とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

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お待たせしました、新章開幕です。


アルター王国一周旅行・ようやく東へ
リザルト


 □地球 加藤(かとう)(れん)

 

 クリラ村で起きた【ギガキマイラ】【アニワザム】との戦いから現実の時間で二十四時間経っ頃、漸くデスペナが開けた俺は由美(ゆみ)ちゃんと一緒に<Infinite Dendrogram>にログインしようとしていた。

 ちなみに美希(みき)は必殺スキルのデメリットの所為で、lまだデスペナが開けていないので部屋のソファーの上で不貞腐れている。

 

「うだー! デスペナ三日は思ったより長〜い!」

「おいたわしや、姉様……」

「仕方あるまい、そう言うデメリットだからな。だからあんまり喚くな、近所迷惑になるだろう

 

 しかし、たった三日デンドロが出来なくなるだけでここまで騒ぐとは、俺達もすっかりヘビーゲーマーになったもんだなぁ。

 

「ハァ……。まあ、しょうがないから部屋に戻って宿題でもしてるよ。…………ああ、私の分のクエストの報酬も一緒に受け取っておいて良いよ」

「分かったのです、しっかりと貰って置くのです」

 

 そう言って、美希は自分の部屋へと戻って行った…………さて、じゃあこれからログインして諸々の報酬を貰いに行きましょうか。

 

「確か、クレーミルにある騎士団の詰所に行けば良かったんだよな」

「はい、前回ログアウトする前にリリィさんからそう言われましたのです。…………後、封竜王さんも報酬を用意しているとの事なのです」

 

 何分、俺達は以前さっさとログアウト(デスペナ)してしまったからな、その後の顛末も気になるしログインしたら真っ先に向かう事にしようか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □城塞都市クレーミル 【突撃騎兵(チャージライダー)】レント

 

 そんな訳でクレーミルのセーブポイントからログインした俺達はそのまま騎士団の詰所へと向かい、そこに居たリリィさんとリリアーナさんに再開した。

 そして、そこの一室であの事件の顛末を聞きつつクエスト達成、及び<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>討伐の報酬を受け取る事になった。

 

「はい、ではこちらが今回のクエストの報酬になります」

「ありがとうございます。…………結構な大金ですね」

「クエストの報酬と【ギガキマイラ】【アニワザム】の懸賞金を含めた物ですからね」

 

 ちなみに、古代伝説級二体を大した被害も無くと討伐したという事で、リヒトさんが方々に掛け合ってクエストの報酬にはかなり色を付けてくれた様だ…………後、事件の時に居た他のメンバーへの報酬の受け渡しは既に終わっているとの事。

 せっかくだし、そこまでしてくれたリヒトさんにも挨拶がしたかったのだが……。

 

「申し訳ありません。…………今、リヒト団長は奥で眠ってるんです」

「…………何かあったのです?」

 

 まさか、また事件が起きたのか? …………と思ったが、二人の様子を見ると、どうやらそういう事では無いらしい。

 

「いえ、単なる過労です。…………リヒト団長はここ最近クリラ村の問題でまともに寝ていませんでしたから」

「五日程徹夜で働いたところで治療班からストップがかかりました」

「それは……お大事になのです」

 

 詳しく話を聞くと、彼はクリラ村住民の避難に彼等のクレーミルでの住居の確保などの指揮をほぼ休み無しで行なっており、更に【ギガキマイラ】【アニワザム】の襲撃時には王都へと連絡しつつ、クレーミルで可能な限りの戦力を集めて援軍に行こうとしていたらしい。

 幸い援軍を集めるまでに決着はついたらしいのだが、今度は事件の各種事後処理や参加した<マスター>への報酬の用意などで働き詰めだった模様…………そりゃあ、ドクターストップも掛かるだろうな……。

 

「…………それは働きすぎなのでは?」

「…………リヒト団長は指揮や事務仕事に関しても非常に優秀なので、こういう時だと仕事量が増えるんですよ」

「父う…………近衛騎士団長も『アイツは真面目に働き過ぎるのが唯一の欠点だからな』と言っていましたし……」

「出来れば彼にも挨拶をしたかったが…………そう言う事情ならやめて置こうか」

 

 …………そんな風に俺達が話していた時、突然部屋の扉がノックされた。

 

「済まない、封竜王だが。レント君達に報酬を渡しに来たんだが」

「は、はい! 今開けます!」

 

 そうして、リリアーナさんが開けた扉から人化した封竜王さんが部屋の中に入って来て、気さくな様子で俺達に挨拶をして来た。

 

「やあ、レント君とミュウちゃん。約束通り報酬を持って来たよ、はいこれ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 そう言った封竜王さんは懐から一つのアイテムボックスを取り出して、そのままこちらに手渡して来た…………多分、この中身が報酬なんだろうが……。

 

「中には一体何が入っているのです?」

「ああ、この中には私が陣地を作るのに使っていた【竜気結晶】が入っているよ。これでも魔力触媒としてはそれなりだから、結構いい値段で売れる筈だ」

 

 そう言いながら、彼は見本として手元に拳大の水晶を取り出して見せた…………詳しく話を聞くと、これらは以前クリラ村の陣地を作る際に使っていた物で、事件の時に壊れたか中に込められていた魔力を抜き取った物を再利用した物だから遠慮無く受け取ってくれとの事。

 …………魔力が込められている物は危険だから渡せないらしいが、魔力が抜けた物はただのアイテムだから問題ないだろうと考えて報酬にしたらしい。

 

「流石に【アムニール】などと比べれば質は大分落ちるが、数百年陣地に使って来た物だし素材としても十分に性能がある筈だ。後、大きさは疎らで中には結構大きい物もあるから、取り出す時には広い場所にした方がいいかな」

「あ、はい、ありがとうございます…………ヤベェ、鑑定出来ん」

 

 これでも俺は【魔石職人(ジェム・マイスター)】の端くれなので、鉱石の鑑定に補正が入るスキルも持っているのだが…………あの水晶、名前が【封竜王の竜気結晶】である事以外は殆ど分からないぞ……。

 …………ちょっと不安に思ったので、リリィさんにアレについてこっそり聞いてみる事にした。

 

「…………あれ、古代伝説級<UBM>が作ったアイテムだから、相当な代物じゃないかと思うんですがね…………」

「…………専門家に鑑定を以来したところ、騎士団に渡された分だけでも()()()()は超える価値があるみたいです……」

 

 コレの管理には気を付けないとやばいかな…………などと俺が考えていたら封竜王さんがこちらに向かって頭を下げて来た。

 

「…………改めて、私とクリラがやり残した事を解決してくれて本当にありがとう。お陰で漸く責務から解放されて自由になれたよ」

「こちらこそ、先日は色々助けて貰ってありがとうございます」

 

 とりあえず、コレで今回のクエストは全てクリアって事になるかな…………と、俺が感慨深い気持ちになっていたらミュウちゃんが封竜王さんに質問をしていた。

 

「そう言えば、封竜王さんはこれからどうするのです? またクリラ村の人達と暮らすのですか?」

「いや、これから私は以前から知己のあった【雷竜王】殿の伝手を頼って<天蓋山>に住まわせて貰う事になっているよ。古代伝説級<UBM>が特別な事情も無しに人里に居続けるのはあまり良くないからね。…………それに五百年近く一つの場所に縛られて居たから違う場所にも行きたいし」

 

 まあ、五百年も同じ場所に居て、そこから解放されたのならそうなるよな…………そう言えば、俺達も気が付いたら大分長くクレーミルにいる事になってたし、そろそろ旅行を再開しようかな。

 

「それじゃあ報酬も渡し終わったし、あまり街中に居続ける訳にもいかないから私はここで失礼しよう。…………何か困った事があったら言ってくれ、可能な限り力になるよ」

 

 そう言って、封竜王さんはこちらに手を振りながら部屋を出て行った…………でも、封竜王さんが住む事になった<天蓋山>って侵入禁止の場所じゃ無かったっけ? 相談しに行くとか無理では? 

 

 

 ◇

 

 

 そうして、報酬を貰った俺達はリリィさんとリリアーナさんに別れを告げて詰所から出た後、クレーミルの外の人目がない場所にやって来ていた…………先日の事件で手に入れた()()()()()を確認する必要かあるからな。

 

「そういう訳で《瞬間装着》っと……ふむ、悪くないデザインだな」

『お兄さん、それは……』

「灰色のコート……もしかして【アニワザム】の特典武具ですか?」

 

 その通り、このコートは先日倒した【魔鉱蚯蚓 アニワザム】の特典武具【魔鉱外套 アニワザム】である…………色は【アニワザム】の体表と同じ灰色で、形状は長袖のロングコートだ。

 とりあえず、その辺の喫茶店にでも入って肝心のステータスを確認してみる事にした。

 

 【魔鉱外套 アニワザム】

 <古代伝説級武具(エンシェントレジェンダリーアームズ)

 鉱石を食らい数多の魔法を用いる大蚯蚓の概念を具現化した至宝。

 持ち主の生命力・魔力を増大させると共に、鉱石を消費してエレメンタルを召喚する能力を持つ。

 ※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限無し

 

 ・装備補正

 防御力+50

 HP+[着用者の合計レベル]×10

 MP+[着用者の合計レベル]×10

 攻撃魔法耐性+([着用者の合計レベル]÷10)%

 

 ・装備スキル

 《鉱石保管》

 《従精召喚》

 《???》※未開放スキル

 

 成る程、装備補正はHP・MP・魔法耐性の上昇で、スキルの方は未開放のモノが一つあるのか…………まあ、それに関しては後々調べていく事にして、まずは使えるスキルの方を調べて行くか

 

「まず《鉱石保管》の効果は『鉱物系アイテムを収納し、それらを自由に取り出す事が出来る』と言うモノの様だな」

「つまり、鉱物系アイテム限定のアイテムボックスみたいな物と言う事なのです?」

 

 おそらくミュウちゃんの言った通りの物だろうな…………試しに、持っていた【ジェム】作成用の魔石を手に持ってみたら、そのまま収納する事が出来たし、それを手元に取り出す事も出来た。

 また、加工済みの【ジェム】も収納出来るか試してみたところ、こちらも問題なく出し入れ出来る様だ。

 

「出し入れの速度も《即時放出》《即時収納》機能付きアイテムボックス並みだし、戦闘時に【ジェム】を多用する俺にとっては有り難いな」

「ですが、古代伝説級特典武具としては地味な効果なのです」

 

 まあ、出来る事は普通のアイテムボックスと変わらないし、鉱石しか収納出来ないからな…………でもまあ、盗難耐性もあるみたいだし、超高級な鉱石を手に入れたばかりに俺にとっては丁度いいスキルでもあるか。

 そういう訳で報酬の【封竜王の竜気結晶】を全部【アニワザム】の中に入れる事にしようか。ミュウちゃんも『正直、持っているのが怖いのです』と言って、これ幸いと【竜気結晶】を俺に預けて来たし。

 

「…………よし、これで全部しまい終わったな。かなり大きい物も有ったがこの《鉱石保管》は収納量も相当大きいらしい。…………じゃあ、もう一つの《従精召喚》の方を見て行きますか」

 

 そうして、二つ目のスキル《従精召喚》の効果を見てみると…………どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()()M()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の様だな。

 

「詳しく言うと、召喚出来るエレメンタルのステータスはコストにした鉱物系アイテムで決まり、更に同じアイテムを複数コストにしてステータスを上昇させる事も出来る。後、召喚時間は支払ったMP数値×1秒間でクールタイムは10秒間という感じだな」

「ふむん、召喚したエレメンタルのステータス次第ですが、大量に召喚出来てクールタイムも短い様なので強力なスキルになりますかね」

『お財布には優しく無さそうなスキルだけどね』

 

 まあ、この《従精召喚》は【召喚師(サモナー)】の《召喚契約》の様な触媒によってバックアップが取れるタイプ召喚スキルと違って、その場で使い捨てのモンスターを呼び出すインスタントの召喚スキルの様だしな…………その分、コストが嵩むんだろう。

 また、召喚するモンスターのステータスは事前に見る事が出来る様なので、試しに【ジェムー《ヒート・ジャベリン》】を対象にして召喚エレメンタルのステータスを見てみる事にした。

 

「ふむふむ、名前は【フレイム・エレメンタル】で、ステータスはSTR・END・AGIが平均100ぐらい、MPが5000、HPが500ぐらい…………エレメンタルだからか魔法型のステータスみたいだな。後、スキルの方は《ヒート・ジャベリン》を始めとするいくつかの火属性魔法が使えて、更に《火属性適正》と《火属性耐性》があるな」

『ポピュラーな魔法系エレメンタルって感じだね』

 

 ふむ、コストにしたアイテムの性能の割には強力なエレメンタルが召喚出来ているのかね…………インスタント召喚のスキルは他に無いから基準が分からないな。

 …………そう思っていたら、効果欄に気になる基準を見つけた。

 

「…………いや、どうやら召喚出来るエレメンタルの種類はいくつか選べる仕様らしい」

「種類を変えられるとかですか?」

「いや、召喚する前に『魔法型』『近接型』『耐久型』『自爆型』のどれかを選択出来て、それによってステータスの配分や所有するスキルが違うらしい」

 

 例えば『魔法型』の時には魔法系のMP特化型であるが、これを『近接型』にした場合はMPが減るかわりにHP・STR・AGIが上がってスキル構成も近接型になるという感じだな。

 他には『耐久型』ならMPが下がってHPとENDが上がりスキルも防御よりに、『自爆型』ならならMP・AGI特化になってスキルが自爆系のモノのみになる様だ。

 

「正直スキル欄だけみてもよく分からないし、これは実際に試して検証した方がいいかな…………コストにする鉱物系アイテムの種類と召喚型の組み合わせが重要そうだし」

「それじゃあ、早速その辺で狩りでもしますか? 私もレベル上げとラーニングしたスキルの修行がしたいですし」

 

 俺が自分の考えを口にすると、ミュウちゃんがそんなヤル気満々の言葉を返してきた…………俺としてもこの手の組み合わせを試行錯誤するは大好きなので、喜んでその提案に乗る事にした。

 …………そうして、俺達は検証と訓練の為に周囲のモンスターをログイン中狩り続けていったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □地球 加藤蓮

 

「…………ふーん、報酬はそんな感じか〜。ああ、私の分の【竜気結晶】もお兄ちゃんの預かりで良いよ。盗まれるの怖いし、私じゃ使い道もなさそうだし」

「俺もコレといった使い道は思い付かないんだがな…………コストにするのも使い捨ての【ジェム】に加工するのも、正直希少過ぎて躊躇いを感じる上、俺じゃあ加工出来るかどうかも怪しいぞ」

「やはり、専門家である<プロデュース・ビルド>の皆様にアイテムとしての加工はお任せした方が良いですかね」

 

 あれから一通りの検証を終えた俺達は、美希への報告の為そのままログアウトしていた…………ちなみに検証結果は中々良い感じだったとだけ言っておこう。

 更に、俺達はソファーに座りながら今後のデンドロ内における予定を話し合って行った。

 

「それじゃあ、私のデスペナが終わると共に旅行を再開して、今度こそ東に進むって事でいいかな」

「まあ、それで良いんじゃないか。準備は俺達が明日明後日の内にやっておくさ」

「何かトラブルでも起きない限りはその予定で良いのでは?」

「そこまでは知らない。私の管轄外だよ」

 

 美希曰く『トラブルが起きたら自動で解っちゃうんだからしょうがないでしょう』との事…………まあ、見過ごすのも後味が悪いからな。

 …………そうやって話をして行く内に日が沈み、夕飯の時間になっていた。

 

「確か今日は叔父さんと叔母さんは仕事で遅くなるし、夕飯は買っておいたから作って食べておいてくれって話だったな」

「レトルトカレーと惣菜を買ってあると言っていた筈なのです」

「じゃあお兄ちゃん宜しくね!」

「ご飯は炊いてあるし、カレー温めて惣菜を盛り付けるだけなんだからお前でも出来るだろ。いいから手伝えや」

 

 そうして、俺はソファーで寝転がっている美希を引っ張って連れ出しながら、自主的に手伝おうとしてくれる由美ちゃんと一緒にキッチンへと向かって行ったのだった。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

三兄妹:カレーは割と美味しく出来た
・【封竜王の竜気結晶】をどう使うかに関しては現在保留中。

【魔鉱外套 アニワザム】:これを用いた兄の戦いはまた後日
・《鉱石保管》の容量は初期アイテムボックスの十倍以上、盗難耐性は超級職の奥義でもない限りは中身を盗れないレベル。
・一度の《従精召喚》で召喚出来るエレメンタルは基本的に一体のみだが、ジョブスキル《多重同時召喚》を使って召喚数を増やす事は出来る。

リリィ&リリアーナ:騎士団内<マスター>受付担当
・兄妹に報酬を渡し終えて漸く事後処理はひと段落した模様。

リヒト・ローラン:実は四十代(見かけは三十代ぐらい)
・『騎士団内でも【天騎士】に次ぐ戦闘能力』『高い事務処理・指揮能力』『ペガサスによる超音速飛行能力』を兼ね備えたティアントップクラス枠だが、その分王都から動きにくい【天騎士】&【黄金の雷霆】に変わって色々な仕事を任される事が多い人。
・仕事量を減らす為にペガサスに乗る後継者を育てようとしているが、飛行可能な馬の希少さと自身の仕事量による時間の無さであまり思うように進んでいない。

【封竜王 ドラグシール】:今後は<天蓋山>に居候しつつ色々な所を旅する予定
・【封竜王の竜気結晶】は高い魔力への親和性を持ち、結晶でありながらも古代伝説級金属に匹敵する強度と高い靭性を併せ持つ非常に高性能な素材である。
・だが、本人的には幾らでも作れる物であり、陣地に残っていた物を回収して再利用しただけなのでその扱いは非常に軽い。


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