□クレーミル領内 【
現在行われているハロウィンイベントのモンスターを倒すためにクレーミル領内の外れに来た私達は、纏まって行動していると狩りの効率が悪いと言う事で三チームに分かれて行動することになり、私はエルザさんの【シャイン・ドラゴン】のセレナさんと、彼女の<エンブリオ>の一人であるリーファさんと一緒にチームを組む事になったのです。
そして、今は全長十メートル程の竜形態になったセレナさんが上空にいる【パンプキン・ワイバーン】の群れを足止めしている間に、他のメンバーで地上にいるイベントモンスターを狩っているのです。
「《アローレイン》!」
『『『GYAAAA⁉︎』』』
まず、前方にいる派手な仮装している武装した五体のゴブリン──【ハロウィン・ゴブリン】の群れに対しリーファさんが矢を上空に放つと、その矢が数十本に分裂してゴブリンの群れに降り注ぐ。
その矢によってダメージを受けたゴブリンは奇声をあげながら体勢を崩したので、私はその隙に《アクセルステップ》──数歩だけAGIを倍にするスキル──を使って奴等に接近しました。
「《ライトニング・ストレート》!」
『GYAAA⁉︎』
接近した私は、まず先頭にいた剣を持つゴブリンに《ライトニング・ストレート》──雷を纏った正拳突きを放つ【
…………とはいえ、その間に体勢を立て直した槍と斧を持った二体のゴブリンが、それぞれ左右から襲い掛かって来ました。
「疾ッ! せいっ!」
『GUッ! GYAァ!』
なので、私はまず左から襲い掛かって来たゴブリンの槍を躱しながら《サイドステップ》──AGIを倍にして一歩だけ横方向に移動するスキル──を使ってその間合いの内側に潜り込み、そのまま《肘打ち》を当てて怯ませたところに《ハイキック》の回し蹴りを相手の首に当てて頸骨を砕きました。
…………ちなみに、最近漸くコツを掴んで来たので簡単な格闘系アクティブスキルなら、技名を言わずに使う事が出来る様になったのです。
『《ヒート・ブラスター》!』
『GYAAA⁉︎』
そして右から襲い掛かって来た斧持ちのゴブリンも、後方に居たフェイが放った熱線により消し飛ばされました。
…………後は、後方にいる弓とメイスを持った二体のゴブリンですが……。
「《スナイプ・ショット》!」
『GYU⁉︎』
弓を持った方はリーファさんが矢で眉間を撃ち抜いて倒しましたので、残りはメイスを持ったヤツ一体だけになりました。
『
何と、その最後に残ったゴブリンはメイスに業火を纏わせてこちらに突っ込んで来ました…………って、あれは姉様も使っている【
…………そして、その豪炎を纏ったメイスが私に振り下ろされ……。
「《ファントム・ステップ》……《ハートブレイク》」
『GYA…………⁈』
私がスキルを使って作った
そのまま、私は間合いを詰めて《ハートブレイク》──心臓部分を殴る事で相手を一定確率で即死させる【拳聖】のスキル──をゴブリンの胸に当てて、その息の根を止めました。
「……さて、これで地上の敵は片付きましたね」
「そうっすね。後は『GYAAAAA⁉︎』うえっ⁉︎」
地上の敵を片付けた私達の元に空から大ダメージを受けた一体の【パンプキン・ワイバーン】が勢いよく落ちて来て、そのまま光の塵になりました。
…………とりあえず上空を見てみると、そこでは三体程のボロボロなワイバーンを白い竜の姿をしたセレナさんが一方的に叩きのめしていました。
『遅い! 《レーザークロー》! 《レーザーバイト》!』
『GYEAAAAA!』
まず、ワイバーンよりも遥かに速い速度で接近したセレナさんが光を纏った前脚の爪でその一体を引き裂き、更にもう一体を光輝く牙で噛み砕きました。
…………それを見た最後の一体は慌てて逃げようとしますが……。
『逃すわけないでしょう? ……落ちなさい!』
『GAッ⁉︎ ……GUGYAAA⁉︎』
セレナさんにはあっさりと追いつかれて首根っこを掴まれ、そのまま地面に叩きつけられて光の塵となったのでした…………流石は光属性の純竜ですね、ワイバーン程度では相手なりませんか。
…………そのまま地上に降りたセレナさんは人型に変化してこちらに向かって来ました。
「ふう、あたりが暗いと《閃光集束》が使えない所為で、肉弾戦主体でやるしかないから時間がかかるわね。…………そっちは片付いたかしら」
「ええ、地上の敵は全員倒したのです」
「とりあえず、辺りに敵の気配はないっすよ」
そんな感じで、お互いの状況を確認し合います…………これまで何度も一緒に戦ったお陰で、彼女達とは結構仲良くなれたのです。
『それでダメージや状態異常を負った人はいるかい?』
「大丈夫ですよフェイ。攻撃は全て躱しましたから」
「当然問題無いわよ。あの程度の竜擬きに手傷を負う筈は無いわ」
「アタシは遠距離から撃っていただけなので大丈夫っす」
皆さん特にダメージは負っていないようですね…………今回は
…………全員問題無いとなったので、敵がドロップしたイベントアイテムを回収していきます。
「ふう、これで全部っすね。…………しかし、ミュウさん凄い強いっすね! これまで攻撃に全く当たっていないし!」
「大した事は無いのです。…………それに、あの程度の相手の攻撃を全て躱すぐらいなら兄様や姉様でも出来るのです」
「うちのマスターもそうだけど、人間って謙遜が好きなのかしら? …………私の視点だと、全員そこらの人間より圧倒的に優れていると思うのだけれど」
…………そんな風にお喋りをしていると、突如リーファさんが何かに気付いた様に顔を上げました。
「えっ! ……分かったっす! ……皆さん、どうやらウチのマスター達がイベントボスモンスターと遭遇して現在戦闘中みたいっす!」
「<
「いえ! 普通のボスモンスターみたいっす!」
「分かりました、直ぐに向かいましょう。……一応、兄様にも連絡しておきましょうか」
私は【テレパシーカフス】を使って兄様に手早く事情を説明して、援軍に来てくれる様に伝えておきました。
…………その間にセレナさんは竜形態に戻っていたので、リーファさんと一緒に急いでその背に飛び乗ります。
『それじゃあ、急いで飛んで行くからしっかりと捕まってなさい!』
「はいなのです!」
そして、私達を乗せたセレナさんは全速力でエルザさん達の元へ飛んで行ったのでした。
◇
数分程全力飛行を行うと前方数十メートル先に巨大な影が見えてきたので、セレナさんは空中にホバリングを行う事で一旦停止しました…………よく見ると、その影はドラゴンの様な形をしており地上に向けて炎を吐いている様でした。
そして、地上からも魔法などによる攻撃が行われているみたいです。
「見えて来たっす! アイツは……【グレーター・パンプキンドラゴン】と言うらしいっす!」
「……確かに頭部はカボチャですね。【パンプキン・ワイバーン】の上位種でしょうか」
そいつはカボチャの様な頭部を持つ全身オレンジ色をした体長三十メートル程のドラゴン──【グレーター・パンプキンドラゴン】という名前のボスモンスターの様です。
そしてソイツは地上に向けて口から炎を吐いたり、更に闇属性っぽい黒い弾丸で放ったりしている様です…………地上に居るらしいエルザさん達は障壁や土の壁でそれらの攻撃を防いでいる様ですが、結構押されている様なのです。
「あっ! マスターから連絡っす。……出来ればあのドラゴンの翼を攻撃して飛行能力を削いで欲しいって言ってるっす!」
「分かったのです。……フェイ、ここからでも必殺スキルの効果はエルザさん達に届きますね」
『ああ。パーティーを組んでいて僕達の知覚範囲内にいればね』
私達の必殺スキルはパーティー内の使役モンスターも効果範囲に含めるので、多くの仲間がいるエルザさんとは相性がいいでしょう。
「リーファさん、必殺スキルによる各種バフを掛けるのでエルザさんに伝えて下さい」
「分かったっす!」
『《
そして、私は必殺スキルを使いつつ各種バフスキルを自分にかけていきます…………現在エルザさん達が押されているのはイベントモンスターのスキルによる状態異常を警戒して防御に回っているからでしょうし、私の魔法耐性と【ハデスルード】の《霊環付与》掛ければ形勢は変わるでしょう。
「セレナさん、このまま突っ込んでヤツに組みついて下さい。その隙に私が翼を破壊するのです」
『まあ、これだけ強化が掛かっていればどうにかなるわね。……行くわよ! 掴まってなさい!』
「え? ……えわぁァァァ⁉︎」
その言葉を聞いて慌ててしがみついたリーファさんを尻目に、セレナさんは全速力で【グレーター・パンプキンドラゴン】に突撃してその身体に組み付きました…………向こうの方が三倍ぐらい大きいですが、不意をついた事と必殺スキルによる強化が合わさって一時的に相手の動きを止める事に成功しました。
…………そして、私はその隙にセレナさんの背からヤツの背に飛び乗り、その揺れる身体に合わせて上手く立ち回りつつヤツの翼の付け根まで全速力で走って行きました。
『《ミラクル・ミキシング》ー《ヒート・ブラスター》イン《シャイニング・フィスト》』
「《真撃》《シャイニング・フィスト》!」
『! GYAA⁉︎』
私はその付け根に向けて
…………ちなみに《ミラクル・ミキシング》による魔法付与の形は融合させるスキル次第ではある程度ならフェイが制御する事が出来て、今回は熱線の魔法を光の手刀に合わせてブレード状に展開した形になるのです。
『GYAAAAA⁉︎』
「よっと」
そして、片翼を破壊されたヤツは飛行を維持出来なくなったのか悲鳴を上げながら地面に落ちて行ったので、すぐに私もそこから跳躍して距離を取りつつ地面に降りて行きました。
「えっ! ちょ! おわぁ!」
『全く、捕まりなさい!』
…………急に落下した所為でリーファさんが空に投げ出される事もありましたが、セレナさんが上手くキャッチしてくれたのです。
そして、そのまま私達は地上に無事着地してエルザさんと合流し、体勢を崩していたヤツはそのまま地面に勢いよく激突しました。
「大丈夫ですか、エルザさん」
「ええ、ミュウさんが掛けてくれたバフのお陰で殆どのダメージはありませんよ。……それから、ありがとうございます、お陰で助かりました」
「回復がかなり厳しかったですからね。本当に助かりましたミュウさん」
エルザさん達の無事を確認すると、彼女とセリカさんからそんな風に御礼を言われてしまいました…………少し照れますね。
…………さて、後は地面に落ちたヤツを倒せば……! 殺気⁉︎
「エルザさん! 伏せて!」
「え?」
『BAWU!』
『KYU!』
急に強い殺気を感じ取った私はすぐさまエルザさんに警告を発し、それとほぼ同時に
…………その次の瞬間、その結界は
『《魔力視》! 《ホーリー・ブレッシング》!』
「そこですか!」
フェイが《魔力視》を使うと目の前にうっすらとした影の様なモノが見えたので、私は即座に《ソニックフィスト》を使って前方に踏み込みその影を殴り飛ばしました。
…………手応えはありますが、この感覚は《物理攻撃無効》を持つ霊体ですね。事前にフェイが霊体に対して物理攻撃を当てられる様になる効果を持つ《ホーリー・ブレッシング》を使ってくれて助かりました。
「一体何が⁉︎」
「どうやら新手の様ですね」
すると、目の前の影が徐々にその輪郭をはっきりとさせて行きました…………そして現れたその姿はカボチャ頭に黒いボロ切れを着て、その手には禍々しいオーラを放つ大鎌が握られていました。
…………姿形は【ジャック・オー・ランタン】に似ていますが、それよりも一回り程身体が大きく、発している殺気も比べ物になりません。
その考えを裏付ける様にソイツの頭上には【ジャック・デスサイズ・キラー】の文字が浮かんでいました。
「ボスモンスターがもう一体ですか⁉︎」
「その様です……ねっ!」
『──────!』
そうして姿を現した【デスサイズ】は驚いているこちらを無視して
しかしヤツは自分の攻撃をあっさりといなされた事に警戒したのか、一旦こちらから距離を取って様子を見始めました。
…………とりあえず、今の内にエルザさんと状況の確認をしておくのです。
「ふむ、能力も知性も【ジャック・オー・ランタン】とは比べ物になりませんね。……エルザさん、あの【デスサイズ】は私とフェイだけで相手をするのです」
「それは! ……いえ、分かりました。……私達が
私のその言葉にエルザさんは少し同様したみたいですが、すぐに現在の状況を飲み込んで【デスサイズ】とは逆の方向に向かいました。
…………当然そちらには……。
『GYAAAAAAAAA!!』
落下のダメージから回復して怒り狂った【グレーター・パンプキンドラゴン】がいました…………現在の状況はボスモンスター二体に挟まれているので、どうしても二手に別れないといけませんからね。
「【デスサイズ】はミュウちゃんに任せ、私達はあのドラゴンを倒す事に全力を尽くしますよ! ……みんな! アイツは二分で下します!」
「「「了解!」」」
そう言って、皆さんにはっきりとした指示を出したエルザさんは、仲間達と共にドラゴンとの戦闘に入りました。
…………しかし、成る程……。
「まだ会って間もない私を信じて、完全に後ろを任せてくれましたのです。…………いえ、だからこそエルザさんはあれだけ多くの仲間を得ることが出来たのでしょうね」
仲間に全幅の信頼を寄せて戦闘を任せるというのはなかなか難しい事ですが、彼女は当たり前の様にそれをやっているのです。
…………それに、信頼されるというのはとても嬉しいものですからね。
「さて、それでは私もその信頼に答えなければなりません……ねっ!」
『────⁉︎』
…………その直後、様子を見ていた【デスサイズ】が私を無視してエルザさん達のところまで行こうとしていたので、その進行方向に《アクセル・ステップ》を使って回り込み《ジャブ》と《ストレート》を叩き込んで迎撃します。
「……言っておきますが、私を倒さない限りはあちらには行けないのですよ?」
『──────』
私のその言葉に触発されたのか、或いは私の方を脅威に感じたのかヤツは大鎌を構えてこちらに向き直りました。
どうやら、あちらも戦闘を始めた様ですし…………それでは、こちらも仕合いましょうか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹&フェイ:決め技は技名を叫んだ方がいいかもと思っている
・騎乗時には【騎馬民族のお守り】を装備している。
・【魔拳士】の転職条件に『魔法系スキルの一定数取得』があったが、フェイの魔法ラーニングのお陰で達成した。
《シャイニング・フィスト》:【拳聖】の奥義
・光を纏った拳で相手を攻撃するスキル。
・攻撃動作が決まっている他の格闘系スキルと違い、拳を使うならジャブやストレートはおろか掌底や手刀でもスキルとして成立する特徴がある。
エルザ:カリスマ指揮官
・その戦いぶりは次回。
セレナ:肉弾戦もかなり得意
・《閃光集束》は光属性スキルを使用する際に周辺の光を集める事で消費MP・SPの軽減と発動までの時間を短縮化するスキルで、その特性上、光が少ない夜間では使えない。
・光属性の射撃と違い、自身の身体に光を纏わせる格闘用のスキルは即座に発動可能。
リーファ:探知役なので末妹に付けられた
・他にも姉妹の中では一番後に生まれたので経験を積ませる目的もあった。
サフィア:戦闘中は常時エルザの周囲に感知結界を敷いている
・今回使ったのは《マルチプル・バリア》という魔力で出来た障壁を自在に展開するスキルで、サフィアが持つ防御系結界スキルはこれだけ。
・だが、障壁を移動させたり、強度・形状を自在に変更できたり、自身の有するスキル効果(各種レジストや隠密系スキル)を障壁に付与したりも出来る希少な万能結界スキル。
・ちなみに用途が違う感知結界の方は《サーチ・フィールド》という展開した範囲に入った対処を感知し、その情報をある程度読み取るスキルが別に存在する。
【グレーター・パンプキンドラゴン】:イベントボスモンスターその一
・【パンプキン・ワイバーン】の上位種の【パンプキン・ドラゴン】の更なる強化種。
・口からの《カース・メガフレイム》と【呪詛】が込められた闇属性の弾丸を放つ《ブラック・バレット》による遠距離攻撃スキルを持つ。
・また、その巨体とステータスから格闘能力も高く、更に窮地に陥ると被ダメージ軽減と接触した対象に【呪縛】を与える効果を持つオーラを身体に纏う《呪怨竜気》というスキルを使ってくる
・ちなみにボスモンスターは<マスター>3〜4パーティーで相手をするぐらいを想定されており、倒すと大量のイベントアイテムをドロップする。
【ジャック・デスサイズ・キラー】:イベントボスモンスターその二
・【ジャック・オー・ランタン】の上位種だが大鎌による接近戦を主体とし、更に魔法や呪術スキルの代わりに非常に高い隠密能力や幻術スキルを持つ。
・大鎌の攻撃でダメージを与えた相手を一定確率で【即死】させる《キリング・デスサイズ》というスキルも持っている。
・ステータスはAGI極振りでそれ以外のステータスはボスモンスターとしてはそこまで高くない。
・イベントアイテムを多く持つ<マスター>を狙う性質がある。
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