それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア 【
どうもこんにちは日向葵です。今日も中学校が終わったのでデンドロにログインしました。
…………ちなみに私はリアルでは病弱アルビノ美少女(自称)ですが、ちゃんと日光対策をすれば外出する事は出来るので学校には通っています。最も通院する事も多いので、学校を休む事は多いけど。
後、デンドロは面倒な日光対策をせずとも日の光の下に出られると考えた両親が買ってくれた物で、今ではすっかりハマってしまった。
「…………さて、今日はどうしようか「おーい、葵ちゃーん」な。とりあえず冒険者ギルドでクエストでも「無視⁉︎」……何ですか、月夜さん」
今日の予定を考えていた私に声を掛けたのは、我等が<月世の会>のオーナー扶桑月夜さんである。そして、その後ろには彼女の<エンブリオ>であるカグヤさんと秘書の月島さんがいつも通り控えていた。
実は自宅の近くに現実の<月世の会>の本拠地がある事とよく通院している病院が<月世の会>と関わりが深いところだったので、私と月夜さん・月影さんは現実でも面識があり、それが縁でデンドロのクラン<月世の会>に入る事になった…………
「偶々見かけたから声掛けただけやよ。…………それにしても“月夜さん”っちゅうのは他人行儀やなぁ。
何か妄言を喚き始めたオーナーを無視して、私は月影さんに用件を聞いた…………ちなみに初めて会った時から、現実での彼女の呼び方は“月夜さん”オンリーである。
「特に用はありませんよ。月夜様が言った通り偶々声を掛けただけです」
「そうやえ、暇だったから声掛けただけや」
「…………以前の<マスター杯>での賭けで、ポケットマネーをほぼ全額擦ったのに暇なんですね」
「グハァァァ‼︎」
そんな感じに返答したらオーナーは地面に突っ伏した…………傷は深いぞ、がっかりしろ。
後、王都に<月世の会>のクランホームを建てる為の資金稼ぎは、その事情からデンドロ廃人と化しているクランメンバーのお陰で順調に進んでいる。故に、そう遠くない内にクランホームがこの王都に建つ事になるだろう…………オーナーが破産しようが関係無く。
「…………だから負けを取り戻す為に、ポケットマネー残り全部賭けるのはやめろと言った」
「此も止めたのだけれど……」
「だってなぁ、上手く行けばクランホーム建てるの早くなると思うたんやもん……」
まあ、オーナーがこの王都にクランホームを建てようと急ごうとする理由については分からなくもないが。
…………この<月世の会>にはその成り立ちから<Infinite Dendrogram>の世界を“真なる魂の世界”だと思っている…………
「…………そもそも、このデンドロはまだ始まったばかりで、クランホームの建設にも相応の手間がかかるのは分かりきっていたはず。オーナーだけではなんとか出来ない問題なのだからもう少し周りを頼るといい」
「…………葵ちゃん……やっぱり月夜お姉ちゃんと「却下」えぇー……」
このオーナーは何だかんだと言っても、<月世の会>とそこに所属している人間の事を真摯に考えているので非常に人望があるのだ。なのでクランメンバーもオーナーの要望には可能な限り答えようとしており、今回のクランホーム建設にもメンバー全員が全力で取り組んでいる。
…………まあ、このオーナーは偶に訳の分からない事をやらかしたりもするが、前述の理由から余程の事がない限りは生暖かい目でスルーしている。
「…………私はこれからレベリングと資金稼ぎを兼ねて、冒険者ギルドでクエストを受けに行こうと思っているけど……」
「じゃあ、うちらも一緒にいくえー。…………お金は稼いでおきたいし、うちもそろそろ
「…………確か司祭系統超級職の条件には『司祭系ジョブで合計レベル500』の条件があったか」
「そうやえー。…………今後の事を考えると司祭系統超級職には就いておきたいしな」
医療関係に回復魔法の使い手が占める割合が多いこの世界において、司祭系統超級職…………部位欠損すら直せる
…………だからこそ、うちのオーナーはアルター王国での<月世の会>地位向上と、王国との交渉カード確保の為に【
ちなみにもう一つの条件である『カンスト【
「じゃあ、冒険者ギルドまで行こか、受けるクエストは葵ちゃんに任せるで。後、他にも暇そうなメンバー何人か誘えへんかな」
「…………他のメンバーは資金稼ぎに忙しいと思うけど……」
まあ、<月世の会>の廃人集団なら何人かは捕まるかな。
◇
というわけで、やってきました<サウダ山道>。今回は最近此処で増え始めたゴブリンの群れを討伐して、王都・ギデオン間の交通ルートを正常化するクエストを受けてきました。
そして、今回のパーティーメンバーは広域デバフと回復魔法を使う我等がオーナー月夜さんと、対人・中距離戦闘に長け状況次第では広域殲滅も出来る月影さん、そして光や熱に強い基本前衛の私…………以上。
「…………結局、誰も捕まらへんかったわ〜……」
「今回は残念ながら間が悪かった様ですね」
「…………みんな資金稼ぎに全力で頑張っているからね」
うちの廃人メンバーなら何人かは捕まると思っていたんだけど…………どうも現在ログインしているメンバーが全員、資金稼ぎなど用事で忙しく誰も暇では無かった様なのだ。王都のクエストは競争率も高いから、遠くで出稼ぎに行っているメンバーも多いし。
うちの教義は『真なる魂の世界で自由を謳歌する』みたいな感じだから、普段はメンバー全員割と自由にやっているんだよね。
「ぐぬぬ……いつの日か<月世の会>の勢力が拡大した暁には、シンボルマークを描いた装備で統一したメンバーを従えて物凄い大物っぽい雰囲気で登場したる……」
「そんな日が来れば良いですね」
「…………まあ、うちのメンバーは割とノリがいいから、オーナーの提案なら結構乗ってくれるだろうけど」
「それは一体どういう状況なのかしら?」
…………多分、オーナーが暇だからと適当な相手に難癖付けて<月世の会>を動かした時じゃないかな?
「…………それで、クエストはこれで良かったの? この数でゴブリンの群れの討伐は面倒だと思うけど」
「まあ、うちと影やんがおれば数だけの相手ならどうとでもなるしな。…………それに報酬も良かったし」
まあ確かにオーナーの《月面徐算結界》と月影さんの必殺スキルの相性は非常にいいからね、ゴブリンの群れぐらいなんとかなるか。
…………そうして山道を進んでいるうちに小高い丘に差し掛かった時、索敵担当の月影さんが目的のゴブリンを見つけた様だ。
「おっ、影やんゴブリン見つけたん?」
「はい、ゴブリンは見つけましたが……群れではなく数は五匹程度、しかも
月影さんに言われて丘の下の方を見てみると、確かに五匹程のゴブリンが何かから逃げる様にして走っていた。そして、そのゴブリン達の動きは妙に遅く時折ふらついていた。
「…………ダメージを負っている? それとも……」
「んー、あれは多分状態異常やないかな」
「……おそらく月夜様の言う通りでしょう。ゴブリンが逃げてきた方向をご覧ください」
そう言われてゴブリンが逃げてきた方向を見ると、そこに生えていた木々が次々と
…………そして、その先から一匹の禍々しい瘴気を纏った巨大な蛇が現れた。
「あれは【ハイ・キング・バジリスク】やね。……成る程な、ゴブリンはあれから逃げとったんか」
「猛毒を撒き散らして周辺を汚染する性質から、王国では特級の危険生物に指定されている【キング・バジリスク】の上位種ですね」
「一体なぜこんな所に……」
二人の言う通り、その蛇……【ハイ・キング・バジリスク】が進行して来たルート上周辺の植物は全て枯れ果てていた。当然、あの辺りに居たゴブリンの群れなどひとたまりもないだろう、先程逃げてきたゴブリン達も既に息絶えている様だし。
「この感じやと、うちらのターゲットのゴブリンの群れは壊滅やろな。……それで、どうするん葵ちゃん?」
「…………私?」
「せやでー。……今回うちらは葵ちゃんに付き合ってここまで来たからな、どうするかは葵ちゃんが決めたらええで」
そう言ったオーナーはややイタズラっぽい表情を浮かべて私に問いかけてきた…………まったく、この人は面白そうな事を見つけるとすぐにこうなる。
「…………アレを倒そう。このままだと周辺の被害が酷い事になるだろうし、これ以上の被害は減らしたい。それに特級危険生物の【キング・バジリスク】には常時懸賞金が掛かっていた筈」
「分かったで、まあ今回の目的は資金稼ぎやからな。……獲物のゴブリンが居なくなった以上、アレには落とし前をつけて貰おか」
「分かったわ」
「了解しました、葵さん」
オーナーはイイ笑顔を浮かべて私の意見に同意し、カグヤさんも頷き、月影さんはいつもの笑顔で首肯した…………どうも今回、オーナーと月影さんは私の反応を見て楽しんでいる節があるなぁ。
「で、どやって倒すん?」
「……三人は毒が届かない距離からアレの動きを妨害してほしい、その隙に私が接近して
「ま、猛毒撒き散らすアレ相手に長期戦なんてする必要はあらへんからな。……でも、葵ちゃんの必殺スキルなら遠間から打ち込んでも十分ちゃう?」
「……私の必殺スキルは見かけほど有効射程が長くないし、前回使用してからのチャージ量にも不安がある」
「成る程な。とりあえず毒耐性はあげとくで、《デトキシケイト・ヴェイル》……これで短時間ならあの猛毒の空間の中でも大丈夫な筈や」
私の作戦に同意したオーナーが、【
「……ありがとう。……じゃあ三人共援護よろしく」
「任せとき」
「ええ」
「承知しました」
礼を言った私は【ハイ・キング・バジリスク】の猛毒の範囲内に入らない様に注意しつつ丘を駆け下り、そのまま相手の進行方向に回り込んだ。
……これで目の前はヤツと汚染された土地だけになるから
「……さて、行くか」
『SYAAAAAA‼︎』
いきなり目の前に現れた相手を警戒して一瞬動きを止めたヤツを尻目に、私は一気に接近して距離を詰めた。
…………無防備に接近してきた私に対して、ヤツは即座に猛毒を撒き散らしながら迎撃の姿勢を取ろうとしたが……。
「《月面徐算結界・薄明》」
「《
『SYAAAAAA⁉︎』
その瞬間、突如周囲一帯が『曇り空の夜』に変わり、細く注ぐ月光が【ハイ・キング・バジリスク】を照らし、それとほぼ同時に『夜』によって周囲に出来た影が無数の手となってヤツを拘束した。
…………これが<月世の会>クランオーナー扶桑月夜の<エンブリオ>である【カグヤ】のスキル《月面徐算結界》……効果範囲内の敵の能力を六分の一にする驚異の『夜』である。今回は相手の能力を考慮して、徐算対象をステータス一つのみ絞る代わりにレジストが困難になる《薄明》でSTRを六分の一にしている様だ。
更に効果範囲内が『夜』になる為、月影さんの<エンブリオ>の周囲の影を操る必殺スキルの効果を最大限に活かす事が出来る……本当にこの二人の<エンブリオ>は相性がいい。
『SYAAA⁉︎ SYAAAA‼︎』
影の腕に囚われた【ハイ・キング・バジリスク】は身を悶えさせながら必死に抜け出そうとするが、STAが大幅に減っているので拘束から逃れる事は出来ず……その間に接近した私はヤツに右手を向けて、自身の<エンブリオ>【日天鎧皮 カルナ】の必殺スキルを行使した。
「《
ズバアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ──────‼︎
その言葉と同時に私の右手から放射状に広がる超出力の光線が放たれた。これが私の<エンブリオ>の必殺スキル《
…………だが、シンプルであるが故にその威力は絶大だ。
『! SYAAAaaaaa………………』
至近距離からその光線が直撃した【ハイ・キング・バジリスク】は一瞬で跡形も無く消滅した……ついでに後方の汚染された土地も粗方焼き払った。
…………この必殺スキルは『溜め込んだエネルギーを
「葵ちゃん、お疲れ〜。…………ていうか、この威力なら毒の範囲外から撃ち込むだけでも倒せたんとちゃう?」
「…………一応、この熱線は射程が遠くなる程に威力が減衰するから確実性を重視した」
それにエネルギーの全放出しか出来ない上、クールタイムが二十四時間もかかる所為で使用回数がまだ少ないから、どのぐらいのチャージ量・距離で相手を倒せるのかがまだよく分かってないし。
…………そうやって話していると、月影さんが焼け跡から【ハイ・キング・バジリスク】のドロップである【高位猛毒蛇王の宝櫃】を回収してくれていた。
「お疲れ様ですお二人とも。この【宝櫃】があれば賞金は貰えるでしょう」
「ありがとな影やん。……でも、ちょっとやり残した事があるな……《デトキシケイト・ゾーン》」
そう言ったオーナーは熱線の効果範囲から外れていた土地の汚染を、【司教】の一定範囲内を解毒するスキルで浄化していた……これは……?
「…………何をしているのオーナー?」
「見ての通り汚染された土地の浄化や。…………さっき葵ちゃんが『これ以上の被害を減らしたい』って言うとったやろ。だから二次被害を減らす為に浄化しとるんや……今回は葵ちゃんの指示に従うって言うたからな」
そう言ってオーナーは汚染された土地を浄化していった…………こういう所があるから、この人はクランメンバーから慕われているんだよね……。
「分かった、私も手伝う」
「此も手伝うわ」
「当然、私もお手伝いしましょう」
こうして私達は可能な限り周辺の汚染を浄化していった。
◇
あの後、一通りの浄化作業を終えた私達は【ハイ・キング・バジリスク】討伐の懸賞金をもらう為に冒険者ギルドへ向かった…………のだが……。
「いやー、今日は中々楽しかったわ。懸賞金の
「…………そりゃあ、あそこまでゴネればね……」
「ゴネたんちゃうで〜、正当な交渉の結果や〜」
…………そこでうちのオーナーは討伐対象であるゴブリンが倒されていた事や周辺を浄化した事などを理由にして、冒険者ギルドの担当者にあの手この手でゴネまくり、通常の三倍以上の懸賞金を手に入れやがったのだ。
…………最後の方は担当者の人が涙目になってたし……。
「…………何故このオーナーはせっかく上がった好感度を速攻でドブに投げ捨てるのだろうか」
「此もそういう所は直した方がいいと思うわ」
「まあ、それが月夜様ですから」
「…………みんな酷ない? 今回うち結構頑張ったと思うんやけど……」
まあ、王国の<マスター>によるクランの中でも、
…………そうなれば私達を利用しようとする
そんな事はこの世界を『真なる魂の世界』とする以上は絶対に認められないからこそ、<月世の会>オーナーとしての交渉では厳しくせざるを得ない事は分かるのだが……。
「…………将来、気に入った人に初対面でやらかして好感度がマイナスになって、更にえげつない交渉の内容がその人にバレて好感度が中々上がらない事態になりそうな気がする……」
「何その具体的すぎる予感⁉︎」
…………とりあえず、やらかしはもう少し自重した方がいいと思う。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
日向葵:今回の主役
・実は頭脳面、特に洞察力とかは規格外側。
・キツネーサンとは歳の離れた友人みたいな関係。
・キツネーサンのやらかしには基本的に塩対応。
《
・《日天吸蓄》により蓄積された全エネルギーを指向性を持たせた上で放出するシンプルなスキル、クールタイムはデンドロ内時間で二十四時間。
・威力・射程は蓄積されたエネルギー量によって決まり、熱線は放射状に広がるので遠くになればなる程にエネルギーが拡散して威力は落ちる。
・今回は右手から放ったが、実際の発射地点は人工皮膚である<エンブリオ>から数センチ程離れた任意の空間から発射している。
・なので、別に左手でも足裏からでも放てるし、その気になれば顔から放って『目からビーム』みたいにも出来る。
扶桑月夜さん:みんな大好きキツネーサン
・葵ちゃんには『教主ではない扶桑月夜』を知っている相手なので割と気安く接している。
・基本的に
《デトキシケイト・ヴェイル》:【司教】の耐毒スキルその一
・対象一人の病毒耐性を上昇させ、対象に掛かる病毒系状態異常の効果を低下させる。
・既に掛かっている病毒系状態異常効果を緩和する事も出来る。
《デトキシケイト・ゾーン》:【司教】の耐毒スキルその二
・一定範囲内の病毒系状態異常効果を低下させる。
・高レベルなら汚染された土地の浄化も可能。
カグヤ:キツネーサンの良心
・マスターのことは好きだがやらかしはもう少し自重してほしいと思っている。
月影さん:キツネーサンの秘書王
・葵ちゃんの事は、キツネーサンが気楽に接する事が出来る相手なので評価は非常に高い。
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