それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
「おおー! ここが闘技場なのですね! 凄く大きいのです!」
『そうだね、ミュウ』
「ちなみに前行った中央闘技場はもっと大きかったよー」
今、私達は<マスター杯>に出るお兄ちゃんの応援の為にギデオンの第三闘技場に来ています。
…………ちなみに応援に来たのは私とミュウちゃんだけでは無くて…………。
「ギデオンの闘技場には初めて入りましたが…………凄い人ですね」
「本当にねー。今までは資金不足でこういう所には来れなかったけど、これもレントさんのお陰だよー…………いっぱいオーダーメイドの装備を頼んでくれたからね」
「ああ。…………レントの要望通りに、それもこのトーナメントに間に合う様に作るのはかなり大変だったがな」
「だが満足いくレベルの物は作れたしの。…………それに儂等の作った装備が、この様な大きな催し物で活躍できるのには心が踊るわい」
そう、エルザちゃんと<プロデュース・ビルド>の皆さんもお兄ちゃんの応援に来てくれたんだよ。
特に<プロデュース・ビルド>の皆さんは、自分達が作った装備が活躍する場面が見たい様でかなり盛り上がっているね。
『それでは選手の入場です!』
おっ、始まるみたいだね。
『まずは東の門から選手の入場です! …………魔術師ギルドからの推薦であり、なんと今回のトーナメント唯一の生産職! 【
そのアナウンスと会場からの歓声、更には入場用の音楽と共に東の門からお兄ちゃんが現れた…………前の決闘王者防衛戦より派手じゃない? これも<マスター>の影響かな?
「兄様〜! 頑張ってなのです〜‼︎」
「頑張ってレントさ〜ん! 出来れば私の作った装備を活躍させてね〜! あと今回の賭けで私のポケットマネーの半分を賭けちゃったからね〜。勝ってくれないと今後の生活が〜(泣)」
ミュウちゃんとターニャちゃんも声援を挙げている…………ターニャちゃんのは少し違う気もするけど。
…………すると頭を抱えたエルザちゃんが質問して来た。
「もう、ターニャったら。…………しかし、レントさんは生産職になったんですか?」
「ん〜お兄ちゃんは【ジェム】の生産もやってるけど、メインは戦闘だよ。…………今回は魔石職人ギルドの宣伝も兼ねているから、メインジョブを【高位魔石職人】にしているみたいだけど」
…………まあ、お兄ちゃんにとってメインジョブなんて大して意味は無いからね。相手の油断を誘う意味も兼ねて生産職って事にしているんでしょう。
「しかし、レントは今回のトーナメントでどこまでやれるんだ? …………色々と準備をしていたのは知っているが」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、エドワードさん。…………今のお兄ちゃんはかなり強いですし」
闘技場でお兄ちゃんの各種調整に付き合ったけど…………このトーナメントに限定すればかなりいい所までいけるんじゃないかな?
…………そんな事を考えていると、再びアナウンスが聞こえて来た。
『続いて西の門から入場です! …………このギデオンでの決闘ランキングを破竹の勢いで駆け上がっている期待の女戦士! 【
アナウンスと共に現れたのは髪をポニーテールにした長身の女性だった。
彼女が現れると共に会場からは先程以上の歓声が巻き起こった…………ギデオンの決闘に出場している以上、この街ではお兄ちゃんよりも有名だよね。
「ムムム、名前的に兄様の相手はいきなり強敵そうなのです。…………ところで【獣戦鬼】とは一体どういうジョブなんでしょうか?」
「うーん、私も知らないなぁ」
「…………確か【獣戦鬼】は獣戦士系統の上級職ですね」
「知っているのか! エルザちゃん‼︎」
私とミュウちゃんが相手の聞きなれない相手のジョブについて話していると、エルザちゃんがそのジョブについて教えてくれた。
「【
「…………モンスターのステータスを自身に足せるんだったら結構強いんじゃ?」
「そうでもないです。…………獣戦士系統の最大の欠点は従属キャパシティが異常に低い事です。なので強力なモンスターをキャパシティに収めたければ、それ以外のジョブを全て従魔師系統で埋める必要があります」
その結果として獣戦士系統は戦闘用のアクティブスキルを覚えられず、中途半端な前衛と従魔師にしかなれないとの事…………
「でも<マスター>なら…………正確には
「はい…………おそらく彼女も
「…………ああ‼︎ 成る程なのです!」
…………これはお兄ちゃん、最初から厄介な相手に当たっちゃったかな?
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
今、俺は対戦相手のアマンダさんと決闘開始前の各種ルール確認を行っていた。
「それで? メインジョブは生産職のままでいいのかい?」
「…………今回は魔石職人として来ているので」
「ふーん…………まあ、相手が何であろうと全力で戦うだけさ」
そう言って、ルール確認を終えた彼女は試合の開始地点へと歩いて行った…………少しは油断してくれると思ったが、そうはいかないか。
…………とりあえず俺も開始地点に戻って行き、お互いに指定の場所に立った。
「…………来な! 【ベヒーモス】‼︎」
『GAAAA‼︎』
その言葉と共に彼女が紋章から呼び出したのは、全長五メートル程の四足歩行の魔獣だった…………やはり
(何せガードナーは
その上で彼女自身も槍を取り出して戦闘態勢を取った…………従属キャパシティが必要無いからサブに戦闘用のジョブを入れる事も出来るよなぁ。
あのガードナーのステータスも純竜級モンスターと同等かそれ以上だろうし。
(差し詰め“ガードナー獣戦士理論”かな。…………<エンブリオ>がガードナーである必要がある事以外はお手軽で強いビルドだし、これは今後凄く流行るだろうなぁ)
そんな事を考えつつ、俺も戦闘の準備をしていった…………と言っても今回は魔石職人として戦うから、武器は装備せずにターニャちゃんに作ってもらった手套を両手に着けて、ミレーヌさんから貰った腕輪型アイテムボックスを右手首に嵌めているぐらいだが。
…………そうしてひと通りの準備を終えると試合開始の時間が近づいてきたようだ。
『それでは<マスター杯>第一回戦…………試合開始ィィ‼︎』
その宣言と共に彼女達はこちらに向かって駆け出そうとし…………。
「《クイックスロー》」
それよりも早く、俺が新しく就いた【
そして放たれた【ジェム】は、即座にその込められた魔法──【
「なっ⁉︎」
『GA!』
いきなり発生した大津波に対し、彼女のガードナーである【ベヒーモス】はその身体を盾にしてマスターを庇った。
…………そうして相手の足が止まった隙に、俺はアイテムボックスから【ジェムー《ストーム・ウォール》】──【
『GUUU!』
「ぐうぅ! 動けない……」
その結果、彼女達は大波と暴風に晒されて、その動きを完全に止めていた…………この二つの魔法は効果範囲や持続時間に優れているが、威力自体は低い足止め用の魔法だ。
…………そして、俺は【ジェムー《ホワイト・フィールド》】──【
「《
スキルによる強化を施した上で、オリジナルスキル──【投手】の高威力投擲スキル《パワースロー》と【魔石職人】の【ジェム】強化系スキルを合成した、投げた【ジェム】の効果を強化するスキル──を使って彼女に向けて投げつけた。
その【ジェム】は風に乗って彼女達の元まで飛んでいき…………着弾した場所を中心とする球状の空間を凍結させた。
『GAAAA!』
「キャァァァ!」
その空間の中にいた彼女達は、あらかじめ濡れていた事もあり瞬時に凍りついていた。
…………だが、ガードナーの方にはダメージを与えられており【凍結】もしているようだが、彼女の方を《看破》してみるとHPが全く減っておらず状態異常にも掛かっていなかった。
「防御スキル……いや、ガードナーがダメージや状態異常を肩代わりしているのか……《フォースヒール》。…………じゃあガードナーを先に潰そうか……《バラージスロー》」
なので減ったHPを魔法で回復させつつ、手套の《自動装弾》機能を使って両手にそれぞれ四つずつの【ジェムー《ロックジャベリン》】と【ジェムー《ライトニングランス》】を取り出し、複数個の物体を一斉に投擲するスキルを使って投げつけた。
…………ターニャちゃんに作って貰った、各種射撃・投擲補助スキルの付いた【射手の手套】はいい感じだな。高い金を払った甲斐があった。
『GAAAAA⁉︎』
「ベフィ⁉︎」
「ふむ……《召喚》──バルンガ」
投げた【ジェム】から岩と雷の槍が開放され、その全てが相手のガードナーに突き刺さった。
…………さて、流石にそろそろ反撃してくると思うから、壁役の【バルーンゴーレム】を出しておくか。
「チィ! 《スパイラル・ジャベリン》‼︎」
「おっと」
これ以上のダメージはマズイと判断したのか、ガードナーの前に出てきた彼女は反撃として手に持った槍を投げ放った。
その槍はスキルの効果で高速回転しており、壁にしたバルンガをあっさり突き破る程の速度と貫通力を持っていたが、反撃を予期していた俺は回避する事ができた…………今の俺のAGIは【ヴァルシオン】をはじめとする各種装備補正も込みで四千はあるので、超音速の攻撃でも来ることが分かっていれば問題無く回避出来る。
…………さて、ダメージを肩代わりするということは、
「《ロング・ファストシュート》」
俺は即座に【ジェムー《ヴァイオレット・ディスチャージ》】──【
…………その【ジェム】は亜音速を超える速度で彼女達の近くの地面に着弾して、
ガガアアアアァァァァァ──────ッン‼︎
「キャアァァァァァァ‼︎」
『GAAAAAAAAAA‼︎』
そこから放たれた大出力の紫電が彼女達を飲み込んだ…………とはいえ<エンブリオ>には《看破》が効かないから、どのくらいHPが減ったのかが分からないしな。
…………とりあえず【
「《バラージ・シュート》」
「えっ⁈ ちょっ⁉︎」
電撃が収まったところを見計らって、それらを彼女に向かって《バラージスロー》をベースとして弾速を上げたオリジナルスキルを使って投げつけた。
ドドドドオオオオォォォォ──────ォォォォン‼︎
「キャアアアァァァ────ッ!」
電撃で痺れて動けなくなっていた彼女にそれを躱す事は出来ず、炸裂した四発の《クリムゾン・スフィア》に飲み込まれそのHPはゼロになった…………よく見たらガードナーは既に消えていたし四個も使う必要は無かったかな?
…………まあ、決闘だし別にいいか。身代わり系や復活系のスキルとかを隠し持っているかも知れないし。
『…………し、試合終了ぉぉ──! 勝者は【高位魔石職人】のレント選手! 各種【ジェム】を駆使しての華麗な戦術で事前の下馬評を覆しての勝利です‼︎』
…………どうやらちゃんと倒せたみたいだな。とりあえず【ジェム】も使いまくったし依頼は達成出来ただろう。
◇
試合終了後、結界の効果で復活したアマンダさんがこちらに話しかけてきた。
「いや〜。負けた負けた。まさかここまで手も足も出ないとわね〜。アンタ強いじゃんか!」
「…………いえ、最初の足止めが上手くいったのが大きかっただけですよ。貴女達が分散していればこうは上手く行かなかったでしょう」
「あ〜、やっぱり最初は散開した方が良かったかな。…………ああべフィ、今回はアタシの指示ミスだからそんなに落ち込むんじゃないよ」
『GUUUU』
何の用かと思ったが、ただ少し話をしに来ただけだったようだ…………普通にいい人だし。
…………正直、今回の俺の戦い方は
「次からの試合も頑張りなよ。…………アンタに賭ければ儲かりそうだし」
「ありがとうございます。…………損はさせませんよ」
…………こうして、俺はどうにか<マスター杯>の第一回戦を突破出来たのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:これが【ジェム】生成貯蔵連打理論だ!(生成はあんまりしていない)
・やっている事は遠くから一方的に貰った【ジェム】を投げつけ相手を倒す、という主人公としてはちょっとどうかと思う戦い方。
・《クリムゾン・スフィア》は上級魔法の中でも
・今回の投擲系オリジナルスキルは【ジェム】投げるために使う事を前提として、威力をほぼゼロにする代わりに射程・弾速を上げている。
・今回のトーナメントではこの試合の様に【ジェム】の投擲を中心として戦うつもりだが、それ以外の手も
【投手】:投手系統下級職
・名前通り、投擲系の各種アクティブ・パッシブスキルを覚える。
・ステータスは主にDEXが上がり、STRやAGIも少し伸びる。
【射手の手套】:兄の新装備その一
・ターニャの作品で手首まで覆う指ぬきの手套。
・防御力は低いが、アイテムボックス内から射撃・投擲用のアイテムを即座に取り出す《自動装弾》を初めとして、《弾速上昇》《射程上昇》《弾道安定》《DEX増加》といった射撃・投擲を補正するスキルを有する。
・兄のオーダーメイドなので、装備制限として合計レベル800以上・DEX2000以上が付いている。
・投擲だけで無く、弓などの射撃武器全般にも補正がつく。
ターニャ:散財癖がある上に賭け事も大好き
・今回は賭けに大勝ちした上、自分の作品が活躍したのですごくハイテンションになっている。
・この儲けを全部次の試合で兄に賭けるつもり。
アマンダ・ヴァイオレンス:兄の第一回戦の対戦相手
・サブジョブには【
・以外と理論派で、多分アルター王国では『ガードナー獣戦士理論』に最初に気が付いた。
・基本的に自身の<エンブリオ>と協力して相手を攻め立て、ベヒーモスのダメージが一定以上になったら一旦下がらせて回復させつつ自身が相手を足止めする、という持久戦を得意としていた。
・今回の戦い以降、広域殲滅や状態異常以外の方法で動きを封じてくる相手に対する戦い方を研究していく事になる。
【再生獣魔 ベヒーモス】
TYPE:ガーディアン
到達形態:Ⅳ
能力特性:再生・肩代わり
スキル:《完全ナ生命》《英傑ノ代糧》
・アマンダ・ヴァイオレンスの<エンブリオ>で、モチーフは旧約聖書に登場する陸の怪物“ベヒーモス”。
・スキル《完全ナ生命》は自身のHPを持続回復させ、状態異常も時間経過で回復させるパッシブスキル。
・もう一つの《英傑ノ代糧》はマスターのダメージと状態異常を肩代わりするパッシブスキル。
・ステータスもHP・STR・ENDのステータスは純竜級以上で、AGIもそれらには劣るが十分に高い。
・だが攻撃用のスキルを覚えていないので、五体による格闘戦しか出来ない。
・性別はメスで性格は以外と温和、愛称はべフィ。
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