RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode2:キカイ・リブート『2019」(4)

 来海ライセは『クジゴジ堂』から少し離れた位置にある河川敷で、どうすることもできずにいた。

 

 この道をソウゴが通りすがるのに淡く期待を寄せながら、もらったロボットを手持ち無沙汰に弄ぶ。

 

 彼の将来の夢が王になることだとは知らなかったが、まさか今も同じ夢を抱いているとも思えない。察するにこれは相当前のもので、自分は体良く不用品を押しつけられただけじゃないか、とも考えた。

 

 せめて連絡先でも先に交換しておくべきだったか。

 そう後悔してももう遅い。

 どこへ行けば良いのかも分からず、どうすべきかも分からない。

 そんな宙ぶらりんの状態でしばらくは佇んでいたが、

 

「一旦家に帰ろうかな」

 独りごちる。

 アナザーライダーは何体かを撃破した後、乱戦の最中どこかに霧散した。

 

〈帰る……か〉

 その独語を、蓮太郎が拾った。

 記憶や肉体のない彼らであっても、やはりその帰りを待つ家族や友人がいるのだろう。そんな彼らを内部に収めてのこの呟きは、無神経だったか。

 

 そう軽く悔いたライセに、蓮太郎は問うた。

〈なぁ、お前の家って〉

 否、問おうとした。

 

 その前に、対岸でスリップ音が空気の壁を破り、彼らの耳をつんざいた。

 見れば川向こうでは、クリーニング店のロゴが入ったバンが、蛇行していた。決してそれは不注意による事故などではなかった。

 その屋根には骸骨のような怪物と、鬼のような妖怪が取り憑いていた。その重みと姿によって、運転手は平衡感覚と判断力を失ったのだ。

 

 バンが横転する。火花を散らしてガードレールに衝突したそれから、怪物たちは……〈FAIZ〉と〈HIBIKI〉と肉体に示したアナザーライダーたちは、飛び降りた。直後、数こそ多くはないが悲鳴があがった。

 

 行く宛こそないが、今やるべきことは分かった。

 安らぐ暇もない我が身の境遇を嘆きながら、彼は人形を上着のポケットに無理やり押し込み、自身のベルトとオレンジの手裏剣を取り出した。

 

「変身!」

〈踏んだり、蹴ったり、ハッタリ!〉

 

 仮面ライダーハッタリ。

 プレートが名乗り向上をあげると同時に、ガードレールを飛び越えたライセの身体を、巨大な鉄蜂が印字とともに放出したアーマーが包み込む。

 

 倍増し跳躍力をもって河川を一気に飛び越えたライセは、そのまま暴れんとしていた怪物たちを忍者刀で斬り払った。

 不意打ち程度では倒せない。それでも、注意を自分に集中させることには成功した。武器を傾けたままに身体をスライドさせ、まるで地の利を確保するかのように見せかける。それに釣られたアナザーライダー達は、並行線を描くようにライセを追った。

 

 彼らを引きずるようにして人の逃げるスペースと時間とを確保した後、安全な場所であらためてライセは彼らと切り結んだ。

 

 青黒い地肌を、ギチギチと音が鳴りそうなほどにいきりたたせた『アナザーヒビキ』は刑罰に用いるような棍棒を両手に携え振りかざす。何かの罪を咎めるかのように、あるいは羊飼いのように、ライセを追い立てていく。

 

 ハッタリに扮したライセは、直接的に攻撃的を受けることはしなかった。

 真っ当にやり合えば、得物が折れるのは確実にこちらだ。だから威力を殺し刃の背を滑らせ、返す刀でカウンターを狙っていく。

 

 深追いはしない。アナザーファイズを相手取らなければならなかった。

 普段は個対集団という状況が多い彼はその経験則と直感に従い、自身の死角となる背に忍者刀を回した。

 

 噴出口のような不気味な隆起のついた拳と、白刃が衝突する。

 浮き上がった拳の下に潜らせた刃が、肋骨のような意匠の合間をすり抜けて敵の身体にダイレクトに刻まれる。

 

 追い討ちもしない。油断もしない。たとえどれほど優勢であったにせよ。

〈カチコチ忍POW!〉

 身を翻したライセは、指先で結んだ印から冷気を吹きかけた。視線を変えたその先で鉄棒を振り抜かんとしていたアナザーヒビキは、その体勢のままに、まるで仏師の彫りぬいた像のように凍結した。

 

 相手の特性を知り得ないままに手探りの遭遇戦となるのはいつものことだが、緒戦はこちらの優位に傾きつつあった。もちろんシノビやハッタリの、敏捷性と引き換えの防御性能を思えば、一撃を喰らうことさえ許されない状況には違いないが、気は楽と言えた。

 

 たしかにこの一瞬、彼は安堵していた。万難を排する注意力に、わずかな綻びはあった。

 だが果たして、それを油断と呼ぶことはできるのか。不注意だと咎める者が、あるだろうか。

 

 残されたアナザーファイズの視線が、わずかに自身から逸れたことに、ライセは一瞬遅れた。

 イバラか毛細血管のような装飾の奥底の暗く淀んだ眼差しは横転したバンを見ていた。

 元からそこに入っていたのか。それともそれが邪魔して逃げ遅れていたのか。

 少年が、隠れていた。いや、背丈の都合そう見えるだけで、実際は全身を硬直させて立ち竦んでいただけだろう。

 

 アナザーファイズは、それに反応した。

 狼のように飛び上がり、両脚を少年へ向けて突き出した。

 

「危ないっ!」

 

 身体はとっさに動いていた。

 その軌道上に割り込んだライセは、少年を逃すべくその肩を押した。

 アナザーファイズの全身に血煙のようなものが立ち上った。やがてそれはその足先に円錐形のようなエネルギーへと変化した。

 

 それがポインタのようにハッタリの前の虚空へと突き立つと、それこそ影縫いの術でもかけられたかのように、総身が痺れた。指先を動かすことさえ至難で、印を結ぶこともプレートを操作することもできない。よって逃れる術を失った。

 

 どうやら事前に火熱をもって全身を鎧っていたらしい。ハッタリ自慢の氷遁の術は、アナザーヒビキによって容易く溶かし尽くされた。

 金剛力士の化身のようなそれは、牙を剥き、武器を携え、身動きのできない相手へと迫った。

 

 ――力が、要る。

 いかなる縛も破るだけの力が。

 あらゆる悪意を跳ね除ける守りが。

 業火を鎮め止めるだけの冷気が。

 今ままならない肉体に、速さは不要だ。

 

〈子どもは、未来につながる宝物だ〉

 

 そう願うライセの内で、声が響く。

 今まで開くことがなかった、あの虚無の空間中、もっとも分厚い鋼の扉が、持ち上がる。

 

〈そして、いつかの誰かの、ベストフレンズフォーエバー(BFF)になれる希望だ〉

 

 焚かれたスチームは扉が開くごとにその量を増していく。

 やや芝居がかったセリフを恥ずかしげもなく朴訥に言い回し、時代がかったジャケットやジーンズをまとった彼は、その中から現れた。

 

〈それを守ったお前の勇気を見せてもらった。……お前も、オレのBFFだ。『力』を、貸そう〉

 

 その宣言に呼応して、現実のライセに変化が起こった。

 スーツの奥、上着の中を貫通し、例のロボットが虚空へと投げ出され、それは光に包まれ二つに分かたれ、まったく別の形状へと変化した。

 

 スパナと、スクリュードライバー。

 

 工具を模したイグニッションキーは、交差して一対のデバイスとなりながら、ハッタリのプレートの代わりにベルトのバックルへと収まった。

 

〈デカイ! ハカイ! ゴーカイ!〉

 

 紫電を帯びたアーマーが、ハッタリの忍装束を上書きしていく。

 中空にいくつもの工具が出現し、火花を散らしながら黄金色のアーマーを固定していく。

 金色の装甲を手に入れたライセは、脚の先、腹の底からパワーがみなぎってくるのを感じていた。

 

 その力に突き動かされ、ライセは雄叫びをあげる。

 強引にポインタを弾き飛ばし、もう一方の腕でアナザーファイズをなぎ倒す。

 次いで迫るアナザーヒビキが、腰を沈めて打ち出した一突きによって端まで飛ばす。

 

〈仮面ライダーキカイ!〉

 

 蒸気を吹き出す。真紅の瞳が意志を宿して光を放つ。

 正拳を繰り出して屹立する新たな姿は、力は、鋼鉄(くろがね)と呼ぶに相応しかった。

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