とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

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今回は以前の番外編で出てきたキャラと、兄妹達との出会いがあります。


それでは本編をどうぞ。


兄妹と生産職

 □王都アルテア 【紅蓮術師(パイロマンサー)】レント

 

 あの【技神(ザ・スキル)】転職クエスト失敗から、俺はレベリングや各種クエストの受注などを行い戦力強化に励んだ。

 その結果、メインジョブにしていた【祓魔師(エクソシスト)】と<墓標迷宮>を探索する為の【盗賊(バンディット)】のレベルをカンストさせて、更に条件を満たせた念願の魔術師系の上級職【紅蓮術師】に就くことも出来た。

 他にも魔石職人ギルドのクエストを積極的にこなしていった結果、【魔石職人(ジェム・マイスター)】のレベルもカンストし【高位魔石職人(ハイ・ジェム・マイスター)】に転職することも出来たのだった。

 …………そこまで出来た時点で夏季休講が終わり、大学が始まったのである。

 

「まあ、学校が始まる前にそこまで出来たのは上出来だったかな」

「学校が始まっちゃったら、これまでみたいな準廃人プレイは出来ないしねー」

「なのです」

 

 …………流石に大学をサボってデンドロプレイ、なんて事は人として駄目だからな。大学に通わせて貰っている叔父さん達にも申し訳が立たないし。

 

「それに大学が始まっても、デンドロプレイに悪いことばかりではないさ。…………大学の同期生でデンドロをやっている人と知り合いになれたりしたからな。この夏季休講でデンドロをやり始めたヤツは結構いたし」

「それで、今はその知り合いになった人に会いに行ってるわけなのですね?」

「ああ、その人はこの王都アルテアでエドワードと言う名前の錬金術師をやっているらしくてな。他の生産職の<マスター>達とクランを作って商売をやっているから機会があれば訪れてくれ、と言われたからな」

 

 何より生産系<マスター>と繋がりが持てれば、装備面やアイテム面で色々と便利だろうからな。

 …………ちなみに大学でデンドロのサークルを作ろうかという話もあったが、今は保留にしている。

 

「私も生産系の<マスター>と知り合いになるのは悪くはないと思うよ」

「そういうこと。…………向こうも顧客を確保したいだろうしwinーwinの関係というやつだな」

「…………兄様はデンドロ友達が出来て良かったですね」

「そっちは違うのか?」

 

 そう聞くと、二人は凄く微妙そうな表情を浮かべた。

 

「…………夏休みの間にデンドロをプレイしてみた、って子は結構居たんだけどねー」

「…………その多くが最初の戦闘で怖くなって辞めてしまったそうなのです」

「…………成る程な」

 

 …………ああ、この二人が天災児だから忘れていたが、確かに普通の小学生にデンドロの戦闘はキツイか。

 

「でも続けている子もいたから、そういう子達とは友達になったよ。まあ、所属国はレジェンダリアやグランバロアや黄河だったけど」

「私のクラスメイトにも、天地所属でデンドロをやっている男の子がいたので友達になったのです。何でも、剣術をやっているので天地は肌に合っているらしいのです」

 

 まあ、デンドロ関係で妹達に新しい友達が出来たのは良いことだろう。今後機会があれば他の国に行ってみるのも良いかもしれないな。

 …………さて、確かこの辺りだと聞いたのだが。

 

「クランの名前は<プロデュース・ビルド>だったかな。皆もそう言う看板とかを探してくれ」

「分かったのです」

『分かったよ』

「…………でも、この辺り大分人気が少なくない?」

「…………人気の多い場所を借りられる様な金が無いらしいからな」

 

 実際、言われた場所を訪れてみると…………こう言ってはあれだが王都の中でも寂れた場所だった。

 …………この世界で自分の店舗を持つのは大変だろうからな、特に此方に居られるのが不定期な<マスター>にとっては。

 そうやってしばらく探し回ってみるが…………。

 

「…………見つからないのです」

「もう少し詳しい場所を聞いておけば良かったか?」

「うーん…………あっ!」

 

 正直見つからない様ならば大学で改めて場所を聞こうかと思い始めた時、ミカが何かを見つけた様だ。

 その視線の先を見てみると、そこには六人の女性が歩いており、そのうち四人は()()()をしていた。

 …………彼女達は…………。

 

「エルザちゃんだ! 久しぶり〜」

「えっ! ミカさん、レントさん。お久しぶりです!」

「ん? エルザの知り合いかな?」

 

 やはりエルザちゃんと、その<エンブリオ>である【ワルキューレ】達だったか。最後に見た時より一人増えているな、おそらく進化したからだろう。

 あと、一人初対面の女性が一緒にいるな。

 

「…………姉様。こちらの人達は一体誰なのです?」

「ああ! ミュウちゃんは初めて会うんだったね。この子はエルザちゃん、私とお兄ちゃんの友達だよ」

「始めまして、エルザ・ウインドベルと申します。彼女達は私の<エンブリオ>の【ワルキューレ】です。…………あとこちらは私の友人のターニャです」

「始めまして! ターニャ・メリアムだよ。…………ふーん、貴方達がエルザがよく話していたレントさんとミカさんなんだね〜。色々話を聞いてるよ〜」

「ちょっと! ターニャ!」

 

 そう言いながら、エルザちゃんの友人だというターニャちゃんは俺とミカの事をニヤニヤしながら見つめていた…………一体どんな話を聞いたのやら、妙に顔を赤くしたエルザちゃんが彼女に縋り付いているし…………。

 …………とりあえず俺達も自己紹介しておくか。

 

「始めまして、ミカです。よろしくね、ターニャちゃん!」

「ミカの兄のレントです」

「ミカ姉様とレント兄様の従妹のミュウなのです。コッチは私の<エンブリオ>のフェイなのです」

『ミュウの<エンブリオ>のフェイだよ、よろしくね』

 

 …………そうやって一通りの自己紹介を済ませたところで、エルザちゃんがこちらに質問してきた。

 

「そう言えば、皆さんはどうしてこんな所にいるんですか?」

「ああ、この辺りにあると言われた<プロデュース・ビルド>という生産クランを探しているんだが……」

「え? ウチのクランに何か用があるんですか?」

 

 そう言ったのはターニャちゃんだった…………どうもエドワードの生産仲間の一人は彼女だったらしい。

 なので、ここに来る前の事情を一通り彼女に話してみると。

 

「成る程ねー。そう言う事なら私がクランのホームまで案内するよ! 私達も丁度向かうところだったしね」

「有り難い、そうしてくれると助かる」

「お礼はウチのクランで買い物でもしてくれればいいよー。…………出来ればそのまま固定客になってくれると嬉しいなー」

 

 そうして俺達はターニャちゃんの案内で<プロデュース・ビルド>のホームに向かう事になった…………固定客になるかどうかは商品の内容次第だが。

 

 

 ◇

 

 

「はーい、ついたよー。ここが私達のクラン<プロデュース・ビルド>のホーム(仮)だよ〜」

「…………随分と分かりにくいところにあるな……」

 

 そのホームはさっき探していた場所から、更に路地裏をいくつか曲がったところにあった…………正直、分かりにくすぎる。

 …………一応、外の看板には<プロデュース・ビルド>の名前が書いてあったが…………外観はかなりボロい。

 

「いや〜、ウチはまだクランメンバー三人の零細クランだからねー。王都の表通りの土地とかは高すぎて買えなくて…………ここも賃貸だし」

「でも、三人共良い人達ですし、作っている物も高性能なんですよ」

「成る程、このデンドロで生産職をやるのも色々大変みたいだな」

「そーなんだよねー。…………おーい! エドワード〜あんたの客を連れてきたわよ〜」

 

 そう言いながらターニャちゃんはホームの中に入って行ったので、俺達も続いて行った。

 外と違って中は割と綺麗に片付けられており、中にあった机にはメガネを掛けた青年とガタイのいい男性が座っていた。

 

「ん? ターニャ、客だと?」

「そうよ〜。…………アンタ客を連れてくるんだったらホームの場所ぐらいしっかりと教えておきなさいよね!」

「ようエドワード。大学で話したと思うがレントだ。こっちは妹のミカとミュウちゃん」

「…………ひょっとして加と……じゃなくてレントか。こちらでは始めましてだな」

「なんじゃエドワードの知り合いか? わしはゲンジ、この二人と同じ<プロデュース・ビルド>のメンバーじゃ」

 

 そうして俺達はお互いに自己紹介をして、それぞれの関係を確認しあった…………しかし、エドワードとエルザちゃんがこちらでは知り合いだったとはね、妙な偶然もあるものだな。

 そうして話し合う内にミカとターニャちゃんがどうも意気投合したらしく、他の女子達と一緒に話し込み始めてしまった。

 流石にあそこに混ざるのは無理だな…………と言うわけで、同じ様に居心地悪そうにしていたエドワードとゲンジさんと話すことにした。

 

「それで一体何をしに来た…………って聞くまでもないか」

「ああ、大学で言った通りどんな物を扱っているのか興味があってな、ちょっと見に来たんだ…………商品を買うかどうかは実物を見てから判断するがな」

「ああ、是非そうしてくれ。…………後悔はさせんよ」

 

 そう言って、エドワードはアイテムボックスからいくつかの装備を取り出した…………ふむ、金属製の武器・防具か。

 鑑定してみると、どれも結構な性能で見たこともない特殊なスキルが有るものもいくつかあった。

 

「俺とゲンジが扱っているのは主に金属製の装備だ。俺は<エンブリオ>のスキルで特殊な性質を持つ金属を作れるし、ゲンジは生産物の能力を改変出来るからティアンには作れない様な物もあるぞ」

「それは凄いが…………そんなにあっさり自分の<エンブリオ>の特性を明かしても良いのか?」

「…………実を言うとクランの経営が結構キツくてな、正直商品を売るのに手段を選んでいられん。…………“<エンブリオ>で作ったオリジナル金属”と言えば聞こえはいいが、要は既存の【レシピ】では使いにくいと言う事でもあるからな」

「コイツやターニャの作った素材は生産に使うにも一手間いるからのう。素材の性質をしっかり理解しておかんと失敗するし。…………以前は<マスター>が作ったという物珍しさもあって素材も売れておったが、その事が広まった今は殆ど売れんしの」

 

 …………俺も【ジェム】を作るから知っているが、生産活動では【レシピ】によって決められた素材・工程・スキルを使って作るのが一般的である。

 そこから外れたアレンジをしたければ本人の技術やセンス、何より高いスキルレベルが必要になり…………それらが足りなければ高確率で失敗するだろう。

 

「そういう訳で、俺達<プロデュース・ビルド>は特殊な性質を持った製品の少数生産やオーダーメイドをメインにしている。…………どうせ規格品や量産品では<マスター>はティアンには勝てないしな」

「この世界にはキチンと流通と言う概念が存在するからな。…………俺達<マスター>は所詮異邦人、今の時点では生産は出来ても工業は無理だからな」

「そう言う事だ。他にも色々あるから、気に入った物があれば是非買って行ってくれ…………本当に頼む」

「クランオーナーも大変じゃのー」

「…………他人事じゃないんだがなぁ」

 

 …………以前月夜さんに会った時も思ったが、クランを運営する立場のクランオーナーって本当に大変なんだな。

 …………とりあえず製品を見ていくか、以前買った【鑑定師のモノクル】を装備してっと。

 

「ふーん…………高レベルの《炎熱耐性》と《電撃耐性》付きの鎧とか、切りつけた相手の位置を探知する《血臭追跡》スキルが付いた剣とか結構面白いのがあるな」

「とりあえず此処に出したのは売り物になりそうな物だけだからな。…………失敗作には酷いものもあるが」

「着けた人間のHPを吸い取って耐久性を回復させる鎧とかの。別に呪われている訳でなくてそういう機能があるだけだったから、どうしようもなかったからの」

 

 そんな話を聞きながら製品を見て行くと…………一つの短剣が目に入った。

 

【シェルメタル・ショートソード】

 特殊な異能で金属化した甲蟲の甲殻を素材にして作られた短剣。

 甲殻の強度を金属化で上昇させているので非常に頑丈で、守りに長けた強力なスキルを有するが装備者にも相応の力量を要求する。

 

 ・装備補正

 攻撃力+400

 防御力+300

 

 ・装備スキル

 《END増加》Lv8

 《HP自動回復》Lv8

 《物理ダメージ軽減》Lv8

 《破損耐性》Lv5

 

 ※装備制限:合計レベル700以上・STR1000以上・AGI2000以上・DEX2000以上

 

 …………これは凄いな、短剣なのに攻撃力補正も防御力補正も超高いし、スキルも防御向きだが強力な物が揃っている。

 

「この短剣は……?」

「ん? …………それか、売り物じゃ無いんだが間違えて出してしまったみたいだな」

「売り物じゃ無いのか?」

「ああ…………この短剣は今の俺とゲンジが、最大でどれだけの性能のアイテムを作り出せるかを試す為に作った試作品だな」

 

 曰く、この短剣は以前手に入れた純竜級モンスター【ドラグワーム】の素材をエドワードが金属化させて、更にゲンジさんの<エンブリオ>の固有スキルで限界まで強化した物らしい。

 

「とにかく性能を上げる為に色々やって、それは上手くいった…………上手く行き過ぎたんだが」

「ワシの<エンブリオ>の固有スキルで性能を上げる為に、装備制限を大量に付けてしまったからのぉ。誰も装備できんのじゃ」

「…………いくら強力でも合計レベル七百以上が条件ではな……要求ステータスも高いし」

 

 成る程、確かに普通なら超級職にでも就かなかれば装備出来ないだろうが…………俺なら問題ないな。

 

「…………この【シェルメタル・ショートソード】を買いたいのだが、売ってくれるか?」

「良いのか? いくら強くても装備できないのでは……」

「問題ない。俺は<エンブリオ>の能力で普通よりレベルが高いからな、装備条件は既に満たしている」

「だが、これは純竜級の素材をいくつか使っているからかなり値段が高いぞ。大体百万リルぐらい……」

「百万リルで良いのか、安いな」

 

 そう言って、俺は机の上に百万リルを置いた。それを見た二人は目を丸くしていた…………これでも色々なクエストを達成しているから、金はそれなりに持っているんだよな。

 それに【高位魔石職人】になったお陰で、上級職【司教(ビショップ)】の魔法の【ジェム】を安定して作成出来るようになったからな。これを魔石職人ギルドが結構いい値段で引き取ってくれるのだ…………【司教】と【魔石職人(ジェム・マイスター)】を両方取っている人は少なくて、高位回復魔法の【ジェム】は中々出回らないみたいだし。

 

「…………確かに百万リルあるな…………分かった、持っていけ。…………しかし、よくもまあこんな大金をポンと出せるな」

「ああ…………今後も色々装備のことで、このギルドには世話になりたいからな。俺なら装備の合計レベル制限はほぼ無視出来るし、出来れば今度オーダーメイドの装備とかも作って欲しい」

「…………分かった! 今後もよろしく頼む!」

「そこまで褒められるとは職人冥利に尽きるの。…………ワシからもよろしく頼む」

 

 …………これが今後長く世話になる生産クラン、<プロデュース・ビルド>と俺の出会いだった。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

兄:今回専属生産職ゲット
・【盗賊】のレベルを上げたのは近接戦闘能力の向上やステータス隠蔽系スキルの習得も理由。
・実は【魔石職人】の仕事でかなりお金を稼いでいる。

【シェルメタル・ショートソード】:兄の新武装
・兄は基本的に近接武器は防御にしか使わないので相性は良い。
・この性能で百万なら安いと思っている。

エドワード:<プロデュース・ビルド>のクランオーナー
・兄とは同じ大学の同期生。
・散財することが多いターニャと、生産以外は大雑把なゲンジに挟まれた苦労人。
・今回の兄の買い物のお陰でクランの財政はなんとか立て直せた。

ゲンジ:<プロデュース・ビルド>のメンバー
・彼の【ヘパイストス】の保有スキル《プロダクト・リビルド》は作った装備に装備制限を追加して、代わりに補正やスキルの性能を上げる事も出来る。
・クラン名については他の二人の話し合いが色々紛糾したので、彼が自分の<エンブリオ>のスキル名をもじってさっさと決めた。

女性陣:今回の件で全員友人になった
・妹達も今後装備のことは<プロデュース・ビルド>の世話になると決めた。
・エルザはターニャ達に兄妹の事をべた褒めして話していた模様。


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