それでは本編をどうぞ。※同じ話が二つ投稿されていたので削除しました。
□イスティア鉱山 【
こんにちは、私はこのデンドロでしがないテイマーをやっているエルザ・ウインドベルです。今日はリアフレのターニャと、彼女が所属しているクラン<プロデュース・ビルド>のオーナーであるエドワードさんと一緒にとあるクエストを受けて、王都アルテアの東にある<イスティア鉱山>にやってきています。
ちなみに道中はテイムモンスターの【テンペスト・デミドラグイーグル】のウォズを護衛にしつつ、三人で【シャイン・ドラゴン】のセレナに乗って一っ飛びでしたが…………どうやら目的地に着いた様なのでセレナには降下、ウォズには周囲の警戒の指示を出しておきます。
『到着しましたよマスター』
「ありがとうセレナ。…………二人共、もう降りていいですよ」
「はーい。…………いやー空の旅なんて初めてだから楽しかったね!」
「そ、そうだな……」
楽しそうにしているターニャとやや顔色を悪くしているエドワードさんが降りて来ました…………どうやら、彼は空の旅があまりお気に召さなかった様ですね。
ちなみに、今私がメインジョブにしている【騎乗従魔師】はテイムモンスターへの騎乗に特化した【
「さて、此処が<イスティア鉱山>ですね。…………確か、此処に何処からかやってきた謎のモンスターが住み着いたのでしたか」
「そうだよエルザ。…………どうも、此処で働いているティアンの鉱夫が何者かに次々と襲われているみたいなんだよね」
「知り合いの業者や生産系ギルドの情報によるとしばらく前から襲われていて、幸い死者は出ていないがそのせいで王都に入る鉱石が少なくなっているらしい」
今回受けたクエストは【<イスティア鉱山>鉱夫襲撃事件の解決】というもので、彼等<プロデュース・ビルド>が以前から付き合っていた業者さんに頼まれたものです。
曰く『事件の所為で<イスティア鉱山>からの鉱石が入って来なくなったので、<マスター>の伝手でどうにかならないか。もちろん報酬も出す』と頼まれてしまった様なのです…………それで色々と付き合いもあったので断りきれず、とりあえず知り合いの<マスター>に依頼して調査に行ってみようという事になったみたいです。
…………最も、<イスティア鉱山>で取れる鉱石は鉄鉱石などの質が低い物が主なのであまり利用する鉱夫の数も少なく、だから事件の緊急性が低いので報酬節約の為に伝のある<マスター>に依頼したという面もあるようですが。
「あそこの業者からはよく鉱石を受注しているし、鉱山が使えなくなれば生産職である俺達も困るからな」
「でも、うちで辛うじて戦闘が出来るのは私とエドワードぐらいだから流石に戦力が足りないし。…………だから
「…………ランキングの端の方に引っ掛かっているだけですけどね」
…………私が討伐ランキングに入っているのは従魔師派生の【
他にもセレナをテイムしたお陰で行動範囲が大幅に広がった事や、私の仲間達のレベルが上がって広域攻撃が出来る様になったのも理由になりますが。
「相変わらずエルザは自己評価低いね。…………そもそも、実力が無ければランカーにはなれないでしょうに」
「全くだな、君はもう少し自信を持った方がいい」
「…………分かりました、私だって受けた依頼はキチンとこなしますよ。…………では、みんな出てきて下さい。あとウォズは今回は鉱山内での行動なので【ジュエル】に戻って、セレナは人化を」
『
『分かったわ』
私の声と共に左手の紋章から五人の同じ顔をした女性が、右手の【ジュエル】からは【スカウト・デミドラグウルフ】のヴェルフが、そして私の懐から拳大の大きさの石…………【アース・エレメンタル】のアーシーが出てきました。
この女性達が私の<エンブリオ>であるTPYEレギオン【代行神騎 ワルキューレ】です。彼女達はスキル《代行者》によって人間と同じ様にジョブに就く事が出来て、それぞれ生まれた順に長女である剣士系ジョブの前衛の通称アリア、次女で司祭系ジョブの通称セレナ、三女でタンク系ジョブの通称トリム、四女で魔術師系ジョブの通称フィーネ、五女の盗賊・斥候系ジョブの通称リーファになります。
そしてウォズが【ジュエル】の中に戻り、セレナが中学生ぐらいの金髪の少女に変化しました。
「…………確か、今回この鉱山に住み着いたというモンスターは
「そうだよ。…………だから、隠密能力が高いモンスターなんじゃないかって言われているね」
「あと、襲われた鉱夫達は『見えない何かに殴られた』とか『水流を浴びせられた』などと言っていたらしいな」
…………成る程、隠密能力の高いモンスターと狭い坑道内で戦うのは結構面倒ですね。それに水気が全く無いこの鉱山で水流ですか…………やはり外部からモンスターが入り込んだ可能性が高いですね。
事前に調べたところによるとこの鉱山内にはモンスターはあまりおらず、その能力も亜竜級に届かないものが殆どらしいですし。
「では、鉱山内での陣形を決めます。まず先頭は索敵役にヴェルフとその護衛にアリアが」
『
「了解しましたマスター」
ヴェルフは索敵能力に特化したモンスターであり、スキル《嗅覚索敵》によって目に見えない様な相手であっても感知可能です。その分戦闘能力は亜竜級としてはやや低いですが、ワルキューレ最強のアリアが護衛につけば問題はないでしょう。
「次に中衛は私とターニャとエドワードさん、そしてその護衛をトリムとアーシーにお願いします」
「分かったよマスター」
『分かったー』
私は戦闘能力皆無ですし、ターニャとエドワードさんも基本は生産職だから護衛は必須です。壁役のトリムと各種地属性魔法によって防御に長けたアーシーを付けておけばいいでしょう。
「最後に後衛はセリカ、フィーネ、リーファ、セレナで。セリカとフィーネはいつも通り魔法で援護を、イブは主に後方の索敵を、セリカは光属性攻撃での援護の他にも後方からの奇襲に対して壁役になる事もあるかもしれないので気をつけてくださいね」
「分かりました、回復はお任せを」
「…………分かった。鉱山内だと酸素の関係で火属性は使いにくいから、【
「分かったっす。…………自分はまだ生まれたてでレベルは低いっすけど頑張るっす」
「分かったわ。人化しているとステータスは少し下がるけど、まあ時間稼ぎぐらいはするわ」
セリカとフィーネの後方支援能力は問題無いですし、セレナは純竜なので人化していても短時間なら十分壁役が熟せるのでまだレベルの低いイブのフォローも大丈夫でしょう。
「ターニャ達もそれでいいですね?」
「それでいいよ。…………流石は討伐ランカー、見事な采配だね…………っていうか、私達は要らなかったかな?」
「…………支援に徹すれば大丈夫だろう。…………多分」
二人共何か言っているみたいですが問題は無い様です。
それでは、<イスティア鉱山>の探索を始めましょうか。
◇
鉱山の探索を始めてからしばらく経ち、私達は鉱山の奥にまで足を踏み入れていた…………中は暗く、一応灯りもあったが念のためセレナに光の球体を出してもらって光源にしてあります。
ちなみに道中モンスターは殆ど出てこなくて、僅かに出てきたモンスターもすぐさまアリアが一刀両断したり、フィーネやアーシーの魔法一発で倒せるレベルの相手でしたが。
「今のところ特に異常はありませんね」
「ああ、今まで出てきたモンスターは元々この鉱山に生息していたものばかりだからな」
「いくらティアンの鉱夫でもこの程度のモンスターにやられる事はないでしょう」
アリアの言う通り、モンスターが蔓延るこの世界において街の外で活動するにはある程度の戦闘能力は必須であり、このレベルのモンスターならティアン鉱夫でも問題なく対処出来るでしょうし。
また、これまでの道中、リーファは【
…………それでは先に「待って」『何かあるよー』……おや?
「どうしましたフィーネ、アーシー?」
「…………僅かだけど鉱石以外の魔力の反応がある《魔力視》《術式解析》」
『この辺りの鉱石に変な魔法がかかってるよー』
…………どうやら二人は何か見つけた様ですね。
「どんな魔法ですか?」
「…………多分感知系の魔法かな?」
『正確には一定の範囲に入って対象を感知する結界みたいー』
…………成る程、ティアンの鉱夫達が次々と襲われているのは、その結界で感知された事が原因ですか。
「…………あと、私達も多分もう感知されてる」
『
「全員戦闘準備! 前方から敵です!」
そのフィーネとヴェルフの言葉を聞き、私はみんなに敵の襲撃を知らせました…………次の瞬間、前方の何も無いところから水流がこちらに向けて発射された。
「チッ!」
『BAU!』
「《カバーリング》!」
その攻撃に対し前衛のアリアとヴェルフは飛びのいて回避して、トリムが【
「ぐわっ⁉︎」
『BAU⁉︎』
次の瞬間、回避した二人は
「アーシーあれは⁉︎」
『見えない結界ー』
「不可視の結界を飛ばして相手を殴りつけてる!」
アーシーとフィーネの言葉で状況を理解したので私はテイムモンスターに次の指示を出して、更にワルキューレ達には時間節約の為に心の中で指示を出していきます。
…………まずは攻撃を防ぎつつ敵の位置を割り出しましょうか。
「セレナは前衛に上がって! アーシーは敵の位置を教えて!」
(トリムとアリアは防御、フィーネは敵の位置を教えて、セリカは前衛を回復、リーファは中衛に上がって後衛のガード)
「了解!」
「承知!」
「承知したわ。……あと、前方に光が歪んでいるところがあるわね」
「……多分前方、そう離れていない位置」
『隠密系の結界を張ってるー』
「《ワイド・フォースヒール》!」
「分かったっす!」
私の指示に従いトリムとセレナが前に出て水流や不可視の結界を防いでいき、更にダメージから復帰したアリアもそれに加わった…………それによって負ったダメージはセリカが全体回復魔法で癒していく。
…………どうやら、アーシー、セレナ、フィーネの情報によると前方に不可視の結界を纏って見えなくなっている
「アーシー、砂を!」
(フィーネは大量の細かい氷の粒)
「……《ダイヤモンド・ダスト》!」
『《サンド・バインド》ー』
その指示に従いアーシーは砂で出来た手の様なものを魔法で作り出して前に放ち、フィーネは細かい氷の粒を無数に生成し前方にばら撒いた。
その結果、大量の砂と氷の粒が前の空間一帯に撒き散らされ…………その一角に
(そこです! アリア!)
「《レーザーブレード》!」
『! KYUAAA⁉︎』
その空間に向けてアリアが突っ込み光を纏った剣を一閃した…………すると、そこに張られていた結界が砕け散りその中から体長50センチぐらいの青いネズミの様なモンスターが飛び出した。
「……【バリア・サファイアカーバンクル】ですか」
「疾っ!」
『GAU!』
『KYU⁉︎」
出てきた【バリア・サファイアカーバンクル】に対しアリアが追撃の剣を振るい、それに合わせてヴェルフが飛び掛かっていった……それに対して相手はアリアの剣を飛び退いて躱し、そこに突っ込んできたヴェルフを咄嗟に展開した結界で弾いて少しよろけながらも距離を取った。
…………しかし妙ですね、カーバンクル系の魔物はこの鉱山には
「皆さん、ちょっと気になる事があるので捕縛優先の戦い方に切り替えて下さい。……《魔物診断》」
『分かったー《マッドクラップ》ー』
「了解……《アイスバインド》」
その指示に従ってアーシーは泥で相手の足を止めて、フィーネは氷で出来た鎖を放って相手を拘束しようとし、他のみんなも相手を倒さない程度の攻撃に切り替えた…………これでも私達はテイマーギルドのモンスター納品ジョブクエストの為に多くのモンスターをテイムしているので、この手の戦い方にはみんな慣れているんですよね。
そして、その間に私はサブジョブである【
「《フリーズフロア》」
『《グランドホールダー》ー』
『KYUAAA⁉︎』
そんな事をしている間に前衛メンバーに追い詰められた【バリア・サファイアカーバンクル】がフィーネの地面を凍らせる魔法によって足を止められ、その隙にアーシーの魔法による土の腕で地面に押さえつけられました。
ちなみに周りには剣を構えているアリアを初めとして、前衛メンバーがいつでも戦闘出来る様に待機しているのでこれで詰みですね。
相手もそれが解っているのか抵抗をやめています…………さて、これから
「では、そこの【バリア・サファイアカーバンクル】さん。私はあなたを見た時に
『KYUUUuuu…………!』
そんな感じで私は
…………しかし、あまり恐怖を植え付け過ぎても今後に支障が出るので少し飴を与えましょうか。
「私の仲間になってくれるのなら、この【アクエリア水晶】をプレゼントしますよ」
『! …………KYUU!』
「仲間になってくれれば今後も食事に困る事はないですよ」
私がアイテムボックスから取り出したその水晶を見た相手は目を輝かせました…………カーバンクル系統のモンスターは質の高い鉱石を主食としており、この鉱山にある様な低質な鉱石ばかり食べていると体調を崩してしまう繊細なモンスターですからね。
なので、おそらく長時間ここの質の低い鉱石ばかり食べていたこの子の目には、この水晶はご馳走に見える事でしょう…………ちなみにこの【アクエリア水晶】はアーシーのご飯として持っていた物の一つであり、更に水属性を宿しているので同じ属性のこの子が好きそうだと思って選びました。
『…………KYUI!』
「分かりました。では交渉成立と言う事で……《
どうやら相手も了承してくれた様なのでテイムしましょう…………よし! テイム成功ですね。
…………では、約束通り【アクエリア水晶】をプレゼントしましょう。
『KYUKYUKYU!』
「よく食べていますね。…………では、あなたの名前は“サフィア”にしましょう。これからよろしくお願いしますね」
『KYUI!』
これで【バリア・サファイアカーバンクル】、改めサフィアが仲間になりました。みんなも仲良くしてあげて下さいね。
…………とりあえず、サフィアが仲間になった事をターニャとエドワードさんに伝えましょうか。
「さて、この子が交渉の結果仲間になったサフィアです。今回のクエストの目的は『<イスティア鉱山>の問題解決』なので、これで達成ですね」
「あ、ああ…………そうだな」
「…………交渉? 脅迫じゃなくて?」
「モンスターのテイムは大体こんな感じですよ」
なんか二人がやや引いている気がしますが、テイムするには基本的にこちらの実力を見せて、テイマーの事を使えるに値する主人であると認めさせる必要がありますからね…………傷ついたモンスターを助けてそのままテイムする事もなくはないですが、そんなシチュエーションは早々ありませんし。
「…………まあ、事件を解決出来たのだからこれでいいだろう」
「そうだねー。…………しっかし、今回私達はかけらも役に立って無かったね。やっぱりランカーの戦闘にはついて行けないや」
「二人共、生産職だから仕方がないと思いますよ。…………さて、クエストも終わりましたし帰りましょうか」
こうして私達は<イスティア鉱山>を後にしたのだった…………私としてはクエストを達成出来て、更に新しい仲間も増えたので実にいい一日でしたね。
…………そういえば、そろそろ公式のハロウィンイベントがあるみたいですし、少し王都を離れてみるのもいいかもしれませんね。王都の北東にあるクレーミルにでも行ってみましょうか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
エルザ・ウインドベル:特技はテイム時の交渉(物理)
・個人で保有する総戦力は現在のアルター王国ではトップクラス。
・<プロデュース・ビルド>の専属<マスター>で、本人のリアルラックでドロップする希少素材をよく下ろしている。
・その代わりに各種装備を格安で受け取っており、そのお陰で手持ちの戦力は更に上がっている。
・尚、本人の装備は【救命のブローチ】以外は従属キャパシティ拡張スキルやテイムモンスター強化スキル持ち装備で固めている。
【騎乗従魔師】:【従魔師】の派生下級職
・テイムモンスターに騎乗する事に特化したジョブで、騎乗しているモンスターを強化する《騎獣強化》などのスキルを取得できる。
・【騎兵】との違いは騎乗したテイムモンスターの補助が主体で、騎乗者が戦闘する為のスキルを覚えない事。
【獣医】:獣医系統下級職
・モンスターを治療する事に特化したジョブで本編で使った《魔獣診断》の他にも、モンスターのHPや状態異常を回復させるスキルなどを覚える。
【ワルキューレ】:第五形態に進化した
・全員<プロデュース・ビルド>産の上級装備で身を固めている。
・新しく生まれた五女のリーファは黒髪のサイドテールで陽気な性格、そのジョブビルドは【弓手】【罠師】【盗賊】【狩人】などの弓や短剣を武器にする索敵・支援型。
《ダイヤモンド・ダスト》:【白氷術師】のスキルその一
・空間に細かい氷の粒を展開する魔法で、その空間内での氷属性魔法の効果を上昇させる効果がある。
《フリーズ・フロア》:【白氷術師】のスキルその二
・地面を凍らせる魔法で、相手の足ごと凍らせたり凍った地面で相手を滑らせたりして動きを鈍らせる魔法。
エルザのテイムモンスター:全員レベルは相当上がっている
・セレナは純竜に進化した上で《人化》スキルを取得しており、それを見てヴェルフとウォズも《人化》取得の為に密かに修行している。
・アーシーはエルザの懐に入っていたいので《人化》にはあまり興味を示しておらず、むしろ進化しても大型化しない様にコアだけで行動出来る様に自身を調整している。
・また、アーシーとセレナは意思疎通の為に《人間範疇生物言語》スキルを取得している。
【バリア・サファイアカーバンクル】:エルザの5番目のテイムモンスターで名前はサフィア
・小型だがMP、END、AGIに長けた亜竜級モンスターで、水属性と結界の魔法を得意とする。
・カーバンクル種は主に魔法に長けており、成長する過程で食べた鉱石によって属性や能力が変わる生態を持つ。
・元々は<水精洞窟>(当時は自然ダンジョンではなかった)に住んでいたが、<UBM>【魔鋼蚯蚓 アニワザム】に襲撃され住処を追い出された。
・その後、王国中を彷徨い歩いていたがカーバンクル系統が主食とする様な質の高い鉱石が産出される場所はなかなか見つからず、或いは既に強力なモンスターの縄張りになっていたので、仕方がなく人とモンスターの少ない<イスティア鉱山>に住み着いていた。
・人間を襲っていたのは、彼等が質の高い鉱石を採掘する為にモンスターを排除する事を知っていたから。
・本編では長旅と食事不足で弱体化していた。
ターニャ&エドワード:生産職としての付き合いは色々ある
・今回の一件で自分達は完全に生産に特化しようと思った
・ちなみにエルザの交渉()中にはかなり遠い目をしていた(特にターニャ)。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。