それでは本編をどうぞ。
兄の新ジョブ
□王都アルテア 【
「というわけで、【魔石職人】に就いてみたぞ」
「いやちょっと待ってお兄ちゃん、いきなり過ぎてわけわかんないよ。大体この前これから魔法系のジョブに就くって言ってなかったっけ?」
「広義の意味で【魔石職人】も魔法系と言えなくもないだろう。それに戦闘中は【
ちゃんと戦闘中はフェイのラーニングも兼ねて、各種魔法で
そのおかげで俺の魔法系スキルのレベルも上がったし、フェイもかなりの数の魔法をラーニング出来たしな。
「…………兄様、姉様はどうして生産職に就いたのかを聞きたいのだと思いますよ」
「そうだよ! お兄ちゃん!」
「ふむ、その理由については単純に俺は色々ジョブに就けるから生産職にも就いてみたかったというのが一つ。もう一つは資金稼ぎだな…………最近は<マスター>の数も増えて実力も上がってきたから、討伐系のクエストも受けにくくなったからな」
実際、<マスター>達にとって各種討伐系クエストは大人気なので競争率も当然高い。
まあ、ゲームの中でもお使いやお手伝いなどの地味なクエストをやりたがる人は少ないだろうしな。
他にも、最近は<マスター>達があまりにも多くのモンスターを狩り過ぎたために、モンスターの数が大幅に減少した狩場もあると聞くので、狩り以外にも収入源があった方がいいと考えたのだ。
「うーん、確かに最近は狩りもやり辛くなったよねー。アイラさんもモンスターの大幅な減少で狩り場が大分変わってきたって言ってたし」
「うむ、おかげででミュウちゃんのレベリングもちょっと遅めだ」
「そうなのですか?」
「まあ、私達の時と比べるとねー」
特に王都周辺の中級者用狩場のモンスター減少が一番酷いな。狩場に行ったら<マスター>達がモンスターを求めてひしめいていた、なんて事もあったしな。
「この世界にはちゃんと生態系があるからねー。モンスターがリポップするのは神造ダンジョン内だけだし」
「そうだな…………やはりミュウちゃん用の【墓標迷宮探索許可証】はいるかな? 市場価格は十万リル程だし買えなくはないが……」
「あうぅ…………また借金が増えるのです……」
以前貸した装備品の代金も返し終わったばかりだかな…………次の王国の【墓標迷宮探索許可証】が手に入るクエストはいつだったかな?
そんな事を考えていると、暗めになった空気を変える為にフェイが話しかけてきた。
『そういえば、お兄さんはどうして生産職の中から【魔石職人】を選んだんだい?』
「ああ、この世界の生産職を色々調べてみたところ、俺の<エンブリオ>と一番シナジーがありそうだったからだな」
「えっ! お兄ちゃんジョブのシナジーなんて考えてたの⁉︎」
失礼な、これでも各種ジョブの事はちゃんと調べているんだがな…………まあ、以前闇雲に色々取った事も確かにあったが…………。
「ゴホン! …………【魔石職人】のジョブは文字通り各種【ジェム】を作る為のジョブだ」
「あの兄様、“ジェム”とはなんなのです?」
「【ジェム】というのは簡単に言えば、魔法を発動出来る使い捨てのマジックアイテムだな。中に込めておいた魔法を一度だけ使う事が出来る」
「それは知ってるけど…………それがどうシナジーするの?」
「まずこの【ジェム】の値段なんだが、下級職で覚えられる魔法なら千リル程度なんだが…………上級職の、それも奥義クラスの魔法だと数十万リルはするんだよな」
「…………どうしてそんなに値段が違うのです?」
「これに関しては【魔石職人】のスキル《魔石生成》が、
要するに下級の魔法のジェムを作りたければ【
さらにデンドロの生産系スキルは『生産物をDEXやスキルレベルなどを基準にして、何%かの確率で作ることが出来る』という感じのものであり、強力なアイテムを作る場合はその確率も低くなっていく。
その確率を上げたければ下級職の【魔石職人】だけでなく上級職の【
…………そして、この世界の人間が就ける上級職の数は基本的に最大二つである。それにティアンには適正とレベル上限という問題もある。
『成る程ね、上級職の奥義の【ジェム】が高いのは、そもそも作れる人間が少ないからか』
「そういう事。供給が少なく需要が多ければ値段が跳ね上がる、という当たり前の話だ。まあ【高位魔石職人】になると他人の魔法を【ジェム】に込める事も出来るらしいが…………人手や成功確率の問題で数を作る事は出来ないみたいだしな」
「…………でも、お兄ちゃんの必殺スキルなら複数の魔法系上級職と【高位魔石職人】に就けるから、そのあたりの問題は解決出来ると」
「理論上はな。…………まあ、上級職の奥義が込められた【ジェム】を一つ作るにしても数万リルは必要らしいから、そう上手くはいかないだろうがな」
それでもお金を稼ぐことは出来るだろうし、俺はメインジョブに依らずにジョブスキルを使えるからジョブクエストでレベル上げも出来る。
「なので、これからは狩りをしていない時には生産活動に勤しむ予定だからよろしく。生産スキルのレベルも上げたいし」
「…………まあ、そういう事なら分かったよ」
「分かったのです」
「それじゃあ、俺はこれから魔石職人ギルドで以前受けたクエスト達成の報告と、新しいジョブクエストを受けにいくから」
「いつの間に…………じゃあミュウちゃん、私達はどうする?」
「うーん…………この王都の事をまだ詳しく知らないので、観光とかをしてみたいのです」
「分かったよ。この王都アルテアのお勧めスポットを案内してあげるよ!」
そうして俺はミカ達と別れて、魔石職人ギルドに向かったのだった。
◇
「さて、とりあえず魔術師ギルドに着いたな。…………しかし、本当に大きいな」
あれからミカ達と別れた俺は王都アルテアの魔術師ギルドに来ていた。
ちなみに魔石職人ギルドはこの魔術師ギルドの一角に存在しており、この魔術師ギルドは司祭系以外の魔法系のギルドを一纏めにしたものらしい。
王都には“魔法最強”とも呼ばれる【大賢者】がいる事もあって、この王都アルテアの魔術師ギルドは王国最大の魔術師ギルドでもあるようだ。
…………そんな事を考えている内に魔石職人ギルドに着いた。他の場所と比べるとやや人は少ないが、王国最大の魔術師ギルドだけあってそれなりの人がおり、様々な魔石の販売も行われていた。
「クエスト達成の報告に来ました。こちらが納品する魔石です」
「はい…………確かに受け取りました。こちらが報酬になります」
そうして、俺は受付嬢さんから報酬を受け取ったが…………やっぱり少ないな。
…………今回、俺が受けたクエストはギルドから素材を貰い、その素材に指定された下級の魔法を込めるというものである。そして報酬は納品した【ジェム】の分だけ払われ、生産に失敗し素材がロストした場合はそこから差し引かれる。
まだスキルレベルが低く、生産に失敗した数も多い俺では報酬も少ないという訳である…………まあ、このクエスト自体が新人【魔石職人】を鍛える為のクエストなので差し引かれる額は少なめだが。
それに【ヴァルシオン】の補正や五百を超えるレベルによるDEX値から、普通の新人【魔石職人】と比べると失敗する回数も少ないし。
「次はこのクエストを受けます」
「かしこまりました。…………こちらが素材になります、指定された期限までに納品してください」
さてとクエストも受けたしギルドの作業場を借り「おお、レントの坊や来ていたのかい」この声は…………。
「こんにちはミレーヌさん」
「ああ、こんにちは。レントの坊やはジョブクエストかい?」
「ええ、今クエストを受けたところです」
彼女はミレーヌさん、この魔石職人ギルドのギルドマスターである。俺が【魔石職人】に転職しに来た時に偶々出会い、以後何故か俺の事を気にかけてくれている。
曰く、『今、各ギルドで優秀な<マスター>の取り込み合戦が行われているから唾をつけておく事にしたのさ。それにアンタの事はマリィから聞いていたし』との事。どうもマリィさんとは昔からの友人らしい。
「それで、要件は何ですか? <マスター>の囲い方なら以前に言いましたけど」
「ああ、『<マスター>は自由だから下手に束縛するよりも高い報酬で釣った方がいい』って話は分かったし、実際役に立ったけどねぇ…………そもそも【魔石職人】を志す<マスター>が少ないんだよ」
「…………まあ、<マスター>の多くが戦闘型ですしね。それに【魔石職人】自体【
「実際、ウチの人員も不足気味でねぇ。特に上級職の魔法の【ジェム】は常に需要と供給が釣り合っていない状態さ。他の魔術師系や生産系ギルドが<マスター>を上手く取り込んでやってる話を聞いたからね、うちもそれにあやかりたいんだよ。…………それで、何か良いアイデアはないかい?」
また無理難題をおっしゃる…………まあ、
「<マスター>の目を【魔石職人】に向けさせる手はありますけどね」
「あるのかい⁉︎ …………正直言って世間話のつもりだったんだけど」
「多くの<マスター>は“強さ”を求めていますし、魔法をノーコスト・ノータイムで放てる【ジェム】は強いアイテムですからやり様は有ります。…………最近流行りの『最強ビルド論』に乗っかりましょう」
デンドロ発売から現実で約一カ月、今<マスター>達の間では“どの様なジョブビルドが最強か”という『最強ビルド論』が巻き起こっていた。
基本的に<マスター>が就けるジョブ数は下級職六つ・上級職二つなので、そういう論争が起きるのはゲームなら当たり前の事であり…………そこでこう囁けば良い。
「『大量の【ジェム】を事前に作っておいて、戦闘時にそれらを投げまくれば強い』とね。強いて言うなら“【ジェム】生成貯蔵連打理論”ですかね」
「成る程、そうして<マスター>達の間で【ジェム】を使うのが流行れば、ここに来る<マスター>も増えるか」
「はい。…………ただし、そう遠からずに廃れる理論でしょうから早めに広める事をお勧めします」
この理論の欠点は、限りあるジョブ枠を生成職で埋める為にステータスが低くなる事である。
うちの妹達の様な前衛系の<マスター>なら
…………そもそも
「…………そう分かっていて広めるのかい?」
「別に嘘はついていませんし、AGI差やコストパフォーマンスをどうにか出来る手段が有れば十分強い理論ですから。それにその理論を聞いてどうするのかは各々の自由です」
「まあ、確かにそうだね。…………【魔石職人】や【ジェム】の宣伝文句ぐらいにはなるか」
実際、こちらからはそういうビルド論もあると提案するだけだしな。
それにミュウちゃんのフェイみたいな魔法ラーニング系の<エンブリオ>とかなら相性も良いだろうし、そういう<マスター>なら既に思いついている者もいるだろう。
「ま、今回の話も色々参考にさせて貰うよ。あんたも
「…………俺の<エンブリオ>の事は話していませんよね?」
「ん? ああ、あんた複数のギルドで様々なジョブに就いて、いくつものジョブクエストを受けている<マスター>がいるってそれなりに有名だよ。その上、わざわざ魔石職人ギルドに来た事も考えれば予測はつくさね。…………あんたなら超級職にもすぐに就けるんじゃないかい?」
「…………下級職や上級職ならともかく、超級職に就くのは非常に難しいですよ」
「ふーん…………まずは【高位魔石職人】になれる様に頑張りな、期待してるよ」
そう言って、ミレーヌさんは去っていった。
…………俺もさっさとクエストをこなして、スキルレベルを上げようか。生産用のオリジナルスキルも試したいし。
◇
あの後、クエストの【魔石】を生産した俺は休憩も兼ねて考え事をしながら王都をぶらついていた。
(本当にミレーヌさんは鋭いな、流石はギルドマスターってところか。お陰で危うく【ルー】の必殺スキル…………の妹達にも明かしていない
そうして俺はステータスウインドウを開き、【ルー】の必殺スキルの効果を見た。
《
20個の下級職と15個の上級職に追加で就く事が出来る様になり、
※この<エンブリオ>の以降の進化時に新しいスキルを取得出来なくなる。
※この<エンブリオ>のステータス補正は0になる。
パッシブスキル
(ミカへの説明の時も
嘘は言っていない、本当のことも言って無いけど、という《真偽判定》を誤魔化す手法である。
…………ミカの直感相手ではあまり意味が無いが、アレは危険感知がメインだから明かしても良いデメリットを話すことで誤魔化せた。
(…………万の職能に通じても一芸を極める事が出来ない、というのは俺の<エンブリオ>らしくて中々皮肉が効いているな)
そう、やや自嘲気味な事を考えてみる…………我ながら面倒なパーソナルをしているよ。
(うちの妹二人の才能ならそう遠からずに超級職に就くことが出来るだろう。その時にあまり気を使われたく無いしな。…………天災児達の前で“頼れるお兄ちゃん”でいるのも大変だ。…………とりあえずジョブに由来しない超級職でも探しますかね)
まあ、自分でも下らない意地だとは思うけど…………やっぱり、あの二人の前では兄として振る舞いたいんだよな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:かなり捩じくれたシスコン
・兄のパーソナルは主に妹達への愛情や嫉妬、自身の才能への誇りと諦観などで相当捻くれており、それが<エンブリオ>にも多様なスキルやデメリットを持つという形で現れている。
・必殺スキルの各種デメリットは、これまで汎用性の高いスキルを複数習得した反動が一気に出た形。
・最後のデメリットの所為で兄が就ける超級職は、スキル由来の【神】系か系統無しの超級職ぐらいになっている。
妹達:末妹の方は気づいていないが、妹の方は兄のパーソナルを察しておりその上で触れない様にしている
ミレーヌさん:魔石職人ギルドのギルドマスター
・【魔石職人】としては王国最高峰の腕を持ち、人材育成や運用能力も高い女傑。
・慢性的な上級職の魔法の【ジェム】不足には悩まされており、兄を始めとする<マスター>達には期待している。
【魔石職人】:各種設定は本作のオリジナル
・【ジェム】生成貯蔵連打理論はこの後、兄とミレーヌさんの手で王国の<マスター>に広まった。
・この理論は兄が自身の戦力増強のために考えていたプランの一つ。
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