とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

84 / 88
前回のあらすじ:兄「相打ちだけど勝ったぞ! 第十二章完!」


それでは本編をどうぞ。


終幕・そして……

 □クリラ村周辺森林部 【武闘姫(マーシャルアーツ・プリンセス)】ミュウ

 

 あの後、残っていたモンスター二体を倒した私達は、急いで兄様達と合流する為に森の中を移動しています…………徒歩で。

 

『済まないな、あの戦いで鎧になっていた【ヘルモーズ】が損傷してしまって』

「いえいえ、ライザーさんの援護が無ければ私は死んでましたし」

「べフィも薬の副作用がまだ抜けてないからね。…………ていうか、回復スキル持ちのべフィですら薬が抜けるのに時間がかかるとか……」

 

 ライザーさんの<エンブリオ>ヘルモーズは先程の戦いで鎧として装着されていたのでダメージが酷く、アマンダさんのベヒーモスは例の【精神興奮剤・ファイト一発タイプⅢ】の副作用が抜けきらなかったので紋章の中で休んでいるのです…………ちなみにライザーさんの副作用はクールタイムが回復した【ハデスルード】の《霊環付与》を掛けた上で、回復魔法を併用してどうにか動けるまで回復させました。

 …………どうやら、薬の副作用であるからか非常に回復させ難い様なのです。

 

「さて、そろそろ範囲内だろうしシエスタのやつに連絡するか…………あーもしもし、シエスタ? コッチはそろそろ合流出来そうだ……」

 

 私達が戦闘地点に近づいて来たところで、いきなりアマンダさんが耳に手を当てて話し始めました…………こっそりライザーさんに話を聞いてみると<バビロニア戦闘団>には念話使いの人が居て、その人に連絡を取っているのだと教えてくれました。

 

「…………ああ、分かった。私達も直ぐに合流するよ……どうやら【ギガキマイラ】と【アニワザム】はもう撃破されたみたいだ」

「それは良かったのです! とりあえず、これで今回の事件は解決したと言うことですね!」

 

 そう言った私に対し、アマンダさんはやや気まずそうな顔をして言葉を続けた。

 

「ただ…………その戦いでレントとミカがデスペナになったみたいなんだよ……」

「そうですか…………まあ、兄様と姉様は切り札が自爆気味のモノですからね、そうなるのも仕方ないでしょう。…………それより、他に犠牲は出たのですか?」

 

 私がそう聞き返したら、アマンダさん達は少し驚いた様な表情になりました。

 

「あっ、ああ……デスペナになったのはその二人だけで、戦闘団や騎士団の方には死人は出なかったみたいだ。それと封竜王も無事らしい」

「それは良かったですね。古代伝説級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>が二体も出たのに、ティアンの犠牲を出さずに解決出来たのなら上出来でしょう」

 

 と言うか、姉様が“自分と兄様は今回高確率でデスペナになる”と事前に伝えていましたからね…………それに、この世界は私達(<マスター>)に取っては()()()()()()()ですからね、死んでも次があるのですよ。

 …………まあ、この辺りの意見は人によって違うでしょうし、あまり深くは言いませんが。

 

「まあ、大丈夫ならいいんだよ。…………仲のいい身内がやられると仇討ちに行くタイプもいるからね」

「私は“あくまでゲーム”と割り切っていますから。…………敵がまだ残っているなら敵討ちぐらいはしますけどね」

 

 そんな会話をしつつ、私達は合流地点に急ぐのでした。

 

 

 ◇

 

 

 そうして、私達は森の外に出て<バビロニア戦闘団>本隊と騎士団、そして封竜王さんと合流出来たのでした…………しかし、周囲の地形がかなり荒れ果てていますね。激戦だった事が伺えるのです。

 

『団長、ただいま合流しました』

「おお、ライザー! それにアマンダとミュウちゃんも、今回は助かったよ。君達が精神操作を行っているヤツを倒さなければ、こちらはやられていただろうからね」

「本当に助かりました」

 

 そんな感じで合流した私達はフォルテスラさんやリリィさん達に凄く感謝されました…………どうやら、私達も今回の事件の解決に役だった様で良かったのです。

 …………あ、そうでした。

 

「リリィさん、フォルテスラさん、事件は解決しましたが、この後は何をする予定なのです?」

「え? …………事件は解決しましたし怪我人も回復し終わりましたから、クレーミルにいるリヒト団長と合流して今回の報告と事後処理を行う事になるでしょうね。一応、事件解決の事は先に連絡し終えましたが」

「俺達も騎士団と一緒にクレーミルに戻る予定だが」

 

 なるほど、後はもう事後処理だけみたいなので、私に出来る事はもう無さそうですね。

 

「じゃあ、私はそろそろお暇するのです。クエストの報酬はまた後日改めて…………確か二人のデスペナ開け地点はクレーミルになっていたはずなのでそこで受け取るのです」

「あっ、ああ……しかし何か用事でもあるのか?」

「いえ、用事は有りませんが…………母様にこちらに訪れるなら兄様か姉様と一緒で無ければダメだと言われているので、二人がデスペナである以上はあまり長居は出来ないのです」

 

 そう事情を説明すると皆さんわかってくれた様で『後日、二人のデスペナが開けたらまた会おう』ということになりました…………ただ、姉様の方はデスペナ三倍のデメリットが有りますから兄様と一緒になりそうですが。

 

(おっと、その前に封竜王さんに挨拶をしておきましょうか。…………少し()()()()()()()()()()()()()()()()()も有りますし)

 

 そうして周囲を探ってみると、人化している封竜王さんがシュウさんと話しているのを見つけたので、私はそちらに向かいました…………途中でエフさんも見つけましたが、凄く良い笑顔で手に持ったメモ帳に何かを書き込みまくっていたので、そっとしておきましょう。

 

「おや、ミュウちゃん。何の様かな?」

「そろそろお暇しようと思ったので、その挨拶に。…………それと少し聞きたい事があったのですが、大した話でも無いのでダメそうなら別にいいのです」

『いや、そっちが先でも構わないガルよ。…………今話していたのはこの事件の()()についてガル。多分、そっちも似た様なものじゃ無いかガル?』

 

 …………確かに、私が聞きたかったのはその黒幕さんの事なのです。とりあえず、こちらが話したかった情報から先に言っておきますか。

 

「私が戦った【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】には、【アニワザム】への精神干渉とは別にもう一つ精神に働きかけるラインがあったのです。そちら側は隠蔽が強くて詳細は分からなかったのですが、相手の言動や行動からあのホムンクルスも何者かの配下だろうと思うのです」

『成る程ガル。…………封竜王さんは何か心当たりがあるガル?』

「済まないが、私が知る限りではそんな事をしそうな者に心当たりは無いな。…………()()()()()問題なんだが」

 

 …………そう言った封竜王さんは難しい顔をして話を続けました。

 

「これでも、私は“三強時代”から生きているそれなりに古参の<UBM>で、昔は世界中を旅していたりもしていたからそれなりに強者の情報を知っている。だが【アニワザム】…………私より古くから存在している古代伝説級最上位の<UBM>を支配下に置ける様な相手には心辺りが無いんだ」

『…………それだけの相手にも関わらず、一切の情報を出していないって訳か』

「そして、クリラ村を狙って来た事と高位ホムンクルスの存在から考えて、あの【ギガキマイラ】を作ったのもその黒幕である可能性が高い」

「あのホムンクルスは最後証拠隠滅の為に自爆しました…………逆に言えば、あのレベルの配下を実質使い捨てにしたとも考えられるのです」

 

 …………こうして並べ立てると、その『黒幕』のヤバさが際立ちますね。

 

「十中八九、黒幕は()()()()()のバケモノだろう。…………だが、それ故に気掛かりな事もある」

『ここまでまともな情報を出して来なかった黒幕が、どうして今回はここまで派手に動いたのかガルね。…………と言うか、それだけの相手がやったにしては今回の事件は余りに杜撰過ぎるガル』

「姉様の直感混みにしても、少しうまく行き過ぎですからね……」

 

 そもそも『存在を知られていない』という事自体が凄いメリットなのに、今回は存在を知られても構わない様な動きをしているのです…………本当に古代伝説級<UBM>二体と高位ホムンクルスを使い潰してまで一体何がしたかったのでしょう。

 

『正直、黒幕の情報が少なすぎて断言は出来ないが…………近くに行動を開始するから、もう身を隠す気は無くなったとも考えられるガル』

「その可能性はあるか…………目的が読めないのが怖いが、下手に首を突っ込んでも返り討ちに合いそうだし……」

「向こうが動かない限りはどうしようも無い感じですかね」

 

 これ以上話していても拉致があかなさそうだったので、封竜王さんが他の人達にも注意しておくという事になって私はログアウトしましたが…………いつか、何かの事件が起きるのは確実でしょうかね。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ◼️とある遺跡深部 【完理全脳 アークブレイン】

 

『…………【十狂混沌 ギガキマイラ】【魔鉱蚯蚓 アニワザム】【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】の撃破を確認。複製脳との集積データ解析・考察を実行』

 

 とある場所に存在する遺跡の最深部、そこでは今回の事件の黒幕である【アークブレイン】が自身の複製脳との思考会議を行っているところだった。

 …………ちなみに思考会議の際には意見・考察に幅を持たせる為、各々の複製脳には擬似的に人格を与えている。

 

『第二目標“【ギガキマイラ】の制御”は失敗…………その上、【アニワザム】や【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】も撃破された』

『【アニワザム】は討伐される事が前提だったとは言え、こちらの想定よりも遥かに早く倒された…………劣化“化身”への脅威度を上昇させておくべきか』

『データによると【ギガキマイラ】【アニワザム】の特典武具を確保したのは、以前【マグネトローべ】を撃破したのと同じ劣化“化身”の様だが』

『その劣化“化身”達のデータは優先度高で検証中です』

 

 その場所に並ぶ無数の脳による《超並列思考》が行使され、更に《ハイパーデータリンク》と《超高速演算》を駆使して今回の事件で得られた情報を超高速で精査していく。

 

『【アニワザム】の撃破に関しては精神干渉が不完全だった所為で本来の性能の半分も出せなかった事と、こちらが目的の為に意図的に戦況を引き延ばした事もあったからだろうが……ホムンクルスの方の補足が早すぎるな。高レベルの隠蔽装備と《魔法発動隠蔽》を併用していた筈だが』

『解説出来た範囲だと【武闘姫】の劣化“化身”は《第六圏》をラーニングしていた様だ』

『【武仙】のスキルか……あのジョブはリソースの運用に特化しているからな。リソースの直接感知では殆どの隠蔽は意味を成すまい』

『初期型とはいえパワードスーツを装着した高位ホムンクルスを撃破しているからな、戦闘能力も侮るべきではなかろう』

『【アニワザム】とのラインは感知されたが、こちらとの《ハイパーデータリンク》はどうだ?』

『計算によると、存在する事自体は感知されただろうがこちらの位置までは分からない筈だ』

『元より多少の情報露出は想定内であり、時期が来るまで劣化“化身”にこの場所が探知されなければいい』

 

 その絶対的な演算能力と解析能力で、あの場所に居た<マスター>の能力を始めとする様々な情報を次々と明らかにして、更に思考を推し進めて行く。

 

『二体の<UBM>の早期討伐については、事前に襲撃を行った所為で防衛体制が整っていた事も原因では?』

『それもあるだろうが……やはり、<UBM>は戦力として安定しない事の方が問題だろう。【ギガキマイラ】に関しては理性がない所為で力押ししか出来ず、スペック以下の性能しか発揮出来ていなかったからな』

『【アニワザム】も【寄生型ナノマシン】だけでは制御出来ず、適時精神干渉魔法を使わなければ支配下に置けない所為で外部派遣にはホムンクルスを同行させざるを得なかったからな。……正直、<UBM>の精神支配はリソースを食うから効率が悪い』

『伝説級<UBM>一体を精神支配するよりも、初めからこちらに従う様に調整された高位純竜級モンスターを十体程作って運用した方がコスト・戦力共に上回るだろう』

『そもそも、私達にとって<UBM>と言うのは“技術蓄積の為の試作機”でしか無いのだからな。以前の【マグネトローべ】も騎乗運用前提のモノを無理矢理改造した所為で機体バランスが悪化し、内包リソースでは古代伝説級を目指せたのに結局は伝説級止まりだったからな』

『【アニワザム】を討伐前提で送り出したのも、目的以外にこれ以上の維持はコストとメリットの釣り合いが取れない為でもあったからだし、むしろ隠密行動用のホムンクルスがやられた方が損失としては大きいだろう』

『【エターナ・レイ】の様にこちらと利害が一致していて、かつ技術的な再現が難しい<UBM>など殆どいないだろうからな』

 

 彼等はそうやって何千・何万といった情報が《ハイパーデータリンク》を介して複製脳同士を駆け抜けさせて、そこから更なる思考を展開する事を延々と繰り返しているのだ。

 …………そして、その思考は今回の事件の()()に移って行った。

 

『第二目標の方は失敗したが、幸い第一目標──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()U()B()M()()()()()()()()自体は成功している』

『【ギガキマイラ】の《餓狼暴食》、【アニワザム】の《魔鉱之王》の戦闘時のデータは集積し終わっている』

『出来ればもう少し長く戦って貰ってデータを集めたかったところだが……まあ、最終調整の為のデータは既に集まっていたし、今回のデータが無くても何とかなるが』

『今回の作戦の目的は実戦データを多く集める事で“計画”の精度を上げる事だからな。収集されたデータが多少少なかろうと“計画”そのものには影響はない』

 

 つまり彼等【アークブレイン】が今回の事件を起こしたのは、とある“計画”に必要なデータを集める事が最大の目的だったのである。

 …………そして、その“計画”と言うのは……。

 

『とにかく今回の作戦で得たデータによって、漸く“計画”──()()()()()()()()()()()()()()()()1()0()0()()()()()()計画の最終調整段階に入る事が出来る』

『それに必要な膨大なリソースをどうにかする為に、外部のリソースを自身の物にする<UBM>のデータが必要だったのだから……我等は人工物であり他の<UBM>を打倒する機会も少ない所為で、自己進化には特殊な方法が必要だからな』

『その為の準備には長い時間が掛かったが、既に最終調整段階……先の作戦で集まったデータがあれば、後数年で作業は終了するだろう』

 

 そう、自身を<イレギュラー>の領域にまで進化させる事である…………そして、その為の作業はほぼ終了しており、残すは最終調整のみという段階に入っているのだ。

 

『こちらをモニターしているであろう進化の“化身”は今のところ行動を起こして来ない』

『以前から偽装として“我々が只のシェルターを守る神話級<UBM>である”と思わせられる部分の情報に見抜かれる事を前提とした旧式の対“化身”用隠蔽結界を、この思考を含む“計画”を司る重要部分の情報には大幅に強化された隠蔽結界を張っている』

『これにより進化の“化身”は未だに【アークブレイン】が只の神話級<UBM>だと思っている筈だ』

『劣化“化身”達が現れる様になる前後からヤツ等の行動形式に変化がある様だから、それが原因かもしれないが』

『どちらにせよ、我等とこのシェルターの存在に気付かれた時点で進化を実行に移す必要があるだろう。現在の状態でも90%程度のスペックは出せる筈だ』

『なるべく完全な形で進化を行いたいがな。故に作業を急ぐとしよう。…………思考終了。それに基づく各種作業を続行せよ』

 

 そうして、実時間では数十秒程度で【アークブレイン】達の思考は終了して、再び自身の戦力強化の為の各種作業に入っていった。

 

『全ては“化身”を打倒し、彼奴等がこの世界で成そうとしている悪事を打ち砕く為に』

 

 …………彼等【アークブレイン】はこの遊戯の世界(<Infinite Dendrogram>)を破壊する為に作られたのだから……。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

末妹:懸念はあるがとりあえずログアウト
・その後、現実で兄妹と懸念について話し合ったが『今のところは出来る事が無い』という結論になった。

騎士団:この後も事後処理で忙しい
・尚、今回あまり出番が無かったリヒト団長だが、彼がクレーミルでクリラ村避難民の住居などの確保に動いていなければ避難が間に合わずティアンに被害が出ていた(その為に現在三徹中でこの後は事後処理に掛り切り)。

バビロニア戦闘団:騎士団が忙しすぎるので報酬の受け取りは後日になった。

エフ:今回の事件を一番満喫した人
・あの後、今回の取材内容を全力でメモに取ってからホクホク顔でログアウトしていった。

シュウ・スターリング:クエスト報酬の半分ぐらいが今回の弾代に消えた
・更に後日、ちゃっかり妹のDNAデータを入手していたゼクスと戦う事になった模様。

【封竜王 ドラグシール】:一応、クエストの報酬はちゃんと用意してある。
・黒幕については独自に調査を行う模様。

【完理全脳 アークブレイン】:主な目的は自身の進化の為のデータ収集
・元の計画では制御下に置いた【ギガキマイラ】と【アニワザム】暴れさせてデータ収集を行う予定であり、二体が討伐される事も織り込み済み。
・計画が最終段階にきた為、多少の情報露出をは覚悟して今回の計画を実行に移した。
・周到な偽装工作の所為でジャバウォックは【アークブレイン】の<イレギュラー>進化計画には気付いていない。


読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。