それでは本編をどうぞ!
□二〇四三年
「…………ッ‼︎」
あの【ラーゼクター】に胸を貫かれて身体の中に強力な毒を注ぎ込まれ絶命した後、俺──本名・加藤蓮、デンドロでのアバター名はレント──の意識は現実の自室に戻って来ていた。
「…………成る程、これがデスペナルティか…………」
とりあえず意識ははっきりしているし、デスペナ直前まであちらで何が起きたのかも覚えている。
最後のデスペナルティを告げるアナウンスも聞いたし、デンドロの機器の横のディスプレイには【ペナルティ期間中です。あと23時間56分47秒】と表示されていた。
「…………美希はまだあちらか。…………だが、長くは持たないだろうな……」
まだ、あちらで【ラーゼクター】と戦っているであろう妹──本名・
「今回の敗因だが…………単純に地力が足りなさすぎたな」
実際、こちらを圧倒的に上回るステータス・スキル・技術を持つ相手に正面から挑めば当然敗北する、という簡単な話ではあるのだがな。
…………まあ、今回の目的はティアンの人達を逃がすことであり、俺達が死ぬのは想定内だったが…………
「とはいえ、あそこまであっさりやられたのは悔しいし…………何より、美希に俺の死ぬところを見せてしまったからな。…………昔の事故のトラウマが甦らなければいいんだが……」
…………今から五年程前の話である。ある日、両親が福引きで海外旅行のチケットを当てて家族みんなで旅行に行こうとしたのだが、美希だけはその旅行には行きたくないと大泣きし出したのだ。
仕方なく美希を叔父夫婦に預け、俺と両親だけで旅行に行ったのだが…………そこで乗っていた飛行機が事故で墜落して両親は死亡、俺も生死の境を彷徨う重傷を負った。
…………今思えば美希はその直感で事故の事が解っていたのだろうが、当時は俺も両親もその事は知らなかった。それにまだ幼かった美希自身もこれまで命の危険などに会わなかったからか、自分が何を感じ取っているのかが解っていなかったのだから仕方がないのだが…………
「当時はかなり酷かったからな…………『自分は解っていたのだから、止められた筈だ』とか言って塞ぎ込んでいたし……」
まあ、その後は奇跡的に回復した俺と叔父夫婦の尽力で、どうにか今の様に持ち直せたのだが。
ちなみにその後、身寄りを無くした俺達を叔父夫婦は引き取ってくれて、とても良くしてくれたので本当に彼らには頭が上がらない。
また、後遺症としてたまに少し身体が痺れる事もあり、そのせいで以前までやっていた弓道も辞める事になったが、あれだけの重傷から回復出来てたのだから些細な事だろう。日常生活には支障は無いし。
あと、<月世の会>について知ったのは、病院でのリハビリの時に知り合った人がたまたま信者で、その人から<月世の会>の成り立ちなどを聞き、少し調べた事があるからである。
…………それはいいとして、問題は…………
「直感で悲劇が解ってしまうせいで、あちら側に過剰に感情移入してしまう事なんだがな。…………その為に<Infinite Dendrogram>の事は
…………もし割り切れない様ならば、その時は…………
そんな事を考えていると部屋のドアがノックされ、廊下から美希の声が聞こえて来た。
「お兄ちゃーん、生きてるー、部屋入ってもいいー?」
「デスペナしたばかりだが生きてるぞ。…………今、鍵を開ける」
扉を開けるとそこには妹の美希がいて、そのまま俺の部屋に入ってきた。…………ちなみにアバターよりも二十センチ以上背が低い。
「…………お兄ちゃん、なんか今失礼な事を考えなかった?」
「…………いや、別に考えて無いぞ…………それより何の用だ?」
「…………まだ小五だし、成長期だからすぐ大きくなるし…………っと。まず、お兄ちゃんのデスペナ後のことを報告に来たよ」
「で? どうだったんだ?」
「私もデスペナしたけど、最後に【ラーゼクター】は王都から離れて行ったのが見えたし、クエスト達成のアナウンスもあったから、多分ティアンの犠牲をゼロにする目的は果たせたかな」
「そうか…………とりあえず最低限の目的は達成出来たか」
…………あとは、美希がどう思っているかだが…………
「言っとくけど、私は<Infinite Dendrogram>を辞める気は無いからね。…………どうせお兄ちゃんの事だし、私が昔の事故の時の事を思い出したりしてないか、とか気にしてたんでしょ」
「うぐっ!」
…………大体その通りだから、ぐうの音も出ない…………
「お兄ちゃんは色々私に気を使いすぎ! もう昔の事故の事は立ち直ったし、自分の勘の事も今では冗談に出来るぐらいには割りきってるから大丈夫だよ! …………それにあの世界でなら、私がこんな力を持った事にも意味があったと納得出来るような気がするし……」
「美希……」
「別に私が力を持った意味なんてモノは、特に何も無いんだろうとは分かってはいるけどさ。…………“無限の可能性”を謳うあの世界でなら、それに“納得”が出来る気がするんだ」
「…………分かった、そこまで言うなら俺からは何も言わない。…………だが」
「分かってるよ。…………私が生きる世界はあくまで
「そういう事だ」
あの世界だと、現実とゲームのバランスが崩れる人は絶対出てくるだろうからな…………美希が直感のせいでそうなる可能性は十分あったし。
だが、少し気を回しすぎていた様だな。…………美希にはもう俺の庇護は必要無いか、…………少し寂しい気もするな。
………さて、湿っぽい話はこれで終わりにするか。
「で? デスペナが明けたらどうする? 【ラーゼクター】にリベンジでもするか?」
「うーん…………負けたのは悔しかったし、もう一度戦う機会があるならリベンジするけど、こっちから積極的に狙いに行くほどじゃ無いかな。アイツは人間に対して悪意を持っている訳では無かったしね」
「まあそうだな。どちらかというと狩りの獲物として見ている感じだった。…………それに今の俺達では地力が足りん。ステータスはレベルを上げればいいが、技術面に関しては俺はそこまで才能がある訳では無いからな」
「…………お兄ちゃんが才能が無いって言ったら色々な人に怒られると思うけど…………」
そうは言っても、俺は全方面にそこそこ優秀ぐらいの才能しか無いからな。
…………何より、その一歩が規格外とそうで無い者との絶対的に差になるからな。
「だが、技術は時間をかけて磨けばいいし、才能の差もあちらでなら補うことも出来る。…………その為の【ルー】だからな」
「…………お兄ちゃんの【ルー】はそういう方向性だよね。私の場合【ギガース】の特性が高いステータス補正だから、上級職までじゃその本領を発揮出来ないし…………やっぱり超級職を目指そうか。噂では戦棍士系統の超級職はロストしているみたいだし」
デンドロはまだまだ始まったばかりだからな、強くなる方法はいくらでもある。
◇
「ところでお兄ちゃん。流石に気づいてるよね?」
「ああ……」
美希に言われるまでも無く、その部屋の開いた扉の隙間から見える少女からの視線には気づいていた。
「じ──────…………」
「え、えーと……何の用かな?
彼女は加藤祐美ちゃん。叔父夫婦の娘であり俺達の従妹にあたる子で、現在小学二年生の女の子だ。
「…………兄様と姉様だけデンドロやっていてズルいのです。私もやりたいのです。…………あと、最近あんまり構ってくれなくて寂しいのです」
「えーと…………今はデスペナ中だから、久しぶりに一緒に遊ぼうか?」
「そう言ってデスペナが開けたら、またデンドロに戻って行くのです。…………やっぱり私もプレイしたいのです」
「でも、叔母さんの許可が下りて無いだろう?」
叔母さんは祐美ちゃんがデンドロをする事をあまり良く思っておらず、ゲームをプレイする許可を出していない。
その理由も、リアルすぎる世界がまだ幼い祐美ちゃんの精神に与える影響を懸念してのもの、という実に真っ当な理由なので俺達も正直反論しにくいのだ。
…………ちなみに美希がお目こぼしされているのは、過去の事からなるべく俺と一緒に行動させた方がいいだろうという心遣いである…………本当に彼らには頭が上がらない。
「…………別にゲームと現実の区別ぐらいつけられるのです」
「んーでも、ゲームハードが無いよね。私達のを交代で使う?」
「あうっ、そうだったのです…………デンドロのハードは今ほとんど売り切れなのです。…………それに出来れば兄様達と一緒にしたいのです」
デンドロ発売から一カ月たった今でも、デンドロのハードはほぼ売り切れ状態であり、ネットのオークションでは凄まじい値段で取り引きされていたりもする。
…………一応、そのあたりは何とかなるんだが。
「実はこんな事もあろうかと初日に予備のハードをもう一本買ってあるから、それを使えばいいんだがな」
「…………お兄ちゃん、いつの間に買ってたの? …………しかもそれ祐美ちゃん用のでしょ」
「祐美ちゃんもやりたがる事は予想出来ていたしな。ちなみにハードは初日のプレイが終わったあとすぐに買いに行った…………確実に大ブームになると思っていたからな」
「流石なのです! 兄様‼︎」
「ハイハイ、さすおに、さすおに」
…………正直、我ながらちょっとシスコンすぎるとは思っている。
「でも、叔母さんの許可無く使わせる事はしないぞ。…………一応、俺達も説得には付き合うが……」
「正直言ってデンドロの世界がリアルすぎて、プレイヤーの心に影響があるってのは事実だからねー」
「うぐぐ…………父様の方は泣き落としでもすれば一発なのですが、母様の説得は難しいですね……」
「「叔父さんェ……」」
まあ、叔母さんの説得が駄目そうならデンドロやる時間を減らして、祐美ちゃんに構ったほうがいいかな…………流石にこの一カ月間、半ば廃人プレイはやり過ぎだったか。
そんな事を思っていると、祐美ちゃんが何か決意を秘めた顔をしていた。
「それにデンドロでなら、私の昔からの夢が叶うと思うのです!」
「夢?」
「はい! デンドロには『魔法』が有ると聞きました。…………実は私は昔から『魔法少女』になってみたいと思っていたのです! それもプリキュアみたいな‼︎」
…………プリキュアね、あの日曜朝で約四十年ぐらいは続いている長寿シリーズか。
確かに祐美ちゃんは、日曜午前八時半にはテレビに齧り付くぐらいに好きなことは知ってたけど。
「確かにデンドロには魔法があるし、それを使う【
「いや、デンドロなら魔術師系統と拳士系統の複合で【魔拳士】みたいなジョブもありそうだからそっちじゃないか?」
「チッチッチ、二人共全然分かっていないのです。プリキュ○をはじめとする魔法少女に必要なモノは、他者を思いやる優しい心なのです! 戦い方などというものは些細な問題なのですよ‼︎」
「「アッハイ」」
…………まあ、祐美ちゃんが良いならそれで良いんじゃないかな。俺も日曜午前のヒーロー・ヒロイン達はそういうモノだと思うし。
実際、王国には仮面ライダーのロールプレイをしている人がいると噂で聞いたことがあるからな…………プリキュアがいても大丈夫だろう。
…………デンドロでは<マスター>は自由だしな。
「あと、魔法に関しては個人的にちょっと見てみたいだけなので、自分で使えなくても別に良いのです。…………それに兄様と姉様には<Infinite Dendrogram>でやりたい事があるんですよね? それに対して、私は足を引っ張りたくは無いのです」
「祐美ちゃん…………」
祐美ちゃん、やっぱりさっきの話を聞いていたのか…………
「じゃあ、皆で叔母さんを説得する方法を考えるか」
「はいなのです!」
「その前に夏休みの宿題とか残っていたら、早めに終わらせたほうが良いよ。私もちょっと残っているし」
「あうぅ…………まだ、ちょっと残っているのです……」
「宿題はさっさと終わらせておけよ」
やれやれ、デスペナ明けにデンドロ仲間が一人増えれば良いんだがな。とりあえず現実の諸々の用事を片付けるか。
◇
あのあと、美希や祐美ちゃんの宿題や俺の大学の準備などを片付けて、仕事から帰ってきた叔父夫婦に祐美ちゃんのデンドロプレイの事を相談したのだが…………何故かあっさりと許可が下りた。
どうも、美希と祐美ちゃんの泣き落とし(偽)にあっさり陥落した叔父さんはともかく、叔母さんの方は祐美ちゃんが以前から寂しがっていた事や、俺達の様子から条件付きなら許可しても構わないと思っていたらしい。
「ようやく、念願のデンドロをプレイ出来るのです!」
「良かったねー、祐美ちゃん。まあ条件を二つ出されたけど」
「一つは“ゲームのやり過ぎで現実の事を疎かにしないこと”、もう一つは“デンドロ内では常に俺か美希と一緒に行動すること”だったな。…………まあ妥当な条件ではあるな」
「つまり、兄様と姉様のデスペナが明けるまではお預けなのです。…………確か兄様達はアルター王国に所属していましたよね、じゃあ私もそこなのです。でも他の国にも興味があるので一度行ってみたいのです。レジェンダリアとか面白そうなのです」
まあ、俺達も他の国には一度行ってみたいとは思っていたけど…………レジェンダリアかぁ…………
「…………お兄ちゃん、レジェンダリアってネットの掲示板では変態が多いって話だけど、祐美ちゃんを連れて行って大丈夫かな?」
「…………まあ、あの世界なら実力があれば多少のトラブルは何とかなるだろう。…………それに、祐美ちゃんに付き纏う変態がいれば俺達で皆殺しにすれば良いだけだ」
「…………まあ、そうだよね。…………祐美ちゃんに手を出す様な輩は一人残らず潰せば良いだけだしね」
「?」
叔母さんからも任せられているし、俺達で祐美ちゃんを守らなければな。
「とにかく! 明日が楽しみだね‼︎」
「はいなのです!」
…………今後のデンドロは少しだけ賑やかになりそうだな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:アバター名の由来は、カ “ト” ウ “レン” からとって“レント”
・ぶっちゃけ妹二人には超甘いシスコン。
・今は大学一年生。
・【ルー】の能力特性は、兄の規格外な才能を持つ人間に対する羨望や嫉妬などの感情から、“もっと
・以前は弓道の大会で弓の天才(デンドロでなら神系の超級職に就けるレベル)に負けたりした為、鬱屈した感情を持っていた。
・だが、事故によるリハビリや妹の事などがあってからは、自分は自分で他人は他人と割り切っている。
妹:アバター名の由来は、“カ” トウ “ミ” キからとって“ミカ”
・祐美ちゃんには兄と同じく超甘い。
・【ギガース】の能力特性は、かつての事故の時の経験から“自分にもっと力があれば”、“理不尽な出来事を打ち砕く力が欲しい”と思った事が由来になっている。
祐美ちゃん:次回から本格的にデンドロをプレイ予定
・日曜午前八時半からの三十分は、一週間の中で最も至高の時間だと思っている。
・実は空手をやっており、ジュニアの大会で優勝するレベル。
叔父夫婦:凄く良い人達
・叔父さんは娘二人には超甘い。
・叔母さんはVRにはやや懐疑的だが、兄妹に任せておけば大丈夫だとも思っている。
日曜午前八時半からのヒーロー・ヒロイン達:本作では二〇四三年まで続いている設定です
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