とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

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前回のあらすじ:兄がシスコンっぷりを発揮したせいで末妹が参戦。


それでは本編をどうぞ。

2/15 ラーニングスキルの新情報が明らかになったので末妹の<エンブリオ>のスキル効果を一部変更しました。


祐美ちゃんの初ログイン

 □王都アルテア・中央通り大噴水前 【闘士(グラディエーター)】レント

 

 あれからデスペナルティが明けた俺達は、事前に設定しておいたセーブポイントである王都の大噴水前にログインしていた。

 また、祐美ちゃんも同じタイミングでログインしており、この噴水の前で待ち合わせをすることになっている。アバター名は俺達と同じ様に本名をもじって“ミュウ”とするらしい。

 

「デスペナ明けでもアバターの調子は問題ないかな。貴重品用のアイテムボックスも確認したけど、そっちで落とした物は無かったね。落としたのは普通のアイテムボックスの中身と、果樹園で貰った小型アイテムボックスの果物ぐらいみたいだよ。お兄ちゃんは?」

「貴重品用のアイテムボックスを確認したが、幸いな事に召喚媒体などは無事だったな。ドロップした物もそちらとほぼ同じだ」

 

 初デスペナで少し不安だったが、とくに問題は無さそうだ。盗難対策が施された貴重品用のアイテムボックスの中身が無事だったのは良かったな。

 ちなみにこのアイテムボックスに施された盗難対策は下級職のスキルを防げる程度のものである…………上級職のスキルを防げる物は非常に値段が高く買えなかった。容量もかなり少なかったしな。

 また、今まで使っていた初期のアイテムボックスに適当なアイテムを入れておくランダムドロップ対策は上手く機能したみたいだな。

 あとは祐美ちゃん…………もといミュウちゃんを待つだけか。

 

「しかし、アバターだと見分けがつくか? 俺達のアバター名とこちらでの外見は教えておいたが……」

「大丈夫だと思うよ。ミュウちゃんも私と同じ様に現実の体を成長させて、その一部を変える感じにするって言ってたからね」

 

 確か、プリキ○アの登場人物に合わせて大体中学生ぐらいにするって言っていたな。

 とはいえ、あんまり遅い様ならどちらかが迎えにい「レント兄様、ミカ姉様、どこですか〜」……おっと、来た様だな。

 

「おーい、ミュウちゃん、コッチコッチ〜!」

「あ! …………レント兄様とミカ姉様ですか?」

「そうだよ、ミュウちゃん。私が従姉のミカで、こっちがお兄ちゃんのレントだよ」

「よろしくミュウちゃん。…………それと、ようこそ<Infinite Dendrogram>へ」

「はい! 兄様、姉様、これからよろしくお願いするのです‼︎」

 

 そう言ったミュウちゃんのアバターは、祐美ちゃんを中学生ぐらいに成長させ、髪を桃色にして細部を少し弄った感じだった。

 そのミュウちゃんは、私達や周りを見て驚いた表情をしていた。…………ま、初めてデンドロにログインすればそうなるだろうな、俺もそうだったし。

 

「兄様達から話は聞いていましたが、本当にリアリティが凄いのです。これがデンドロなのですね。…………それで、これからどうするのです?」

「とりあえず冒険者ギルドに行って登録しよう。そうすればギルドでクエストを受けられる様になるし」

「基本的にジョブにならそこで就く事も出来るしね。ところで就くジョブはもう決まった?」

「はい、最初は【拳士(ボクサー)】に就こうと思うのです。これでも格闘には自信があるのです」

 

 …………ああ、そういえばミュウちゃんはあっちでは空手をやっていたな。それも小さな大会で優勝するぐらい。

 この子も才能的にはミカと同じ天災児枠だしな…………やっぱり俺の周り天災児多くないか?

 

「そうか。じゃあ早速冒険者ギルドに行こうか」

「はいなのです!」

 

 こうして、俺達はミュウちゃんを伴って冒険者ギルドに行くことになったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「ここが冒険者ギルドだよ、ミュウちゃん」

「おー! 凄いファンタジーな感じなのです!」

 

 さて、実に初々しい反応をしているミュウちゃんを連れて、私達はギルドの受付に訪れた。受付嬢はお馴染みのアイラさんだ。

 

「すみませんアイラさん、今日は俺達の従妹を連れて来たのでギルドに登録したいのですが」

「ミュウと言うのです、よろしくお願いしますのです」

「はいわかりました、ミュウ様ですね、登録しました。…………それと、お二人もご無事で何よりです」

 

 おや、俺達が【ラーゼクター】に殺された事はギルドにも伝わっているのか。

 …………じゃあ、あの事件の事も聞いておくか。

 

「まあ、私達は不死身の<マスター>だからね。…………それよりも<レーヴ果樹園>から逃げて来た人達はどうなったか知ってます?」

「はい、避難した人達はお二人が<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の足止めをしている間に、連絡を受けて王都から果樹園に向かう途中の騎士団に保護されたので全員無事です。また果樹園の方での戦闘でも死者は出ていませんでした。あと、お二人が交戦した<UBM>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】はその場から逃亡した様で、騎士団が周囲を捜索しても見つからなかった様です」

「なるほど、じゃあティアンに死者は出なかったのですね。なら良かったです」

 

 本当にデスペナになってまで戦った甲斐があったな。

 

「それとお二人には護衛クエストの報酬があるので後で受け取りに行ってください、と果樹園の経営者がギルドの方に伝言を残していきましたよ。受け取る場所は王都内に果樹園の施設があるので、地図を出しておきます。後でそこに行ってください」

「わかりました。後で向かいます」

 

 報酬は素直に嬉しいな。【ラーゼクター】との戦いでは俺もミカも【快癒万能薬(エリクシル)】や【救命のブローチ】【ライトニング・デスジャベリン】などを消費したし、補填になればいいんだが。

 …………さてと、とりあえずミュウちゃんをジョブに就かせようか。

 

「それじゃあアイラさん、ミュウちゃんをジョブに就かせるために冒険者ギルドのジョブクリスタルを使わせてもらいます。…………そういえば、ここのクリスタルで【拳士】のジョブに就く事は出来ましたっけ?」

「はい、冒険者ギルドにあるジョブクリスタルでは【拳士】のジョブにも就く事が出来ますよ。あと、ギルドに登録した人であれば誰でも使える物なので、気楽にご利用ください」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 そうしてミュウちゃんを【拳士】のジョブに就けて、他にも初心者用の討伐クエストをいくつか受けた俺達はギルドを後にした。

 

「それじゃあ次はミュウちゃんの装備を買いに行こうか! お金は私達が出すし」

「ありがとうございますのです。お金は後できちんと利子を付けて返すのです」

「いやー、別に返さなくてもいいけど……」

「それはダメなのです! 姉様達にあまり迷惑はかけられないのです。…………それに母様からも、こちらで色々な事を学んで来なさいと言われたのです。だから借りたお金はきっちり返すのです」

「これに関してはミュウちゃんの方が正論だな。お金の貸し借りはきっちりしておいた方がいい」

「うーん…………分かった。でも、無利子で良いからね!」

 

 さて、ここからは別行動にした方がいいかな…………この二人の買い物は長いし。

 

「じゃあ俺はクエストの報酬を受け取りに、アイラさんに言われた所に行ってくるぞ。…………ミカ、ミュウちゃんの事は任せた」

「オッケー! 任されたよ‼︎ ………そうだ、私の果樹園のアイテムボックスも渡しておくから返しておいてねー」

「いってらっしゃいなのです、兄様」

 

 こうして二人と別れた俺は、報酬を受け取りに王都にある果樹園の施設に向かったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<イースター平原> 【戦棍鬼(メイス・オーガ)】ミカ

 

 あれからお兄ちゃんと別れたあと、マリィさんの雑貨屋でミュウちゃんに合った初心者拳士用の籠手などの装備と各種消費アイテムを買った私達は、初心者用の狩場の一つである<イースター平原>でミュウちゃんの初戦闘を行うことにした。

 …………ここのモンスターの強さならミュウちゃんに何かあっても、今の私なら問題無く対処出来るしね。

 

「では、これからミュウちゃんにはデンドロでの初戦闘をやってもらいます。えーと、視点はリアル視点だったっけ?」

「はい、姉様達と同じにしました」

「じゃあ気をつけてね、デンドロのモンスターは超リアルだから初戦闘で辞めちゃう人も多いし、無理はしちゃダメだよ?」

「分かったのです」

 

 ちょうど視線を向けた先には一匹の【リトルゴブリン】がいたので、アレとミュウちゃんを戦わせてみようか。

 

「それじゃあ、あそこに【リトルゴブリン】がいるし戦ってみようか」

「はい! …………では勝負なのです‼︎」

 

 そう宣言したミュウちゃんが【リトルゴブリン】に戦いを挑んで行った。

 …………実に新鮮だね、私もお兄ちゃんも“開幕奇襲上等、戦闘中に御託を言う暇があったら攻撃する”みたいな思考だからなぁ。

 

『GEE!』

「疾ッ!」

 

 まず、振り下ろされた相手の爪をミュウちゃんは完全に見切って紙一重で回避し、そのままカウンターのストレートを顔面に叩き込んだ。

 さらに、その攻撃で怯んだ相手の腹に中段蹴りを放ち体制を崩し、そこに上から拳を打ち下ろして地面に叩きつけ、そのまま【リトルゴブリン】は光の塵になった。

 …………うん、特に心配する必要は無かったね。確かお兄ちゃんも『祐美ちゃんの格闘の才能は普通に俺よりも上だ』とか言ってたしね。

 

「姉様〜! 倒したのです〜!」

「…………あーうん、じゃあこのままギルドで受けた討伐クエストをやって行こうか」

「分かったのです!」

 

 そのまま私達は<イースター平原>での狩りを続行するのだった。

 

 

 ◇

 

 

「せいっ! はぁ! 《ストレート》!」

『GIAA⁉︎』

 

 今、ミュウちゃんの拳撃からのアクティブスキルでまた一体の【リトルゴブリン】が光の塵になった。

 …………あのあとミュウちゃんは、この<イースター平原>にいたモンスターに片っ端から戦いを挑み、それら全てを容易く撃破していった。

 ちなみに私はそれを後ろから見ているだけである…………いや、私が参戦しちゃうとミュウちゃんに経験値が入らないからね! しょうがないよね!

 

「姉様、これで冒険者ギルドで受けたクエストは全部クリア出来ました」

「…………はっ! そっそうだね、じゃあ一旦王都に戻ってクエストの清算をしようか」

「分かったのです。…………そういえば、私の<エンブリオ>はいつ生まれるのでしょうか?」

 

 そう言いながら、ミュウちゃんは左手の籠手を外して第0形態の<エンブリオ>を見ていた。

 

「うーん、私とお兄ちゃんはログインしてから一時間ぐらいで孵化したけど、掲示板とかの情報だと孵化まで半日から一日かかったっていう情報もあったから、大分個人差があるみたいだよ。まあ、そのうち孵化するから気長に待てばいいよ」

「はい、分かったのです…………えっ⁉︎」

 

 そう言った側からミュウちゃんの<エンブリオ>が光だした…………実にタイムリーだね。

 

「姉様⁉︎ なんか光っているのです⁉︎」

「良かったね、ミュウちゃん。<エンブリオ>が生まれるみたいだよ」

「姉様すごい冷静なのです‼︎」

 

 そりゃあ、以前にお兄ちゃんのを見てるからね。

 …………そうしているうちにだんだんと光は収まっていき、光が消えるとそこには一つの影があった。

 

「…………あなたが私の<エンブリオ>……なのです?」

『そうだよマスター。僕の名前は【支援妖精 フェアリー】、マスターを援ける為のTYPE:ガードナーの<エンブリオ>だよ。以後よろしくね』

 

 それは大きさは三十センチ程で四足歩行の…………えーと、何というか……犬と猫と兎とフェレットを足して割ったような……何とも言葉にするのが難しい感じの謎生物だった。

 …………ていうか、あれって…………

 

「…………凄いのです‼︎ まるでプリキュアの妖精みたいなのです‼︎」

「そう、そんな感じ!」

『この外見でマスターに喜んで貰えるのなら嬉しいかな』

 

 日曜午前八時半に日本全国のテレビで出てきて、小さな女の子によく目撃されてそうな生き物だね!

 …………まあ、<エンブリオ>は<マスター>のパーソナルに由来するからね。ミュウちゃんが喜んでいるのならいいんじゃないかな。

 

「ミュウちゃん、とりあえず【フェアリー】の能力を確認してみたら?」

「分かったのです…………こんな感じだったのです」

 

【支援妖精 フェアリー】

 TYPE:ガードナー

 到達形態:Ⅰ

 

 HP補正:F

 MP補正:G

 SP補正:G

 STR補正:E

 END補正:E

 DEX補正:G

 AGI補正:D

 LUC補正:F

 

 『保有スキル』

 《エール・オブ・ザ・ブレッシング》Lv 1:

 マスターの右手・左手の装備枠が空いている場合、マスターのSTR・END・AGIを10%上昇させ、魔法系の被ダメージを10%軽減する。

 このスキルはマスターの一定距離以内にいなければ効果が発揮されない。

 パッシブスキル

 

 《マジカル・ラーニング》:

 魔法系スキル発動の目撃時に低確率(1%)でそのスキルを習得する。

 このスキルで習得した魔法スキルのレベルは1になる。

 パッシブスキル

 

「ふーむ、名前通り<マスター>の支援特化ガードナーって感じかな。まあ、ラーニングする魔法次第では分からないけど。…………あと、私とお兄ちゃん以外には自分の<エンブリオ>の能力は教えない様にね。弱点が分かっちゃうと対策を取られるから」

『この場合の弱点は僕が狙われる事かな。僕自身のステータスはMP特化であとはAGIが少し高いぐらい、HP・STR・ENDは壊滅的だから直接戦闘は出来ないしね。…………まだ魔法もラーニング出来てないから、高いMPも宝の持ち腐れだし』

 

 そうなんだよねー。普通ガードナー系の<エンブリオ>は<マスター>を守る能力を持つことが多いんだけど、ミュウちゃんの【フェアリー】は<マスター>が前に出て<エンブリオ>が後方から支援するタイプみたいだし。

 

「大丈夫なのですよ“フェイ”! これでも腕っぷしには自信があるのです‼︎」

『…………えーっと、“フェイ”って僕のこと?』

「はい! 愛称なのです! …………私がフェイを守りますから、フェイも私を助けてほしいのです」

『! …………分かったよマスター、僕はキミを援ける為の<エンブリオ>だからね。…………だからこれからよろしくね“ミュウ”』

「はいなのです‼︎」

 

 …………うん、二人共仲が良くて何よりだよ。これなら問題なさそうだね。

 私もお兄ちゃんも<エンブリオ>と意思疎通なんて出来ないからちょっと羨ましいかも。

 

「魔法のラーニングに関しては問題無いよ。お兄ちゃんが大量の魔法系ジョブに就けばいいだけだし、すぐに色々な魔法を使える様になるよ!」

「そうなのです! 兄様なら何とかしてくれるのです!」

『…………じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな』

「それじゃあ王都でお兄ちゃんと合流しようか!」

 

 そうして、私達は新しい仲間のフェイちゃんを連れて王都に戻って行った。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

妹:とりあえずお兄ちゃんなら何とかしてくれる!

兄:というわけで今後のジョブ構成が魔法主体に確定した

ミュウ:格闘系天災児
・だが、彼女にとって空手は趣味の一つなので、シュウやカシミヤなどと比べると積極的に打ち込んでいる訳ではない。
・なので、同年齢時の彼らと比べると実力は低い。

【支援妖精 フェアリー】:ミュウの<エンブリオ>
・モチーフは主に妖精と訳される西洋の神話や伝説に登場する超自然的な存在、人間と神の中間的な存在の総称“フェアリー”
・紋章は“妖精と契約する少女のシルエット”
・能力特性はマスターへの支援、及び魔法のラーニング。
・実は性別は雌、ボクっ娘。
・《エール・オブ・ザ・ブレッシング》の有効距離はマスターと心の中で会話が出来る範囲ぐらい。


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