色々な問題
□アルター王国北部 【
ミュウちゃんが超級職に転職してからしばらく、デンドロが始まってからこちら側の時間で一年が過ぎた頃、俺達は旅行の続きをする為にクレーミルを出て一路東へ向かっていた…………ちなみに、そのまま北西にあるルニングス公爵領に向かう案もあったのだが、『なんか東に行った方がいい気がする』というミカの鶴の一声でこうなったのだ。
今は【マグネトローべ】でクレーミルで買った新しい馬車(ある程度の速度を出しても大丈夫な頑丈なもの)を引いて、クレーミルから北東方向をミカの直感の導きに従って進んでいるところだ。
「それで? こっちで合っているんだよな? ミカ」
「うん、多分ねー。…………この先に何があるかは分からないけど」
「ですが、地図を見るとこの先はだいぶ濃い森になっているのです。このままだと、馬車が使えなくなるかもしれません」
ミュウちゃんの言う通り、この先にある森を馬車で進むのに難しいか。これ以上進むなら馬車を閉まって徒歩で行くか【マグネトローべ】で空中を進む事になりそうだ。
…………幸い偶に出て来るモンスターは俺とフェイの援護を受けた
「しかし、ミュウちゃんは超級職に就いてから大幅にパワーアップしたよね」
「確かに、動きのキレが上がっている感じがするな」
「それはアスカ氏が教えてくれて【
そう、喜ぶべき事に先日ミュウちゃんは去年の事件から疎遠になっていた友達との和解に成功したのだ…………ちなみに事情を聞いた俺とミカは大喜びして、その晩叔父さん叔母さんと一緒にパーティーを開いたりもした(尚、少しはしゃぎ過ぎた所為でミュウちゃんからは若干引かれたが)。
…………それに、あの事件を阻止出来なかった事は俺とミカもかなり気にしていたから、これで心のしこりが大分取れたかな。
「レベル上げも兼ねたこれまでの戦闘で【武闘姫】の特性やラーニングしたスキルの使い方も大分把握しましたから、これからはもっとパーティーの戦力になれるのです!」
「…………これまでも充分に戦力になっていたと思うが」
まあ、ミュウちゃんが喜んでいる様だし良しとしようか…………問題は俺の事なんだが。
「これで超級職を取っていないのは俺だけか。…………俺も何とか超級職を取れたらなぁ」
「お兄ちゃんは【
『そういえば、最初に試練に挑んでから以降の様子は聞いていないね』
…………つい愚痴が口をついてしまったが、そこを聞いてしまうかミカとフェイよ。
「別に何か伝える程に進展がある訳じゃないからな。…………毎回、瞬殺されているだけだし」
「…………一応相談に乗りましょうか、兄様? 私達でも何か力になれる事はあるかもしれませんし」
「そうだね! 一人で悩んでいると行き詰まる事も多いから、話をするぐらいはした方がいいんじゃないかな?」
そこまで言うなら話そうか…………と、言っても何から語るべきか……。
「じゃあ、まずは先代【技神】アバターのスペックについてだな。…………これまでの戦闘経験から、あのアバターのスペックはオリジナルと比べると『心技体のうち心が無く、技は劣化していて、同じなのは
「つまり、相手はこちらの事を常に初見の状態という事ですね」
「そういう事だな」
なので、有効な手段があれば次回以降の挑戦でも攻略手段の一つとして使えるという事になる…………問題は、その有効な手段を未だに発見出来ていない事だが……。
…………一応、最初の頃と違ってステータスが上がって動きにも多少慣れてきた今なら、
「初太刀以外?」
「ああ、最初に鞘から抜刀する時だけ相手のAGIが桁違いに上がっているみたいでな、多分百倍ぐらい。…………後、遠隔斬撃の正体は刀身をオーラっぽいもので伸ばしている事が分かっている」
「それは、多分抜刀術系のスキルだと思うのです。…………クラスメイトの子が『天地には抜刀時にAGIを増加させるスキルがある』と言っていたので、おそらくその系列にある超級職のスキルでしょう」
多分ミュウちゃんの言う通りだろう…………なので、初太刀だけは【救命のブローチ】で凌ぎその後の攻撃は短剣で凌ぐ形で、相手の攻撃を五回ぐらいまで防げる様にはなったんだが……。
「そうやって防いでいる隙にいつに間にか接近されて、気づいた時には身体を両断されている……というのが最近のパターンだな。…………先代【技神】さんの剣技は、遠隔斬撃と刀の間合いでの斬撃を比べると天と地ぐらい差があるからなぁ。遠隔斬撃を防ぐのもギリギリなのに、接近されるとなすすべが無く一太刀で真っ二つにされる」
「…………つまり、遠隔斬撃は接近する為の布石でしかないという事ですか」
そういう事だ…………最も、その布石ですら気を抜けば一瞬で即死する攻撃なので、遠隔斬撃を凌ぎながら先代【技神】の接近を妨げる事は今の俺には不可能だが。
…………おそらく、この試練は『ミュウちゃんクラスの才能の持ち主が複数の超級職に就いている』事が前提条件なんだろう。俺も色々と工夫をしてはいるんだが……。
「一応前回の試練では【
「うーむ……自爆カウンターもダメか」
「そもそも、超級職に複数就いているという事はステータスも相応のものでしょうし、上級職の奥義ぐらいで倒せるのでしょうか?」
多分、ステータスも平均数万はあるだろうし無理(断言)…………ステータス・スキル・技術に差がありすぎて今のところどうしようもないんだよなぁ。
後は、前回の試練の後に解放された【マグネトローべ】の
…………さて、色々と話したお陰で考えも纏まったし、この話はここまでにして話題を変えようかな。
「まあ、1パーティーに超級職が集まっていると色々悪目立ちするみたいだし、俺が超級職を取るのはもう少し後でもいいさ」
「まあ、デンドロが始まって現実ではまだ四ヶ月ぐらいだから、この時期に超級職を取った人間はどうしても噂になっちゃうしね。…………超級職を独占しているとかいちゃもんをつける奴も居たし」
『それでPKまでしようとする人も居たから、嫉妬って怖いね。…………まあ、全員返り討ちにしたけど』
「他人に嫉妬する程度の有象無象に負ける程、私達は弱くないですからね」
つまり、クレーミル滞在中にそんな事もあってちょっと居づらくなった事と、そこで起きた色々なイベントのせいで滞在期間が長くなっていた事が街を出ようと思った理由になるんだよな…………まあ、ティアンはマリアさんの様な良識的な人物が殆どだったし、<バビロニア戦闘団>の皆さんもフォローしてくれたから、そこまで問題にはならなかったが。
…………そして、話を続けるうちに、ミュウちゃんが
「…………後、私達に取材の依頼が来た事には驚きましたね。確か
「そうだねー。確かリアルで作家をやっていて、自分の作品の材料を探すためにデンドロをプレイしているんだってね」
…………そう、先日俺達の元にエフと名乗る<マスター>が『各地で様々な事件を解決しており、この<Infinite Dendrogram>でも希少な超級職に就いている貴方達に是非取材がしたい』と依頼して来たのだ。
その際に向こうから提示された報酬が非常に高額だった事と、ミカの勧めがあった事もあって俺達は彼の依頼を受ける事にしたのだ…………取材自体はごく普通で俺達が遭遇した事件の事を聞かれるぐらいだったし、こちらが話せない事についても多少聞き返されたぐらいで深くは聞いて来なかったので、その取材自体は普通に終わったんだが……。
「それでミカ、お前はエフ氏を
「うん、あの取材
「成る程。…………では、先程からずっと上空でこちらを見ている
…………俺達が街を出てからしばらくした時、ミュウちゃんが上空から視線を感じたので《第六圏》──ラーニングしたスキルの一つで周辺の気を読む感知スキルらしい──を使ったところ、上空に不可視の球体が浮いている事を感知したらしい。
一応、俺の風属性感知魔法や、ミカの《竜意圏》でも三つ程の球体が上空にある事を確認しており、更に《魔力視》などで調べたところ光属性の光学迷彩魔法で姿を消していると推測出来た。
『それで? その球体は放置していていいのかい?』
「今のところ危険は感じないし放置で。…………多分、破壊しても意味がないと思うし」
「まあ、本体をどうにかしないと変わりを送ってくるだけだと思うのです。…………彼は、自分の目的の為なら手段を選ばないタイプに見えましたし」
「光学迷彩を使っている事と、さっきからの会話に対して反応が無いところを見ると、おそらくは光属性の<エンブリオ>だろうから音までは拾えていないと思う。一応、読唇術とかで会話の内容を悟られない様に位置取りには気をつけているしな」
なので仕掛けて来たら返り討ちにするというのが、今のところの基本方針になっている…………念の為、光属性耐性を上げる《シャイン・レジスト》の【ジェム】は全員に持たせているしな。
…………問題は……。
「この先で起きるトラブルでちょっかいをかけて来る事だな。…………ミカ、この先で起きる事件はどのくらいの規模かわかるか?」
「うーん……はっきりとは解らないけど、
…………それは物凄くヤバイ事件じゃないか? あの【ハデスルード】は事前に一番弱い時を狙い撃ちにしたからどうにか出来た様なものなんだが……。
「では、彼はさっさと始末した方がいいですかね? …………彼の目を欺く方法はありますし、時間をかければ上の端末から《第六圏》で位置を逆探知できそうですなので、でき次第ちょっと行って来ますか?」
『以前、目を誤魔化すのに丁度いいスキルをラーニングしたしね』
「それは待ってね、二人共。…………多分、まだ始末はしない方がいい気がするから」
なんか、妹達が非常に物騒な話をしているのは聞かない事にしよう…………と、思ったその時、進行方向上の森の奥から
「む! お兄ちゃん、馬車はお願い! 多分、あっちに行った方がいい気がする!」
「姉様! 私も行きます!」
その悲鳴を聞いたミカはそう言って即座に馬車を降り、悲鳴が聞こえた方向に超音速で駆けていき、更にミュウちゃんも肩にフェイを乗せてミカの後を追って走っていった。
「さて、俺もさっさと馬車を仕舞って後を追うか。…………頼むぞマグネトローべ」
『────』
二人が走り去ってから直ぐに、俺は馬車を手早く仕舞って【マグネトローべ】に乗り空を駆けてその後を追った。
◇◆◇
□◾️アルター王国北部 【
三兄妹から数百メートル程離れた森の中、そこには片目を瞑った一人の男が居た…………ただし、その瞑ったままの片目には数百メートル先に居るはずの三兄妹の馬車を上空から見た光景が写っていたが。
…………彼の名前はエフ。以前に三兄妹を取材した<マスター>であり、その目に写されている光景は三兄妹の上空に光学迷彩状態で滞空させている球体──彼の<エンブリオ>【光輝展星 ゾディアック】によって視覚スキルを遠隔発動させる事によって実現している。
(ふむ、今のところ彼等が事件に遭遇した様子はありませんね。…………道中のモンスターは亜竜級であっても瞬殺されていますから
彼が三兄妹について知ったのは、取材の為に王国内を散策している最中に『王国内で様々な事件を解決している三人組がいる』と言う噂を耳にした事がきっかけである。
そして偶々クレーミルに立ち寄っていた際に超級職騒動で目立っていた三兄妹を見つけて、もしかしたら噂の三人組ではないかと
(咄嗟の思いつきでしたし報酬もかなりかかりましたが、王国で噂になっていた事件の詳細も知る事が出来ましたし、取材を申し入れたのは正解でしたね。…………何より取材時の彼等の発言や事件への遭遇する頻度及びその解決速度、後は勘になりますがおそらく
…………なので、こうして追跡していれば、今まで見た事がない事件の光景を目にする事が出来るかもしれないと彼は考えているのだ。
(まあ、たとえ意図的ではなく偶然であったとしても事件が起きてそれを見れれば良いのですし。…………事件が起きない様ならばこちらで起こしてしまえば、未だに貴重な超級職<マスター>の戦いを見る事が出来るでしょうしね)
…………同時にそんな物騒な事も考えながらエフは三兄妹の
そして、それとほぼ同時に馬車に乗っていた二人がそこから飛び降り超音速で音が聞こえた方向へと駆けていき、更にそれを追ってレントが機械馬に乗って空を駆けて行く光景がその目に映った。
(ふむ、どうやら何かが起こった様ですね。…………さて、彼等はどんなリスクを私に見せてくれるのでしょうか)
…………そう考えながら、エフは【ゾディアック】を動かして彼等の後を追わせつつ、自身も爆音が聞こえた向けて足を運んだのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:本編では描写されていないが【技神】の試練は何度も行なっている
・その所為かジョブ構成が鉄砲玉みたいになり始めている。
【突撃騎兵】:騎兵系統上級職
・【騎兵】の上級職の一つでステータスはHP・STR・ENDが伸び、騎乗しながらの突撃時の攻撃力強化や速度上昇、衝突時の反動軽減のスキルを取得出来る。
・主なスキルは『突撃時の攻撃力に“突撃時における騎乗対象のAGI×スキルレベル×10%”を加算する』パッシブスキル《騎乗突撃》など。
・だが、スキルの効果が『突撃する為に加速してから、短距離直進し、減速して元の速度に戻るまで』の間しか発揮されないので、常時速度を上昇させられる【疾風騎兵】などと比べると人気が無い。
・兄は【マグネトローべ】が取得した新スキルとの相性もあってこのジョブを選択した。
妹:今回はかなりシビアなので、その直感で色々と調整している
・ちなみにエフとの取材で『どうして多くの事件と遭遇しているのか』と聞かれた時には『勘で嫌な感じがしたところに行ったらたまたま事件が起きた』と普通に答えている。
・彼女は基本的に自分の直感を公言する事は無いが、それ必要だと“直感”すれば他者に明らかにもする。
末妹:大幅にパワーアップ
・ちなみに【武闘姫】のステータスはSP特化で、それ以外はLUCを除いたステータス(MPを使う格闘系スキルに対応する為)が満遍なく伸びる……が、ラーニング特化のジョブの為、個々のステータスは前衛系超級職としては低い。
・また、アスカ氏は実戦指導の際に自身が覚えている有用なスキルはきちんと解説していたので、末妹がラーニングしたスキルは“パッシブスキル含め”結構多い。
・……と、言うか最も強化されたのはアスカ氏との戦いを得て磨かれた戦闘技術だったりする。
《第六圏》:【武闘姫】でラーニングしたスキルの一つ。
・SPを消費してスキルレベルに応じた範囲内の気を読んで周囲を把握するスキルで、発動中は範囲内での《殺気感知》や《看破》などの感知・知覚系スキルの効果を上昇・拡大させる効果もある。
・これらのスキルを併用しつつ集中した上で相応のスキルレベルや技量があれば、周りで発動しているスキル効果や生物の意思の動きなどを感知したりも出来る。
・このスキルは、かつてアスカ氏が黄河に行った時に遭遇した気功型格闘系スキル特化超級職【
エフ:現在三兄妹を追跡中
・三兄妹が追跡に気づいている事は察しているが、それはそれで良い材料になると思っている。
・取材の時の妹の発言については《真偽判定》を誤魔化す為のものか、それとも本当かは半信半疑なので今は何もせずに観察中。
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