とある兄妹のデンドロ記録(旧)   作:貴司崎

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前回のあらすじ:兄「右を見ても左を見てもワイバーン」妹「お兄ちゃん、話途中で悪いけどワイバーンだー」末妹「ソシャゲのシナリオ並みに出て来ますね」


それでは本編をどうぞ。


到着・カルチェラタン

 □アルター王国北東部 【高位召喚師(ハイ・サモナー)】レント

 

 あれから、俺達が空を走ったり地上を走ったりまた空を走ったりしながら、何故か途中で襲い掛かって来るワイバーン達を蹴散らしつつ東への旅を続けた。そして朝方頃に、漸く目的地であるカルチェラタン領の近くにある山岳地帯まで来る事が出来たのだった。

 …………クレーミルからカルチェラタンまではそれなりに距離があったのだが、思ったよりもかなり早く着いたな。やはり空を飛ぶ手段があると街々の移動はかなり楽になるな。

 

「古来からRPGの道中で街から街への移動手段として、飛行や転移の手段が追加される理由がよくわかる。コレがあるのと無いのでは移動の効率が桁違いだ」

「初めての道中では景色や新しいモンスターとかで感動出来ても、何度も通っていると飽きが来るからね。プレイ時間だって限られているし、二度目以降は『ルーラ』か『そらをとぶ』でいいよねってなる」

「ですが、デンドロには街々への転移手段なんて無いですからね。飛行が最も効率的に移動手段になるでしょう」

『空間転移という現象自体殆ど聞かないからね。レジェンダリアの<アクシデントサークル>ぐらいかな?』

 

 …………と言うか【マグネトローベ】が優秀過ぎるんだよな。やや燃費が悪いとは言え空中を長距離移動可能、戦闘を考えなければ三人程度なら輸送可能な馬力、更に空中戦闘においても小回りが利く上、最近では自立機動にも磨きが掛かって来ているからある程度判断を任せて俺自身は戦闘に集中出来る様になったしな。

 

「…………おっと、どうやらバルンガのクールタイムが終わった様だ。もう一度飛ぶから準備するぞ」

「待っていたよ! コレでカルチェラタンに付けるかな?」

「まあ、十分届くのでは? …………途中でワイバーンでも出てこない限り」

 

 まあ、空中移動における最大の問題がそこなんだよな…………この世界の空は基本的に飛行可能なモンスター達の領域だからな。人間は空では物凄く弱いし。

 ミカとミュウちゃんが空戦が苦手な為、俺達でも空中戦闘ではワイバーン相手ですら結構苦戦してしまう。

 

「私も一応《空歩》などのスキルである程度の空中を移動出来ますが…………正直、空戦が出来ると言う領域では無いので、どうしても兄様の足を引っ張りがちなのです」

『お兄さんみたいに常に飛べる訳じゃ無いから、定期的に空に居る【マグネトローベ】やバルンガに着地する必要があるし、その所為でその機動の邪魔になってるからね』

「私も【ギガキマイラ】に《空中跳躍》スキル持ちの装備を融合させたりしてるけど、やっぱり空戦は厳しいよ。…………あー、何処かに飛行する<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>とかいないかな? ぶっ倒して特典武具をいただくのに」

 

 …………この二人(天災児)でさえ空中では【ワイバーン】にすら苦戦するぐらい、“空中を移動出来る”事と“空中で戦える”事には違いがあるからな。

 だから、飛行中には常に周囲を警戒して飛行型モンスターを感知した場合には高度を落としたり、或いは地上に逃げる必要も出て来るのだ…………そんな事を話しながらも、俺達は空中移動の準備を終わらせた。

 

「まあ、それでも地形を無視出来るから地上をよりも遥かに早く楽に移動出来るんだよね。…………一度楽を味わえば、人間戻って来れないものだからね」

「モンスターと遭遇するのは地上と変わりませんし」

「俺はゲームで移動手段を短縮する方法がある場合、ガンガン使って行くタイプだからなー。と言うわけで行くぞー」

 

 そうして、俺は【マグネトローベ】に騎乗してミカがその後ろ、ミュウちゃんとフェイが紐で繋がれたバルンガの上に乗って空へと舞い上がり、そのままカルチェラタン領がある方角へ飛んで行ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 そうやって空を走って行く事暫く、時間としてはお昼を少し過ぎた頃、俺達は漸く遠目に民家が見える所まで来る事が出来た。

 

「やっと人間が住んでいる様な場所についたね。あれがカルチェラタン領かな?」

「地図を見るとその様だな。…………じゃあ、降りるぞ」

 

 そうして、俺達は地上に降りてバルンガと【マグネトローベ】をしまいカルチェラタン領に入っていったのだった…………次の街に来たにも関わらず、今回は俺達にしては珍しく特に何も無かったな。

 …………何時もは、街周辺で起きそうな何かの事件に首を突っ込むか何かするんだが。

 

「…………ミカ、本当に何も無いんだな」

「もう! だから何も感じないって言ってるでしょ、お兄ちゃん! いくら何でも次の街に行く度に事件が起こる筈もないじゃない!」

「兄様、少々無神経ですよ」

 

 今回はあまりに普通にカルチェラタン領に入れたから、ついミカに確認したらそう言われてしまった…………事件の感知はミカにとってあまり良いものでは無いのだし、確かに少し無神経だったな。ここは素直に謝っておこう。

 

「あー、悪かったなミカ。…………後で何か奢るから許してくれ」

「まあ、別に良いけどさ。…………今回は私の直感には何も反応が無いし、普通にゆっくりと観光が出来ると思うよ」

「とりあえず、長旅でお腹が空いたのであそこのレストランで食事にしましょう…………もちろん兄様の奢りで」

『結構高級そうなレストランだね』

 

 …………と、言うわけで、俺達は近くにあったレストランで遅めの昼食を取る事になった。そこはフェイの言う通り結構高級なレストランで、妹二人も俺の奢りだからと遠慮なく高いメニューを頼んだので、結構な出費になってしまった。

 まあ、先日の報酬や【魔石職人(ジェム・マイスター)】としてそれなりの稼ぎがある俺にとってはそこまで問題のある額では無かったが。

 

「うん、中々美味しいね、このミートスパゲッティっぽいヤツ。お兄ちゃん、そっちの親子丼はどう?」

「コッチも美味いな。…………ミュウちゃんが頼んだのはハンバーグ定食か」

「はい。…………しかし、ここのメニューや内装を見ると現実にあるファミリーレストランを思い出しますね」

 

 確かに、メニューの内容が和洋問わずだったり、店の一角にドリンクバーがあったり、定員さんの呼び出しボタンがあったりする所とかはソレっぽいよな。

 …………後で知った話だが、ここの店は<マスター>から伝え聞いた日本のファミリーレストランの情報を元に改装したらしい。

 

「しかし、少し見た限りだとこのカルチェラタン領は長閑な所みたいだね。ここなら特にトラブルも無くのんびり出来そうだよ」

「ワイバーンの問題があるかとも思いましたが、大量発生している場所がここから離れていたお陰で大丈夫そうですね」

『あのワイバーン達、自分の縄張りに入ってきた相手には積極的に襲い掛かって来るけど、外に出た相手を追ったりはして来なかったからね』

「あの様子なら人里に被害が出る様な事も無いだろう」

 

 自分達のテリトリーに入ったら嫌になる程襲い掛かって来たのに、一旦テリトリーの外に出たらさっぱり追って来なかったからな。アイツら一体なんだったのだろうか。

 …………と、そんな感じで俺達は食事を続けながら、今後の予定を話し合って行った。

 

「それで? これからどうしようか?」

「うーん……とりあえず、観光しながら冒険者ギルドに行って適当な依頼を受けてみるのは?」

「実にいつも通りだな。…………まあ、街に来たらとりあえず観光しつつ、クエスト資金稼ぎをするのが俺達の基本だしな」

 

 それに冒険者ギルドを始めとする各種ギルドには色々と情報が集まっており、きちんと依頼をこなして信用を得れば街の外から来た旅行者にもそれらの情報を教えてくれるからな。

 とりあえず、その街のギルドでクエストをこなした方がその街では資金的にも信用的にも色々とやり易くなるのだ。今までこの世界で旅行していった時に学んだ知恵である。

 

「それじゃあ、食事が終わったら早速冒険者ギルドにでも行くとするか」

「「『はーい』」」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □カルチェラタン領・冒険者ギルド 【武闘姫(マーシャルアーツ・プリンセス)】ミュウ

 

 食事を終えた私達はその足で冒険者ギルドへと向かい、そこでクエストのカタログなどを読み漁って色々と調べていたのですが……。

 

「ふーむー…………私達が受けやすそうな、高い戦闘能力を必要とされる討伐系のクエストは少ないみたいだねー。この領は実に平和だよ」

「まあ、平和なのはいい事だがな。まあ、別に討伐系の依頼に限る事は無いだろう。…………配達系のクエストもあるし、俺ならちゃっちゃと行ってちゃっちゃと帰って来れる」

「でも、それは兄様一人でやった方が効率が良いですよね。私と姉様は暇になるのです」

 

 ご覧の様に中々決まりません…………何だかんだ言って私達は戦闘特化なのでその手の依頼しか受けられませんし、私と姉様と言う超級職(スペリオルジョブ)を二人も要する所為か低レベルの討伐系のクエストを受けるとあまりいい顔をされないのですよね。

 以前聞いた話ですが、討伐系クエストはレベル上げの要素もあるので高レベルの人が低ランクの依頼を総ナメにするとかは、低レベルの人の成長の機会を奪うからあまり頻繁にやってはいけないと言う不文律がある様なのです。

 

「ああ、高い戦闘能力が必要そうなクエストもあったな…………この領の近郊に大量発生したワイバーンの調査依頼と言うんだが」

「暫くワイバーンは見たくないから却下。…………あ、<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>の情報もあるね。何々『<風精鉱山>に新種の<UBM>【魔鉱風精 シルフィーザム】が出現。情報求む』ねぇ」

「えーっと、ふむふむ『<風精鉱山>は【魔鉱蚯蚓 アニワザム】が縄張りにした所為で<自然ダンジョン>と化した鉱山であり……』…………また、最近聞いた様な名前が出てきましたね」

『改めて見てみると<UBM>の名前とかも似ているね。何か関係があるのかな?』

 

 どうやら、兄様と姉様も自分達が倒した<UBM>と関係がある件だから気になっている様なので、一旦ギルドの受付嬢さんにこの件の詳しい話を聞いてみる事にしました。

 

「済みませーん、この【シルフィーザム】と<風精鉱山>について詳しく聞きたいんですけど」

「<マスター>の方ですね、分かりました。…………この<風精鉱山>はカルチェラタン領近郊にある風属性エレメンタルが出現する<自然ダンジョン>で、いくつかの風属性の鉱石が取れる場所だったのですが、最近になって<UBM>【魔鉱風精 シルフィーザム】が出現しまして」

 

 その受付嬢さん曰く、その<風精鉱山>は【アニワザム】が縄張りにした<自然ダンジョン>であり、そこに住むエレメンタル達は決して外には出なかったので、偶に風属性の鉱石が必要な人間が少し潜る程度の重要度の低い場所だったそうです。

 また、<マスター>が増え始めてからも“ダンジョン”という事で腕試しや冒険の為に入る人も偶に出る程度で、それによって風属性の鉱石が少し多く市場に出回ったりするぐらいの、言ってしまえば放置して置いた方が良いダンジョンだった様です。

 …………しかし、最近【アニワザム】が討伐された直後に<風精鉱山>内で【魔鉱風精 シルフィーザム】が目撃され、領の近郊に<UBM>が現れた事とそれによって<風精鉱山>内のエレメンタルが外に出て来る可能性があると考えられ、調査の必要があるとこの様なクエストが出されたそうなのです。

 

「ですが、クエストを受注して【シルフィーザム】の調査・討伐に向かった<マスター>達はほぼ全員倒されていまして…………今のところ分かっているのは【シルフィーザム】が<風精鉱山>から出てこないらしいという事ぐらいなんです……」

「成る程ね……【アニワザム】が討伐されたから、その制御下を外れたエレメンタルが<UBM>化したのか?」

「さあ? <UBM>発生のプロセスなんて知らないし。…………でも、私の直感だとその【シルフィーザム】は特に事件とか起こす感じじゃないみたいだけど」

 

 受付嬢さんの話と姉様の直感を総合すると、その【シルフィーザム】は<UBM>化してもこれまでと同じ様に自分の陣地を守り続けている様ですね…………特典武具目当てでこれまで多数の<マスター>が討伐に向かっている様ですが、ダンジョンから出て来る事は無かったらしいですし。

 …………そこまで話を聞いた所で、兄様が確認を取って来ました。

 

「それで、この【シルフィーザム】調査のクエストはどうする?」

「うーん…………今行動しても特に意味は無い気がするし、<UBM>とは先日散々戦ったから保留でいいんじゃない?」

「せっかく新たな街に来たのですし、まずはのんびりと行きましょう」

『特典武具は沢山持ってるからね。あんまりがっつく必要は無いんじゃない?』

 

 そう言うわけで、このクエストはとりあえず今の所は保留という事になったのです…………後、姉様曰く『勘だけど【シルフィーザム】は私達でも勝てるか怪しい気がする。特典武具は欲しいんだけどねー』との事なので、暫くは様子見した方が賢明みたいです。

 …………さて、いい加減受けるクエストを決めましょうかね。

 

「しかし、俺達が受けるのに丁度いいクエストが見つからんな」

「ふむ…………もう“丁度いい”とか“効率”とか考えるから見つからないんだよ! そう言ったのを無視して面白そうなクエストを選ぼう、街中のゴミ拾いとか!」

「姉様がそれでいいなら構いませんが…………あ、後ろから二人程来たのです。此処にいると邪魔になりそうなので離れましょう」

 

 どうも、クエストを見つけるのに躍起になっていた所為で受付に長時間止まりすぎていた様なのです…………まだクエストが決まらない以上、後ろから来た()()()()()()()()()()()()()に先を譲った方がいいでしょう。

 

「邪魔をしてしまい申し訳ないのです。私達はまだ受けるクエストが決まらないのでお先にどうぞ」

「ああ、悪いな嬢ちゃん。それとツレの…………ゲェッ!?」

「ファッ!?」

 

 そんな風に声を掛けて道を譲ったら、二人の内のモヒカンの方が見た目にそぐわぬ丁寧な対応をしてくれた…………と思ったら、いきなり規制を上げて後ろに飛び退いたのです。

 …………どうやら兄様と姉様を見てその様な反応になった様ですが……。

 

「兄様姉様、あの人達とは知り合いですか?」

「えーっと…………誰だっけ?」

「ふむ…………ああ。まだデンドロを始めたばかりの頃、俺達をカップルと勘違いして襲い掛かって来たPKがいただろう。確か名前はモヒカン・ディシグマとボッチーだったか」

「「ヒィッ!!」」

 

 成る程、私がデンドロを始めるよりも前に出会った人達なのですね。どうりで見覚えがない筈なのです。

 …………そして、そのモヒカン・ディシグマさんとボッチーさんですが兄様達を見てめちゃくちゃビビっている様なのですが、どうしたのでしょうか? 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺達はもうPKからは足を洗ったんだ! だからアンタたちと争う気はこれっぽっちも無いんだ!」

「き、クエストの報告をしに来ただけで……!」

「別にそんなに怖がらなくても、そっちから仕掛けて来ない限り私達はどうもしないよ?」

「受付嬢さんが困っている様だからさっさと報告したらどうだ? 俺達は他所に行くからさ」

 

 そう言った兄様と姉様は、何か色々と言い募っている二人を少し困った様な目で見ながらその場を離れて行きました…………何か妙な展開になりましたが、とりあえずその辺の椅子にでも座ってクエスト選びの続きをしましょうか。




あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説

三兄妹:三人とも『ドラクエ』と『ポケモン』はいくつかプレイ経験あり
・<UBM>との戦いが連続しすぎて少し飽きて来たので、今は危険の無い相手にまで戦いを挑もうとする気は無い模様。

【魔鉱風精 シルフィーザム】:ランクは伝説級
・元々は【アニワザム】が縄張り(ダンジョン)に配置していたエレメンタル達を制御する為のリーダー役の個体で、縄張りの維持・配下エレメンタルの生産・制御などを行なっていたスタンドアローンの個体。
・だが、【アニワザム】が倒されて配下で無くなった事と、その特殊なスキルによって作られていたので同じ個体は再現不可能と判断された事、そして自己進化の結果固有のスキルを習得していた事によって機能と役割をそのままに<UBM>化した。
・<UBM>化により能力は上がっていて縄張りへの侵入者を積極的に排除する様にもなったが、かつて与えられた『縄張りの維持と守護』という命令に今も忠実であり、それに準じたスキルを有しているので外に出て来る事は無い。
・ただし、縄張りの内部では三兄妹でも仕留めきることは難しいレベルのダンジョンマスター的<UBM>になっており、<風精鉱山>に足を踏み入れた<マスター>を全て惨殺している。
・尚、【アニワザム】の縄張りには必ず一体のリーダー役エレメンタルが配置されていた為、現在同じ様に<UBM>化の条件を満たしている<水精洞窟>に【魔鉱水精 ウェンディーザム】が、<火精坑道>に【魔鉱火精 イフリーザム】が、<地精晶洞>に【魔鉱地精 ノーミーザム】が発生して各ダンジョンの難易度を大幅に上昇させている。

モヒカン・ディシグマ&ボッチー:兄妹の事はかなりトラウマになってる


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