬよね。
さて、その攻撃で群れの動きが僅かに乱れるも、【亜竜炎狼】が一吠えするだけで元の陣形を取り戻した…………これは、あのリーダーを潰さないとダメだね。
「お兄ちゃん、突っ込むから援護をよろしく! 《瞬間装着》!」
「わかった、《ハンティングアロー》《パラライズアロー》《ポイズンアロー》《スリーピングアロー》‼︎」
『『『GA⁉︎』』』
私がレベル二の《火炎耐性》スキルがあるアクセサリー【火除けの指輪】を装備してから狼の群れに向かう傍で、お兄ちゃんのアクティブスキルが次々と敵に突き刺さり仕留めるか、又は【麻痺】【毒】【強制睡眠】の各種状態異常に落とし込んでいく。
…………これは、お兄ちゃんが以前に就いていた【
これで流石に敵の陣形は崩れたが、リーダーは怯まずに大きく息を吸い込んだ…………火炎ブレスか!
『GAAAAAAA‼︎』
「《ストライク・ブラスト》‼︎」
敵のリーダーが吐いた火炎ブレスに対し、私が【剛戦棍士】で覚えたメイスから衝撃波を放つアクティブスキルがぶつかりその威力を大きく落とした。
…………この《ストライク・ブラスト》の威力と攻撃範囲は自身の攻撃力によって決定する。<エンブリオ>が上級に進化し、上級職に就いた今の私のSTRは二千を超え、【ギガース】の攻撃力補正も二千はあるので亜竜級のモンスターのブレスの威力を大幅に落とすぐらいは出来る。
そうして、威力の落ちた火炎ブレスをアクセサリーの効果任せに
『GAAAAA⁈』
「《インパクト・ストライク》‼︎」
相手は、私がまさか火炎ブレスを正面から突っ切ってくるとは思っていなかったらしく、怯んでいた所をアクティブスキルによって頭部を粉砕して倒した。
…………今の私の《ストライク・ペネトレイション》のレベルは六であり、攻撃対象のENDを千以上減算出来る。これにより亜竜級相手でもアクティブスキルを使い、傷痍系状態異常狙いで急所を狙えば一撃で倒す事も不可能ではない。
さて、あとは残りを掃討するだけだね…………あ、何匹かお兄ちゃんの方に行ったけど……まあ大丈夫でしょ。
『『『GAAAAA‼︎』』』
「さてと、行きますか。……疾ッ!」
お兄ちゃんに向かって狼達は炎を吐きかけるが、それをお兄ちゃんは問題なく回避して、出来た隙に矢を放って相手を牽制した。
…………そしてその後
「《ハンティングエッジ》《ハンティングシュート》」
『GA⁉︎』『GI⁉︎』
「……よっと、《ハンティングスナイプ》……後ろか、っと《ハンティングアロー》!」
『GI⁉︎』『GA⁈』
接近したお兄ちゃんは、まず一匹の【ブレイズウルフ】首を短剣で跳ね飛ばし、その短剣を投げつけてもう一匹の眉間に直撃させる。そして、
…………うん、人の事をチートだ規格外だと言うけど、お兄ちゃんも大概なんだよねぇ…………ていうか何? 今のアメコミ映画見たいなアクション⁉︎ 私はあんな事出来ないからね。
「…………おっと、お兄ちゃんの逸般人っぷりに呆れている場合じゃないね! さっさと残りを倒そう!」
リーダーを失って烏合の集と化していた【ブレイズウルフ】は、それから間も無く掃討された。
◇◇◇
□<ネクス平原> 【召喚師】レント
「よし、やっと片付いたか……とりあえず回復するぞ《サードヒール》」
「ありがと、お兄ちゃん。今の私達なら亜竜級も安定して狩れる様になったね!」
確かに、最初の頃と比べると俺達も大分強くなったみたいだな。初日はあれだけ亜竜級相手に苦労したのに、今では楽に倒せている。
…………そんな事を考えていると、
「ミカ?」
「……今のところあの人達からは危険は感じないよ」
「そうか…………そこの人達! 一体俺達に何の用ですか?」
「ああ、待て待て! 俺達はお前達に危害を加えるつもりはないぞ! ただ【ブレイズウルフ】の群れと戦っている奴らがいたから様子を見に来ただけだ」
そう言うのは、三人の中央に居た“牛の顔を模した黒い軽鎧”をつけた大柄な男だった。その右には狩人風の装備を身につけた長身の女性がおり、左側には魔術師風のローブを着た小柄な女性がいた。……三人ともティアンみたいだが《看破》して見るとレベルが高く、一部見えないステータスもあるし装備も高性能だな。
「ガイツ、それでは言葉が足りない……うちのリーダーが失礼した。私はレダ・マーチ、冒険者パーティー<黒牛戦団>のメンバーで、今はとある商人のギデオンまでの護衛のクエストを受けている。その途中で【亜竜炎狼】に率いられた【ブレイズウルフ】を見つけて、貴方達がすぐにやられたらこちらに来る可能性もあったから様子を見に来たところ」
「その商人の護衛はいいんですか?」
「ん? ああ、残りのメンバーを残しているしな。それに亜竜級のボスに率いられた【ブレイズウルフ】の群れを下手に近づけると、その商人の乗った馬車が燃やされる事も考えられたからこちらから打って出る事にしたんだ。まあ、無駄足だったみたいだがな。……たった二人であの群れを苦もなく殲滅するとは、流石は<マスター>ってところか……おっと自己紹介がまだだったか、俺はガイツ・ランド、<黒牛戦団>のリーダーをしている」
…………ミカの反応を見てみると、特に嘘をついていたり害意があるわけではなさそうだな……やっぱり《真偽判定》は取った方がいいな、確か《盗賊》か《罠狩人》で取れたっけ。
「俺はレント、こっちが妹のミカで二人とも<マスター>です」
「えっ! レントさんとミカさんですか⁉︎ ……あっすみませんでした、私はメリア・ローランと言います。ひょっとして以前冒険者ギルドで指名クエストを受けた<マスター>ではありませんか?」
「確かに以前指名クエストは受けましたけど……ひょっとしてアイラさんやマリィさんの御身内で?」
「はい、その二人は私の姉と母です」
マリィさんからはアイラさんの他にも娘が二人いるとは聞いていたけど、まさかこんな所で遭遇するとはな。
…………すると、その言葉を聞いたガイツさんの雰囲気が少し変わった。
「……じゃあ<ノズ森林>の<
「はい、そうです。他にもメンバーはいましたが」
「そうか……この道を進んでいるって事はあんた達はギデオンに行くつもりなんだよな。だったら俺達と一緒に行かないか? 数が多い方が野盗にも襲われにくいし…………それにあんた達と話したい事があるんだ」
「…………どうするミカ?」
「んー、別にいいんじゃない? そっちの方が安全そうだし」
こうして俺達はギデオンまでの残りの道中、冒険者パーティー<黒牛戦団>に同行する事になった。
◇
あの後、ガイツさんのパーティーと合流した俺達は、とりあえず他の人達に挨拶していった。
まず、<黒牛戦団>のサブリーダーである眼鏡をかけた細身の男性“アッシュ・トルハ”さん。曰く「同行に関しては構いません。あと、ウチのリーダーが無理を言ったようで申し訳ありません……ですが、どうも貴方達に少し思うところがあるみたいなので、どうかリーダーの話を聞いてあげて下さい」と言っていた。
次に<黒牛戦団>のメンバーで大柄でスキンヘッドの男性“レオン・ダスト”さん。曰く「ほお、お前達が最近増え始めたという<マスター>か。あの炎狼の群れを二人で倒したのなら実力は心配いらんな、短い間だがよろしく頼むぞ!」とのこと……普通にいい人だった。
そして、最後のメンバーであるシスター風の衣服を着用した女性“ニア・フローラ”さん。曰く「私は回復魔法が使えるので、怪我をしたら言って下さいね」だそうだ。
あと、彼等が護衛していた商人の“アレハンドロ”さんにも挨拶した。曰く「護衛にあの伝説の<マスター>が加わってくれるなら頼もしいですな! ギデオンに来たら是非、私共の『アレハンドロ商会』に立ち寄って下さい、歓迎しますよ」とのこと……中々強かな人らしい。
…………挨拶が終わった後、俺達は話があるというガイツさんの下に行った。
「それで、お話があるとのことですが」
「ああ、だがその前に礼を言わせてくれ……先輩の仇をとってくれて感謝する」
詳しい話を聞くと、以前のクエストの時に聞いた<ノズ森林>で消息を絶ったパーティーのリーダーに、彼は新人冒険者時代にとても世話になっていたらしい。
そのため、異変の原因となった<UBM>を討伐した<マスター>には一度礼を言っておきたかったとのこと。
…………特に警戒する様な話じゃなかったな。普通に皆さんいい人そうだし。
「あの時は騎士団やギルドの通告を無視して、森に突っ込もうとするガイツを止めるのが大変だった」
「おい、レダ! それは今する様な話じゃねーだろ(汗)」
「……でもやっぱり<マスター>というのは色々規格外ですね。あの【猫神】で良く分かっていたつもりでしたけど」
「メリアさんは【猫神】について詳しいんですか?」
「私よりもリーダーの方が詳しいですよ、何せ
何でもガイツさんは王国第二位の決闘ランカーとして、第一位の【猫神】トム・キャットと何度も戦っているらしい。
「ま、<マスター>の理不尽さはこの身をもってよく分かっているからな。ほとんど下級職のパーティーで<UBM>を討伐することもあり得るだろう」
「そのトム・キャットという<マスター>はどう言う人なんですか?」
「うーむ、俺も試合に時以外にはあまり話す機会がないからなぁ……そんなにヤツの事について知りたいなら、近くに俺とトム・キャットの試合があるから見に来たらどうだ?」
「……そうですね、見に行こうと思います」
さて、ギデオンでやる事が増えたな…………楽しみだ。
◇
その後、俺達は特にトラブルに巻き込まれることも無く進んで行き、時折現れるモンスターも俺やミカと“黒牛戦団”の皆さんですぐに倒してそのままギデオンに到着した。
「今日は色々話を聞かせてもらってありがとうな! 俺とヤツの試合も見にきてくれよ!」
「はい、こちらこそありがとうございました」
そうして、俺達は<黒牛戦団>の皆さんと別れて、クエストを達成するためにギデオンのギルドに向かった。
「さて、あとはこの荷物をギルドに届ければクエストは完了だね」
「それが終わったらとりあえず休むぞ、流石に移動に一日も掛かったから疲れた」
「そうだねーじゃあ明日からギデオン観光をしようよ」
「あと、ガイツさんの試合のチケットの入手もな」
さて、とりあえずさっさとクエストを済ませるか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄妹:やっぱりデンドロでは状態異常が強い、特に傷痍系
《ハンティング・アーツ》:【大狩人】の奥義
・攻撃時の副次的な状態異常発生に対してのみ効果を発揮し、状態異常のみを与えるスキルなどには効果を発揮しない。
・【大狩人】は狩人系統でも直接戦闘に長けており、病毒・制限系状態異常で相手の動きを鈍らせ、傷痍系状態異常での必殺を狙うのが基本的なスタイル。
【
・群れを率いて集団で中距離から炎で攻撃するのが基本的な戦い方。
・そのため護衛している対象がいる場合、面倒な相手になる。
ガイツ・ランド:<黒牛戦団>のリーダーで現アルター王国決闘ランキング第二位
・合計レベルは五百で技術も非常に高い。
・メインジョブは闘士系統の複数の武器を使い分ける事に特化した上級職【
・サブジョブに【剣聖】【弓手】【槍士】を取っており、複数の武器とそれぞれのスキルを使い分けて戦うスタイル。
・着けている鎧は【再生牛鎧 リバイブル】という逸話級特典武具で、HP・STRへの補正とHP・SPの持続回復能力を持っている。
レダ・マーチ:<黒牛戦団>のメンバー
・メインジョブは【
・サブジョブに【
メリア・ローラン:<黒牛戦団>のメンバー
・ローラン家の三女。
・メインジョブに【白氷術師】サブジョブに【紅蓮術師】を取っている魔法火力要員。
・魔法に関してはオールマイティな才能を持ち、【付与術師】や【呪術師】も取っている為パーティーのサポートもこなす。
アッシュ・トルハ:<黒牛戦団>のサブリーダー
・メインジョブは魔法剣士系統の上級職【
・サブジョブに【司令官】も取っておりパーティーの指揮を担当している。
レオン・ダスト:<黒牛戦団>のメンバー
・メインジョブは【大戦士】サブジョブに【盾巨人】を取っているパーティーのタンク。
ニア・フローラ:<黒牛戦団>のメンバー
・メインジョブは【司教】の回復役。
・だがサブジョブに【教会騎士】も取っており、たまに前に出て来る。
<黒牛戦団>:アルター王国の冒険者パーティー
・主に王都とギデオンで活動している。
・決闘ランキング第二位のリーダーを筆頭に、他のメンバーも上級職二つを修めているアルター王国でもトップクラスのティアンパーティー。
読了ありがとうございました。