それでは本編をどうぞ。
6/9 原作で【翆風術師】の奥義魔法の名称が出たので、本編中の名前をそちらに差し替えました。
□決闘都市ギデオン・中央大闘技場 【
「…………成る程、勝ったのはフィガロさんか」
準決勝第二試合、フィガロさんとフォルテスラさんという見知った二人の戦いで、勝ったのはフィガロさんだった…………とは言え紙一重の差であり、どちらが勝ってもおかしくない実に見応えのある試合だった。
…………正直、俺の戦いは遠距離から【ジェム】を連打するか、作戦で嵌め殺しにするかだからあんまり見応えがなぁ……。
「それはともかくとして、決勝の相手はフィガロさんになったわけだ。…………以前のミカとの戦いで、彼の<エンブリオ>の能力はおおよそ見当がついているが……」
あの戦いでフィガロさんはミカの直感を上回る為に
…………これらの事から彼の<エンブリオ>は“戦闘時間比例の装備品強化”と“装備数に反比例した装備品の強化”と推測される。
(単純なステータス強化なら装備品を外す必要はないし、<エンブリオ>の能力は大体テーマが決まっているからな。…………問題はフィガロさん自身の戦闘センスの方なんだが……)
彼の戦闘センスは間違いなく規格外の領域にある。それと<エンブリオ>とジョブのシナジーによる高い汎用性もあって、間違いなくこれまで戦ってきた相手の中では最強だろう。
(規格外の才能の持ち主というのは、コッチの予想をあっさり超えてくるからなぁ…………事前に立てた作戦は全部上手くいかないぐらいを想定するべきだな)
とりあえず短剣二本は腰に挿しておいて、<プロデュース・ビルド>の皆さんに作ってもらった【鋼老樹の複合弓】も装備しておこう。もう魔石職人の宣伝の依頼は十分こなしたし、決勝戦ぐらいは今の全力で行こうか。
…………基本的な方針は超短期決戦で、勝ち負けはともかく
「あとは出たとこ勝負かな。……そろそろ時間か」
『これより! <マスター杯>決勝戦を開始いたします‼︎』
…………会場の方から聞こえてきたアナウンスに答えて、俺は決勝戦の舞台に上がっていった。
◇
そして今、俺は舞台の中央でフィガロさんとルールの確認をしていた。
「久しぶりだねレントくん。……キミとは以前戦えなかったからね、楽しみだよ」
「……魔石職人の宣伝は終わったので、決勝戦は今の全力で相手をしますよ」
「…………へぇ、それは本当に楽しみだね」
そう言ったフィガロさんはとても
…………それだけの言葉を交わして、俺たちはルールの確認を終えて試合開始地点に着いた。
『…………それでは! <マスター杯>決勝戦……試合開始ィ‼︎』
その宣言と同時にフィガロさんは弓を取り出して、こちらに矢を射かけた。それに対し俺は【ジェムー《ストーム・ウォール》】を三つ取り出し、それをその場で起動して暴風の壁を作り上げた。
…………更に俺も即座に弓を構えて、矢──当たった相手に麻痺効果をもたらす【麻痺蠍の矢】──を番えた。
「疾ッ! ……ッ⁉︎」
「《スプリット・アロー》!」
彼の放った矢は暴風の壁に遮られてこちらには届かず、俺の放った矢は追い風を受けつつ分裂して襲いかかった。
…………本来《ストーム・ウォール》は、こうやって自分に有利な条件を作る為の魔法だからな。
「《パラライズアロー》《スリーピングアロー》《ポイズンアロー》!」
更に俺は状態異常効果のある矢とスキルを駆使して、彼に次々と矢を射かけていく。
…………状態異常を警戒して一つでも装備枠を潰してくれれば御の字なんだが……。
「チィッ! ……セェイ‼︎」
だが、彼は襲いかかる矢に対して武器を斧に変更して、それから放たれた暴風で全ての矢を弾き飛ばした。
(あの斧は準決勝でも見た物だな。鑑定したら【旋嵐斧 フルゴール】という特典武具だったが…………まさか!)
その本来の用途を思い出した俺は、即座に【ジェムー《エメラルド・バースト》】──【
…………それとほぼ同時に彼はいくつかの装備を外した上で、その斧を大きく振りかぶった。
「《
「シャァッ‼︎」
彼はそのまま【フルゴール】を全力で投擲し、それとほぼ同時に俺も
…………そして嵐を纏った斧と【ジェム】から解放された豪風がぶつかって、舞台全体に暴風が吹き荒れた。
(これでは弓は射りづらいし、暴風の壁も全て吹き散らされたな。まさか接近する為だけに
そのフィガロさんは弾き飛ばされた特典武具に一瞥もくれず、暴風が吹き荒れる中を高速で移動してこちらに向かってきた……多分、風除けのアクセサリーとかを使っているな。
…………だが、確かに弓は使い難くなったが使えなくなった訳ではないな。
「《トリニティ・アロー》!」
「! チッ‼︎」
俺は《自動装填》スキルで【風除けの矢】を取り出して、三重状態異常のオリジナルスキルでもって射ち放った。
…………《ストーム・ウォール》を使う以上、当然そういう矢も買い揃えてある。それに加えて手套と弓とジョブスキルにある《弾道安定》系のスキルを持ってすれば、風によるブレは最小限に抑えられる。
あとは
「《ラピッドアロー》《ハンティングアロー》!」
「疾ッ‼︎」
そうやって俺が各種スキルを使って次々と射かける矢を彼はある時は手に持った双剣で撃ち払い、またある時は体捌きで躱していく……こうもあっさり対応されると自信を無くすなぁ。
だが、風も弱まってきたし……何より彼の足を止めることは出来たので、俺は四つの【ジェムー《ライトニング・ジャベリン》】を取り出して投げ放った。更にそれに隠すように
「《バラージスロー》! ……《クイックスロー》」
「疾ィッ‼︎」
投げられた四つの【ジェム】に対してフィガロさんは武器を鎖に切り替えて伸長させて、それらが発動する前に全て打ち払った。その結果放たれた雷の槍はあらぬ方向へと飛んで行った。
そして、それに隠していた最後の一つにも気づいて同じ様に打ち払おうとして……その【ジェム】ではない
「ッ⁉︎」
「《バラージ・シュート》》!」
事前に目を閉じていた俺と違い、彼は直にその光を見てしまったので一瞬その動きが止まってしまった。
…………その隙に俺は弓を手放して、【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を八つ取り出して投げつけた。
ドガガガアアアアアァァァ────ァァン‼︎
解放された【ジェム】から放たれた爆炎がフィガロさんがいた場所一帯を焼き払った……それを見た俺は即座に《透視》スキルを使いつつ、【ジェムー《マッドプール》】と【ジェムー《マッドクラップ》】、更に【ジェムー《グランドホールダー》】を取り出した。
…………《透視》スキルを使った俺の目には、予想通り以前見た黒い球体に包まれた彼の姿が見えた。
(やっぱりそのスキルで防いで来たか……それをどうやって使わせるかが問題だったんだよな)
そんな事を考えつつ、爆炎が収まり次第取り出した【ジェム】を片っ端から投げ込んで彼の周りを泥で沈め、更に土で出来た腕で黒い球体を掴もうとした……あらゆる攻撃を遮断する結界ならば
…………《マッドクラップ》もその上位魔法である《マッドプール》も、足を踏み込んだ相手を拘束する効果があるから動きを多少は封じられる筈だ。あとは相手がどう対応するかだが……。
「シッ!」
「そう来るか……《ロング・ファストシュート》!」
迫る《グランドホールダー》に対してフィガロさんは即座にスキルを解除して、その
なので、俺は手放した弓を拾いつつ【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を空中にいる彼に向けて投げつけた。
「《断命絶界陣》!」
「! チッ‼︎」
それに対してフィガロさんは特典武具のスキルと思われるもので空中に剣の様な物を作って、それを足場にして泥の外に移動しつつ、
それにより俺と彼の間で《ホワイト・フィールド》が起動したので、俺は急いで距離を取りつつ弓を構えた……が、凍結して白く染まった空間から伸びてきた
「ッ⁉︎ 《高速召喚》ーバルンガ‼︎」
慌てて持っていた弓を鎖が伸びてきた方向に投げ飛ばし、即時召喚のスキルでバルンガを呼び出して壁にした。
……その直後、凍結した空間を突き破って
(装備数反比例強化で魔法や凍結の耐性を上げて突っ切って来たのか! …………でも、こんな大会でパンツ一丁になるとかバカじゃないのこの人⁉︎)
そんな事を考えつつも俺は【ジェムー《ヴァイオレット・ディスチャージ》】を取り出すが、彼は向かっていったバルンガを躱してこちらに突っ込んできた。
更に、こちらに鎖を放って牽制し、距離を取らせないようにしてきた。
(……この距離じゃ広域攻撃の【ジェム】を使ったら自分も巻き込んでしまうな……じゃあ、
俺は飛んできた鎖を開いた手で掴み取り、そのまま全力で引っ張って彼をこちら側に引き寄せ…………それと同時に逆の手に持っていた【ジェム】を地面に叩きつけて大電撃を発生させた。
ガガアアアアアァァァ────ァァン‼︎
発生した大電撃は俺ごとフィガロさんを飲み込んだ。
……とはいえ、このままでは数秒後に死ぬが……。
「《クイック・リヴァイヴ》‼︎」
すぐに俺は回復型のオリジナルスキル──《ラスト・スタンド》と回復魔法スキルを組み合わせた、HPが1の時だけ使える即時高速回復魔法スキル──で、HPを三割ほど回復させた……対策装備を着けていたとはいえ、【麻痺】しなかったのは運が良かったな。
当然、魔法耐性装備を着けていたフィガロさんも生きているが、大電撃の衝撃でその動きは止まっていた……装備が少ないという事はステータスは下がっている筈だから、今ならこちらの行動の方が早い。
「《瞬間装備》《ハンティング・シュート》!」
「⁉︎ クゥッ‼︎」
俺はすぐに投槍を取り出して投げつけたが、彼はギリギリで身体を反らしたのでその肩を抉るだけに終わった。
そして、すぐに彼は《瞬間装着》で装備を身に纏いこちらに迫って来た……ここまで距離を詰められると【ジェム】は使う暇がないので、俺は短剣二本を抜いて迎え撃った。
「■■■■■■‼︎」
「⁉︎」
フィガロさんがこちらに迫る瞬間、その表情が狂相に染まりステータスが大幅に上昇した……【狂戦士】系の《フィジカルバーサーク》か! 確かステータスの大幅な上昇と引き換えにアクティブスキルの使用と肉体の制御を失うスキルだったな。
だが、その剣閃は狂戦士のものでは無く一流の剣士のそれだった……おそらく、なんらかのスキルで制御不能のデメリットは消しているか。
「■■■■■■■!」
「《ダガーパリィ》! 《ハンティングエッジ》!」
狂化されたステータスから放たれる斬撃を、俺はアクティブスキルを使ってどうにか凌いで行く。
…………だが、接近戦の技量は向こうがやや上の様で、更にステータスまで上回られているので徐々に押されていった。
「■■■‼︎」
「グゥッ⁉︎」
そして、ついに彼の斬撃を凌ぎきれずに左腕を切り飛ばされてしまった。
……両手で辛うじて凌げていた相手を片手でどうにかできる筈もなく、そのまま俺は彼に切り捨てられる……。
『…………』
「■⁉︎」
寸前にその動きが止まった……彼の
……どうにか、まだ召喚したままだったバルンガの近くまで誘導できたみたいだ……勝機はココしかない!
「《ピアースファング》‼︎」
動きを止められたフィガロさんに向けて、俺は彼の心臓に向けて残った右腕の短剣で突きを放った。
その突きは彼が装備していた軽鎧を貫いてその肉を穿ち……
(ッ⁉︎ ……まさかこの人の<エンブリオ>は
「■‼︎」
その驚愕で一瞬止まってしまった隙をフィガロさんが見逃すはずも無く、止まった短剣を蹴り上げで跳ね飛ばされたので、俺は慌てて距離をとって【ジェム】を取り出そうとした。
……だが、彼は蹴り上げた勢いのまま
「ッ⁉︎」
「■■■‼︎」
短剣を跳ね飛ばされ体勢を崩していた俺はそれを避ける事は出来ず、すれ違い様に首を跳ね飛ばされていた。
…………流石に首を跳ね飛ばされたら《ラスト・スタンド》も意味が無いな……俺の負けか。
『……試合終了ォォォォ‼︎ 短いながらも壮絶な死闘を制したのは【
…………こうして俺の<マスター杯>の最終戦績は準優勝という事になったのだった。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・中央大闘技場 【
『お疲れ様、いい試合だったよ』
『こちらこそ、ありがとうございました』
決勝戦が終わってお兄ちゃんとフィガロさんは握手を交わしつつ、互いの健闘を労っていた…………うん、実に良い大会だったね。
「アバ〜〜〜〜‼︎ 負けた〜〜⁉︎ あの露出プリンス〜〜‼︎」
「ギャア〜〜〜〜⁉︎ 全額擦った〜〜‼︎」
…………賭けに負けて喚いている月夜さんとターニャちゃんは放置の方向で。
「…………うちのターニャが煩くてすまんな……」
「…………こちらこそ、うちのオーナーが申し訳ない……」
…………エドワードさんと葵ちゃんを始めとした周りの関係者も呆れているね……。
…………月影さんは相変わらずニコニコしてるけど……。
「結局、兄様は準優勝だったのです」
「まあ、決闘専門じゃない割には健闘したんじゃない? …………目的の方は達成出来たみたいだし」
あれだけ派手に【ジェム】を使って勝ち進めば、魔石職人の宣伝という目的は達成出来たでしょう。
…………とはいえ……。
「…………シュウさん、<エンブリオ>の特性上仕方ないとはいえ、フィガロさんが大会とかで脱衣するのは色々と問題があるんじゃ……」
『…………フィガ公は基本的に脳筋の天然だからな。…………後で性能が高くて汎用性のある下半身装備を身につけておけ、と念入りに言っておくワン』
…………まあ、フィガロさんの脱衣癖は友人であるシュウさんがなんとかしてくれるでしょう。
とりあえず<マスター杯>もこれで終わりだね…………そうだ、この後お兄ちゃんに以前から考えていたことについて相談してみようか。
◆◇◆
□■中央大闘技場 【大賢者】
中央大闘技場のVIP席の一つ、そこにはアルター王国国王を始めとして、その護衛の近衛騎士団団長などの王国の主要人物達が<マスター杯>を観戦していた。
そこでは決勝戦が終わった後、出場した<マスター>達の健闘を讃える話や今後の王国と<マスター>の関係についての話をしており、彼……【大賢者】もそれらの話に加わっていたが…………内心では別の事を考えていた。
(
元々、この大会を提案した理由は、王国のご意見番として意見を求められた時についでに
更に王国における戦闘能力上位の
(あのインフィニットクラスの“化身”供には遠く及ばず、スペリオルクラスにも至っていないのが今の
その事も含めて
(もし、今いる
実際、
おそらく“化身”供は
(…………うまくいけばスペリオルクラスの
…………この世界の打ち手の一人である【大賢者】は今後の行動を決めた後に王国関係者との会話に戻っていった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:<マスター杯>準優勝
・最後の【ジェム】は《エクスプロージョン》で《ラスト・スタンド》頼りの相打ちに持ち込むつもりだった。
・準優勝したのでかなりの額の賞金をもらい、ミレーヌさんクエスト達成報酬として大会で使った【ジェム】を全て貰った。
・今回の大会でそれなりに有名になったので、二つ名の候補がいくつか出来た(“自称魔石職人”、“魔石投擲職人”、“万能者”、“生産職(笑)”など)
【鋼老樹の複合弓】:兄の新装備その三
・純竜級モンスター【エルダートレント】の樹木をエドワードが金属化し、ゲンジが弓に加工し、ターニャが弦を作った<プロデュース・ビルド>の合作品。
・非常に高い攻撃力に加えて、高レベルの《射程延長》《矢速上昇》《弾道安定》《貫通射撃》《破損耐性》のスキルを持つ。
・兄に合わせ装備条件として合計レベル800以上、STR1000以上、DEX2000以上が課せられている。
・新装備の中では一番値段が高く、兄の所持金の三割くらいを費やした。
【風除けの矢】:兄が持っている矢の一つ
・その名の通り弾道が風の影響を受けにくい矢。
・風魔法による防御なども突破出来るので、風魔法【ジェム】との併用前提で兄は買い揃えていた。
フィガロ:<マスター杯>優勝
・今回の試合で兄への好感度は上昇した、曰く「なりふり構わずこちらを殺しにくるところが良いね。また戦いたい」との事。
・下半身装備を外した事については「下半身装備よりもブーツの方がAGI補正が高かったから」と供述している。
・大会終了後、シュウとフォルテスラから『高性能で汎用性の高く常用出来る下半身装備を着けろ』と厳命された。
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