それでは本編をどうぞ。
※あとがきの【アイアス】の効果・表記を一部変更。
□<カルチェラタン伯爵領>カルチェラタン 【
俺の名前はモヒカン・ディシグマ、その名の通り<モヒカン・リーグ>に所属している<マスター>だ。今は王国の北東に<カルチェラタン>という街をホームタウンにして、相棒の【
…………すると向こうから、巡回中のこの領の騎士が歩いてきた。
「あ! ディシグマさん、ボッチーさん、お疲れ様です!」
「お疲れ様です! お二人ともいつもありがとうございます」
「例は要らないぜ。日々の福祉活動は我々<モヒカン・リーグ>の基本方針だからな」
このように此処のティアンの騎士団とも、今ではこうやって親しげに挨拶をするぐらいに仲良くなっていた。
「…………ふぅ、やっぱり人に感謝されるのは気分が良いもんだな、ボッチー」
「ああ、そうだな。…………しかし、<マスター>を片っ端から
「お前の場合は<マスター>というよりカップル狙いだったけどな」
そう、俺達は元々<マスター>専門のPKになる為にこのデンドロを始めたのだ…………正確には、俺達がデンドロを買ったすぐ後に彼女にフラれたボッチーが、腹いせにデンドロ内の男女カップル<マスター>をPKしようとしていて、それに俺が便乗した形になるが。このモヒカンアバターもPKロールの為に設定したものだしな。
…………そんな感じで始めたPK活動も最初の方は俺とボッチーの<エンブリオ>の相性の良さや、まだデンドロが発売して間もない頃だったので他の<マスター>達がゲームに慣れていない事もあり、かなり上手くいっていたのだが……。
「…………まあ、俺達は所詮井の中の蛙だったって事だな」
「世の中上には上がいる、という事だな。…………一時の激情で他人に迷惑を掛けるのは良くない、という事でもあるが」
何度かPKを繰り返して調子に乗っていた俺達は
…………ちなみに後から聞いた話によるとその二人は兄妹で、後にアルター王国の準<超級>に数えられる程の<マスター>だったのだが。
「それ以来、俺達は完全に頭が冷えてPKからは足を洗った訳だが」
「やはりゲームの中とは言え、八つ当たりは良くないな。…………彼女はまた見つければ良いんだ、幸いな事にこのデンドロには出会いが溢れているしな!」
それからは元に戻ったボッチーが「デンドロで新しい彼女を見つけてやる!」と言い出し、俺もそれに付き合って普通にこのゲームをプレイしていたのだ。
そんな中、現実のデンドロネット掲示板で『モヒカンだけで集まったクランとか面白そうじゃね。活動方針は敢えての慈善事業で』というレスを見かけて、それに答える形で俺は<モヒカン・リーグ>に入り今に至ると言う話さ。
…………ちなみにボッチーは一緒のにパーティーを組んではくれるが、<モヒカン・リーグ>には入っていない。曰く「髪型をモヒカンにするのはちょっと……。只でさえ変な名前なのに……」とのこと。
ボッチーは一時の激情で変な名前を付けてしまってめっちゃ後悔しているからな、このデンドロでは改名とか出来ないし。
「やっぱり、他人を傷つけるよりも他人から感謝される方が気分が良いしな!」
「そうだな。…………それに、そういうプレイスタイルの方が出会いが多いし、女性にも好印象を与えられるしな」
「相変わらずだなぁ。…………それに、この世界のティアンは正直NPCとはもう思えないからな」
「確かにそうだな。…………ところで、今度この領の外れにある天地風温泉旅館のシャーリーさんに声を掛けようと思うのだが……」
…………ボッチーは本当に相変わらずだなぁ…………ん?
「どうした? ディシグマ?」
「いや、向こうから誰かが走って来るな。あれは…………この領の騎士の一人か?」
そこに見たのは一人の騎士が何か焦った雰囲気でこちらに……正確にはさっき挨拶をして騎士達の方に全力で走って来る光景だった。
「ほっ報告! 街の外を巡回していた騎士達が
「なにぃ⁉︎」
…………どうやら緊急事態の様だな。この領に騎士団はお世辞にも実力が高いとは言えないし、ティアンだけで対処する場合には多くの犠牲が出るだろうな。
「ディシグマ」
「ああ。…………すみません、話は聞いたが俺達が力を貸そうか?」
「ん? ……おお! 貴方達はディシグマさんとボッチーさん! ……お願いします、<マスター>としてのお二人の力をお貸しください!」
そう言って、壮年の騎士は深々と頭を下げてきた…………この領の騎士達は実力は高くないかもしれないが、新参の俺達<マスター>に頭を下げてまでこの<カルチェラタン>を守ろうとしているから凄いよなぁ。
…………そんな彼等だからこそ、俺達はこの領をホームタウンにして、此処を守るために力を貸そうと思ったんだがな。
「分かったぜ、任せな!」
「助かります。…………君、彼等を急いで現場まで案内するんだ!」
「ハイ! こちらです!」
そして俺達はさっき走ってきた騎士に案内されて、純竜級モンスターが現れたという現場まで向かう事になった。
【クエスト【モンスターに襲われた騎士の救出 難易度:五】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
よしっ! それじゃあ救出クエストを始めるか!
◇
それからしばらく走って行くと、遠くの方から戦闘音が聞こえてきた。
「この先です!」
「分かった!」
俺達は急いでその音がする場所に向かった……そして、そこで見たものは何人かの騎士達が巨大な二本の角を持つ四足歩行のドラゴンと戦っている光景だった。
『GYAAAAAA‼︎』
「「「グワァァ!」」」
そのドラゴンの頭上には【デュアルホーン・グランドドラゴン】という名前が表示されており、その二本の角でもって周りの騎士達を次々と薙ぎ払っていた……騎士達は負傷はしており倒れている者もいるようだが、幸いな事にーまだ一人も死んではいない様だ。
……そう思ったのも束の間、ヤツはその二本角で負傷して動きが鈍っている騎士達を串刺しにしようと突っ込んできた!
「チッ! ベンヌ、奴を騎士達から引き離せ! 《ハイ・エンチャント・アジリティ》!」
『KIEEEEEE!』
『GYAAAAAAA⁉︎』
それを見たボッチーが自身の<エンブリオ>である青い炎を纏った鳥型ガードナー【爆炎再誕 ベンヌ】を呼び出し、サブジョブの【
突っ込んだベンヌはボッチーの指示通りにヤツの周りを飛び回って、その身体から出る炎で視界を制限することでその動きを牽制していた。
「ええい! 騎士達が近すぎてベンヌのスキルが使えん! 純竜級の地竜相手にスキル無しでは牽制しか出来んぞ!」
「俺達が前に出るから、お前は負傷した騎士達の救助しな! なるべく此処から遠ざけろよ!」
「了解しました! ご武運を!」
そうこうしている間にも、ヤツは周りを飛び回るベンヌを弾き飛ばし、負傷した騎士達の方に向かおうとしていた。
なので俺は自身の<エンブリオ>である青い大盾型の【青壁銅盾 アイアス】を取り出して、ヤツの元まで全速力で走って行き……。
「オラァ! 喰らいな! 《ストロングホールド・プレッシャー》!」
『GYAAAAAAA⁉︎』
防御力を攻撃力に変換する【盾巨人】のスキルを乗せた【アイアス】で、その横っ面をぶん殴った!
………だが……。
『GYUAAAA!』
「おうおう、元気そうじゃねえか」
その一撃はヤツを僅かによろめかせただけで、対してHPを削る事も出来なかった……流石に純竜級の地竜相手に、タンクビルドの俺の攻撃は対して効かねえよなぁ。
……まあ、目的は俺にヘイトを向けさせる事だからこれでいいんだがな。
「ほーら、こっちだドン亀」
『GYAAAAAA!』
攻撃された事に怒ったのか、ヤツは二本の角を俺に向けて全力で突進して来た。
その突進はいくらタンクビルドでENDが高い俺でも、まともに受ければ大ダメージを負うだろう……まともに受ければな。
「待ってたゼェ! 《
『! GYAAAU⁉︎』
その【デュアルホーン・グランドドラゴン】にとっての必殺の突進は、俺の目の前に現れた
今見たとおり、この壁の強度は純竜級モンスターの攻撃を容易く防ぐ事が出来る程に高く、よっぽどの相手でも無い限りは砕く事は出来ないのだ。
……とは言え欠点として、この《七の青壁》はストック制のスキルでそのストック数は名前通り七つしか無く、更にストック一つを回復するのにデンドロ内時間で三十分程掛かってしまうので連戦には向いていないんだがな。
まあ、今はストックは七つ全部あるので……
「《七の青壁》! 《七の青壁》! 《七の青壁》ェ‼︎」
『GYU、GYUAAA⁉︎』
突進が止められて動きが止まっていたヤツに対し、俺は更にストックを三つ消費してその左右を後ろにも光の壁を展開してヤツを閉じ込める四角形の檻を作り上げた。
……最初はただ自分の目の前に展開するしかなかった《七の青壁》も、【アイアス】が進化して俺自身も経験を積んだ今なら光の壁を任意の場所・角度で展開する事も出来る様になったんだぜ。
『GYUAAAAAAAA⁉︎』
「そんな闇雲な攻撃で俺のスキルは破れねぇよ、地竜種なら空も飛べねぇだろうしな。……まあ、一応強度を上げておくか《
自分の周りの壁を壊そうと暴れ回る【デュアルホーン・グランドドラゴン】を尻目に、俺は空いているストック数に応じて《七の青壁》の色を赤くして強度を上昇させるスキル《鋼の赤壁》を使用した。
……コイツの攻撃事態は青のままでも防げるだろうが、
「今だ! ボッチーやれっ!」
「分かっている、ベンヌ!」
『KIEEEEEE!』
俺の合図に答えてボッチーがベンヌに指示を出し、檻の空いている上部分から閉じ込められたヤツに向かって突っ込ませた。
ちなみに【ベンヌ】はデンドロ開始当初の『カップルを爆発させたい』というボッチーのパーソナルがモロに影響した<エンブリオ>であり……その能力特性は
「吹き飛ぶがいい! 《
ズドオオオオオオォォォォォォォ──────ォォォン!!!
『GYAAAAAAAaaaaaa…………⁉︎』
そのまま檻の中に突っ込んだベンヌは大爆発を起こし檻の上部から凄まじい勢いの爆炎を上げながら、中にいた【デュアルホーン・グランドドラゴン】を跡形も無く消し飛ばした…………ちなみに、この戦術は俺とボッチーが最近編み出した必勝パターンである。
その後、爆炎が収まって来たので敵が消し飛んでいるのを確認して《七の青壁》を解除した。
「《七の青壁》解除っと。……やったな、ボッチー!」
「ああ。……それと、良くやってくれたベンヌ。さあ戻るがいい《
そのスキルの宣言と共に、檻があった先程まで場所から青い炎が立ち上り、みるみる内に先程自爆したベンヌの姿を形取った。
このスキル《再誕鳥》は、MPを消費する事によって自爆したベンヌを再生させるスキルである。
『KIEEE』
「おう、ベンヌもお疲れさん。…………しかし、昔と比べて再生が早くなったな」
「ああ、これも<上級エンブリオ>に進化した際に覚えた《魔力蓄積》のスキルで、《再誕鳥》に使用するMPを事前に蓄積出来る様になったのが大きいな」
以前までの《再誕鳥》は必要なMPが多すぎて、再構成までの時間を短縮する事しか出来なかったからな…………お陰でベンヌを自爆させた後はそれっぽいエフェクトでブラフをかけるぐらいしか出来なかったし。
…………さっき昔の事を話した所為か、まだPKだった頃の事を思い出しちまうな。あの頃と比べると俺達も随分と成長したもんだ。
「さて、怪我した騎士達の面倒でも見てやるか」
「ああ、騎士達の救出がクエスト内容だからな。…………とは言え、俺の回復魔法は【
この後、俺達は負傷した騎士達の応急処置を行い、彼等を街まで連れて行った。
幸いな事に騎士達の中で死者は一人も出ず、俺達は無事にクエストを達成したのだった。
◇
「ディシグマさん、ボッチーさん、今回は騎士達を助けて頂き、本当にありがとうございました」
「別に礼なんて言う必要はねぇよ。
騎士達を街に送り届けクエストの達成報酬を受け取った後、俺達は今日最初に挨拶した壮年の騎士に礼を言われていた。
「それでも、お礼は言わせてください。…………貴方達、善良な<マスター>がこの街に居てくれているお陰で、この近辺でのモンスターによる被害は大幅に減りました。…………私達カルチェラタンの騎士にとって、その事はどれだけの礼を尽くしても足りない程の事なのです。…………改めて、本当にありがとうございました」
そう言ってその騎士は去っていった…………確か、此処の領主様は、その昔強力なモンスターに夫と産まれたばかりの子供を殺されたんだったか……。
「ふむ、彼等にも色々と思う事があるのだろうな。…………それはそれとして、今回助けた騎士達の中に女性が居なかったのは残念だったな」
「…………お前は本当にブレねぇなぁ……」
まあ、PKやってた頃よりも今の方が遥かに楽しいし、これはこれで良いのかもしれないがな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
モヒカン・ディシグマ&ボッチー:以前兄妹を狙った元PK
・今は完全にPKから足を洗い、ディシグマの方は<モヒカン・リーグ>に所属して日々福祉活動を営んでいる。
・ボッチーのナンパは余り上手くは言っていない。
名称:【爆炎再誕 ベンヌ】
<マスター>:ボッチー
TYPE:ガーディアン
能力特性:自爆・再誕
保有スキル:《爆炎鳥》《再誕鳥》《魔力蓄積》《爆裂羽弾》など
・《爆裂羽弾》は自身の羽を分離・射出して爆発させるスキルで、威力は高いが一枚爆発させる毎に自身の全ステータスが1%低下する(《再誕鳥》で再生可能)
・自爆系スキルの威力はベンヌのステータスに比例するので、ボッチーは後方からベンヌにバフを掛けて戦う事を基本戦術にしている。
・スキルの威力と効果範囲は高いが、それ故に自分や味方を巻き込みやすいので相方であるディシグマのフォローが無い場合はよく自滅している。
【色壁銅盾 アイアス】
<マスター>:モヒカン・ディシグマ
TYPE:エルダーアームズ
能力特性:障壁展開
保有スキル:《七の青壁》《鋼の赤壁》《剛の黄盾》《装の緑盾》など
・上級に進化した際に名前が少し変わった。
・《剛の黄盾》はその戦闘中に《七の青壁》が負ったダメージ分だけ【アイアス】の攻撃力を上昇させるスキルで、一度攻撃を当てると効果が切れる(クールタイムは三分、戦闘終了時にダメージカウントはリセット)
・《装の緑盾》は【アイアス】で敵の攻撃を受ける度に《七の青壁》の障壁回復速度が上昇するスキル(受けたダメージ数値の十分の一の秒数減る)
・《七の青壁》で展開される障壁に関わるスキルしか持っていないので、ストックが無くなる様な連戦は非常に苦手。
・なので、相方のボッチーと組んでの短期決戦を基本戦術にしている。
【デュアルホーン・グランドドラゴン】:今回の敵でドライフの方から流れてきたモンスター
・高いステータスを持つモンスターだったが、特殊なスキルは持っていなかった為、二人の必勝パターンによって倒された。
読了ありがとうございました、意見感想評価・誤字報告などはいつでも待っています。