とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

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今回から新章『城塞都市クレーミル』編です。まずは出発編


それでは本編をどうぞ。


アルター王国一周旅行・城塞都市クレーミル
出発準備と危険との遭遇


 □<キオーラ伯爵領>冒険者ギルド 【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ

 

 海水浴を楽しんでからしばらく、私達は次の目的地であるクレーミルへ行く為の準備を一通り終えて、今は冒険者ギルドに来ています。

 …………ここで何をしているのかというと、一つ目が道中達成出来そうなクエストを見繕っている事、そしてもう一つが<キオーラ伯爵領>周辺からクレーミルまでの()()()()なんだよね。

 

「…………ふむ、討伐系には特に良さそうなクエストは無いかな。ミュウちゃんそっちは?」

「配達系は結構報酬の高いクエストがあるのです。…………どうも、キオーラからクレーミル間で<マスター>の野盗が出ているのが原因みたいですね」

『野盗達の名前は<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>…………ネーミングセンスに関してはノーコメントで』

「それだけじゃなくて、何体かの<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>も確認されているみたいだね。…………えーと【颶封獅虎 ヴェンライガー】【磁改奇馬 マグネトローべ】【毒霧泡蟹 ヴェノキャンサー】……は討伐済みか。確かシュウさんが倒したやつだね」

 

 …………とまあこのように、デンドロの屋外は危険がいっぱいだからね。旅行する際にも事前の情報収集は結構重要なんだよ。

 

「まあ、<UBM>に道中遭遇する事は早々無い…………とも言い切れないからな」

「姉様の直感がありますからね」

「そうだねー。…………今日は“旅に出てもいい”とは出ているけど、道中で急に何か解るかもしれないし」

 

 私の直感は基本的には危険を回避する方向で働くんだけど…………この世界だと周辺の悲劇を防ぐ方向にも働く事があるからね。状況次第では<UBM>相手に戦う事もあるかもしれないし。

 …………でも、私の遠い勘は結構ムラがあるからね……。

 

「じゃあいいんじゃないか? <UBM>はともかく<マスター>の山賊団は()()が楽ではあるし、そこまで気にしなくてもいいだろう」

「返り討ちにすれば良いだけだしね」

「そうですね」

 

 まあ、ティアンの山賊だと対処がだいぶ面倒になるけどね…………ミュウちゃんの教育に悪いから皆殺しにする訳にもいかないし。

 …………ちょっと物騒な空気になってしまったので、それを変える為かミュウちゃんが明るい調子で話してきた。

 

「私も新ジョブの【護身術家(セーフディフェンス・グラップラー)】に着きましたし、対人戦なら任せて下さい!」

「へぇ、それはどんなジョブなんだ?」

 

 護身術って名前からして、自分の身を守るためのジョブとかかな? 

 

「はい、主に危険に近づかない様にする為の《危険察知》《殺気感知》《真偽判定》《索敵》や、襲いかかってきた相手がどういう人物なのかを把握する《看破》《鑑定眼》、更に危険から逃れる為の《逃走》《護身打撃》《護身投擲》スキルなどを覚えますね。後、アクティブスキルとしては《目潰し》《金的蹴り》や《肘打ち》《膝蹴り》など相手の急所を狙うか組み付かれた時の対処に使うものを覚えますね」

「…………まあ、護身術っていうのは基本的に()()()()()()だからな」

 

 …………どうやら思った以上に現実的なジョブみたいだね……。

 

「そうですね、私は各種汎用スキルを目当てに取りましたが。…………そもそも、護身術というのは“危険から逃れる術”であって“襲ってきた相手を返り討ちにする術”ではありませんから」

『ミュウ……』

 

 そう言ったミュウちゃんの表情は少し寂しそうな表情をしていた…………そうだった、ミュウちゃんも()()()()()があって自分の才能がそこまで好きじゃなかったね……。

 …………ええい! なんか更に空気が暗くなったぞ! なんとか空気を変えないと! 

 

「ま、まあ! 今の私達なら多少の危険はなんとかなるでしょう! 私も【戦棍姫】の第二スキルを覚えたしね!」

「そうだな! 俺も戦闘用の【ジェム】を作り溜めしておいたし!」

 

 …………そんな私達の慌てぶりが可笑しかったのか、ミュウちゃんはクスクス笑いだした。

 

「…………ありがとうございます、兄様、姉様、もうそんなに気にしてないので大丈夫なのですよ」

『それに僕も第五形態に進化したからね! TYPEもガーディアンになってスキルも一つ増えたし! …………まあ、相変わらず制限とクールタイムが厳しくて使いどころの限られるスキルで、それ以外には僕のMPとステータス補正が少し上がったぐらいだけど』

 

 そう、つい先日フェイちゃんは第五形態に進化したのだ。その際に新しいスキルも覚えてミュウちゃん曰く『制限とクールタイムがキツイのですが、威力はかなりのものなのです!』との事。

 …………さて、かなり話が脱線したけど、そろそろ話を元に戻して道中受けるクエストを決めようか。

 

「…………ところで道中受けるクエストはどうしますか?」

「そうだな…………ここは鉄板のキオーラからクレーミルへの冒険者ギルド配達物の移送でいいんじゃないか?」

「なんのひねりの無いクエストだけど、無難にそれでいいんじゃない?」

『報酬も良いしね』

 

 今はキオーラからクレーミルの間に山賊団や<UBM>が確認されているせいでこの手のクエストは結構いっぱいあるし、報酬もかなり高めに設定されているみたい。

 …………その分、難易度もそれなりに高く設定されておりギルドランクが高くないと受けられないものもあるが、これでも私達は結構色々な依頼を達成しているからギルドランクもそれなりに高いので問題ないんだけどね。

 

「それじゃあこの【配達依頼──クレーミル冒険者ギルド ギルド間配送】のクエストを受けてから出発するか」

「いいよー」

「おっけーなのです」

 

 そういう訳で、私達はクエストを受注して依頼の配達物を受け取った…………誰がこの配達物を持つのかについては、話し合いの結果【盗賊(バンディット)】のスキル《盗難防御》を持つお兄ちゃんのアイテムボックスに入れる事になった

 そうして一通りの準備を終えた私達は、馬車に乗って一路“城塞都市クレーミル”へと向かう事になったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 港湾都市キオーラを出発してからしばらく、私達は道中出るモンスターを問題なく蹴散らしながらクレーミルに向かっていた。

 …………そしてその途中、周りにまばらな木々がある林道に差し掛かった時、私の直感がこの先にある()()に反応しだした。

 

「…………んー?」

「どうしたミカ。…………また何か感じ取ったのか?」

「今度は何なんですか、姉様」

 

 私が虚空を眺めながら訝しげな表情を浮かべていると、それにすぐに気付いた二人が馬車を止めてどうしたのかと問いかけてきた…………二人共察しがいいね。

 …………その問いにすぐ答えたいのは山々なんだけど、私の直感は言葉にするのは難しいんだよなぁ……。

 

「うーん。…………多分、このまま先に進むと私達に危険が訪れると思う……?」

「それじゃあ道を変えた方がいいか?」

 

 お兄ちゃんはそう言ってくれるけど…………今回の遠い勘は“ただ危険を避ければいい”みたいな単純なものじゃないみたい。

 

「でも…………この先の危険を乗り越えられれば得られるモノがあるかも……?」

「では、このまま先に行った方がいいのです?」

「それがどうも、ここで解決しないと悲劇が起きるって感じじゃないと思うんだよね」

 

 この先の危険を避けるか、それとも危険に飛び込んで何かを得るかって感じかな…………どうも、今回の遠い勘はかなり曖昧な感じらしいね。

 

「ふむ…………ミカ、この先の危険は俺達でどうにかなるモノなのか?」

「ムムム…………何とかならない事も無いけど、コッチに犠牲が出る可能性もあるかな。…………それに、クエストの達成や三人揃ってのクレーミル到着も難しくなるかも」

 

 どうやら、このデンドロであったこれまでの事件と違って、必ずしも私達が解決する必要が無いタイプの事件みたいだね。

 

「…………成る程、つまり得られるモノがあるからと言ってクエストや旅行予定を変えてまで危険に飛び込む必要があるか、と言う話か」

「うん、そんな感じ」

 

 ちなみに危険を避けた場合には、何事も無くクレーミルに着いてクエストを達成出来るらしい。

 …………そんな風に私とお兄ちゃんが悩んでいると、突然ミュウちゃんが顔を上げて言った。

 

「…………この先へ進みましょう、兄様、姉様」

「ミュウちゃん……」

「私達がこの<Infinite Dendrogram>をやっているのは、この世界で()()()()()()()()()()()()なのです。…………だから、危険に立ち向かわずにここで逃げるのは良くないと思うのです」

 

 …………私達三人には一つの共通点がある。それは『他者より秀でた才能がありながら、その自分の才能が嫌いなこと』だ。

 一応、私は自分の才能についてはある程度割り切っている()()()だけど…………やっぱり、心の何処かでは『何故』と言う気持ちがあるんだよ。

 明言はしていないけどお兄ちゃんやミュウちゃんも同じ様に、この世界で自分の才能に向き合うきっかけを探しているんだよね……。

 

「…………そうだな、ミュウちゃんの言う通りだな。…………それにゲームをプレイするならば、リスクに尻込みせずに求めるモノに向けて突っ走っていくのが正しい楽しみ方だろうよ」

「そうだね! せっかくのゲームなんだからどんどん挑戦していかないと!」

「そうなのです!」

 

 確かに、ちょーっとシリアスに考えすぎたね…………せっかくのゲームなんだし、安全策をとらずにもっと楽しんでもいいよね!

 …………それに、今の方が危険をどうにか出来る可能性は高い気がするしね。 

 

「じゃあ、この先に進むとして…………準備はどうすればいい?」

「そうだね…………馬車は仕舞って徒歩で行った方がいいかな? あとは拘束系と回復系の【ジェム】を私達にちょーだい」

「分かった」

 

 それでお兄ちゃんが馬車を仕舞い召喚モンスターのブロンを召喚解除して、更にいくつかの【ジェム】を私とミュウちゃんに渡してくれた。

 

「さて、準備はこれでいいか」

「はい兄様! …………目標は誰もデスペナにならずにクレーミルにたどり着く事です!」

『頑張ろう、ミュウ!』

「よーし! 頑張ろう!」

 

 こうして、準備を終えた私達はそのまま危険の待つ林道を歩いていった。

 

 

 ◇

 

 

 そうして林道をしばらく歩いていると、後ろから()()()()がした…………どうやらミュウちゃんは気付いているみたいなので【テレパシーカフス】を使って相談する事にした。

 

『なーんか、後ろから嫌な感じがするんだけど……』

『はい、先程から尾けられていますね。この視線のネチッこさからしておそらく相手は人間、件の野盗だと思います』

『こちらの索敵系スキルでは後ろには反応が無いな。おそらく何らかの隠密系スキルを使っているんだろう。…………向こうの出方を見るまでもう少し歩くぞ』

 

 お兄ちゃんに言われた通り、後ろに気づいていないフリをしつつ歩いていくと、前方の森からから人の気配がした。

 

『……あと、前方に人が十一人いるな。コッチは隠す気は無いらしい』

『あからさまにこちらに害意を向けているので《殺気感知》にも反応がありますね』

『という事は、後ろを隠す為の囮かな? ……じゃあ、後ろに気付いていないフリをして声を掛けてみるよ』「……その辺の人達! いったい何の様かな?」

 

 そんな風に私が声を上げると、前方の森から十人程の男達が姿を現した…………全員左手に紋章があるから<マスター>だね。

 …………そして、その中に居たリーダー役と思わしき全身を黒服に包んだ長髪の男がこちらに話しかけてきた。

 

「お初にお目にかかります<マスター杯>の準優勝者である“万能者”レント、そしてその妹の【戦棍姫】ミカ。…………私達はPKクラン<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>、そして私はそのオーナーであるシュバルツ・ブラックと申します」

「…………随分と黒そうな名前だな」『どうする? 先制攻撃で潰すか?』

「アバター名は人の自由だしいいんじゃない?」『うーん、それはやめた方がいいかも。……というか、コイツらが“私達に襲い掛かる危険”って()()()()()()()だし』

「“ダーク”や“ノワール”が付いていないからまだ黒くないと思うのです」『それでは、本当の危険が来るまで適当に時間を稼ぎましょうか。……あと、後ろの相手には私が対処するのです』

 

 相手の黒黒さん(仮称)の話に適当に答えながら、私達は【カフス】を使って今後の行動方針を話し合っていく。

 …………ちなみに、その適当な返答を聞いた黒黒さんはイラついているのか顔を引きつらせていた。

 

「…………と、とにかく! 貴方達には私達の名を高める為の生贄になってもらいます!」

「ふーん」『リーダー以外の視線が俺達の後ろの方に向いているから奇襲がバレバレなんだが……』

「へーん」『あと、連中の後ろの見えないところで何かしているヤツもいるね。身体で隠しているみたいだけど露骨すぎ』

「ほーん」『後ろの相手が攻撃の意を見せ始めたので少し下がるのです』

 

 そんな感じで適当な相槌を打って相手を煽りつつ、さりげなくミュウちゃんが後ろに下がったので私とお兄ちゃんはそれを庇うようなフリをして前に出た。

 …………それはそれとして、あのオデブ(略)メンバーは戦術は悪くないんだけど技術がいまひとつだね。正直、リーダーの黒黒さん以外はあんまり強くなさそう。

 

「ギギギ……そ、そんな余裕な態度を取って居られるのも今のうちですよ!」

「別に余裕って訳じゃ無いんだけどねー」『本命の危険はもうそろそろ来るみたいだし』

「煽り耐性無いな」『そうか、とりあえずいつでも動けるようにはしておくか』

「実に面倒くさいのです」『後ろのヤツが私を狙っている様なので対処しますね』

 

 適当に返答しつつ本命の危険に備えていると、黒黒さんが表情を消して、おそらく<エンブリオ>であろう木製っぽい槍を取り出した…………怒りすぎて一周回って冷静になったのかな?

 そして、それに合わせる様に他のオデブのメンバーも各々の武器を構えた。

 

「………分かりました、もうお喋りはいいでしょう。………貴様等を俺の槍の錆にしてやろう!」

「《スニーク・レイド》!」

 

 黒黒さんが派手な動作で剣を振りかざしつつ声を張り上げるとほぼ同時に、背後にいたオデブメンバーがミュウちゃんに奇襲を仕掛けた…………いきなり態度を変えた事も、自分に注意を引きつけて後ろからの奇襲を成功させ易くする為みたいだし、実は結構冷静だね。

 …………でも、()()()()()()()()()()()自体が最大の悪手なんだけどねぇ。

 

「よっと」

「なっ⁉︎」

 

 その背後から首筋を狙った一撃を、ミュウちゃんは後ろを見る事すらせずに僅かに身を逸らすだけの動きで躱し……。

 

「《目潰し》」

「ギャア⁉︎」

「《金的蹴り》」

「アゴォ⁉︎」

 

 そして、そのまま後ろを向いたミュウちゃんは手をチョキの形にして相手の目に突き刺し、それに怯んだ相手の懐に潜り込んでその股間を全力で蹴り上げた…………ちなみに《目潰し》の追加効果は一定時間の【盲目】、《金的蹴り》は攻撃対象が男性の場合だけ高確率で【硬直】の状態異常に出来るらしい。

 

「ふう……とりあえず片付いたのです」

「アーソウダネー……」

 

 なんか一仕事終えてドヤ顔しているミュウちゃんを見て、オデブメンバー(とお兄ちゃん)がめっちゃ引いてるんだけど……。

 ちなみに奇襲してきた相手は地面に倒れこんでピクピクと痙攣している…………このゲームでは痛覚無効があるから【硬直】の状態異常で動けないだけだと思うんだけど、なかなか酷い絵面だね。

 

「…………ハッ! だ、だが、まだ手は残っている! やれ!」

「あ、ああ! 《クリムゾン・スフィア》!」

 

 流石はクランオーナーと言うべきか、オデブメンバーの中でいち早く立ち直った黒黒さんが後ろで準備をしていたメンバーに指示を出した。

 指示されたメンバーはどうにか動揺から立ち直り、他のメンバーの前に出てきて手に持った杖から巨大な火球をこちらに向けて撃ち放った…………普通の《クリムゾン・スフィア》と比べても倍ぐらい大きいね。多分、魔法発動隠蔽と魔法威力増大の<エンブリオ>かな? 

 …………それに対し、こちらは私が一人で前に出て、()()()()()()を使いながら【ギガース】でその火球を殴りつけた。

 

「《エフェクトバニッシュ》!」

「なぁ⁉︎」

 

 そのスキル効果が載った【ギガース】を叩きつけられた火球は()()()()()()()()()()…………これが【戦棍姫】の第二スキル《エフェクトバニッシュ》──相手のスキルをメイスで殴る事でそのスキル効果を無効化するスキル──である。

 更に無効化したスキルを一定時間封印する効果もあるので、相手はしばらくは《クリムゾン・スフィア》は使えなくなる。

 

「……戦術としては悪くなかったけど、ちょっと超級職(スペリオルジョブ)っていうのを舐めすぎかな」

「くそッ!」

 

 私の挑発に対して黒黒さんは顔を怒りに歪めながら悪態をついていた…………他のメンバーも二連続の奇襲をあっさり凌がれた所為で傍目にも分かるぐらいに動揺してるね。

 さて、私の直感だとそろそろ…………っ! 上から! 

 

『上から来る! 後ろに飛んで!』

『はい!』

『分かった!』

 

 その直感に従い私は【カフス】を使って二人に指示を出してそのまま全力で後方に飛び、指示を受けた二人も同じ様に後方に飛んだ。

 

「一体何を? ……ッ⁉︎ 全員敵しゅドガアアアアァァァァ────ァァァン!! 

 

 その行動を訝しむ黒黒さんだったが、その直後に反応した《危険察知》に気付いて他のメンバーに指示を出そうとし…………その声は上空から先程まで()()()()場所に放たれた青白い閃光が地面に着弾した音によって掻き消された。

 …………私は直ぐに自分が見たモノを二人に伝えた。

 

『あの光、AGIが一万近くある私の目でも追えないぐらいの速度…………()()()()で何かを撃ち出されたみたい』

『成る程。…………そして、ソレを撃ったのは上のアイツか』

 

 そう言われてオデブメンバーの向こう側の上空を見ると、そこには機械で出来た黄金の人馬(ケンタウロス)()()()()()()()()…………その人型部分の左手はコの字型になっていて、そこには青白い電気が帯電しているので、おそらくあそこからさっきの攻撃を放ったらしい。

 …………そして、その一本角が生えた人型部分の頭部の上には【磁改奇馬 マグネトローベ】の文字が浮かんでいた。

 

「<UBM>⁉︎」

「そんな! どうして……⁉︎」

 

 驚いているオデブメンバーを尻目に、上空の【マグネトローべ】は私達から見て彼等を挟んだ向こう側の地面に降りてきた。

 地面に降り立ったヤツは私達を……否、()()()()言葉を発した。

 

『劣化“化身”15体確認。……内一体ガ超級職【戦棍姫】』

 

 その言葉と共に【マグネトローべ】はコの字型になっていた左手を開いてT字型にし、更に右手も同じ形状に変形させて、その両手から青白い光の剣(ビームサーベル)を展開した。

 どうも発言からして私が狙いなのかな…………コイツが本来の“私達に襲い掛かる危険”みたいだね……

 

『コレヨリ、知覚範囲内ニオケル劣化“化身”ノ殲滅ヲ開始シマス』

 

 …………そうして戦闘準備を終えた【マグネトローべ】は、両手のビームサーベルを構えながら馬の下半身を全力で駆動させ勢いよくこちらに突っ込んできた。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

三兄妹:今回共通点が発覚
・あと、三人共PKとかには基本的に容赦はない。

フェイ:今回第五形態に進化
・他の強化点は《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》のレベルが五になりSTR・END・AGIの上昇率と魔法系被ダメージの減算率が30%になった事。
・《エコー・オブ・トゥワイス》や必殺スキルは効果時間五分のままで、効果も変化なし。

【護身術家】:護身術家系統下級職
・格闘系ジョブの一つで危険を避ける為のスキルを多く覚えるジョブ。
・ただし、豊富な汎用スキルを覚える代わりにそれらの個々のスキルレベルは低い。
・またステータスの伸びが非常に低いので、他の汎用スキルを取得出来るジョブと比べると人気はあまり無い。

《逃走》:逃げる際にAGIを上昇させるパッシブスキル
・【護身術家】以外にも【盗賊】などのジョブでも覚える汎用スキルの一つ。

《護身打撃》《護身投擲》:【護身術家】のスキル
・それぞれ打撃・投擲を相手に当てた場合、一定確率で相手を【硬直】の状態異常に出来るパッシブスキル。
・ただし、その際のダメージ量が相手の最大HPの5%以下である事(ゼロでも可)が発動条件になっている。
・相手の顔面や急所に当てた場合、相手のステータスがこちらを上回っていた場合には【硬直】発生確率が上昇する。
・ちなみに【硬直】は短時間動きを封じる【拘束】の下位状態異常。

《エフェクトバニッシュ》:【戦棍姫】の第二スキル
・対象のスキルを封印出来る時間は無効化した時の自身の攻撃力と対象のスキル強度で決定する。
・スキルの強度に対し自身の攻撃力が足りなければ無効化出来ず、スキルを無効化した際にはメイスに相応の負担が掛かる。
・なので、自身の攻撃力とメイスの強度を上回る様なスキルは無効化出来ない……【覇王】のスキルとか。

<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>:アルター王国のPKクランの一つ
・基本的にティアンは狙わず<マスター>のみを狙う、アウトロー的ロールを楽しむ割と真っ当なPKクラン。
・オーナーのシュバルツ・ブラックは本人の実力も決闘ランカーレベルで、クランを纏めるオーナーとしての能力も十分高い現在のアルター王国のPKとしては上の方の<マスター>である……弱点は煽り耐性が少し低い事。
・クレーミル周辺を縄張りにしており、<バビロニア戦闘団>とも何度かやりあっている。
・数や質の差を覆す戦術を立てるところも含めて結構優秀なPKクラン……なのだが、今回は相手と状況が余りにも悪かった。

【磁改奇馬 マグネトローべ】:伝説級<UBM>
・目的は劣化“化身”(<マスター>)の殲滅と調査で、よりレベルの高い<マスター>……今回の場合は超級職である妹を狙って行動を起こした。
・ちなみに道を変えていれば探知範囲には引っかからなかった模様。
・あと、フラグマンは一切関係していない。


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