とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

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前回のあらすじ:三兄妹「旅行を楽しもうと思ったらバイオなハザードに遭遇した件」


それでは本編をどうぞ。


<サウダーテ霊林>・堕ちた【冥王】

 ◾️<サウダーテ霊林> ??? 

 

『…………実験はおおよそ上手く行っているな。…………この森の魔力溜まりと、中心にある霊木を利用する術式の調整も終了した』

 

 自然ダンジョン<サウダーテ霊林>の中心部、そこには一本の巨大な霊木があり、その根元には一つの影があった。

 

(…………我が研究成果…………()()()()()()()()()()に必要な魔力、それを集める為にこの森にある魔力を収束させる術式は、その触媒としてこの森で最も古く巨大な霊木を使う事によって完成した)

 

 …………そして影の周囲には霊木を中心とした大型の魔法陣が敷かれていた。

 

(術式の試運転によるモンスターのアンデッド化は上手く行った…………最初、術式の調整不足でアンデッド化させたモンスターが制御を外れて森の外に出て行くこともあったが…………問題は無いな、制御出来ているアンデットだけでも侵入者の迎撃は出来る)

 

 …………男は元々レジェンダリアの森に住んで居た一人の【死霊術師(ネクロマンサー)】であり、同時に植物の研究をしている【森司祭(ドルイド)】でもあった。

 以前までは、その技術を使ってレジェンダリアの森の中に彷徨う死霊を成仏させるなどして暮らしており、その清廉な人格からその集落の人間からの人望も得ていた。そしていつの日か妻を娶り、子を成し、仲睦まじい家族として暮らしていたのだが……。

 

『嗚呼、ようやくだ……ようやくもう一度お前たちに会う事ができる……』

 

 ある日、男が何時ものように森での仕事を終えて家に帰ってくると…………そこにはモンスターに襲われて壊滅している集落と、そこに住んでいた人々の死体、そして自身が愛した妻子の息絶えた姿だった…………ここまでならば、この世界ではよくある悲劇なのだが、そこには二つの不運があった。

 まず一つ目の不運は、その集落を襲ったモンスターは殺した生物の魂を喰らい力を得るスキルを持った<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>であり、()()()()死霊術師だった男でも妻子の魂を見つける事が出来なかったこと。

 そして、もう一つの不運は男には術師としての規格外な才能があった事…………()()()()()()()()()冥王(キング・オブ・タルタロス)】に就いていた事である。

 

(ようやくここまで来た…………レジェンダリアで【アムニール】を奪った所為で指名手配されて、()()()()時にはどうなるかと思ったが)

 

 その後、家族を失いその魂にすら会うことが出来ずに悲嘆に暮れた男は、いつの日からか完全な死者蘇生の術式の開発に乗り出した…………その為だけに男は超級職としての力をもって様々な非道を成しながら。

 …………そして、ついにはレジェンダリアの戦略物資でもある【アムニール】を強奪した事で、【妖精女王(ティターニア)】を始めとする複数の超級職と交戦し殺される事になった。

 

『…………だが【アムニール】を触媒にした術式で死者の蘇生が可能だと()()()()()()()()()()のは不幸中の幸いだったな』

 

 しかし彼は死に際に持っていた【アムニール】を触媒にして、念の為に準備していた死者蘇生の術式を使う事によって()()()()()()()()()蘇った。更に、その事に相手が動揺した隙をついて使役していたアンデッドを全て囮にする事で、その場からの逃走にも成功してしまったのだ。

 

『まあ、お陰でレジェンダリアからは出ざるをえなかったが…………この森の魔力溜まりと【アムニール】にこそ劣るが十分な魔力を宿すこの霊木があれば儀式を実行する事が出来る。…………待っていてくれ、二人とも、もうすぐみんなで永遠の時を生きる事が出来る……』

 

 そうして男…………狂った【冥王】の成れの果て【ハイエンド・タルタロス・リッチ】は、自身が完全な死者蘇生の術式だと()()()()()儀式を進めていった。

 …………自身の名前はおろか、かつて愛した妻子の顔と名前も思い出せない程に狂い果てたまま……。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □<サウダーテ霊林> 【黒土術師(ランドマンサー)】レント

 

 あれから<アクシデントサークル>対策用のアイテムである【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】を買ったりして準備を整えた俺達は、自然ダンジョン<サウダーテ霊林>に足を踏み入れていた。

 …………そして、森に入った俺達を待っていたのは、元々この森にいたモンスターがアンデッド化したゾンビ軍団だった。

 

『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️!』』』

「ハイハイ! ゾンビゾンビ! 《サークル・インパクト》‼︎」

「《ホーリーライト》……次から次へと、どんどん出てくるな《ホーリージャベリン》!」

 

 そのアンデッドの群れをミカがメイスで薙ぎ払い、俺が聖属性魔法でデバフを掛けつつ浄化して行く。

 

「ここが大元という姉様の勘は当たりみたいなのです《ブラストナックル》!」

『そうみたいだね《ピュリファイ・アンデッド》!』

『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』

 

 ミュウちゃんが拳から衝撃波を飛ばすアクティブスキル──【武闘家(マーシャル・アーティスト)】をカンストして、彼女が新しく就いた拳士系統上級職【拳聖(フィスト・マスター)】のスキル──でアンデッドを吹き飛ばし、フェイが聖属性魔法でデバフと浄化を行い援護していく。

 …………実力的にはこれまで戦ってきたアンデッドに毛が生えた程度だし、この森のモンスターが使うはずの魔法も殆ど使って来ないから倒す事自体は容易いのだが……数が多過ぎる。

 

「いい加減にしつこい! 《ストライクブラスト》‼︎」

「流石に一息つきたいな《ホーリー・バースト》!」

『『『◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』

 

 ミカが放つメイスからの衝撃波と、俺の光の奔流を放つ聖属性魔法によって周辺にいたアンデッドは一層された…………感知してみたところ、とりあえず辺りからアンデッドは居なくなっている様だな。

 

「やれやれ、ようやく片付いたね。…………しっかし、数が多過ぎるよ」

「…………それだけでなく、この森の奥には行かせたく無い様な動きをしていたのです」

 

 確かに、この森のゾンビ達は外に居た連中の様に生者に対して無差別に襲いかかるのでは無く、明確に森に来た侵入者を迎え撃つ様な動きをしていた。

 

「やはり此処にアンデッド騒ぎの原因があると見て間違い無さそうだな。…………それでミカ、そっちはどうだ?」

「この森に入ってから危険な感じは増してるね。…………むしろ、このまま森の奥に行かないと()()()気がするよ」

 

 …………ミカがそう言っているという事は、なるべく早く森の奥に行く必要があるな。

 とは言え、これだけの数のアンデッドに妨害されると、どうしても進行速度は遅れてしまうか。

 

「では、どうするのです? 私とフェイの必殺スキルで全体強化して無理矢理突破しますか?」

「それだと時間が足りないからダメだよ。…………それに、ミュウちゃん達の必殺スキルはこの森の奥で使わなければいけない気がするから」

「じゃあ全体バフを掛けて、なるべくモンスターとの戦闘を最小限にする形で突破するか?」

 

 だが、まだダンジョンの序盤なのにこれだけのモンスターがいるとなると、先に進むのも相当な時間がかかりそうだな。ここのアンデッド系モンスターは耳が良い上に、生者を感知する能力が備わっている様だから隠密して進むのにも限度があるしな……。

 

『とりあえず、このまま進むしかないかな?』

「んー…………多分それで大丈夫だと思うよ。…………むしろ()()()()()()()()()()()()()感じ?」

「成る程…………じゃあ、森の奥の問題を解決する為に余力を残しながら、このまま進もう」

 

 こうして、俺達は森の更に奥に足を踏み入れていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<サウダーテ霊林> 【壊屋(クラッシャー)】ミカ

 

 そのまま私達はお兄ちゃんとフェイちゃんのAGI全体バフを受けながら、足の遅いアンデットをなるべく無視しつつ戦闘を最小限にして森の奥へ進んでいった。

 

『此処の連中もアンデッド化のお陰で動き自体は鈍くなっているから、振りきって進む事自体は出来るみたいだね』

「…………というか、さっきからアンデッドの数が少なくなってきているのです?」

「ふむ…………アンデッドの数が減っていると言うよりは、他のところに行っている感じか?」

「多分、お兄ちゃんの言う通りだね。この森には私達以外にも侵入者が居るみたいな感じもするよ」

 

 でも、私の直感は『先に進め』と出ているし、その方が被害が少なくなりそうな気がする。

 …………その人達には悪いけど囮になって貰おう。その方がお互いにとって危険が少ないみたいだし、

 

「とりあえず今のうちに先に進もう、この事件は早めに解決した方がいいみたいだし」

「そうか…………っと、前方からアンデッド、しかも結構強そうだ」

 

 そんな話をしているうちにお兄ちゃんが敵を感知したみたい。私の直感でもそこそこ危険なモンスターだと出ているね。

 

『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️‼︎』

「結構デカイな……【フォレストオーガ・ゾンビ】に取り巻きの【フォレストゴブリン・ゾンビ】が何体か。……確か【フォレストオーガ】は亜竜級のモンスターだった筈だし、どうもこちらに気づいている様だから避けて進むのは無理だな……さっさと倒すぞ《ピュリファイ・アンデッド》」

 

 こちらに結構な速さで向かってきた【フォレストオーガ・ゾンビ】に対して、お兄ちゃんは《詠唱》で強化した《ピュリファイ・アンデッド》を放ち取り巻きのゴブリンを浄化しつつ、オーガの動きを鈍らせた。

 

『僕もやるよ……《ホーリーライト》!』

「足を止めるのです《ブラストナックル》!」

 

 続いてフェイちゃんが魔法で光の玉を出して相手の動きを更に鈍らせ、ミュウちゃんがスキル《ブラストナックル》によって拳から放った衝撃波でその足を砕いて転ばせた。

 

『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』

「《ホーリー・ブレッシング》……ミカ!」

「悪いけど時間が無いからね、さっさと沈んでもらうよ《インパクト・ストライク》!」

 

 倒れた相手にお兄ちゃんの聖属性エンチャントを受けた私が、アクティブスキル込みで【ギガース】を振り下ろしてその身体を粉砕して消滅させた。

 …………お兄ちゃんとフェイちゃんが聖属性魔法でアンデッドの動きを封じつつ私達にバフを掛けて、私とミュウちゃんが前衛で敵を倒すというここまでがこの森での鉄板戦闘スタイルなんだよね。此処のアンデッドはただ向かって来るだけでスキルとかも殆ど使って来ないから、亜竜級の相手でも倒す事自体は簡単なんだけど……。

 

『『『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』』』』』

「チッ! 戦闘音を聞きつけて周辺のアンデッド共がこっちに向かって来るぞ‼︎」

「ああもう! 厄介すぎるよコイツら⁉︎」

 

 そう、此処のアンデッドは音に敏感な為、戦闘を行っていると周りの連中が一気によって来るんだよね。アンデッドは弱いけどしぶといから、今みたいな亜竜級アンデッドと戦ったらどうしても音が出るし。なるべく余力を残していきたいから連戦は避けたいんだけど……。

 

「ええい! 《ホーリーライト》一角だけ残せ! 《ホーリー・バースト》!」

『分かった! 《ホーリー・バースト》!」

『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』

 

 それに対してお兄ちゃんは《ホーリーライト》による光の玉を追加で出してアンデッド達の動きを鈍らせ、聖属性範囲攻撃魔法《ホーリーバースト》で右から来る敵を消し飛ばし、フェイちゃんも同じ魔法で左から来る敵を浄化する。

 

「ミュウちゃん、前を開けるよ! 《ストライク・ブラスト》! 《竜尾剣》!」

「はいなのです! 《ブラストナックル》!」

『『◾️◾️◾️◾️◾️!』』

 

 更に前から来る敵を私が【ギガース】から放った衝撃波と【ドラグテイル】の《竜尾剣》で排除して、ミュウちゃんも衝撃波で敵を吹き飛ばして前方の道を開けた。

 

「お兄ちゃん! 道が空いたよ‼︎」

「よし! そのまま突っ切れ‼︎ あと足止めに【ジェム】を投げろ‼︎ 《アース・ウォール》‼︎」

『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』』

 

 私達はそのまま前方に走っていき、後方から来るアンデッド達はお兄ちゃんが【黒土術師】の魔法で土の壁を作って足止めする。更に私やミュウちゃんもお兄ちゃんから貰った【ジェムー《マッドクラップ》】や【ジェムー《ランドウォール》】を投げて、向かって来るアンデッド達の足止めをする。

 …………とまあ、こんな感じで此処まで無理矢理突破して来たんだよね。

 

「よし! 突っ切るぞ!」

 

 そのまま私達はアンデッド達を置き去りにして、森の奥に走っていった。

 

 

 ◇

 

 

「《サンクチュアリ》…………ふう、なんとか撒いたか。…………だが、そろそろMPや【ジェム】がきついんだが……」

『…………正直、かなり疲れて来たね……』

「…………こういうのなんて言うのです? ……RTA?」

 

 どうにかアンデットの群れを振りきった私達はお兄ちゃんの《サンクチュアリ》──アンデッド避けの結界を展開する聖属性魔法、結界を動かす事は出来ないので移動中は使用不可──の中で一休みしていた。

 …………<マスター>の中でもかなり高いステータスを持つ私達でも、これだけの強行軍は流石に疲れるね。お兄ちゃんやフェイちゃんは今日何本目かの【MPポーション】を煽っているし、ミュウちゃんもその辺の木に寄りかかって息を整えている。此処のアンデッド達はある程度距離を取れば、こちらを追ってこないのは不幸中の幸いだったね。

 

「そんな皆に朗報だよ。…………多分これが最後の休憩で、そろそろ目的地に着くみたいだから、今の内にしっかりと休んで置いてね。

「! …………そうか、やっとか……」

 

 無茶な強行軍をしただけあって、どうにか間に合ったみたいな感じだね。

 

「それで? 他に何かあるのか?」

「うーん…………()()()()()()()此処で休憩しておいた方がいい気がするのと、お兄ちゃんの攻撃魔法が入った【ジェム】を私やミュウちゃんに渡しておいた方が良い気がするぐらいかな」

「分かった、じゃあ【ジェム】をいくつか渡しておこう」

「はいなのです」

 

 こうして私達は最後の休憩をしつつ、この先での戦闘への準備をするのだった。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

兄:今回一番働いている
・各種魔法を駆使して今回の強行軍を成り立たせた立役者。
・今回の事件に遭遇してからその対策として聖属性・火属性魔法の【ジェム】をいくつか作ってある。

《サンクチュアリ》:【司教】の魔法スキル
・一定空間に聖属性の結界を張りアンデッドが近寄れなくする他に、内側にいる生者の気配を外に漏らさない効果もある。
・内側にいる者に掛かっている呪怨系状態異常を緩和する効果もある。

妹:いつも通り直感が大活躍中
・アンデッド相手でも再生出来ないぐらいに跡形も無く潰す事で対処出来るが、どうしても音が出てしまうのが悩みどころ。
・直感によると『あんまり早く着き過ぎてもダメ』と出ているので時間調整もしている。

末妹:基本徒手格闘なのでアンデッド相手は苦手。
・その為、遠距離攻撃が可能なスキルを覚える【拳聖】についた。

フェイ:今回の立役者その二
・ラーニングした魔法で兄の負担を大幅に減らしている。

【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】:<アクシデントサークル>対策アイテム
・使用すると周辺の魔力を拡散させて<アクシデントサークル>の発動を無効化する。
・《マナ・ディフュージョン》などの周辺魔力へ干渉する魔法は【森司祭】や【風水師(ジオマンサー)】など一部の魔法系ジョブで取得できる。
・いくつかある対策アイテムの中でも速攻性と効果範囲に優れている分値段も高いが、妹が直感で「これを買うべきだ」と選んだ。

【ハイエンド・タルタロス・リッチ】:堕ちた【冥王】、今回の事件の犯人。
・戦闘能力は人間だった頃よりも上がっているが、狂気に蝕まれている為に頭脳面では劣化している。
・その為、基本的に儀式にしか意識を向けておらず、侵入者に対する迎撃もおざなり(アンデッド達には『近くにいる生者を襲え』ぐらいの命令しかしておらず、アクティブスキルを使える様な調整もしていない)
・儀式によるアンデッド化が伝染している事に関しても特に気にしていない……というよりも、モンスター化した彼にはそれが異常だと思う事も出来ていない。
・生前よりも耐久性を中心にしてステータスが大幅に上がっており、かつて覚えていたスキルも殆どそのまま使えるが、唯一《観魂眼》だけは使えなくなっている。
・伝説級<UBM>に匹敵する程の戦闘能力(アンデッド使役能力を含む)を持つが、死霊術師がアンデッド化する事は()()()()()()()()であり、【冥王】がアンデッド化した【ハイエンド・タルタロス・リッチ】に関してはたまたま似たような()()があった為、<UBM>には認定されなかった。


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