――ライセの内側で、何かを示唆する声がする。
(あのさ、シノビの時も思ったけど……それ必要?)
『不可欠だ』
『それが、俺たちの流儀だ』
『そうそう! ぼ……俺様もそう思う!!》
『え? お前なんかあったっけ?』
『あるよ! ハッタリじゃなくてマ……』
異なる声よりの、賛意。多少のノイズはあったものの、承諾するほかなさそうだった。
拘束より解放されたライセは、マスクの奥で浅く呼気を漏らす。
下手に敵に向かうよりもよほど勇を絞り、彼はヤケっぱちの大音声を張り上げた。
「鋼のボディに熱いハート! 仮面ライダー……キカイ!」
〈あぁ、コマンドを確認した。これより来海ライセとの共闘を開始する〉
名乗り口上に同調するかのように、さらに動力が引き出されていくのを実感する。
体勢を整えたアナザーライダーたちは、左右から挟撃を仕掛けてきた。
アナザーファイズの拳撃が、アナザーヒビキの鉄撃が、仮面ライダーキカイの装甲と衝突する。音こそ強烈だったが、ライセへの直接的なダメージは、皆無だった。
骸骨を殴る。鬼を蹴る。
つんのめった彼らを、シノビたちのような速攻と急追は出来ずとも、確実に追い詰めていく。
その間にも、アナザーファイズたちの攻撃は続く。
蹴る。殴る。火を噴く。だがそのいずれも有効打とはなりえない。ライセは標的をアナザーファイズ一体に絞り、間合いを確実に詰めていく。
苦境に至り、アナザーファイズもまた小手先の攻撃の無為を本能的に悟ったようだった。
伸びきった腕を掴まれ、ライセに力任せに投げ飛ばされた後で、拳を握り固める。彼の手足を駆け巡る赤黒い光のラインが怪しく輝き、蠢動する光はその握り拳へと一極化していく。
そしてエネルギーを充溢させた拳を、キカイの頭部めがけて撃ち出した。
対するライセも、中に響く提言に従い、ベルトのデバイスをスワイプした。
〈アルティメタルフィニッシュ〉
抑揚のない声が響く。
全身に闘志の熱が立ち上る反面、持ち上げた拳には凍気が帯びた。
その表層には霜が降りて、拳に触れた水蒸気が氷霧と化してさらさらと擦れ合って音を立てた。
コンクリートに足跡を作りながら、踏み込む。
二つの拳圧が、それぞれに質の違う異音によって風を啼かせた。
ファイズの毒素が、耳元をかすめた。キカイの一撃が、アナザーファイズの真芯を捉えてえぐる。
急激な温度変化はやがてアナザーライダーのラインを逆流するかのように全身に回っていく。やがて氷像となった彼は、明らかにバランスを欠いた姿勢のまま、大きく傾いていく。
ライセが何を加えるまでもなく、そのまま地面に激突した。
全身と、腹蔵していたウォッチ。それらを余すことなく崩壊させた。
〈フルメタルジエンド!〉
ふたたびベルトをなぞりあげる。冷気は流動していく。拳から、右脚へと、余剰分を吸い上げて。
そして温度差を爆発力に換えて、彼は真上に高く飛び上がった。浮き上がった足裏を、特攻したアナザーヒビキの棍棒が素通りしていく。
標的を見失った鬼は立ち止まり、左右に目を配る。
その無防備にさらされた頭頂へ向けて、くり出す。
脛部のコンデンサーを逆噴射に利用し、氷と風とを従えた鋼の蹴技を。
破砕音とともに、アナザーライダーを正中を穿ち抜く。
そしてベルトの宣言どおりに、鬼の調伏をもってして、この騒動に終幕を下ろした。