それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
どうにか第一回戦を勝ち抜く事が出来た俺は第二回戦に駒を進める事になり、今は出場者の待機場所である東門の前で試合が始まるのを待っていた。
…………ちなみに一回戦が終わった後にミレーヌさんが会いに来て「中々良い戦いだったよ。特に【ジェム】を上手く使って相手を封殺していたところとかね。お陰で魔石職人の宣伝は大分いい感じだからこの調子で頼むよ。…………結果次第では報酬も上乗せするしね」と言われたりした。
「…………アレもあの人なりの激励の言葉だったのかねぇ。…………お?」
そんな事を呟いていると、会場の方からアナウンスが聞こえて来た。
『それでは第二回戦の始まりです! …………まずは東門! 第一回戦ではその華麗な【ジェム】捌きで事前の予想を覆し勝利した【高位魔石職人】レント選手の入場ですっ‼︎』
そのアナウンスと共に門をくぐり舞台に上がると、会場がかなり大きな歓声に包まれた…………【
『続いて西門から! …………第一回戦ではその特異な<エンブリオ>の効果によって対戦相手を封殺し、決闘ランキングでもかなりの順位にいる<マスター>! …………クラン<月世の会>のメンバー【
そんなアナウンスが聞こえると共に、西門から黒髪黒目の男性が現れた…………<月世の会>のメンバーならじゃあ俺の事も知っているかな。
…………そして舞台の中央でルール確認をしていると、対戦相手のタチバナさんが話しかけてきた。
「君がレントくんだね。ウチのオーナーからは
「こちらこそ、良い試合にしましょう」
色々と含む事がありそうな笑顔でそんな感じの事を言われた。月夜さん達に一体どんな話を聞かされたのやら…………多分、俺が生産職ではない事もバレているかな?
(さて、どう戦うか……とりあえず初手で上級魔法の【ジェム】を叩き込んで様子見をするか)
…………そんな事を考えつつ、俺は試合の開始位置についた。
『それでは! 第二回戦、試合開始ィ‼︎』
そのアナウンスと同時に俺は【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を取り出して投げつける…………のと、ほぼ同時に相手も<エンブリオ>のスキルを行使した。
「《クイックスロー》」
「《
そして俺の投げた【ジェム】が効果を発揮するよりも早く、彼が発動したスキルの効果によって結界内は眩い光に包まれた。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
「なんか凄い光なのです、葵ちゃん!」
「…………アレはタチバナさんの<エンブリオ>の必殺スキル……効果は詳しくは話せないけど、見ていれば分かる……」
お兄ちゃんの第二回戦を観戦していた私達は、試合開始直後に使われた対戦相手のスキルの光に目を奪われていた。
…………ちなみに葵ちゃんは同じ<月世の会>メンバーの試合という事で会場に来ていたらしく、いつのまにかミュウちゃんの隣に座っていた…………本当にいつのまにか居たんだよね、私も気づかなかったよ。
さて、葵ちゃんの発言だと相手に必殺スキルらしい光が消えて、そこに見えたものは舞台を円形に囲むようにして配置されて高さ数メートル程の壁だった。
『壁……いや、“コロッセウム”と言っていたし
珍しい戦闘型のキャッスル…………お兄ちゃんの言葉を借りれば円形闘技場の<エンブリオ>みたいだね。
…………それよりも問題なのは相手の足元に転がっている【ジェム】の事だね。
「…………お兄ちゃんの投げた【ジェム】が
「本当だ! ……不良品かな?」
「そんな訳ないだろう……おそらく、これが相手の<エンブリオ>の能力なのだろう」
そんなターニャちゃんの疑問に答えた訳では無いのだろうが、対戦相手のタチバナさんが話し出した。
『今、俺の<エンブリオ>【コロッセウム】の中では、スキル《
「成る程、そのせいで【ジェム】が発動しなかったのか」
「…………でも、なんで話したのです?」
確かにね。相手が混乱している隙に攻撃すれば良いのに。
『ちなみに俺がこの事を話したのは、それがスキルの維持条件だからだ。…………そうしなければ短時間でスキルの効果が消えてしまうからな』
『…………成る程、大体分かった』
そう言ったお兄ちゃんは一本の短剣を取り出した…………アレは以前<プロデュース・ビルド>で買った【シェルメタル・ショートソード】だね。
それに対して相手のタチバナさんも長剣を構えた。
「…………って、ヤバイじゃん! 今のレントさん【ジェム】も魔法も使えないって事でしょ⁉︎」
「それだけじゃないね。…………多分、矢も消費アイテムだから弓も使えないんじゃないかな」
上手くお兄ちゃんをメタって来てるね…………<月世の会>のメンバーならお兄ちゃんの
『レントくん、君の戦い方はオーナーや他のメンバーから聞いている……主に弓と魔法を使って戦う後方支援型の<マスター>だとね。…………だからその二つを封じさせてもらった』
『まあ、メタを張るなら悪くない選択だな。…………この試合では依頼を達成出来そうにないな』
やや残念そうな顔をしたお兄ちゃんはもう一本の短剣を取り出した…………あっちは見た事ないね。
「ほう、儂等が作った【ミスリル・ショートソード】の方も使うか」
「出番があって良かったな。…………このまま【ジェム】を投げるだけになると思っていたし」
「二人共のんびりしすぎでしょ! レントさん大ピンチじゃない! …………一回戦で手に入った賭け金、全部レントさんに突っ込んだのに‼︎」
「…………ターニャ、ちょっと黙っていましょうか?」
大負けのピンチに騒ぎ出したターニャちゃんを、エルザちゃんが物凄い笑顔で黙らせました…………これから、エルザちゃんは怒らせない様にしよう。
…………そんな事を考えていると葵ちゃんが話しかけてきた。
「…………二人は随分と落ち着いているね……?」
「私達はそんなに大金をかけている訳じゃないしねー」
「それに、兄様ならこのぐらいなんて事は無いのです!」
そう言いつつ舞台の方を見ていくと、お兄ちゃんとタチバナさんが斬り結んでいるところだった。
『はあっ! 《スラッシュエッジ》!』
『《ダガーパリィ》……《スリーピング・ファング》』
そこでは相手が放ったアクティブスキルによる斬撃を右手に持った【シェルメタル・ショートソード】で弾き飛ばし、カウンターに左手の【ミスリル・ショートソード】での斬撃を繰り出しているお兄ちゃんの姿があった。
「兄様は普段は私達の援護の為に弓や魔法を中心に戦ってくれていますが…………別に近接戦闘を苦手としている訳じゃ無いのです」
「お兄ちゃんはあらゆる事を人並み
お兄ちゃんはよく私やミュウちゃんの事を“天災児”とか言うけど…………自分だって昔は“神童”とか“天才児”って呼ばれてたんだよねー。
…………そもそも、私は
「<エンブリオ>の能力を含めると、ウチのお兄ちゃんに
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【高位魔石職人】レント
「《パラライズ・ファング》」
「くっ⁉︎」
俺はタチバナさんの斬撃を右手の【シェルメタル・ショートソード】で捌き、左手の【ミスリル・ショートソード】を使ったアクティブスキル──【
…………この【ミスリル・ショートソード】もいい感じだな。【シェルメタル・ショートソード】と違って攻撃重視に調整してあるし、この剣を使った状態異常スキルを強化する《状態異常強化》のスキルも付いているから【
…………今は効果を発揮しなかったが所詮は乱数だから! 俺が【狩人】のジョブを取っていると知っていたらポピュラーな状態異常には対策を取っているはずだし!
「魔法と弓がメインじゃなかったのか⁉︎ 《スクエア・エッジ》!」
「よっ! とっ! とっ! と! …………弓兵や魔術師や魔石職人だって状況次第では剣を使って戦う事もあるだろう……よっ!」
質問と共に放たれた相手の四連続の斬撃を右手の短剣で捌きつつ、反撃に左手の短剣で斬撃を放ちながら適当にどこかで聞いた事のある様な答えを返した…………やっぱり、全体的なステータスは
…………相手のジョブビルドは魔法と物理の両刀型、それはつまり物理的なステータスにおいてはそれに特化した相手と比べれば劣ると言う事…………まあ<エンブリオ>の能力で物理と魔法のうち相手が得意な方を封じて、その逆の相手が苦手な部分で戦う為のビルドなんだろうけど。
「悪いが俺は近接戦闘も出来るぞ……《ポイズン・ファング》!」
「グゥッ! …………クソッ! 【毒】か!」
やや動揺している相手に左手の短剣を使ったアクティブスキル──【盗賊】の毒の追加効果がある短剣用スキル──で斬りつけて、【毒】の状態異常を入れる事に成功した…………でも【毒】は固定ダメージの状態異常だから、このレベルの戦いだと大した効果はないんだよなぁ。
(技術面でも決して弱くはないんだが、ミュウちゃんやフィガロさんやフォルテスラさん達みたいに飛び抜けてはいないな…………精々が直感抜きのミカと同じぐらいか)
…………さて、相手に状態異常が入ったお陰で動揺が広がっているから一気に攻めようか。
「《ラピッド・ファング》!」
「くっ! ……《パワースラッシュ》!」
「《ダガーパリィ》!」
俺が放った左手の短剣による連続斬撃を相手はなんとか回避して、そのまま反撃の斬撃を打ち込んできたが、それを再び右手の短剣で弾き飛ばした…………あとは武器性能の差も大きいかな、今まで溜め込んできた金を殆ど使った甲斐はあった。
…………おっ、剣を弾いた衝撃で相手の体勢が崩れたな。
「《トリニティ・ファング》!」
「グゥッ⁉︎」
なので相手の体勢が崩れた所に、左手の短剣によるオリジナルスキル──【盗賊】で覚えた【毒】【麻痺】【強制睡眠】の状態異常を与える短剣用スキルを融合させたもの──で斬りつけた…………罹っているのは【毒】だけか、やっぱり【麻痺】と【睡眠】には対策を取っているな。
…………あんまり長引かせて相手が冷静さを取り戻すと、近接用のスキルの差でこっちが不利になるかもしれないからな。とりあえず左手の短剣で切り込む…………、
「《ハイド・スロー》」
「ガァッ⁉︎ 目がっ‼︎」
…………初めからずっと左手の【ミスリル・ショートソード】のみを攻撃に使って、攻撃時に右手の【シェルメタル・ショートソード】を相手の意識から外す作戦は上手くいった様だな。
さて、悪いが死角が出来た以上そちら側から攻めさせてもらおうか。
「《瞬間装備》」
「くっ! 死角から……!」
俺は《瞬間装備》でアイテムボックスから短槍を取り出して、相手の死角になった左側に回り込んで攻め立てた。
それを嫌がった相手は一旦距離を取ったが…………投擲が出来る相手に、しかも片目が潰れて遠近感が狂っている状態でそれは悪手だろう。
「《
「グハァッ⁉︎」
なので容赦なく右手に短槍を
…………まだHPが残っているが、このまま放置しておけば【出血】や【内臓欠損】で死ぬだろう。
「ぐっ…………ウオオオォォォ‼︎」
「むっ」
それを相手も分かっているのか、最後の力を振り絞って雄叫びをあげながらこちらに突っ込んできた。
…………このまま逃げ続ければAGI差で捕まる事は無いし、先に相手が倒れるだろうが…………流石にそれは興行的な見栄えに問題がありすぎるしなぁ。
それにそういう根性のある相手は嫌いじゃないしな…………迎え撃とう。
「《スラッシュエッジィィ》‼︎」
「《ミスディレクション》……《ハンティング・エッジ》!」
その大上段から放たれた相手の斬撃を、俺は【盗賊】のアクティブスキル──自身の位置情報を僅かにズラすもの──を使って紙一重で躱し、そのままカウンターの斬撃で相手の首を跳ね飛ばした。
『…………し、試合終了ォォォ──‼︎ 勝者は【高位魔石職人】のレント選手! 【ジェム】を封じられて窮地に陥ったと思われましたが、短剣を用いた近接戦闘でタチバナ選手を下しました‼︎ …………ていうか本当に【魔石職人】なんですよね⁉︎』
「…………今のメインジョブは【高位魔石職人】です」
…………嘘はついていないよ…………嘘はね。
◇
試合が終わった後、俺とタチバナさんは少し話をしていた。
「今回は完敗だったよ。…………やはり情報収集が足りなかったのが敗因だったか」
「いえ、流石に【ジェム】と魔法と弓が使えなかったのはきつかったですよ」
…………実を言うと封印されたのが“パッシブスキル”だったら詰んでいたんだよな。必殺スキル無しだと俺は雑魚になるし。
「しかし、オーナーは大丈夫かな。…………クランホームを買う為の資金稼ぎとして、俺の優勝にかなりの額のリルを賭けていたようだから」
「…………それはご愁傷様です、としか言えませんね」
なんか賭けの半券をばら撒いて喚いている月夜さんと、それを見てニコニコ笑っている月影さんの姿が浮かんだが…………気のせいだろう。
「まあ賭けたのは自分のポケットマネーだし、そこまで問題にはならないだろう。…………オーナーが何かやらかすのは割といつもの事だし」
「…………そうなんですか」
…………思っていたよりも随分と愉快なクランなんだな、<月世の会>って……。
「俺に勝ったんだからこのまま優勝を目指して、次の試合からも頑張ってくれよ。…………オーナーは君の優勝にも賭けていた筈だし」
「…………なるべく頑張ります」
…………とりあえずこれで準決勝進出だな!
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:自称魔石職人(笑)
・全体的に規格外な人間に一歩劣るぐらいの才能しか無いが、逆に言えば全ての分野で
・それ故に事故に会うまでの小・中学校時代は結構イキっていたので、今では黒歴史。
【ミスリル・ショートソード】:兄の新武装その二
・攻撃用の短剣で装備攻撃力が高く、スキルには《状態異常強化》《STR増加》《破損耐性》が付いている。
・装備制限は合計レベル700以上・STR1000以上。
・総合性能は【シェルメタル・ショートソード】には劣るが十分な性能。
タチバナ・カケル:兄の二回戦の対戦相手
・<月世の会>のメンバー。
・デンドロのPVで決闘のシーンを見て、それに憧れてデンドロを始めた。
・基本的な戦い方は物理か魔法のうちどちらか相手の得意な方を封じて、自分はその逆を使って戦う事。
・そのため、物理か魔法のどちらかに特化したタイプや特定のスキルに依存するタイプには滅法強い。
・今回のトーナメントでは他のクランメンバーが主に情報収集面で支援に回っており、それにより相手の得意分野を封じる事によって有利に戦うつもりだった。
・一回戦はそれで勝てたが、情報収集が不足していた事と兄が自分より上位の万能型だった事で敗北した。
・敗戦後、自身のジョブビルドを見直す事にした。
【禁等円場 コロッセウム】
TYPE:ラビリンス
到達形態:Ⅳ
能力特性:封印・決闘
保有スキル:《高速展開》《禁則決闘》
必殺スキル:《
・タチバナ・カケルの<エンブリオ>、モチーフは古代ローマの円形闘技場の名称“コロッセウム”。
・闘技場の上は開いているように見えるが、大体高さ二十メートルぐらい円柱状に空間が遮断されている(地面も遮断されているので地下に潜る事も出来ない)
・アクティブスキル《禁則決闘》による禁止条件は自身に出来る事しか設定出来ない(例:魔法スキルを覚えていない場合には“魔法スキル禁止”には出来ない)
・第四形態時で設定出来る条件は最大二つで、更に相手が内部に入ってから三十秒以内に封印内容を説明しなければ効果は切れる。
・また条件を再設定するには一旦<エンブリオ>を紋章に格納する必要があり、格納してからの再展開にもクールタイムがある。
・条件が複数あり対象範囲が狭く、かつ自身を巻き込む無差別系のスキルである為に封印の強度は非常に高く、超級職のスキルすらも問題無く封印可能。
・ただし“<エンブリオ>のスキル禁止”など《禁則決闘》の発動に影響が出る設定は不可能(“魔法スキル禁止”などで<エンブリオ>の魔法スキルを封印する事などは可能)
・必殺スキルは《高速展開》の上位スキルであり、自身の認識出来る対象一人を指定し、その人物と自身のみを内部に入れた上で<エンブリオ>を超高速展開する(展開範囲に他の者がいた場合は強制的に弾き飛ばされる)
・更に一度展開すると外界から完全に遮断され、自身か対象のどちらか死ぬまで解除・脱出は不可能になる(通常状態と比べて<エンブリオ>の強度や空間遮断効果も大幅に上昇する)
・必殺スキル使用中は外部から新しく人を入れる事も出来ない(通常状態ならマスターの任意で入れる事は出来る)
・必殺スキルのクールタイムは二十四時間。
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