それでは本編をどうぞ。
※今回の兄の必殺スキルの説明と矛盾する場所が、17話の説明にあったのでその部分を修正しました。
※11/27 あとがきの必殺スキルの説明を一部変更。
<レーヴ果樹園>と<月世の会>
□アルター王国・王都アルテア 【
俺達が<Infinite Dendrogram>を始めてから現実では約一ヶ月、デンドロ内の時間では三ヶ月ぐらいが経った。
その間に俺は【
…………このレベルの上がり方は、この一ヶ月半レベリングに集中していた事と、実力が上がってより上位の狩場を選べるようになった事、そして【召喚師】【魔術師】のスキルによりモンスターの殲滅能力が上がった事が大きいな。
「レベルもようやく五百を超えたことだし、なかなか順調だな」
「ていうか順調過ぎるぐらいでしょ。やっぱりお兄ちゃんの必殺スキルはチート過ぎない?」
「…………実を言うと、俺の<エンブリオ>の必殺スキル《
「えっ! 聞いてないよ⁉︎」
「言ってないからな…………自分の<エンブリオ>のデメリットはあまり話すものじゃないし。それに、そのデメリットは今は特に効果が無いものだったからな」
…………俺の【ルー】の必殺スキルの効果欄には、注意書きとして二つのデメリットが表記されていた。その内容は“【ルー】のこれ以降の進化時における新規のスキル取得不可”及び“ステータス補正をオールゼロにする”である。
…………流石に、これだけのスキルを持っていてなんのデメリットも無し、とは行かなかったらしい。
「んー……でもそれってあんまりデメリットになって無くない?」
「だから言わなかった、という事もあるんだがな。…………実際、ステータス補正は有って無い様なものだったし、そのステータスもジョブを取っていけば何とでもなるしな」
「だからこそ、そういうデメリットが選ばれたんじゃない? 《
「【ヴァルシオン】はともかく《
「…………意外と燃費悪かったんだね。お兄ちゃんはもっとオリジナルスキルでブイブイ言わせてるイメージがあったんだけど」
「それは《
むしろ、そのぐらいのデメリットを付けないと威力と燃費の釣り合いが取れないのだが…………どうも汎用性を高めたせいで、作れるスキルの強度が低くなっているみたいだ。
また、この二ヶ月程《百芸創主》のスキルの組み合わせを色々試したところ、組み合わせ次第ではむしろ弱体化する事もわかった…………光と闇が合わさり最強に見える、みたいなことは出来ないらしい。
他にはスキルを一つだけ入れて、そのパラメータを調整することも出来る様だが。
「まあ、お兄ちゃんなら上手く使いこなせるし大丈夫じゃない? <エンブリオ>は<マスター>のパーソナルに合わせて成長するんだし、お兄ちゃんならそれでも問題無いからそういうスキルになったんだと思うよ」
「そうかもな。…………それよりも上級職の転職条件の方が問題なんだよなぁ」
…………この世界において上級職に就くには、それぞれ個別の条件を満たさなければならない。
なので多くの上級職に就くためには、それらの条件を一つ一つ調べて上でその条件を満たさなければならないのだが…………その為にそれぞれのジョブクエストを達成したり、専門ギルドの人達に条件を聞いて回ったりと正直言って凄く大変である。
…………また、エルザちゃんから自身が今現在就けるジョブの情報が分かる【適職診断カタログ】なる神アイテムがある、と聞いた俺はそのカタログを求め亜竜級以上のモンスターを狩ったり、<墓標迷宮>に潜ったりしたのだが…………
「【適職診断カタログ】が手に入らない…………狩人系統のドロップ上昇スキル機能してないんじゃないか?」
「これは完全に物欲センサーに引っかかってるね、お兄ちゃん」
ぐぎぎ…………司祭系統のステータスと【ヴァルシオン】の補正でLUC値も上がっている筈なのに…………‼︎
「まあ、エルザちゃんも頼めば貸してくれるって言ってたし、別にいいじゃない」
「それはそれとして、一冊手に入れたかったんだがなぁ……」
「うーん……これだけ愚痴ってるって事は、大分落ち込んでいるねー。これは気晴らしが必要かな? …………お兄ちゃん! 今日は気分転換に【レムの実】狩りに行こうよ!」
「レムの実狩り? 【レムの実】を落とすモンスターなんていたか?」
「そっちの狩りじゃないよ! 王都の近くに<レーヴ果樹園>っていうところがあるからそこに行こうって話だよ。五千リル払えば果実が取り放題なんだってさ」
ああ、そっちの狩りか…………いかんな、最近モンスターばかり狩っていたからどうしても思考がそっち寄りになってしまう。
…………これは、確かに気分転換が必要かな。
「わかった。じゃあ今日はその<レーヴ果樹園>に行こうか」
「オッケー! 私、レムの実大好きなんだ!」
…………今回は、ミカに気を使われてしまったようだな。
◇◇◇
□<レーヴ果樹園> 【
やって来ました<レーヴ果樹園>! 王都で最大の果樹園だけあって、レムの実のほかにも沢山の種類の果実があるね。
…………ちなみに、私も以前まで就いていた【
さて、とりあえず受け付けの人に入場料の五千リルを支払って、私達は果樹園に入っていった。
「これが五千リルで取り放題はお得だよね!」
「取り放題といっても、事前に渡された小型アイテムボックスに入る分までだからな。あと取っていい果実かどうかも、事前に渡された専用の鑑定アイテムで識別しなければならないしな。当然時間制限もあるし」
「うん、わかってるよ。そのあたりで上手くバランスを取っているみたいだしねー」
じゃあ、その辺りに気をつけて果実を取っていこうか。
周りを見ると、果実を取っているティアンの人達が結構いるね、それに王都の外にあるせいか、警備の人達も沢山いるみたいだし。
…………でも<マスター>は殆ど居ないみたい、まあこういう所に来る<マスター>は少数派だよね。
「とりあえず【レムの実】はどこに生えているのかな?」
「案内板によるとあっちみたいだぞ」
お兄ちゃんに言われて案内板を見ると『レムの実畑→五〇〇メテル』と書かれていた。ちなみにこっちの一メテルは現実の一メートルに相当するみたい…………実にわかりやすいね!
◇
しばらく歩いていると、看板の通りレムの実畑が見えてきた…………でも、そこには既に沢山の人達が居た。
「結構人がいるねー。さすが【レムの実】、大人気だね」
「…………あそこにいる人達、よく見ると全員
「本当だ、<マスター>が集団でこんなところに来るのは珍しいね、果物狩りツアーでもやってるのかな? …………あと、なんか全員同じマークを付けているね、“三日月と閉じた目”かな?」
「ん? 確かあのマークは……」
お兄ちゃんが何か思い出そうとしたところで、向こうの集団の一人の黒髪の美女がこっちに声をかけてきた…………確か、あの人は扶桑月夜さんだったかな?
「おー、レントくんにミカちゃんやん、久しぶりやね」
「月夜さんもお久しぶりですね。今日は後ろの皆さんと果物狩りに?」
「そうやえー、うちのクランのメンバーから希望者連れて来たんや」
「月夜さん、クラン作ったんですか?」
「最近作ったんや、うちがオーナーしとる<月世の会>っちゅークランなんやけどな」
「…………お兄ちゃん、<月世の会>って現実にある宗教団体の名前じゃなかったっけ?」
「ああ、そうだ。…………成る程、どこかで見覚えがあると思ったら、“三日月と閉じた目”は<月世の会>のシンボルマークだったな」
…………<月世の会>は現実に存在する宗教団体で、確か現実逃避系の教義を掲げてたっけ。
「その<月世の会>で合っとるよ。うちらの教義は『枷に囚われた肉体より離れ、真なる魂の世界に赴く』と『自由なる世界で、己の魂の赴くままに自由を謳歌せよ』やからね、信者の多くにデンドロを勧めとるんや。ちなみにうちはオーナー兼教主なんよ」
「…………お兄ちゃん、デンドロに現実の宗教団体が進出して来たんだけど……」
「ふふふー、このクランを足掛かりにいずれはこの王国を手中に収めるのが目標なんよー!」
「なんか、暗黒宗教の教主みたいなこと言ってるよ!」
「いや、さすがに冗談だろう…………多分。…………それに<月世の会>は確か医療分野にも関わりがあった筈だ、それも
あ、成る程。デンドロは“現実から五感を移せる完全なVRMMO”だからね、医療方面での需要も当然あるか。
実際、そういう用途のための“病室にいながら旅行できるVR”みたいなのも以前からあった筈だし。
そんな話をしていると、月夜さんが少し驚いた表情でこっちを見ていた。
「へー、レントくん詳しいなぁ。うちらが…………というより、うちの家が病院の経営もやっとるって知ってる人はあまりおらへんのやけど」
「…………以前にたまたま<月世の会>について知る機会があっただけですよ。それに<月世の会>の情報自体は特に秘匿されている訳ではないですからね、調べればその発端も含めて普通にわかります。…………というか、デンドロで実名プレイとか大丈夫なんですか?」
「うちらはクリーンな宗教団体&医療法人やからな! あと本名プレイに関しては、うちらはこのデンドロを『真なる魂の世界』としとるから、教主であるうち自身が実践せんといかんからな。…………今回の果物狩りも、戦闘は苦手だけどもっと色んな場所を見てみたい信者の為に企画したものやからな」
…………月夜さん、普通に良いオーナー兼教主だったよ。最初は暗黒宗教の教主みたいな気がしたけど、気のせいだったみたいだね。
「でも、作ったばっかのクランやからまだまだ人手不足でなぁ。…………だから新規クランメンバーは大募集中やで、二人もうちのクランに入らん?」
「んー、今のところはどこかのクランに入るつもりは無いですね」
「私も今はいいかなー」
「そっかー、残念やなぁー。…………気が変わったならいつでも言ってや、歓迎するで。……ほならなー」
そう言って、月夜さんはクランメンバーの下に戻っていった。
とりあえず私も果物を探しに行こうと思った…………が、その前にちょっと聞いておこうか。
「…………お兄ちゃん、<月世の会>について知ったのって
「…………ああ」
「…………あんまり私に気を使わなくても良いよ。さっきも月夜さんの本名の事を持ちだして無理矢理話を変えたでしょ、お兄ちゃんネチケットには厳しい方だから、普段はあんまり相手のリアルの事は言わない様にしてるからね」
「…………そうだな、少し気を使いすぎたみたいだな」
「そうだよ! この世界はゲームだからあんまり気を使わなくても良いからね!」
「分かった。…………じゃあ果実狩りを再開するか」
「うん!」
こうして、私達は果樹園での果実狩りに戻って行ったのだった。
◆◇◆
■ ???
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
ソレは元々は一匹の小さな毒虫だった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
ソレが生まれた場所は、周りにある植物がほぼ全て非常に高い毒性を持っているという非常に危険な環境だった。
それ故に、その場所に生きる者達は強力な毒を持ち、あるいは毒に対する耐性を持っていた。それらの能力により周りの毒性の植物や、他の毒を持つモンスターの落とす毒入りの食材を喰らって生きるのが当たり前の場所だった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
ソレもそこに住んでいたモンスターの一匹であり、強いて他のモンスターとの違いといえば体内に入った毒を自身の栄養に変えるスキルを生まれつき持っていた事と、少しだけ他のモンスターより賢くて学習能力が高かった事ぐらいである。
…………ソレは、ある時は瀕死のモンスターを倒して落とした食材を喰らい、またある時は強いモンスターを誘導して同士討ちにし、そして強大なモンスターが現れ自身に危険が迫った時には逃げながら姿を隠し、さらには周りのモンスターをよく観察して有用そうなスキルがあれば自分も使える様にしたりもした。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
そうしているうちに、ソレは経験値を得て成長・進化し亜竜級となり、そしてさらに進化し純竜級のモンスターとなった。
だが、ソレが今までのやり方を変えることはなかった。…………なぜならソレは自分が強くなった事は把握していたが、自身より弱い者が自身を倒す事が出来るということを今までの自分の狩りによって知っていたからだ。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
しかしながら、進化によって強化されたステータスとスキルによって、今までよりも効率的に狩りが出来るようになったので、ソレはこれまでよりも経験値稼ぎとスキル習得に力を入れる様になった。
そして、その近辺で自身が最も強くなった時にとある変化があった。
【(<
【(過去に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】
【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】
【(対象を<UBM>に認定)】
【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】
【(対象を逸話級──【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】と命名します)】
ソレは<UBM>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】となったのだった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
しかし、ソレ…………【ラーゼクター】は自身が以前見た強大なモンスターの同類となった事を把握したが、特に今までと行動を変えることは無かった。
ただ、少しだけ狩りを行う範囲を広げることにし、…………今までの毒ばかりの狩場があまり良いところではないことを知った。外の毒の無いところで狩りをする方が獲物も多く遥かに効率が良かったのである。
なので、彼は本格的に狩場を移すことにしたのだった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
狩場を移すと経験値稼ぎの効率はかなり良くなり、<UBM>としての位階もあっさりと伝説級に上がった。
また、経験値を稼ぐには人間を狩るのが最も効率がいいことも知った。だが人間の強さは個体差が大きく、村や町などを襲うのはリスクが高いと判断し、そこから出てきたほどほどの数の人間を狩るのが最もリスクとリターンが釣り合うとも考えた。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
そして、今【ラーゼクター】はアルター王国・王都アルテア近郊にある<レーヴ果樹園>にいる人間に狙いを定めていた。
………だが、戦える人間もそれなりの数いると感知したので、彼はいくつか策を講じて狩りをすることにした。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:割と物欲センサーには引っかかるタイプ
・デメリットに関して話さなかったのは、妹の前ではなるべく頼りになる兄でいたいという気持ちもあった。
妹:兄はちょっと自分に気を使いすぎだと思っている
【百芸万職 ルー】:今回必殺スキルのデメリットが発覚
・そもそも【ルー】は最初から必殺スキルによるジョブ枠の拡張を前提として、下級時のスキルを習得していった。
・なので強力なスキルを複数取得したデメリットを、必殺スキル取得後の能力拡張制限及び【ヴァルシオン】で補えるステータス補正の減算などで賄うことになった。
・故に、今後の第五・第六形態での強化は“《光神の恩寵》のレベルが一つ上がる”、“《百芸創主》で使えるスキルの数が一つ増える”、“必殺スキルにより就けるジョブの数が増える”のみになる予定。
・当然、もし<超級エンブリオ>に進化したとしても、今のスキルを強化することしか出来なくなっている。
扶桑月夜:祝! クラン<月世の会>設立!
・クランを設立したばかりなので、わりと真っ当にオーナーをしている……脅しも誘拐も
・今回、<月世の会>の詳細を知っていた兄妹の好感度は上がった。
・ちなみに他のクランメンバーは彼女と兄妹の会話を「まーた、うちのオーナーが他人にからかい始めたなー」と生暖かい目で見ていた。
【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:レベリング&スキル取得大好き<UBM>
・性格は非常に慎重かつ冷静で用心深く、決して油断や慢心はしない生粋の狩人。
・能力の詳細は次回に。
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