それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア 【
「というわけで、こちらがミュウちゃんの<エンブリオ>のフェイちゃんです!」
「なのです!」
『初めましてお兄さん。僕はミュウの<エンブリオ>でTYPEガードナーの【支援妖精 フェアリー】、愛称はフェイと言います。よろしくね』
「ああ、よろしく。…………それとミカ、これがお前の分の報酬だ」
「ありがとー、お兄ちゃん。…………って随分多いね」
あれから、二人と別れて果樹園の経営者に会いに行った俺は、そこで<
さらにクエストの報酬にもかなり色を付けて貰った。曰く、<UBM>の襲撃を受けたのに被害が驚く程少なかった事に対するお礼を込めた分とのこと。これで今回の損害の補填も十分出来るだろう。
ちなみに月夜さんを初めとする<月世の会>の活躍で、果樹園の方にも被害はほとんど無かったので近く運営を再開出来るらしい。
…………その諸々が終わったあと、ミカとミュウちゃんに合流したのだが…………
「それでミュウちゃんの<エンブリオ>……フェイのラーニングスキルの為に魔法を見せてほしいと」
「そうなのです、兄様。…………お願い出来るでしょうか?」
『僕からも頼む、今のままじゃ僕はミュウの力にはなれないんだ』
「…………別に魔法を使うことは構わないぞ。俺もスキルレベルは上げたいからな」
正直、色々なジョブに就き過ぎたせいで、個々のスキルレベルがあまり上がっていないからな。
…………それにデンドロの魔法は結構応用が利きそうだし、ジョブを魔法系で埋めるのもありだろう。物理的なステータスは【ヴァルシオン】で補えるし、上級職の魔法なら範囲攻撃も出来るみたいだからレベル上げも捗るだろう。
「それで次はどこに行くんだ?」
「んー、特に捻らずに次の<ノズ森林>でいいんじゃないかな。ミュウちゃんもそれでいい?」
「はい! 早く強くなって借金を返すのです!」
「別に無利子・無期限だからそんなに焦らなくてもいいよ。お金もこの世界でなら亜竜級モンスターでも狩ればすぐに稼げるし」
確かに亜竜級以上のモンスターを狩ると出てくる【宝櫃】の中身を売れば、纏まった金が手に入るがな。
…………とりあえず、ミュウちゃんもやる気みたいだし<ノズ森林>に行こうか。
◇
「疾ッ! 《ストレート》! 《アッパー》!」
「……《ファイアーボール》……《マッドクラップ》」
『『GAAA‼︎』』
ミュウちゃんの放ったパンチが【ティールウルフ】の鼻先に直撃し、それに怯んだ相手にアクティブスキルの連続攻撃が叩き込まれ相手は光の塵になった。【
そこに死角からもう一体が襲いかかってくるが、俺が放った火球に焼き尽くされた。さらに群れの他の相手を地属性魔法で足止めする。
『『GAAA!』』
『ミュウ! 《ウインドカッター》!』
「ナイスです、フェイ! 《ジャブ》! 《ストレート》!」
俺が足止め
うん、割と早めにラーニングが成功したのは良かったな。覚えた魔法はまだ一つだけだが、基本的に乱数に対しては試行回数で解決出来るし…………リアルラック? 知らない子ですね。
「二人の連携もいい感じだしな《ホワイトランス》」
『GAAA‼︎』
そう言いながら、足止めされている相手の一匹に《詠唱》付きの魔法を放って倒しておく。
…………そういえば《詠唱》とかも魔法系アクティブスキルに含まれるのかね? 今後はもう少し多用してみるか。
「よし! 残りも倒すのです‼︎」
『分かったよ、ミュウ!』
「気をつけてなー、とりあえず痺れておけ《エレクトリカルスタン》」
残りの敵にミュウちゃんが突っ込んで行くので、その援護として相手を【麻痺】させる雷属性魔法を《詠唱》付きで撃っておく。
…………【闘士】がカンストしたら、次は【
◇
「ふぅー、やっとかたずいたのです」
「はい、お疲れ様。じゃあ回復するぞ《ファーストヒール》」
あれから【ティールウルフ】の群れを倒し終わった俺は、負傷したミュウちゃんに回復魔法をかけておいた。
『あっ、今新しいスキルを覚えたみたい……《詠唱》だって』
「すごいのですフェイ! これで二つ目なのです!」
「ふーん、やっぱり《詠唱》とかも魔法系スキルに含まれるのか」
しかし、この短時間で二つ目とは…………いや、乱数とは偏るモノだしな! よくある事だし‼︎
「はーい、お兄ちゃんとミュウちゃんとフェイちゃんおつかれ〜」
「なんだミカ、居たのか」
「居たよ! さっきからずっと! 大体、私が参加したら一瞬で終わっちゃうでしょ⁉︎」
ちなみに、ミカはさっきからずっと後方で周辺の警戒をしていた。こいつの戦い方は加減とか出来ないからな。
「冗談だ、あんまり怒るな…………ん?」
「どうしたのです、兄様?」
「だれか来るみたいだね」
先程から発動させていた索敵系スキルに反応があった。この反応は人間、数は四人かな。
まあ、ミカが特に警戒していないところを見ると、こちらへの悪意は無いみたいだがな。
…………そして現れたのは、
「おー、レントくんにミカちゃんやん。久しぶりー……でも無いな。
以前、果樹園で別れて以来になる月夜さんが、その<エンブリオ>のカグヤさん、秘書の月影さん、あと初対面の白髪の中学生ぐらいの女の子を引き連れていたのだった。
◇◇◇
□<ノズ森林> 【
私達が森の中で出会ったのは、<月世の会>のオーナー月夜さん御一行だった。
「先日ぶりですね、月夜さん。それにカグヤさんと月影さんも…………ところで、皆さんはここで何を?」
「今日始めたばかり初心者のチュートリアルや。うちのクランはその教義上みんな現実視やからね、初日の戦闘だけは他のメンバーで面倒を見ることになっとるんや。デンドロで戦闘がしたくても、実際にモンスターと戦えるかどうかは分からんからな。…………そっちもそうやろ?」
「まあそんな感じだね。親戚の子が今日デンドロを始めたから面倒を見てるんだよ」
「はじめまして、レント兄様とミカ姉様の従妹のミュウなのです。よろしくお願いするのです。こっちは私の<エンブリオ>のフェイなのです」
『ミュウの<エンブリオ>、TYPEガードナーのフェイだよ。よろしくね』
そう言って、ミュウちゃん達は月夜さん達に自己紹介をした…………まあ、ミュウちゃんには面倒を見るとか殆どいらなかったけどね。
「これはご丁寧にどうもなー。うちは扶桑月夜、クラン<月世の会>のオーナーをしとるんや。こっちはうちの<エンブリオ>のカグヤと秘書の影やん、そしてこの子がクランメンバーでミュウちゃんと同じ今日始めたばっかの
「月夜の<エンブリオ>、TYPEメイデンwithワールドのカグヤよ、よろしくお願いするわね」
「秘書の月影永仕郎と申します」
「…………
そうやって、向こうも自己紹介を返してくれた。
…………ところで、さっきからずっと葵ちゃんがミュウちゃんの方…………正確にはその<エンブリオ>のフェイちゃんの方を見てるんだけど…………
「? フェイがどうかしたのです?」
「…………可愛い…………プリキュアの妖精みたい……」
「‼︎ ……分かるのですか⁉︎」
「…………毎週日曜午前八時半からの三十分を楽しみに日々を生きている……」
「…………同士なのです‼︎」
ミュウちゃんと葵ちゃんはガッチリと握手をして、そのままプリキュアの事について語り合い始めた。
…………私もプリキュアは嫌いじゃないけど、さすがに会話がディープ過ぎてついていけないかなぁ。
なんか今も葵ちゃんが「…………妖精型ガードナー羨ましい。私のは愛でるとか出来ないし……」とか言ってるし、ミュウちゃんも「じゃあフェイを触ってみるのです?」と返してるね。
それでミュウちゃんがフェイちゃんを葵ちゃんに差し出した…………なんか物凄いモフモフされているね。
「…………まぁ、友達が増えるのは良いことやしな」
「…………そうですね」
その光景をお兄ちゃんや月夜さん達も生暖かい目で見てるね…………まあ、仲良くなれたのは良いことだと思うよ、うん。
「…………さて、とりあえずこの前はうちのクランメンバーを助けてくれてありがとうなー。スズキ達も礼を言っとったでー」
「いえ、俺達は自分のクエストを達成しただけですから。それに、<月世の会>の皆さんが居なければティアンの犠牲をゼロにする事は出来なかったでしょうし」
「それでも、うちのクランメンバーを二人が助けてくれた事は変わりないからなー。礼は言っとくでー」
やっぱり、月夜さんはクランオーナーとしては凄く良い人だよね…………よし。
「それじゃあ月夜さん、私達とフレンド登録しませんか? クランには入れないですけど、友達にはなれると思います!」
「…………ええよー、じゃあフレンド登録しよかー」
こうして私達と月夜さん達は
…………ちなみに月影さんからは「お三方、今回は本当にありがとうございました」と改めて礼を言われたりもした。
「それで、これからミカちゃん達はどうするん? うちらはもう王都に帰ろうと思うとるんやけど」
「そうですね…………私達はもう少し狩りを続けようと思います。それで良いよね、お兄ちゃん、ミュウちゃん?」
「ああ…………お前はまだ暴れ足りないだろうからな」
「私も良いのですよ、姉様」
そう! 正直さっきからずっと見ているだけだったからフラストレーションが溜まってるんだよ‼︎
「そーかー、じゃあここでお別れやなー。…………ほらー、葵ちゃんもいつまでもモフっとらんとそろそろ返したり」
「………………分かった………………」
そう言って、葵ちゃんはモフられ続けてヘロヘロになったフェイちゃんをミュウちゃんに返した。
…………フェイちゃん大丈夫かな?
「それじゃあまたなー。借りはいつか返すでー」
「…………またね」
「はい! 今度は一緒に遊ぼうなのです‼︎」
そうして、私達と月夜さん達は別れたのだった。
「さて! これからは私も暴れさせてもらうよ! ちょっと色々溜まってるし‼︎」
「好きにしろ。…………ミュウちゃんは俺の側を離れないように」
「はいなのです、兄様」
さて、じゃあ森の奥の方のレベルが高い狩場でひと暴れしようか‼︎
◇
「ふぅー、大分スッキリしたね!」
「…………そりゃあ、あれだけ暴れればな……」
「姉様凄かったのです。モンスター達が次々と消し飛んでいったのです」
「それにドロップも良いのが落ちたよ! ………お兄ちゃんが探してた【適職診断カタログ】とかね!」
「……………………ああ、そうだな………………」
いやー、やっぱり派手に暴れるのは気持ちいいね! 【戦棍鬼】のスキルもいくつか試して見たけど、なかなか使えたし。
…………デスペナからのモヤモヤした気持ちも大分晴れたよ。
「それでミュウちゃん。初めてのデンドロは楽しかった?」
「はいなのです! 新しい友達も出来ましたし…………何より兄様と姉様の凄いところが見れたのが良かったです」
「まあ、モンスターをあれだけ消し飛ばしていればな」
そうお兄ちゃんが言うと、ミュウちゃんは首を横に振った。
「それもそうなのですがちょっと違うのです。…………兄様と姉様はこの世界で沢山の人と出会っていて、その人たちと仲良くなったり助けたりしているところが凄いと思ったのです!」
「っ!」
…………そっか、ミュウちゃんはそんな風に思ってくれたんだ…………なら、色々頑張って来た甲斐があったかな。
気づいたら、私はミュウちゃんを思いっきり抱きしめていた。
「ありがとうね、ミュウちゃん。…………お陰でモヤモヤして気持ちも晴れたよ」
「…………はいなのです……」
…………やっぱり、ちょっとお兄ちゃんが目の前で死んだ事には少し思うところがあったんだけど…………もう大丈夫かな。
「そう言ってくれるなら、俺もハードを買っておいた甲斐があったかな。…………ありがとう、ミュウちゃん。そして、改めてようこそ<Infinite Dendrogram>へ、これから一緒にこのゲームを楽しもう」
「…………はいなのです‼︎」
こうして、私達の<Infinite Dendrogram>に新しい仲間が加わったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:乱数に関しては試行回数が全て! と考えているタイプ
・以外と負けず嫌いな事もあり、ガチャなどは当たりが出るまで回してしまう為よく沼にはまる。
・本人も自覚はしており、ギャンブルなどはあまりしないようにしている。
妹:仲良くなった相手には積極的にフレンド登録を申し入れるタイプ
・今回の一件で後の<アルター王国三巨頭>全員とフレンドになった。
末妹:今回同好の士が出来て大満足
・デンドロ参加を決めたのは兄妹がデスペナ後、やや不調な事に気づいていたからでもある。
フェイ:今回モフられまくった
・その結果草臥れたぬいぐるみみたいになったので、最後の方は紋章の中で休んでいた。
扶桑月夜御一行:今回兄妹達とフレンドになった
・“今のところ”凄く真っ当なクランオーナー。
日向葵:<月世の会>クランメンバー
・末妹の同好の士。
・リアルではアルビノの色白病弱少女で、入退院を繰り返している。
・そのため“一度は太陽の下を歩いてみたい”と思いデンドロを始めた。
・だが、デンドロ内ではその願いがあっさり叶ったので、<エンブリオ>の方向性は若干変質している。
・また、その病院が扶桑家の経営しているものだったので、その縁で<月世の会>に入信した。
【日天鎧皮 カルナ】:日向葵の<エンブリオ>
TYPE:アームズ 到達形態:Ⅰ
能力特性:光・熱エネルギーによるダメージ吸収&蓄積
スキル:《
モチーフ:インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する皮膚と癒着した黄金の鎧を持って生まれてきた英雄“カルナ”
・全身の皮膚を置換した人工皮膚型の<エンブリオ>、装備枠はアクセサリー枠を一つ消費。
・《日天吸蓄》は自身へに光・熱エネルギーによるダメージを吸収し、蓄積したエネルギーを使ってMP・SPを使うスキルを使用出来る様になるパッシブスキル。
・一度に吸収出来るエネルギーの量には限度があり、吸収しきれなかった分のダメージは受けてしまう。
・ステータス補正はMP・SPは低く、それ以外は高め。
・また副次効果として通常の皮膚よりは強靭なので、若干防御力も上昇している。
・<エンブリオ>なので回復魔法などでは治せないが、その分自己修復能力は高い。
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