それでは本編をどうぞ。
大会の後・準備と出発
□決闘都市ギデオン 【
あの<マスター杯>が終わった後、私はお兄ちゃんとミュウちゃんにとある話を持ちかけていた。
「“このアルター王国を見て回りたい”?」
「そうだよ、お兄ちゃん。…………ほら、せっかくアルター王国にいるのに、私達が活動しているのって王都とギデオンだけじゃない? だからこの国の他の街とかも見て回りたいんだよ」
これは以前から考えていたことで、ミュウちゃんの事とかがあったから保留していたんだよね。
もうミュウちゃんのレベルも上がってデンドロにも慣れてきたし、そろそろ本格的に色々な所を見て回ってもいい頃だと思うんだよ。
「いいと思うのです、姉様! 私も色んなところを見てみたいのです‼︎」
『ミュウがそうしたいなら僕も構わないよ。それに今の僕達なら二人の足を引っ張る事は無いだろうし』
ミュウちゃんとフェイは賛成してくれたみたいだね…………確かに、今の二人なら亜竜級モンスターでも余裕を持って相手に出来るだろうしね。
「俺も別に構わないが…………どういうルートにするつもりなんだ? …………まさか、また俺頼みとかは言わないよな」
「今回はちゃんと考えてきたよー。…………とりあえずこのギデオンから西に出て、そこから時計周りにこの国を一周する感じのルートで行こうと思うんだけど……」
このアルター王国は大体中心ぐらいに王都があって、それを囲む様に様々な街があるからそんな感じで行けば色々に所を見て回れると思ったんだよね。
「…………まあいいんじゃないか? それで。細かいルートは後々決めていけば良いし…………俺達なら多少無茶なルートでも問題は無いだろうしな」
「その辺りは不死身の<マスター>の特権だよねー」
モンスターが跋扈するこの世界では旅行するのも割と命懸けだけど、高い戦闘能力を持っていて、尚且つ不死身の<マスター>なら気楽に行けるしね。
…………そんな話をしていると、ミュウちゃんが疑問の声を発した。
「…………ところで、この世界を見て回るのはとても楽しみなのですが、ここでの旅行にはどういう準備が必要なのでしょうか?」
「ふむ…………主に食料や移動手段、後はキャンプ用具とかがあればいいだろう。この世界にはアイテムボックスがあるから、その手の準備は現実よりも簡単かな。…………俺達は<マスター>だからログアウトも出来るし」
「まあ、一番必要なのは戦闘能力なんだけどねー」
「成る程、分かったのです」
移動手段に関しては以前手に入れた【ホースゴーレム】のブロンと小型の馬車があるから問題無いかな。後はキャンプ用具と食料を買い込んで…………ああ、長期の旅行なら時間経過遅延機能のついたアイテムボックスも必要だね。
「改めて考えてみると意外とお金が掛かるかも? 特にアイテムボックスが」
「…………あれ高いからなぁ。…………まあ、長期の旅行ならそれなりの資金は必要だから、今ギデオンで流行りの【ジェム】を作成する【
「流行らせたのはお兄ちゃんだけどねー」
お兄ちゃんが<マスター杯>で【ジェム】を派手に使って好成績を収めた所為で、今ギデオンでは決闘をやっている<マスター>を中心とした人達の間で高位魔法【ジェム】がバカ売れしているのである。
その為、ここの魔石職人ギルドでは高位魔法【ジェム】が枯渇してしまっており、それの作成クエストには困らなくなっている様だ。
「何せ【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を作るだけでぼろ儲けだからな。今のギデオンで資金を稼ぐのには苦労しない」
「<マスター>なら数十万リル稼ぐ人も結構いるしね。…………じゃあ資金稼ぎはお兄ちゃんに任せるよ」
「分かった。…………今の【ジェム】ブームは一過性のものだから遠からず廃れるだろうし、今のうちに稼げるだけ稼いでおこうと思っていたしな」
「それじゃあ姉様、私達は食料品を買えばいいのです?」
「そうだね。それと時間経過遅延機能付きアイテムボックスもね」
そういう訳で長期間の旅行に向けての準備をする為にお兄ちゃんは資金稼ぎ、私とミュウちゃんは食料品などを入れるための時間経過遅延機能付きアイテムボックスを買いに行く事になったのだった。
◇
それで私とミュウちゃんは時間経過遅延機能付きのアイテムボックスを買う為に、以前にも来た事がある<アレハンドロ商会>に来ています。
「こうして見ると王都のお店とは結構品揃えが違うのです」
「このギデオンはレジェンダリアに近いからね、そこから輸入したマジックアイテムとかが豊富みたいだよ」
『本当だね、王都では見た事の無いアイテムが結構あるよ』
このお店の品揃えを見てミュウちゃんとフェイちゃんは感心している様だ…………私も以前初めてギデオンに来た時は似た様なものだったねー。
「じゃあ買い物が終わったらギデオンの観光でもしようか」
「良いですね! 楽しみなのです‼︎」
そんな話をしつつ、私達はアイテムボックスが売っている場所までやってきた。
「…………結構いっぱい種類があるのです。しかもどれも高いのです……」
「まあ、アイテムボックスって高いものは数千万リルぐらいするからねー。…………とりあえず基本的に食料とかは現地調達する予定なので、容量は一番少ないやつにしようか」
『…………それでも百万リルぐらいするみたいだけどね」
フェイちゃんの言う通り、時間経過遅延機能付きのアイテムボックスは一番容量の少なくて(初期に貰ったやつの十分の一ぐらい)、その機能に特化したポーチ型のやつでも百二十万リルぐらいだった…………今の私達なら問題無く払える金額だけど。
…………まあ、別に未開の地に行くとかではないんだし、携帯食料を入れるぐらいしか使う予定は無いからこれでいいでしょう。
「さて、アイテムボックスはこれで良いとして、二人は他に何か欲しい物はあるかな?」
「そうですね…………アクセサリーとかを見てみたいのです。ここなら王都には無い魔法のアクセサリーとかがありそうなのですし、フェイが装備できるアクセサリーとかもあるかもしれないのです」
『僕にかい? …………まあ、魔法発動を補助するアクセサリーとかは欲しいけど……<エンブリオ>が装備できるアクセサリーってあるのかな?』
「んー…………ガードナーは基本的にテイムモンスターと同じ扱いだから、専用のやつなら大丈夫じゃないかな? ほとんどのアクセサリーには装備制限が無かった筈だし」
「とりあえず行ってみるのです!」
◇
そういう訳で私達はアクセサリー売り場にやってきた。決闘都市にあるお店だけあって戦闘に使えるアクセサリーが豊富にあるね。
…………さてさて、お目当ての物はあるかなっと……。
「ふむふむ…………あっ! この【魔導獣の輪】なんてどうかな? 非人間範疇生物専用装備でMPに対して補正が付いて、更に《魔法効果上昇》や《MP自動回復》のスキルも付いているよ」
「おお! 良い感じなのです! それに一番小さいやつならフェイでも装備出来そうなのです」
『確かに良さそうだね。特にMPが上がるのは有り難いよ、何せいくらあっても足りないからね』
そんな感じで一通りの買い物を終わらせた私達は、この店のとあるところに来ていた…………そう『ガチャ』が置いてあるところである。
「…………このデンドロにガチャなんてあったのです?」
「実はあるんだよねー。…………正確に言うと入れたリルに応じた価値のアイテムをランダムで召喚する物みたいだけどね。この店では買い物をした客だけが使える事になってるんだよ」
このデンドロでのガチャはこれで二回目…………今回は私の“遠い勘”も働いていないから、純粋に楽しめるね!
『ふーん……客寄せの施設として使っているんだね』
「成る程なのです。…………ところで姉様はいくらで回すつもりなのです?」
「当然最大の十万リルだよ! お金にはまだ余裕があるしね」
そんな話をしているうちに私達の順番が回って来たので、ガチャに十万リルを突っ込んで回そうか。
「…………『B』か。当たりだね」
「えーと、この場合は百万リルの価値があるアイテムが中に入っている、ということなのです?」
「そうだね。…………正確には百万リル
とりあえず出てきたカプセルを開けると…………ええぇ……。
「…………【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】って……。確かに数十万リルの価値がある物だから『B』だろうけどさぁ。…………お兄ちゃんなら数万リルで作れるよねこれ……」
「えーっと…………ドンマイなのです」
まさかこんなタイムリーなアイテムが当たるとは。十万リル支払って数十万リルの物が当たったんだから、十分得してる筈なんだけど…………なんか凄い損した気分……。
「さて! 次は私の番なのです、とりあえず十万リル入れてみるのです」
「…………別に最大額入れなくても良いんだけど……」
私はそう言ったんだけど、ミュウちゃんはさっさと十万リルをガチャに入れて回してしまった。
…………そして、出てきたカプセルに書かれていたのは『C』の文字だった。
「『C』は入れた額と当価値……この場合は十万リルのアイテムが入っているのですね。とりあえず開けてみるのです…………これは【騎馬民族のお守り】というアクセサリーのようなのです」
詳しく効果を見てみると、どうやら《騎乗》スキルのレベルを+1するアクセサリーだった。
「私は乗り物に乗ったりはしないので使い事は無さそうなのです」
「じゃあ、それはお兄ちゃん渡せばいいんじゃない? 基本的に馬車を動かすのはお兄ちゃんだし」
「それではこれは兄様へのお土産という事にするのです」
使い道がある物が出たという意味では、ミュウちゃんのガチャ結果は当たりかな…………出た物の価値は上の筈なのになんか負けた気がする……。
「さて! 買い物も終わったし、この街の観光にでも行こうか!」
「はいなのです‼︎」
こうして私達はギデオンの観光に繰り出したのだった。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン西門前 【
ミカがアルター王国一周旅行に行きたいと言ってから、デンドロ内で大体一週間ぐらい経った。
その間に一通りの準備を整えた俺達は、まずギデオンの南西にある<ニッサ辺境伯領>という場所に向かう事になった。
ちなみに俺は馬車を運転しやすくする為にメインジョブを【騎兵】に変えている。
「とりあえず当面の資金もある程度用意出来たし、準備はこれで良いだろう」
「ある程度って…………お兄ちゃん、この一週間で軽く五百万リルぐらい稼いでいなかったっけ?」
「まあ、この一週間【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】ばかり作っていたからな」
一個数十万リルの【ジェム】を二十個くらい作って売れば、そのぐらいは稼げるからな…………やはり、この世界だと生産系のジョブの方が金を稼げるな。
それに魔石職人ギルドのジョブクエストを多数達成したお陰で【
「…………それに<マスター杯>で準優勝したお陰でかなり悪目立ちしてしまったからな、なるべくさっさとギデオンを離れたいし」
「確かにクランへの勧誘とかは結構あったねー。フォルテスラさんの<バビロニア戦闘団>にも勧誘されたりしたし」
「そのぐらいなら別に良いのですが…………たまにしつこい人もいるのです」
デンドロが始まってそれなりに時間が経ったからか、<マスター>が中心となったクランがいくつも作られる様になっており、まだクランに入っていない有名な<マスター>の勧誘も頻繁に起こる様になっていた。
…………基本的に俺達はクランには入る気は無いので丁重にお断りしており、フォルテスラさんなどの
「まあ、ネトゲである以上はそういう連中も一定数いるのはしょうがないんだが…………言い掛かりを付けてまで絡んで来るのはやめてほしいんだがな」
「そーだよねー。…………ああでも、お兄ちゃんに対して『両手に花のハーレム野郎』とか言ってきた人がいた時には笑えたねー」
「このデンドロはゲームなのでアバターを弄っていれば実年齢が分からないし、見た目で兄妹だとかが分かりにくいのです」
『まあ、事情を知らなければ“両手に花”に見えるよね』
コッチは笑い事じゃ無かったんだが…………大体なぜ小学生の実妹二人と一緒にいて、そんな事を言われなければならないんだ。
…………まあ、言い掛かりを付けて来る連中ぐらいなら適当にあしらうんだが……。
「実力行使に出て来るバカがいたのは、悪い意味で予想外だったな…………それも街中で」
「本当にねー。…………しかもミュウちゃんに手を出そうとするとは…………やっぱり潰しておくべきだったかな」
「姉様、流石に街中の目立つ所でスプラッタはやめて下さいなのです。…………それに、その方々は
『あっという間に全員【気絶】してたね』
そう、適当にあしらっていたら何を勘違いしたのか、勧誘して来た連中の一グループが実力行使に出ようとしたのである…………しかもミュウちゃんに。
流石にそんな連中に容赦をしてやる義理は無く、ミカと二人で皆殺しにしようと思ったのだが…………その前にミュウちゃんによって全員投げ飛ばされて、更に《当身》をくらって【気絶】してしまったので未遂に終わっている。
「二人共、私を気遣ってくれるのは嬉しいのですが、やりすぎは良く無いのです…………特に街中では。例え罪に問われなくても周りの人達に迷惑がかかるのです」
「はーい。…………でもミュウちゃんがやってるのは空手だったよね、あの投げ技はスキル?」
「一応【
「…………確かミュウちゃんは一度見た体術ならほぼ完全に模倣出来るんだったな」
「はいなのです。…………と言っても所詮は側だけ真似しただけのものなので、ちゃんと修練を積んだ人のものには遠く及ばないのです」
そうだった、この子も天災児だった…………最近は『デンドロのアバターでの動き方も完全にマスターしたのです』とも言っていたしな。
…………流石に<マスター>とはいえ、街中で死人を出したら騒動になるからこの方が良かったか。
まあ、そんな感じで少々悪目立ちしてしまった為、さっさとギデオンを出て行く事にしたのだ。
「さて! じゃあ気分を切り替えてアルター王国一周旅行に出発するとしますか!」
「「『おー!』」」
こうして俺達のアルター王国一周旅行が始まったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:王国で結構有名になった
・最近の悩みは変な二つ名で呼ばれる事。
妹:今回の旅行の提案者
・まだアルター王国をほとんど見ていないので、まずはそこから始めようと思った。
・これが終わったら他の国にも行ってみたいと思っている。
末妹:三兄妹の中では対人近接戦闘最強
・アバターのステータスさえ足りていれば、アニメのプリキ○アの動きすら再現可能。
・実力行使に関しては、二人がキレたのが分かったのでスプラッタになる前に急いで制圧した。
《当身》:【格闘家】のアクティブスキル
・攻撃対象にダメージを与えない代わりに、自身の攻撃力と対象の防御力に応じた確率で攻撃対象を【気絶】させる。
・【気絶】の強度は自身の攻撃力と攻撃対象のENDで決まる。
【魔導獣の輪】:レジェンダリア産のアクセサリー
・魔法系テイムモンスター用でMPを固定値で上昇させる。
・《魔法効果上昇》とMPを固定値で回復させる《MP自動回復》のスキルが付いている。
・テイムモンスター用にいくつかサイズが用意されており、足や首などどこに装備しても効果を発揮する。
・フェイは一番小さいサイズの物を首輪として装備している。
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